それは、朝日が城壁を照らし始めた頃――
ハイラル城・大広間にて、緊張感と荘厳さが入り交じる空気の中、厄災ガノンへの対策を講じるための会議が始まろうとしていた。
大理石で磨かれた床に、長方形の大きな木製の円卓。その周囲には、ハイラル王国の王ローム・ボスフォレームス・ハイラル、そして四英傑――ダルケル、ミファー、リーバル、ウルボザがそれぞれの定位置に着座している。
そして会議の最奥、王座の背後にはゼルダとリンクも控えていた。
数週間前、北の渓谷に現れた異形の魔物の出現を皮切りに、各地で散発的な魔物の異常行動が確認されていた。だが、それらはすべて迅速に対応され、人的被害は奇跡的に「ゼロ」で抑えられていた。
それは、この場にいる者たちの団結の成果でもあった。
「それでは、順に報告を願おう。」
王の低く重厚な声が広間に響いた。
最初に立ち上がったのは、屈強な体格のゴロン族の英傑――ダルケルだった。
「ハイラル王よ。デスマウンテンにて稼働中の神獣“ヴァ・ルーダニア”の調整、順調に進んでますぜ!」
大きな声と笑顔でそう言うと、傍にいた兵士が記録をつけ始める。
「魔物の襲撃は数度ありましたが、すでに退け済み。今後も定期的に巡回し、警備を強化するつもりです。」
続いて立ったのは、涼やかな表情のゾーラ族の姫、ミファー。
「ゾーラの里にて、神獣“ヴァ・ルッタ”の制御訓練は順調です。リンクさんとも連携を取りながら、出撃時の動作確認を済ませております。」
柔らかな口調ではあるが、芯の強さを感じさせる報告だった。
その次に立ち上がったのは、長身で鋭い眼差しを持つゲルド族の英傑、ウルボザ。
「我がゲルド砂漠にて、神獣“ヴァ・ナボリス”の対暴走措置が完了しました。強力な砂嵐も予測済み。兵の訓練も含めて準備は整っております。」
一方、ハイラル王の視線が最も注がれたのは――
「そして、私が担当する“ヴァ・メドー”も完璧さ。」
リーバルがいつもの自信に満ちた口調で立ち上がった。
「防衛訓練、操縦テスト、すべて良好。あとは出撃命令が下れば、即応できる。」
リーバルは微笑みを浮かべながら王を見つめ、続ける。
「……加えて、報告すべきことが一つ。」
王の眉がわずかに動いた。
「先日、各地で発生した魔物の異変に対して、即座に動き、被害を最小限に留めたのは、我ら英傑――だけではありませんでした。」
広間の空気が一瞬引き締まる。
「死傷者“ゼロ”という快挙を成し得たのは、ゼルダ姫の指揮の下、リンク……そして、“ヒューラ”の働きがあってこそです。」
「…………ヒューラ?」
王が小さく呟く。
その名が出た瞬間、王の表情にはわずかに緊張が走った。
あの者――異端にして神の印を宿したリト族。
(……また、あの者の名か)
だがロームは、すぐに視線を落とし、会議の進行を促した。
「……ふむ。各報告、確かに受け取った。王国として、今後も英傑たちの支援を惜しまぬよう、各地に物資と兵の補充を手配する。」
会議は粛々と続けられ、やがて一時間ほどで終了を迎えた。
英傑たちは順次広間を後にし、ゼルダとリンクも王へ軽く頭を下げると立ち去った。
残されたのは、ローム一人。
静寂の戻った大広間にて、王はゆっくりと立ち上がる。
彼の足は、そのまま広間の奥へ――大きな窓が切り取る、広がる城下の景色へと向かった。
太陽はすでに中天に差しかかっており、ハイラル平原には風がそよぎ、遠くの森では鳥のさえずりも聞こえる。
「……儂は、どうすべきなのだろうか……」
ぽつりと零れた言葉。
それは誰にも届かぬ、ただ一人の王としての独白だった。
「民を守るための“力”ならば、歓迎するべきだろう……それが、どんな形であれ……」
だが、あの時――ヒューラと初めて対面したときに感じた、底知れぬ“異質さ”が、未だ胸に燻っていた。
姿はリト、しかし話し方も佇まいも、どこか“異国”の匂いがする。
そしてなにより、トライフォース――神の印が、彼女の翼に現れたという事実。
「……神が定めし運命の中に、リト族が“加わる”など、想定にないことだった……」
厄災を前にして、王はあらゆる希望を受け入れねばならないことを、理解していた。
それでも――
「……あの者を、果たして“仲間”として迎えてよいのか……」
王としての責務と、父としての懸念が、王の中でせめぎ合っていた。
ゼルダが、あの者に対して信頼を寄せていることも知っている。
リーバルが、彼女の力を認めていることも知っている。
それでも、心のどこかで「異端を恐れる」気持ちが消えない。
「……儂がもし……あの者を拒めば……娘も、仲間たちも、儂を見限るかもしれぬな……」
ふと、外で子供たちの笑い声が聞こえた。
風に乗って届くその音に、王の目がわずかに和らぐ。
「……それでも……」
王は静かに目を閉じ、そして再び外を見つめた。
「儂が“正しい判断”をせねばならぬ時が来た……のだな。」
その瞳には、国を背負う王としての覚悟と、揺れ動く“人としての迷い”が、交錯していた。