空を舞い歌う者   作:ラン乱

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輝きし右翼

朝霧の中を、ヒューラの矢が一直線に魔物の心臓を貫いた。

 

「これで依頼完了っと。」

 

森の中に潜むキースの群れと、集落を脅かしていたモリブリンの小隊を一掃したヒューラは、報酬袋を腰に下げながらリトの村へ戻った。

 

木の梁に腰を掛け、翼を広げて風に当たる。心地よい疲労と共に、眼下に広がる空と雲を見つめながら、彼女はひとときの休息を満喫していた。

 

「やれやれ、ちょっと羽根を休めるにはちょうどいい日かも。」

 

そこへ風切り音と共に、空から一人のリト族が舞い降りる。

 

「ヒューラ!」

 

見上げもせず、彼女は返す。

 

「あー……リーバルね。何か用?」

 

「僕は今からハイラル城に向かう。姫様が泉で修行をするらしくてね、その護衛だ。」

 

「……あ、そう。」

 

興味の欠片もないように、ヒューラは一言だけ応じた。

 

リーバルは眉をひそめ、腕を組む。

 

「そんな薄い反応、あまりにも味気ないじゃないか。……君も来なよ、暇だろ?」

 

「行かない。」

 

「いや、行くんだ。」

 

そのままリーバルは彼女の腕を取り、強引に連れ出した。

 

「ちょ、離しなさいってば!」

 

「せっかくだし、英傑ではない君がどこまで通用するか、見てみたいじゃないか。」

 

「英傑でもない私に期待すんなよ……」

 

ハイラル平原、女神像の泉近くの集合場所。ゼルダ姫を中心に、リンク、数名の近衛兵、そして不機嫌そうに立つヒューラと、どこか誇らしげなリーバルが並ぶ。

 

ゼルダは柔らかく微笑み、名乗った。

 

「初めまして。私はゼルダ。ハイラル王家の姫です。」

 

ヒューラは一瞥すらせず、空を仰いだまま沈黙を貫く。

 

(ああ、やっちゃったなコレ……)とリーバルは額を押さえた。

 

数十分後、一行は泉への道を進んでいた。穏やかな草の匂いが風に乗り、虫の音と鳥の声が交差する中、静かな緊張感だけが続いていた。

 

だが、突然。

 

「ヒッヒッヒ!ようこそ、護衛一行!」

 

茂みから現れたのは、赤装束に仮面を被った数名のイーガ団。そして中央に立つ、異様な気配の男が名乗りを上げる。

 

「拙者、イーガ団幹部・スッパでござる!」

 

その目は獲物を見つけたように鋭く、背に携えた二本の太刀が鈍く光る。

 

リンクが一歩前に出て、剣を構える。が――。

 

「甘いでござる!」

 

スッパは瞬く間に接近し、鋭い蹴りを放つ。リンクは防御するが、その力に吹き飛ばされ、岩場に激突する。

 

「リンクッ!」

 

ゼルダが叫ぶ間もなく、スッパは彼女へと飛び掛かる。

 

だが――。

 

「……っ!」

 

鋭い弾き音と共に、スッパの刀が弾かれた。防いだのは、ヒューラの剣だった。

 

「ほう、なかなかの実力者でござるな。」

 

無言で睨むヒューラ。次の瞬間、迷いなく踏み込み、斬りかかる。

 

だが。

 

「遅いでござる!」

 

スッパは一刀を受け流し、逆の手でヒューラの脇腹を斬りつける。

 

「ッ……!」

 

跳ねるように飛び退くヒューラ。だが、すぐに構え直し、再度突撃。

 

「しつこいでござるな!」

 

スッパの二刀が次々に斬撃を繰り出し、ヒューラは徐々に押され始めた。華麗な足運びと翼で何とか距離を保つが、確実に追い詰められていた。

 

リーバルはすぐさま飛び上がるが、背後からイーガ団の下っ端が妨害に入る。

 

「くっ……邪魔だ!!」

 

その間にもヒューラは苦戦を強いられ、左腕に斬撃を受けて膝を突く。

 

「舐めんじゃないわよ……!」

 

ヒューラが叫んだ瞬間――。

 

ぶわっ、と風が巻き上がる。

 

彼女の右の翼から、まばゆい光が放たれ始めた。

 

「な、なんだ!?」

 

一同が目を見張る中、スッパも距離を取る。

 

「な、なんでござるか……この光は……!」

 

ヒューラは視線を右肩越しに向け、眩しそうに目を細めた。

 

「なに……これ……」

 

翼に浮かび上がっていたのは、三つの三角形からなる紋章――だが、輝いていたのはそのうちの一角、力の象徴・“トライフォースの力”だった。

 

スッパの目が見開かれる。

 

「トライフォースだと!?神の選定を受けた者……!」

 

数秒の沈黙。

 

だが、スッパはすぐに口元を吊り上げるようにして、笑う。

 

「……だが、まだ未熟……今は引くとするでござる!」

 

手裏剣を投げつけて視界を遮ると、彼と部下は姿を消した。

 

残された一行は、未だ光の残滓の中で立ち尽くす。

 

ヒューラは光の収まった自らの翼を見つめながら、ぽつりと呟く。

 

「……私、なんかした?」

 

ゼルダもリンクもリーバルも、返す言葉がなかった。

 

ヒューラの中に宿る力――それは、彼女の知らぬ過去の片鱗と、神々の意志をも示す何かであった。

 

風が吹き抜け、再び静寂が訪れる。

 

けれど、確かに今――世界の歯車が音を立てて動き出した。

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