空を舞い歌う者   作:ラン乱

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王座に届く声、揺れる誇り

空が赤く染まりはじめる頃、一行はハイラル城へと帰還した。

 

城門をくぐる時、ヒューラはうんざりした顔で言った。

 

「やっぱり私、来る必要なかったんじゃない?」

 

リーバルは空から舞い降りて、彼女の隣を歩きながらつぶやく。

 

「いや、今日ばかりは君にも証人としての価値がある。」

 

「証人って、火の粉が私に飛んでくる予感しかしないんだけど……」

 

 

城の奥、玉座の間。

 

厳かな空間に入ったゼルダとリンク、リーバルの三人は、揃って王の前に跪いた。だが、ヒューラだけはその場にはおらず、扉のすぐ外で腕を組んで立っていた。

 

「……なんで私まで……」

 

ぼやく彼女の耳に、玉座から低く響く威厳ある声が届いた。

 

「……立て、ゼルダ。お前に話がある。」

 

玉座に座していたのは、長い髭をたくわえ、王冠を戴く老王。名は――ローム・ボスフォレームス・ハイラル。ハイラル王家の現当主にして、ゼルダの父。

 

王は堂々とした口調で娘に語りかけた。

 

「よく戻ったな。我が娘よ。お前に、退魔の力が宿ったと聞いた。」

 

「はい、父上。ありがとうございます。」

 

ゼルダは丁寧に頭を下げる。そして一呼吸おいて、言葉を続けた。

 

「ですが、今日はもう一人、報告しなければならない者がおります。」

 

ロームの表情がわずかに曇る。

 

「ほう? その者とは誰だ?」

 

ゼルダは扉の外に向かって呼びかける。

 

「……ヒューラさん、入って来てください。」

 

扉が音を立てて開いた。

 

現れたのは、リト族の姿をした女性。白銀の羽を持ち、切れ長の瞳で玉座を真っ直ぐに見据えながら、ゆっくりと玉座の間を歩く。

 

彼女は誰にも頭を下げず、ただ静かにそこに立った。

 

「王よ。彼女も、トライフォースを宿した一人なのです。」

 

ゼルダの言葉に、ロームの目が見開かれる。

 

「……何だと?」

 

王の眉間に深いしわが刻まれる。

 

その空気を読んだリーバルが前に出て、跪きながら弁明を始めた。

 

「恐れながら王よ。彼女は記憶を失っており、各地を彷徨っていた者です。自らの出自も分からぬまま、ただ真っ直ぐに生きてきた。そして今、その身に“力のトライフォース”を宿しました。彼女自身も、その出来事に戸惑っております。」

 

「……ふざけたことを……!」

 

ロームの怒声が広がる。

 

「トライフォースは一つだけの力! 神の与えし三角は分割されることはない! そのような戯言、信じるに値せぬ!」

 

ゼルダは一歩前に進み、深く頭を下げた。

 

「父上、ですが古の文献に記されております。聖なる三角は三つの要素――力、知恵、勇気――に分かれ、それぞれに選ばれし者へ授けられると。彼女には“力”が宿り、私は戦いの場で“知恵”と“勇気”を同時に発現しました。」

 

「出身も分からぬ、血筋も不明な者に神の力が宿ったと? ……リト族にか?」

 

ロームの声に怒気が混じる。

 

「よくも、そんな戯言を堂々と口にできたものだ。王家の面目をなんと心得る!」

 

「ふざけてなどいません!」

 

ゼルダが鋭く言い返す。

 

「彼女は――彼女も、厄災に立ち向かう力を持つ“選ばれし者”なのです!」

 

「やめろ! 聞きたくない!」

 

ロームの一喝が響き渡る。

 

その瞬間だった。

 

扉の近くに立っていたヒューラの眉がぴくりと動いた。沈黙していた彼女の口元が、ついに開く。

 

「……ねえ、王様。立場があるのは分かるけどさ。わざわざふざけた報告すると思う? それ、自分の娘に向かって言う?」

 

王座からヒューラに鋭い視線が飛ぶ。

 

「部外者は黙っておれ!」

 

「部外者ね……」

 

ヒューラはため息をつき、ゆっくりと右の翼を広げた。

 

その瞬間、翼が眩く輝き出す。

 

「……!」

 

力のトライフォースの紋章が、明確に浮かび上がった。

 

その光に呼応するように、ゼルダの右手の甲にも、知恵と勇気のトライフォースが輝きを放つ。

 

その二つの光が、玉座の間をまばゆい黄金に染めた。

 

「……馬鹿な……」

 

ロームは立ち上がり、目をこすってもう一度見つめる。

 

そこにあったのは紛れもなく、神の印。

 

ヒューラは静かに言った。

 

「私は縛られるのが嫌い。でも、厄災がこの世界を滅ぼすって言うなら――協力くらいはしてあげる。」

 

そのまま踵を返し、王に背を向ける。

 

「でもね、アンタ……得体の知れない“鳥女”が力を持ってるのが気に食わないんでしょ? だったら、こっちは勝手に動かせてもらうよ。」

 

その言葉を残し、ヒューラはゆっくりと玉座の間を去っていった。

 

その背中を、誰も止めることはできなかった。

 

ただ、玉座に残された者たちの心に、ひとつの問いだけが残った。

 

――あの者は、一体何者なのか。

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