Distortional Lovelive!   作:アカトーム

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 ラブライブにはまってしまい、衝動的に書きました。
 上手くその感情も小説にのせていければと思います。


1st Phrase:Before The Dawn

 雪が降っている。もう3月になったとはいえ、この地方では珍しいことではない。名残り雪、とも言えるだろう。ぼんやりとプラットホームで新幹線を待ちながらそう考えた。

 

「名残り雪、だな」

 

 今まさに自分が考えていたのと同じことを隣に立つ陽介が呟く。それはきっと、俺に、そしてなにより彼自身に言い聞かせているのだろう。ああ、とだけ返す。それ以上何も言えなかった。言ってしまえば、いつの間にか足元に降り積もった見えない雪に足を取られてしまいそうだったから。

 彼もそれから口を開かない。新幹線が来るまであと7分ほど。このまま何も言わずに立ち去るのがきっとお互いにとってベストな選択だろう。でも、時として人はそれを知っていながら、別な道を選んでしまう。最善の道を捨て、遠回りや険しい道を選択する。すべての人がそうではないだろうけど、少なくとも俺たちはそうやって、いつも最善の道に唾を吐いて進んできた。だから、きっと今も何も言わないなんてことはできない。

 

「本当に行っちまうんだな」

「……今更、やっぱりやめます、なんて言えるわけないだろ。それに言う気もねーよ」

「でも、バンドはどうするんだよ? お前が作ったバンドじゃないか……」

 

 やはりこの話に行きついてしまう。陽介と、そしてアイツらと組んだバンド。だけど、それはもう過去の話だ。そんなでかい荷物は持っていけない。ここに置いていく、そう決めた。

 ポケットから煙草を取り出す。口にくわえて、火を灯す。最初は肺まで煙を入れず、口の中でふかすだけ。そう教わった。

 

「悪い。こんな解散みたいな感じにしちまって」

「それをアイツらにも言ってやれ。アイツらはその一言が欲しいだけなんだから」

「分かってる」

 

 今度は肺まで煙を入れる。そして大きく息を吐いた。息が白い。寒さのせいか、それとも煙草の煙なのかまでは見分けがつかなかった。

 

「分かってはいるけど、言えないんだ」

 

 言わなければいけない。でも、それを口に出したくはなかった。何故だろうか?自分でもよくわからない。何かが引っ掛かって、邪魔をして、言えなくなってしまう。その理由がわからない。

 

「そういやお前、荷物はそれだけで大丈夫なのかよ?」

 

 唐突に話題を変える陽介。彼なりの気遣いというやつだろう。相変わらず口下手で、脈絡のない話をいきなり持ち出してくる。

 

「ん? ……ああ。俺にはギターとタバコがあれば十分さ」

「お前、未成年だろうが」

「細かいことは気にするなよ。今日くらいだ、外で吸うのなんて」

 

 大分灰がたまってきていたので、軽く揺らしてそれを落とす。風に乗って舞うその様は、すぐに雪と紛れて区別がつかない。

 

「それで、荷物のことだっけ? 心配せずとも、もう全部送ってある」

「相変わらず、変なところで頭が回るやつだ」

「うるせ」

 

 短くなった煙草をもみ消していると、新幹線がホームに滑り込んできた。入口が開く。数人が降りて行った後で、俺が乗り込む。すぐに立ち止まり、振り向いた。陽介はいつも通りのポーカー・フェイスだが、心なしかどこか悲しそうな表情に見えた。

 

「本当に行くんだな」

「何回目だよ、その台詞。もうとっくの昔に決めたんだ。それに、アッチに行けばあの人が見つかるかもしれない」

「お前、まだ……」

 

 出発のアナウンスが流れる。もう数秒もせずにドアも閉じるだろう。

 

「じゃあな」

 

 そう告げるのと、ドアが閉まるのは同時だった。ゆっくりと加速していく新幹線。陽介はただこちらをホームで見つめているだけだった。遠ざかっていくその姿。その視線を完全に振り切ってしまった後も、しばらくそのまま佇んでいた。今生の別れでもあるまい。声には出さず呟いて、自分を納得させる。適当に空いている席を選んで座った。窓の外を眺めると、もう雪はやんでいて雲の切れ間からは太陽が差し込んでいた。本当に名残り雪だったのかもしれない。俺が降らせたのかそれともアイツらか……。きっと俺の方だろう。いつだって俺からアイツらへの一方通行だった。今回のことだって、俺が一方的に言い切ってしまったことだから。ふと、時計を見る。降りる駅まではあと1時間くらいあった。少し眠ることにしよう。せめて、夢の中では……

 

 それから、二回くらい電車を乗り換えて目的の駅に着いた。あとはここからこれから住むことになるマンションに行くだけだが、ここで問題が起きた。携帯の充電が切れてしまったのだ。一応、住所を書いてある紙は持っているが、それだけで行けるとは到底思えなかった。駅員に聞くという手もあるが、何となくそれはやめ、適当に歩くことにした。最悪、近くのコンビニか交番に行けばいいだろう。そうして何十分か歩いていると、鳥居が目に入ってきた。折角なので、お参りでもしていこうか。そのついでに道を尋ねればいいだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、石段を上っていく。どうやらこの神社は神田明神、という名前らしい。段数の多い石段を上りきると、思いの外立派な本殿が現れた。とりあえず、お参りをすることにした。財布を取り出そう、と思ったが、ポケットに入っていたのはタバコとライター、反対側には携帯しか入っていなかった。そういえば、送る用の荷物にまとめて入れてしまったかもしれない。仕方ない。背負っているギターケースからピックを1つ取り出し、それを賽銭箱に放り投げた。

 

「こらこら、いたずらはあかんよ」

 

 そこを去ろうとすると、後ろから声を掛けられた。振り向くと、そこにいたのは巫女さんだった。年齢はそう変わらないようなので、家の手伝いかバイトだろう。

 

「すいません。財布を持っていなくて、代わりになるかなーと思って」

「そういうことやったら、今回は大目に見てあげるわ」

「助かります。あと、ちょっと道を尋ねたいんですけど。ここの住所ってどう行けばいいんですか?」

「ええよ。……あれ、このマンション多分うちと同じところや。しかも隣の部屋」

 

 え、と思わず驚きの声を上げていた。まさかそんな天文学的な偶然があるとは思っていなかった。それなら、と巫女さんは住所を書いた紙を俺に返しながら言った。

 

「あとこの辺の掃除が終わったら、今日のバイトは終わりやからちょっと待っててもらってもええ?」

「大丈夫ですよ。じゃあ、その辺りで待っていますね」

 

 ちょうど座れそうなところがあったので、そこに腰かけていることにした。手持無沙汰だったので、ケースからギターを取り出す。挟めていたピックを取って、弦に滑らせる。チューニングは大丈夫そうだ。

そのまま適当にコードや、運指の練習を兼ねて色々なリフを弾く。ザッザッと竹ぼうきが石畳を掃く音とギターの音、時折風が木を揺らす音だけが響く。今日は3人編成。掃く音がベース代わりにリズムを取って、ギターと風がメロディー。次第に弾くリフはジャズ・ファンクよりのものに。足でリズムを取りながら、日本語と英語の入り混じった羅列を、即興のメロディーで歌う。意味なんて分からない、リズムだってめちゃくちゃだ。でも、今だけの、この一瞬だけの感情を出す。段々熱量が大きくなっていくのが分かる。軽快な音から重い音へ。次第にパワーコードを多用していく。自分が好きなジャンル、そして何よりバンドでいつもやっていたジャンル。歌声も、ギターの音も大きくなっていく。もっと深く、もっとエモーショナルに。置いていくと決めた過去を全部振り切るんだ。ここからは別の道なんだ。激しいカッティングを織り交ぜていく。勢いを衰えさせることなく掻き鳴らしていく。そして、ラストの音を鳴らし、自然に音が小さくなっていくのを待つ。すると、パチパチと手を叩く音が聞こえてきた。顔を上げると、先程の巫女さんが既に巫女服から学校の制服に着替えて立っていた。

 

「すいません、お聞き苦しい演奏でした。行きましょうか」

「いやいや、めっちゃ上手かったで! 感動してもーた」

「……ありがとうございます」

 

 これまでこんな風にストレートに褒められたことはなかったため、少し照れてしまう。ギターをケースにしまい、再び背負う。俺の準備を整ったことを確認して、巫女さんが歩き出す。

 

「待たせてしもうて申し訳ないなあ」

「いえ、此方こそ助かりました。えっと……」

「希や。東條希、よろしくな」

松波巧実(マツナミタクミ)です。よろしくお願いします、東條さん」

「巧実くんはどうして引っ越してきたん? 親の都合?」

「まあ、簡単に言ってしまえば俺の我儘です。東北の出身なんですが、どうしても地元の高校には進学したくなくて」

「ふーん、この辺に住むとなると明狼あたり?」

「ええ、その通りです。もしかして東條さんは明狼の方ですか?」

「ううん、うちは音ノ木坂学院。これでも生徒会副会長なんやで」

「へぇ、巫女さんのバイトもこなしながらって凄いですね」

 

 その後も色々と話をしながらマンションへと向かっていった。東條さんが通っている音ノ木坂学院というのは女子高らしいが、近年の少子化や最近秋葉原にできたUTX学園というところに生徒を取られているらしく、廃校に進みつつあるということだ。生徒会でも副会長の東條さんと会長のえりちさん?という方とでどうにか廃校を阻止できないかと色々と案を考えているらしい。

 

「それは大変ですね」

「うちはそんなんでもないんやけど、えりちがなぁ……。最近ちょっと張りつめ気味なんよ」

「まあ、あまりに根を詰めすぎてはいい考えも出てきませんから、ちょっとはリラックスというか気を緩めてほしいですね」

「そうなんよー。全くえりちは……ってごめんな。いきなり愚痴ばっかり言うて」

「気にしないでください。東條さんも板挟みみたいな状況で大変そうですし」

「ほんまおおきに。ところで巧実くんはバンドとか組んでないん? さっきもめっちゃ上手やったし」

「…今は組んでいません。一先ずはこの辺りの楽器屋とかライブハウスに行ってギターを募集しているところを探そうと思います」

 

 そう、俺はもうあのバンドのギターじゃないんだ。伝手も何もない、ただの流れ者のギター弾き。色々なバンドを渡り歩いて、もっと上手くなって、新たに自分のバンドを作る。そう決めたんだ。

 

 それからいくつか言葉を交わしながら歩いていると、マンションに到着した。階段を上って部屋の前までたどり着く。

 

「今日はありがとうございました。おかげで助かりました」

「ええよ、困ったときはお互い様。あ、そういえば夜ご飯はどうするん?」

「適当にコンビニとかで買ってすませよう、か、と……」

 

 しまった。今は財布がなくて無一文の状態だった。荷物が届くのは明日、だから最低でも明日の昼くらいまでは何も食べられない。不思議そうな表情を浮かべていた東條さんだったが、直ぐその理由に気付きクスクスと笑いだした。

 

「しゃーないなあ。引っ越し祝いでご飯おごったげるわ」

「そんな、大丈夫です。一食くらい食べなくても」

「だーめーや。いいからここは、先輩の言うことを聞いとき?」

「……ご馳走になります」

 

 それから、机も何もない俺の部屋で宅配ピザやジュースなんかを一緒に食べた。一人暮らしにはかなりの出費だろう。本当に申し訳なかった。一通り全部食べ終わった後で、隣ではあるけれど、東條さんを見送ることにした。

 

「本当に今日は何から何までありがとうございました。この借りは必ず返します」

「気にしないでいいんよ。うちが勝手にやったことやから」

「とにかく今日はありがとうございました、東條さん」

 

 軽く頭を下げる。すると、東條さんはうーんと顎に手を当てて考え込むようなそぶりを見せた。そして、何か思いついたらしく口を開いた。

 

「じゃあ、その東條さんて言うのやめてもらえへん? 希って呼んで」

「分かりました、希さん。では、また」

「あともう1つ!」

「なんですか?」

「タバコはほどほどにな。未成年やろ?」

「……善処します」

 

 それを聞いた希さんは満足そうに笑顔を浮かべ、自室へと消えていった。内心ではとても驚いていた。まさかバレていたとは。なんとなく不思議な人だ。掴みどころがない、っていう表現がぴったりの人だった。

 

 思えば、これがすべての始まりだったのだろう。希さんと、そしてあの8人の少女たちとの。1年という短い期間を、有り体に言えば青春ってヤツを必死になって走り抜いた。

 その始まり。




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