川尻浩作、Fly High with キヴォトス 作:堂廻り 眞くら
それは いつでも どこの場所でも存在しているが
見ようとしない人が見ないだけである
――どこかの漫画家――
【ギフト】としか 言いようがないね
きっと、運命が私に味方してくれているのだろう
――どこかの殺人鬼――
〇
「お久しぶりです。川尻……浩作先生」
「そういう君は七神リン首席行政官」
川尻浩作がシャーレの事務室で一人書類を片付けているところ、眼鏡をかけた女がここを訪ねてきた。顔と手は美しいが、性格がキツそうな女だった。川尻浩作は一瞬にして、女から厄介な匂いを嗅ぎつけていた。
「改めまして、先日の件、連邦生徒会を代表してお礼申し上げます」
「別に構わないよ。私は君たちの【先生】だからね」
「お気遣い痛み入ります」
川尻浩作は表面上は人当たりのよさそうな柔和な笑顔を浮かべて受け応えしていたが、内心では、ワシやタカに見つかったカメレオンのように、全身にギトギトの警戒色を浮かべ始めていた。
前の職場で働いていた時に、丁度似たような匂いを放つ女がいた。目立ちたくないのと恨みを買いたくないのとでわざわざこちらから手を抜いてやってるというのに、過剰にこちらを見下してきたり罵ってきたり、そのクセ何かと理由を付けて世話を焼きたがったりと、ヤツはとにかく面倒な上司だった。難儀な性格が災いして懐柔が難しく、しかし職場の人間だったので下手に手を出せないのも腹立たしいかった。
まあ、折を見て始末してやったが。
「処でそれが……連邦生徒会長の遺したもの。サンクトゥムタワーを即座に復旧させた【シッテムの函】ですか」
「ああ……」
七神リンは川尻浩作の手元のタブレット端末に目を落とした。
【シッテムの函】
それは【連邦生徒会長】の置き土産であり、また川尻浩作を【先生】たらしめている、人知を超えた謎のガジェットである。一見するとただのタブレット端末だが、製造会社、OS、システム、どころか動作の仕組みすらわかっていない完全なるオーパーツである。
川尻浩作は【キヴォトス】にやってきた際に、これを手に入れたのだ。
「【連邦生徒会長】……一体どこに行かれたのでしょうか」
「……」
「先生」
七神リンの目が光った。
「連邦生徒会長の行方を知らない……と言うのは本当なのですよね?」
川尻は、紙背に徹さんばかりの眼光に眉間射抜かれた。もし仮にこれが、【近所の公園に屯して騒ぎ散らかしながら、サケやらタバコやらを無理くりに煽り、あまつさえごみを持ち帰らずに放置する、頭のてっぺんからつま先の先までとことん負け犬のカス共】に向かって放たれていたものだったなら、すぐにでも薄っぺらの荒肝を挫がれて尻尾巻いて逃げ出していたであろうことは間違いのないくらいには、ブルッてしまいそうな睥睨であった。
ところが川尻浩作は、まるで今しがたモーニングルーティンを終えたばかりのようなすっきりとした顔で応えた。
「もちろんだよ」