川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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アビドスへ行こう! その3

 

「……」

 

 

 川尻浩作は無言で手紙を封の中にしまうと、

 

 

「連邦生徒会長の捜索なら、こちらでも既に始めているよ。私個人としても、彼女の行方は気になるからね。ただしアビドスに関してだが……」

 

 

 川尻は――それが貧乏ゆすりにならない程度に――ほんの少しだけ腰を揺らして、ほとんど身体中に目の前の女を殴りつけてやりたい衝動に溢れるのを、無理やり抑え込んだ。代わりにほんの少しだけ彼は言い淀んだ。

 

 

「あー、これはシャーレが請け負うべき仕事なのかな? 【大人】がコソコソ出しゃばってるというならともかく、此度の問題はあくまでもシャーレが介入するまでもない【他愛のない】諍いのように思えるが」 

 

「出来れば、超法規的権限のあるシャーレに協力を仰ぎたいのですが……」

 

「アビドスは、私が個人的に足を運ぶには少々遠すぎる。公共の交通機関も非常に限られているし……。そもそも、この問題元々は連邦生徒会が率先して解決すべき事案だったんじゃあなかったのかね。それとも放置せざるを得ない理由があったとか」

 

「……」

 

「それに、業務はこちらで自由に決めてもらって構わないといったのは他でもない君自身だったと思うが」

 

「……確かにシャーレは権限だけはありますが、目標のない組織です。特に何かをしなければならない……という強制力はありませんね。ただ……」

 

「ただ?」

 

「いえ、ただ、私たち連邦生徒会は会長の抜けた穴を埋める間もなく、日々キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応するのに余力がありません。だから、というわけでもないのですが」

 

 

 それから、七神リンはくるりと踵を返した。

 

 

「個人的に先生のことが()()()()()と思っただけです」

 

 

「?」

 

 

 

「【暇そう】なので」

 

 

 

 

 それから、七神リンは一度も振り返ることなく退出した。一方の川尻浩作はそのギリシャ彫刻のような端正な顔に深い影を落とした。

 

 

「……」

 

 

 ところで、皆さんは【社内ニート】という言葉をご存じだろうか。社内失業、窓際族とも呼ばれているそれは「会社に在籍しているにも拘らず、実質的な仕事や業務が与えられていない社員」のことだ。

 

 「働かずに金がもらえるなんて、ハッピーでうれピー!」というのは最初だけであり、その後は真綿を喉に張り付けられたかのような遅効性の生き地獄を淡々と味わうことになる。「社会に与していない」のはまだマシであり、「社会に与しているにも拘らず孤立している」状態は前者の何倍もの孤独を囲うこととなる。全員があくせく働く中、一人だけ窓際でぼんやりしているのを、誰も気に留めない。まるで始めからいないかのような扱いのは、さながら精神的「集団リンチ」や「市中引き回しの上獄門」のそれに近い(恐ろしい……みんなも気を付けよう)。

 

 

「……別にケツの青いクソガキに煽られたんで腹を立てたわけじゃァない」

 

 

 川尻浩作は虚空に向かって言った。

 

 

「そうではない、が」

 

 

 

 

 

 

 

「舐められたままってのは性に合わないなァ。それに、【シッテムの函】でちょいと調べたが……アビドス校の問題はどうやら【個人的にも看過できない事態】のようだ」

 

 

 川尻浩作はむんずと立ち上がると、オフィスの無駄に豪華なガラス張りに近づき、ビルの下の街並みを見下ろした。

 

 

「仕方がない。少々面倒だが私が行くか。直々に」

 

 

 決してガキに煽られたからではないらしい、川尻浩作が向かう先は、

 

 

 

 

 

 

 

 アビドス高等学校ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠地帯に隣接したそれは、キヴォトスで最も過酷な地域に在る。

 

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