川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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アビドスの夜 その4

 

「へぇー。大人って色々大変なのね……」

 

「いや、楽しいよ。自分の行動に【責任】は付き纏うがね。その分【自由】に生きていける」

 

 

 川尻浩作はもうこれ以上無駄話をする必要はないとばかりに話を切り上げた。

 

 

「それで、君たち【アビドス廃校対策委員会】の援助要請についてなのだが……」

 

 

 川尻浩作はポンと手を叩いた。掌の音は部室の窓の外の、砂塵が建物に中る音をにわかに圧した。

 

 

「快く受けさせてもらうよ。弾薬に、武器、食料や水なども【シャーレ】で手配しよう」

 

「それで、それはいくらのツケで済むわけ?」

 

「タダで構わないよ。多少【恩に着て】くれればそれで」

 

「嘘ォッ!! タダァ!!?」

 

「……」

 

 

 破格の申し出に黒見セリカは目を剥いて驚愕した。対照的に、小鳥遊ホシノは疑念の視線を川尻浩作に向けて、わずかに送った。しかし川尻浩作は、ガキを騙くらかしてやろうという疚しさの、その一欠片もその端正な表情の中に浮かべはしなかった。

 

 

「私は【先生】だからねぇ。君たち生徒を護るのが私の【責任】だ。これくらいはわけないさ」

 

 

 まさか本当にただの【お人よしの大人】だとでも言うのだろうか。……いや、そんなわけがない。

 

 

「っと。それじゃあ、私はこのくらいで失礼するよ」

 

「コーヒー淹れましたよぉァ~。……って、アらら? もう終わっちゃったんですかァ?」

 

 

 川尻浩作が地面に降ろしていた荷物を担ぎ上げて席を立ったのと入れ替わるようにして、十六夜ノノミが入室した。手にはお盆の上に湯気の上がったマグカップがいくつか几帳面に並べられていた。川尻浩作は彼女を手で制して慇懃に断った。

 

 

「ああ……。わざわざすまないね。君は【十六夜ノノミ】さんだったかな。確か……」

 

 

 それから、川尻浩作は十六夜ノノミを見て、ふと何かを言いかけたがすぐに十六夜ノノミと小鳥遊ホシノの鋭い視線を鋭敏に察知して、口を噤んだ。代わりに川尻浩作はこういった。

 

 

「いや、何でもない。私はこれでお暇することにするよ」

 

「あっ、どうもわざわざありがとうございます」

 

「いや……。では失礼」

 

 

 川尻浩作は一度も振り返ることなく、如何にもしゃんとした社会人ですとでも言いたいかのような、きびきびとした動作で――しかしそれは新入社員のような、見ているこっちが焦燥感に駆られるような、切羽詰まった様子は微塵も感じさせなかった――部屋を後にした。

 

 彼が部屋をすっかり後にしたのを確認してから、対策委員会の面々はいつもの雰囲気で各々が好き勝手に話し始めた。部屋はにわか雨でも振り出したみたいに騒がしくなった。

 

 

 

「なーんか、普通の人だったねぇ。【シャーレ】の先生って」

 

「うーん。でも結構イケメンだった」

 

「うわっ! シロコ先輩ってば面喰いィッ!」

 

 

 砂狼シロコと黒見セリカの雑談を他所に、小鳥遊ホシノはじっとドアを凝視した。まるで視線がドアの向こう側まで透けて見えているかのような鋭い眼光を浮かべていた。しかし、それもほんのわずかの間の出来事だったので、対策委員会の全員がこれに全く気が付かなかった。

 

 

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