川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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8:30(エイト・サーティ) その2

 

 

 

 

 午前8時。

 

 「キヴォトス」は極めて快晴なり。

 

 呼吸は青空に澄み渡ってとてもすがすがしい。

 

 

「すがすがしい気分になったり、

 

 絶望に落ち込んだり……。

 

 ここに来る前とか、ここに来た後とか、このところ色々なことが起こるんで気分の波の差が激しい生活を送ってきた」

 

 

 川尻浩作は手首の腕時計に目を落とした。それから、目の前で自分に銃口を向けている、如何にも「スケバン」ってな感じの女子高生に対して――それはあまりにも場にそぐわなかった――にこやかな笑みをもって話しかけた。

 

「でもこれからは、安心した気分で生活できることになったよ」

 

 

 スケバン。やけにスカートの丈や髪を長くしたり、奇怪なマスクを着けたり、わけのわからん羽織を着たり。

 最近はめっきり見かけないし、いや、実を言うとそもそも見かけたことなど一度だってないのだが、一応知識として、そういう、頭に蛆虫でも湧いたみたいな輩が一時期出現したとかいうアレだ。

 川尻浩作は今、街中の、ふとした路地裏で、そういう「目を合わせるのもためらわれるクソったれた連中」に絡まれているのだった。

 しかもそいつらは、信じられないことに重火器を携帯している。銃社会のアメリカですら規制されて然るべき装備だった。

 だが、川尻浩作は、平凡な男は、眉一つも動かさずに、自身に向けれている銃口を見つめていた。

 

「いや、つい先日までは、本当にね、絶望のどん底ってところに堕ちそうだったんだよ。何せ朝から晩まで近所が騒がしい上に、姦しいガキ共が揃いも揃って、銃刀法違反なんて言葉で片付けられない程、重火器を武装して矢鱈にぶっ放してるんだからなァ」 

「何わけのわからんことを言ってんだテメェ!!」

 

 

 スケバンの一人が叫んだ。

 

「おっさんが舐めてっといてこますぞコラ!!」

「オラオラァ!!」

 

 

 スケバンのもう一人とあともう一人も叫んだ(前者をスケバンA、後者をスケバンB、スケバンCとでも呼ぼうか)。だが、川尻浩作は構わずに話を続ける。

 

「処で道を尋ねてもいいかな? 多分私の目的地は君たちと同じ【連邦生徒会の施設】であってると思うのだが」

「ああん? テメェふざけた奴だと思ったら、あのスカシた連邦生徒会の仲間かぁ~?」

「まあ似たようなものかな」

「ほーん。

 

 ……。

 

 

 じゃあぶっ殺すッ!! 

 

 こちとら学校を退学になってやたら暇なんでナぁ!! 連邦のカス共にちょっかい掛ける、そのついでのヒトゴロシだってこちとら一向に構わねぇ!! その蠅も集らん腐ったスイカみたいな頭に、銃弾叩き込んでカチ割ってやるよォ!!」

 

 川尻浩作の正面にいたスケバンAは、そう叫び終わった時には既に手に持った銃の引き金を引いていた。

 

「オぁっ?」

 

 瞬間、スケバンAは地面に転がっていた空き缶を踏んで、ものの見事にすっころんだ。それから、

 

「ォアバ」

 

 と唸った。それから、地面に手足を伸ばして這い蹲って、屠殺直後のニワトリみたいに痙攣し始めた。

 

「……?」

 

 スケバンBは、ぶっ倒れた彼女が起き上がってこないのを不思議に思っているようだった。馬鹿みたいに大口開けて黙りこくっている。

 

「おや、大丈夫かな? ポケットティッシュいるかい? 血がいっぱい出てるぞ? まあこれは笑えない冗談だがね」

 

 

 川尻浩作はそう言って、懐から取り出しかけたポケットティッシュを再びしまった。

 

 スケバンBとCは、うつぶせに倒れたスケバンAの顔のあたりが血だまりになっているのを見て、ようやく異変に気が付いたらしい。みんなして駆け寄ってきた。

 

 浩作はぶっ倒れたスケバンを知らんぷりをして、彼等を無視。そのまますたすたと路地裏を去っていった。その足取りは、まるで平日のスクランブル交差点を横断するサラリーマンのような、そんな風景をば幻想させるのであった。

 

 

「お、おい。どうしたんだよ……」

 

 スケバンBとCは倒れ込んだ仲間を仰向けに転がした。

 

 そいつは目ん玉を片方失くしていた。

 

 上顎のあたりにはそいつが手にしていた銃の先が突き刺さっており、その銃口から飛び出したらしい弾丸が、そいつの上顎から鼻孔を突き抜けて、脳髄をぶちまけているようであった。

 

「ウゲェー!!」

 

 皿の上を滑って地面に落ちたプッチンプリンのように、頭蓋を抜けてぐしゃぐしゃに飛び散った脳みそはまさにグロ注意っ! の惨劇であり、スケバンBはまるで無修正のポルノを見せつけられた男児みたいに乱心して、地面にゲロをぶちまけた。スケバンCは目の前の光景に対する恐怖のサインを包み隠さんとして、思いっきり叫んだ。

 

「う、嘘だっ!! 死ぬわけない!! こ、こんなっ、たかがこんなことでっ!! テメェ!!」

 

 スケバンCは、さっさと裏路地を抜けようとした川尻を追いかけた。

 

「待てっ! テメェ、テメェが何かしたんだろっ! 待ちやが――」

 

 

 裏路地を超えたスケバンCは。

 

「れゲェッ」 

 

 

 時速四十キロで走ってきた巡航戦車に跳ね飛ばされた。首がヘンな方向に曲がった。

 

 彼女の肉体は数メートル程浮き上がった後、一拍置いてから地面に激突して、それ以降はピクリとも動かなかった。

 

 川尻浩作は追ってきていたスケバンCが死んだのを確認してから、空を見上げた。それから、

 

 何て気持ちのいい朝だろう。これで、銃撃音や砲撃音が鳴りやめば最高なのだが。

 

 と、思った。

 

 それから、川尻浩作は弾丸や爆弾、砲弾の飛び交う表通りを悠々と歩き始めた。

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