川尻浩作、Fly High with キヴォトス 作:堂廻り 眞くら
一方、砂狼シロコとは違って、箸の持ち方や座り方、節々にそこはかとなく気品を感じるのが十六夜ノノミである。つい一年ほど前まで、手をドラえもんみたいにグーの握りこぶしに固めた状態で箸を掴んでものを食べていた砂狼シロコとはまるで違う(先輩方に矯正された結果、現在では端から見ていて不安を思えないレベルにまでは何とか体裁を整えられている)。
「なんとかして返済の目処を立てないといけませんねェ~」
言葉尻の緩さと、にじみ出る主張し過ぎない気品とのギャップが彼女の魅力なのだろう。
十六夜ノノミに対抗するみたいに、砂狼シロコがもろ手を挙げてこういった。
「私にいいアイデアがある」
「却下です」
「【銀行を襲う】。あそこはお金をいっぱい貯めてるから……」
「いや、あの、却下です」
砂狼シロコの恐ろしい所は【銀行を襲う】が冗談じゃなくてマジで実行しかねないという、そのフットワークの軽さである。奥空アヤネは内心で冷や汗をかいていた。皆が必死こいてかき集めた資金をことごとく、不祥事をやらかしたシロコの尻を拭うためのトイレットペーパーにさせられた時のあの虚脱感、トラウマが蘇っていた。あの時はシロコ先輩の、大便垂れ流した後の肛門を、キメの粗い紙やすりで削り取ってやろうかと本気で画策したものだ。奥空アヤネが堪忍袋の緒をちょこっと切ってシロコを軽く脅してやったところ、今では、ヤンチャだった彼女も気のいい元ヤンのおばちゃんみたいに若干の落ち着きを得た。彼女は痛みを知って大人になったのである。
「は~い☆ 私にとってもクールでとっておきのアイデアがありま~ァす!」
撃沈したシロコに代って、次に十六夜ノノミがそのように言った。
「はぁ」
奥空アヤネは全く期待していなかった。事実その通りになった。十六夜ノノミは次にこういった。
「アイドルです! スクールアイドル!!」
「あ、アイドル?」
「そうです! 【アニメで見た】んですけど、学校を復興する定番の方法はアイドル! 対策委員会の皆が全員アイドルとしてデビューすれば……」
「うーん」
「却下です」
「えぇ~! 徹夜で衣装とか決め台詞とか考えてたのにぃ……」
このようにして、それこそ毎日のように、彼女たちはこうした益体のない議論に始終従事していた。無駄なことに時間を浪費している彼女たちは、果たして間が抜けた集団なのだろうか。いや、そうではない。多分、彼女たちは充実した青春を送っていた。
結局のところ、彼女たちに抜本的対策を自ら打ち立てることなどできなかった。真面目に考えようが、不真面目に考えようがそれは変えようのない事実だった。この堂々巡りの事態に対応する術も力も彼女たちにはあり得なかった。
彼女たちは、それぞれの分野で光るものを持っている優秀ではあったが、畢竟ただの女子高生たちだった。
だから、滅びゆくアビドスを救う手立てなど始めからなかった。
或いは、彼女たちは、愛する学校を護るという活動そのものに重きを置いているのかもしれなかった。何故なら、純度百パーセントの愛校心による奉仕活動は、彼女たちの青春を彩る、美しい、どこまでも脱色された素敵な【想いで】になるに違いないからだ。