川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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アビドスの夜 その9

「もちろん、アイデアはあるわッ!」

 

 

「へぇー」(←奥空アヤネ、全く期待していない)

 

 

「委員会の皆でこの貧乏くさいラーメン屋にアルバイト? うーん、こんなみみっちい店じゃ稼げる額はたかが知れてる」(←砂狼シロコ、全く期待していない)

 

 

「アハッ☆」(←十六夜ノノミ、全く期待していない)

 

 

「違うわよッ! ていうか、店長聞いてるから。失礼なこと言わないでッ」

 

 

 砂狼シロコの言葉に、聞き耳を立てていたらしい柴大将が遠くのカウンター越しにほんのちょっぴりしょぼくれた顔を浮かべたのを、黒見セリカは視界の端で目敏く捉えていた。しかし、すぐに頭を振って気を取り直すと、

 

 

「兎にも角にも、私のアイデア、それはこれよッ! ハイッ、刮目ゥ!」

 

 

 黒見セリカは、バシンッと、あるチラシをテーブルに叩きつける。全員がテーブルを囲んで一様にそれを覗き込んだ。

 

 

「ん、どれどれ」

 

 

「えーと、『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……」

 

 

「うーん」

 

 

「これでガッポガッポよッ! まず私たちで知り合いに三つこれを売りつけるの! それから――」

 

 

「わぁ☆」

 

 

 と十六夜ノノミは嬉しそうに感嘆の声を上げた。今時ねずみ講に引っかかる、天然記念物みたいな女子高生が目の前にいるという事実に喜びを感じていた。

 

 

「それマルチ商法だから……」

 

 

「というかそもそもこんな犬も食わないゴミ、誰も買わない」

 

 

 対して奥空アヤネと砂狼シロコは相変わらず底なしに抜けている黒見セリカのソーシャルリテラシー能力に呆れかえっていた。

 

「ええっ!? 私もう二つ買っちゃったんだけどっ!?」

 

 

「セリカちゃんはくぁわいいですねぇ~。よ~しよしよしよし」

 

 

「ちょ、やめてくださいってば」

 

 

 

 十六夜ノノミにわしゃわしゃと頭をなでられて嫌がる素振りを見せる黒見セリカのそれはまるで人に構われ過ぎてウザそうに泣きわめている野良猫そっくりであった。

 

 

「あっ、というか、もうこんな時間ン! 次のバイト先行かなきゃ。店長、お先に失礼しますねッ!」

 

「ああ、気をつけていってらっしゃい」

 

 それから黒見セリカはさっさとエプロンを脱ぎ捨てると、店長の見送りの言葉も他所にものすごい速度で店を後にした。対策委員会の面々はのんびりとした顔でそれを見守った。

 

「セリカちゃんは真面目ですねぇ」

 

 

「バイトなんかしたって無意味なのに」

 

 

 十六夜ノノミの感心とは対照的に、砂狼シロコは冷淡な口調でそう言った。そして、確かに彼女の言うとおり黒見セリカがたとえ千年バイト戦士に徹したとしても、借金は返済どころか利子で膨らむだけなのが事実だった。

 

 

「ん、やっぱり銀行強盗しかない」

 

 独り言ちた砂狼シロコに、奥空アヤネは「それはホントにやめてください……」 と戦慄交じりの口調で制した。口と手の神経が直結されている砂狼シロコは、「銀行強盗」と口にしたその時にはすでに愛用の銃を手に構えていたのだった。そして、これは紛うことなき事実であるが、奥空アヤネが言って止めなければシロコは本当に銀行強盗に行くつもりであった。

 

 

 

 

 

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