川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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アビドスの夜 その10

 

 アビドス自治区は砂で覆われている。と、キヴォトス全域から誤解されている。が、実際はそーでもない。

 

 閑散としてると言えば、閑散としている。確かに人の気配はない。だが、文明の荒廃を匂わせるほどの荒廃もまた、どこにも感ぜられない。ひっそりと敷き詰められたニュータウンからは、その開発に掛けられた金と労力に見合う程の発展と人気は到底感じられず、郊外の都市にも活気が感じられず、だが全く人の気配がないかと言われると、それはどうにも肯定できない。所々に砂塵が被って、砂がさらさらと隙間を川の流れみたいに流れていく住宅の様子からは、まるで冷たい川底に沈んだ船のように、形を保ったまま時が止められたみたいに、かつて栄えていた頃の面影がどことなく保存されていた。だから、人がいない割に、案外とアビドスの街並みは小奇麗な体を取り繕っているのだった。

 

 

 しかし、ひとしきり赤々と夕焼た空に、街をほんの一時でも煙らせるくらいの雨の気配は感じられず、また、綺麗に施された窓ガラスたちも、光沢をすっかり失っており、彩色は色を忘れたみたいに各々がとにかくやる気なく薄らボケていた。街は確実に滅びつつあった。なんとなくそんな気がしないのは、もうすっかり蛆も集らなくなって、風化して骨だけになっている死骸と同じ原理である。アビドスは、もう滅びを如実に予感させるだけの元気もないのだ。

 

 

 あと半世紀も経てば、すっかり町は砂に覆われてしまうのだろう。アビドスはまるで砂に埋もれて干からびるための前準備をしているみたいに、少しずつ自分たちの呼吸を止めつつあるようであった。

 

 

 黒見セリカは、そんなアビドスが大嫌いだった。負け犬根性フルマックスのこの街が。大好きな先輩や同級生がいなければ、とっくに見捨ててやるのに。彼女は夜の帳も降りつつある自治区のせまっ苦しい路地を一人歩いていた。

 

 

「柴関……時給九百円……」

 

 

 柴関ラーメンでのバイトが終わり、次のバイトへと直行する。黒見セリカは携帯電話の地図アプリを起動させた。すると、携帯から無機質な案内音声が流れてくる。セリカは適当に聞き流しながらこうぼやいた。

 

 

「仮に一日八時間働いたとして、月に……二十一万六千円」

 

 

『行キ先【ダモカンクリーニング店】。今カラ音声案内ヲ開始シマス。右方向ヘ百メートル直進デス』

 

 

「新しくシフト入れた次のバイト先……ダモカンクリーニング……時給1100円。月に二十六万四千円……」

 

 

 セリカは指先で適当に算盤を弾く。

 

「借金は【九億】。これじゃ利息も払えない。でも、ホシノ先輩みたいにべらぼうに強くもないから、賞金首とかは狙えない」

 

 

 

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