川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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アビドスの夜 その11

 

「かといってこれ以上バイトを増やしても……ねェ」

 

 

『左』『方』『向』『デス』

 

 

「もっと割のいいバイト……」

 

 

 いつもは通らない道。まるで知らない道を歩いてる。セリカは初めての街にふらっとやってきた旅人みたいな浮かれた心地になっているのを感じた。

 

 

「……」

 

 

 割のいいバイト。咄嗟に思いついたのは。

 

 

「いやいや、何考えてんのよ私は!! そんなのダメにきまってるでしょ」

 

 

 黒見セリカは猫みたいに手の甲を頬にこすりつけた。

 

 

『百メートル直進デス』

 

 

「やっぱり、地道にやってくしかないわ……。【別に借金は返さなくても構わない】。皆が無事にアビドスを出て行けるだけのお金が溜まれば、私はそれでいいんだから」

 

 

 

 

 

『通リ過ギマシタ。Uターンシテ下サイ』

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

『通リ過ギマシタ……』

 

 

『Uターンシテ下サイ』

 

 

 

「ん? あれ?」

 

 

 セリカは歩いていた足をぴたりと止めて、振り返った。

 

 

『通リ過ギマシタ。Uターンシテ下サイ』

 

 

「Uターン?」

 

 

 セリカは手元の携帯電話を覗いた。それから、矢庭に振り返った。どうやら通り過ぎてしまっていたらしいが、そのような道が右手側にあっただろうか? どうにも全く記憶に覚えがない。

 

 

「おっ」

 

 

 しかし、果たして道はあった。それは、道と道を無理やりこじ開けたかのような、人一人分の隙間だけの路地裏であった。

 

 

「こんな細道にィ?」

 

 

『右方向デス』

 

 

「たまにこーゆーのがあるのよねェ。ナビの案内って……」

 

 

 

 

『直進デス』

 

 

 

 それは猫ですら通るのを憚りそうなほど鬱蒼として、人気の毛も感じられなかった。黒見セリカは、両壁から垂れ下がって頭に降りかかってくる葉の生い茂りや、押し寄せるかのように壁に張り付いて飛び出しているボロボロの室外機を避けながら、まるで特に警戒心もなく人間にすり寄ってくる子猫のような面持ちで路地裏へと入っていった。

 

 が、しかし。

 

 

『三十メートル先、右方向デス』

 

 

「『右』? 次も『右』?」

 

 

『右方向デス』

 

 

「右ィ~? ホントォ~?」

 

 

 

 黒見セリカは人差し指を中空でくるくると右に回しながら口をひょっとこみたいに尖らせた。

 

 

 

 

「そりゃないでしょ! 右に二回曲がったら来た方向に戻っちゃうじゃない!」

 

 

 

 

 なぜならば、右の右は後ろだからである。

 

 

「うーん。初めてのバイト先だから、道に詳しいわけじゃないけど……。こりゃバカナビ確定ね。ダモカンは北よ? これは明らかに遠回り。次の道は左……コレ明らかネ!」

 

 

 

 黒見セリカはしばらく周囲をきょろきょろと見渡していたが「方位磁針より役に立たないナビってこの世に存在していいの?」とぼやきながら道をまっすぐに突き進んだ。

 

 

 

 

 

『通リ過ギマシタ。Uターンシテクダサイ

 

 

 

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