川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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8:30(エイト・サーティ) その3

 

「空を見上げてみると、どこまでも澄み渡った青空が広がっている」

 

 

 川尻浩作はこう言った。

 

 

「快晴ってのは、空全体に雲が一割もない状態のことを指すらしいが、どう考えても現在の青空には一割も雲がない。つまり、この青空は単なる比喩や誇張ではなく、まごうことなき【快晴】だというわけだ。

 ところで、私は今日傘を持ってきただろうか。答えはもちろん【ノー】。降水確率ゼロパーの上に外は快晴。空気に湿気も一切感じられないし、わざわざ雨に備える必要何て、歯ブラシにこびり付いた歯糞ほども無いよなぁ」

 

 

 川尻浩作はこう言った。

 

「だがしかし、未来とは極めて混沌としており予測が困難だ。ときに、どれだけ事前に準備を備えようと、99.99%安全を保障すると断言出来得る状況下であっても、不測の事態というものはどうあがいても避けられない。チョウの羽ばたきの軌道を予測できないのと同様に、未来を予測することは不可能なのだ」

「しかし、あなた様はそれが可能」

 

 球のように綺麗な声がした。それは、銃声やら怒号やらで馬鹿みたいに騒がしい街の中を、一際浮足立った声だった。

 川尻が顔を向けると、和服の女が隣を歩いていた。女は眩しいのか日傘を顔に翳している。顔は良くわからないが、けれども大変美しい手を持っている。それから着物の色、帯の色も鮮やかに分かった。白い足袋の色も目に付いた。草履をはいていることもわかる。

 この時川尻浩作が受けた印象は、ただただ綺麗な色彩だということだった。有体に言ってしまうと、彼は見惚れていた。

 女は続けて口を開いた。

 

「どんなに不条理な運命の定めも、抗い難い【厄災】の流れも、あらゆる理を()()()()()()。あなた様の持つ爆発的破壊エネルギーならば!」

「あー」

 

 川尻はそれでにわかに正気を取り戻した。それから、少し緩んでいたネクタイを絞めつつ、言った。

 

「君は私の名前を知ってるかもしれないが、私は知らないんだ。私が認知できるのは、【私の能力が発動した】という事だけ……。私の名前は川尻浩作。君の名前を聴かせてもらえないか?」

「狐坂ワカモと申します。お気軽にワカモとお呼びくださいませ、あなた様♡」

「……」

 

 やけに顔を赤面させてにじり寄ってくる狐坂ワカモとかいう女に若干戸惑いつつも、川尻浩作は咳ばらいをして気を取り直した。それから。

 

 

「ちなみに弧坂ワカモ……君は()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「はい、あなた様。この朝は8()9()()()で御座います」

 

 

 狐坂ワカモはそう答えると、手に持っていた傘を川尻浩作へと掲げた。

 

 

「私に日傘は必要ない」

「いいえ、あなた様。44秒後、【にわか雨】が降りますので」

「……」

 

 

 

 ドドドドドドドドド

 

 

 

「んっ?」

 

 

 

 ドドドドドドドドド

 

 

 

「……」

 

 

 

 狐坂ワカモと川尻浩作が、背後の覇気に気が付いて振り返ると、そこには先ほどのスケバンBが、目を血走らせて、川尻浩作の眉間に向かって銃を構えていた。

 

 

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