川尻浩作、Fly High with キヴォトス   作:堂廻り 眞くら

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川尻浩作は先生で殺人鬼 その2

 

 

 

 

 

 シャーレのオフィスビルッ!

 

 

 【部員】が今の所一人もいないくせに、その施設、設備はあまりにも充実しているのだ。

 

 

 ビル一階はエントランスを囲むように図書室、教室、射撃場、実験室、格納庫などがある。

 

 また、エントランスの抜けた先には、社員の事務室があり、また完全に無用の長物と化している大規模な視聴覚室、バスケットコート、テニスコートなんてものもある。お昼休憩の際にふらっと立ち寄って、壁打ちしてみたりフリースローの練習なんか気軽にしてみたりして、なんてのはさぞ楽しいことだろう。

 

 

 

 一階は以上の通りだが、エレベーターで上がった先には、トレーニングルームとか、キッチン付きの食堂とか、ゲームセンター、休憩室、自習室、シャワールーム、果てはコンビニ。

 

 

 カフェ。家庭菜園。ヘリポートなんてのもある。

 

 

 仕事場にこんなものが必要か? まるでスかした大企業のオフィスビルみたいじゃあないか。全くもって怪しからんが……。いや、それは兎も角。

 

 

 で、こんなに充実した職場を有している「シャーレ」とやらが一体何を仕事しているのかと言うと、これがな~んもない。権力やら職場やらは充実しているが、肝心な職務を与えられていないのだ。

 

 

 強いて職務を上げるとするならば、【先生】として【生徒】を護ってやるということくらいだろう。

 

 

 たった一人の部員も存在せず、いるのは【顧問】ただ一人だけ。

 

 

 シャーレの先生こと【川尻浩作】である。

 

 

 【川尻浩作】が、シャーレのオフィスで、優雅にコーヒーを嗜んでいるところ、来客があった。

 

 

 何度か、出入り口のドアをノックする音がして、数秒置いてからガチャリとドアが開かれた。

 

 

「お休みの所すみませーんン~~」

 

 

 

 そいつは眼鏡をかけた女だった。頬のそばかすがよく目につく女だ。そいつはどこを見てるんだかよくわからない目で川尻浩作に向かって軽く頭を下げながら、ノソォッと、開きかけのドアから体をねじ込んで入ってくる。

 

 

「お時間よろしいでしょうかァ~~~? わたし、これから取材予約入れてる【クロノス報道部】の部員です~~~。失礼いたしますぅ~~~」

 

 

 バタム。と女は扉を閉じた。

 

 

「先日の一件、お噂はかねがね! 【シャーレの先生】のご活躍しかと拝見させてもらってます。なんでも【脱獄囚】の引き起こした暴動を立ったおひとりで鎮圧なされたとか! それに、謎の機能不全に陥っていた【サンクトゥムタワー】を即日に復旧したのも先生らしいですね? さすがです。これからも先生の活躍を期待しております。とても楽しみです」

 

「……」

 

「あの、えーと」

 

 

 川尻浩作は始終無言だった。女の方ではなく、壁の方をぼんやりと眺めているようであった。そこでようやく女は不安がった。

 

 

「せ、先生?」

 

 

 何度か呼びかけて、そこで不意に川尻浩作はぐるりと頭の向きを変えて、女の方を見やった。それから、ずっしりと重たそうな唇をやっとこさ開いた。

 

 

「川尻浩作だ。以後よろしく」

 

「あ、ああ。ご挨拶……。これは失礼致しました。わたしは【クロノス報道部】で【月刊キヴォトス】の作成などを担当してます、田岡と申します」

 

「クロノス報道部というのは確か、【クロノスジャーナリズムスクール】の部活だったかな」

 

「ええはい。そうです。ご存じでしたか」

 

 

 川尻浩作は、不意に右手の人差し指を顔の前に持ち上げて、虚空に文字を描くかのように手を動かした。

 

 

「先日、君の学園のニュースサイトのドメイン名を確認したンだが、クロノスの綴りが「KRONOS」だったよ」

 

「ハイッ?」

 

 

 田岡は首を傾げた。川尻浩作は構わずに話を続けた。

 

 

「君たちの学園は【時事】問題を主に扱っているわけから、それで【時間の神であるクロノス】の名にあやかってるんだろうなァとてっきり思いこんでいたんだが……。しかし「KRONOS」ってのは違うんじゃァないか? 古代ギリシャ神話由来の、農耕の神様の方じゃァないか? 時間の神様の方じゃない。これは単なる表記ミスなのかな? それとも何か明確な意図があって農耕神の方のクロノスを採用してるのかな?」

 

「……えーっと?」

 

 

 田岡は彼が何を言いたいのかをしばらく考えて、全くわからなかったので口を半開いた。

 

 

「先生が何をおっしゃられているのかイマイチ……」

 

「ああ、すまない」

 

 

 川尻浩作は降参でもするかのように両手を挙げた。それから柔和な笑みを浮かべながら応えた。

 

 

「【慣れてない】んだ。許して欲しい。常識に疎いんだ。何せつい先日【キヴォトスの外】から来たばかりなもんでね」

 

「あ……いえ……大丈夫です。お構いなく…ハイ」

 

 

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