川尻浩作、Fly High with キヴォトス 作:堂廻り 眞くら
「……」
川尻浩作は何の前触れもなく、突然、腰かけていた椅子からスッくと立ち上がった。それから、ネクタイをほんの少しだけ緩めながら、田岡に全く目を合わせようとせずにこう言った。
「君、一人かね。仲間は来ていないのかね」
「ハァッ!?」
「いや、返事は結構。確信したよ。一人なんだな? そしてデータも共有していない。そうだろ? 手柄を……独り占めする気だったんだな?」
田岡は、神経質そうにネクタイを弄る川尻浩作を見えていると、何か漠然とした不安を感じ始めた。
「そーゆーのが命取りなんだよなァ。【勝ち負け】にこだわったり、【出世】に頓着したり、そのために上司に【へーこら】したり、そんでもって同僚とかに【嫉妬】していらぬ意地悪したり……。そーゆー社会に対する攻撃的な姿勢が頭を抱える【トラブル】や【ストレス】だったり、夜も眠れない【敵】の影におびえたり、なんて羽目に陥るのだよ。ま、もっとも、仮にそんな事態に陥ったとして、私なら容易に切り抜けられるくらいの【自信】はあるがね」
「……何を言いたいのですか?」
「んッ? いや、なに。せっかくだから私の【能力】について教えてやろうかと思ってね。私の【特殊能力】の一つ……【キラークイーン】について。どーせ、【君はもう始末されてしまってる】わけだし」
「……?」
「【キラークイーン】の特殊能力……。
それは、【キラークイーン】が【触れたもの】は【どんなもの】でも……【爆弾】に変えることができる」
「……」
田岡はまるで頭のおかしいものを見る目で目の前の男を凝視した。田岡は、川尻浩作がいい歳して下らない与太話を今さらになって始めるのに、その幼稚極まりない往生際の悪さを軽蔑せずにはいられなかった。
「だから先生、何が言いたのかさっぱりわからないッ!! 私に危害を加えよーって魂胆ですか!! それともわけのわからない話ではぐらかそうとしてるんですか? 到底通用しませんよッ!! 私はもう帰りますッ!! 記事にさせてもらいますッ!!」
「いや、それは無理だよ」
刹那、田岡は訳の分からない焦燥感に駆られて出口のドアに足先を向けた。
一瞬の出来事だった。
川尻浩作が右手をほんの少しだけ揺らした。
「【キラークイーン】は既に【デジカメ】に【触っている】」
田岡は、どしゃりとその場に仰向けに頽れた。田岡は目をぱちりとさせた。
オフィスの天井が視界に入る。いや、違う。何かがおかしい。体に力が入らない。それに、天井もなんだか変だ。でも、具体的に何がおかしいのかわからない。
何が起こったのか理解できない。
「君の【右半身】を吹っ飛ばしたからな。あまりに突然なもんで痛みはしばらくやってこないだろ? ん? どうだね」