月姫転生 【完結】   作:HAJI

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第三十二話 「答え」

 

日付が変わり、人々が眠りに就こうとしている時刻。人気がない公園の中に彼らはいた。

 

およそ常人とは思えない巨体とコートを羽織った男。見る者を畏怖させるに十分な風格を持った、ヒトではない存在。死徒と呼ばれる怪物。

 

一歩一歩、一定の歩調を保ちつつ男は公園の中へと進んでいく。表情からは何も感情を読み取れない。まるで修行僧、探究者にも似た貌がそこにはあった。だがその歩みは

 

 

「――――そこまでです。ネロ・カオス」

 

 

凛とした、同時にナイフを突きつけるような鋭さを持つ声によって遮られた。

 

法衣を身に纏い、その手には黒鍵が握られている。そこにはもはや個人としての彼女はいない。ただ異端を狩るための戦闘者。

 

ネロ・カオスとシエル。決して相容れることはない、ただ互いを滅するだけの関係の二人が今、月下の公園で向かい合っていた――――

 

 

 

「…………」

 

 

だが混沌は何も口にすることはない。吸血鬼にとって天敵とも言える教会の人間が目の前にいるにも関わらず。微塵の恐れも見せない。ただ足を止めたまま、何かを探しているかのように。

 

 

「……一つ聞かせなさい。貴方が何故こんな場所にいるのか。真祖アルクェイド・ブリュンスタッドの抹殺が貴方の目的のはず」

 

 

その意味を理解しながらもあえてシエルは問う。問わねばならなかった。何故ここにやってきたのか。そう、ここにはネロが目的とする吸血姫はいない。彼女を殺すことがネロの目的であったはず。にも関わらず、ネロは躊躇うことなくただこの場へと現れた。明確な目的を持って。

 

瞬間、初めて混沌は感情を見せる。片目を閉じ、ただ思考する。自らが持つ宿願、命題。

『混沌』

 

全てが生まれる原初のセカイ。その先に何があるのかを追い求めてきた。そのために全てを捨てて来た。ヒトの名も、命も。全てを飲み干してきた。血も、命も。吸血種の中にあってなお、不死身と称されるほどに。

 

 

――――だが、ソレを目の当たりにしてしまった。

 

 

とうの昔に超越したはずの事象。もはやその事実すら忘れかけていたはずの感覚。それを、思い出してしまった。

 

 

『恐れ』という最も醜悪な、あってはならない感情を。

 

 

「 ――――痴れたことだ。私が私達であるために、障害を排除する」

 

 

自らの『死』足り得る例外を排除するために。己の命題に反するものを残しておくわけにはいかない。ただあるのは魔術師としての、群体としての本能のみ。

 

 

憤怒にも似た形相を見せながら、混沌は自らの世界を解放した――――

 

 

コートをはためかせた瞬間、それらは弾丸のように飛び出していく。混沌の内に宿る獣たち。その全てが人間を一瞬で葬れる体躯を有している。数は六つ。その全てがたった一つの目標に向かって襲いかかって行く。逃れる術はない。人間であれば肉片一つ残さす切り刻まれ、食われてしまうであろう状況。しかしそれは

 

 

音すら置き去りにする弓によって霧散した。

 

 

轟音にも似た風切り音。同時に砲弾が着弾したかのような衝撃と爆煙に公園は包まれる。刹那に等しい時間で六つの獣たちは地面に磔にされている。否、もはや原形を残しているものは存在しない。その全てが細い剣の投擲によって吹き飛ばされていた。

 

 

「――――」

 

 

目を見開き、シエルはただネロを見据えている。手には既に新たな黒鍵が握られている。空気が震えるほどの気迫。握られた黒鍵の柄は彼女の力によって軋み、悲鳴をあげている。

 

一本の剣によって巨大な肉食獣が吹き飛ばされ粉々になる。本来ならあり得ない物理法則。それを為し得ているのは魔術ではない。純粋な身体能力と技術。教会の中においても異端とされる存在。埋葬機関の七位。弓の異名を持つ彼女だからこそ可能な圧倒的な力。並みの死徒ならばその一撃で決着がつく。しかしシエルには油断も慢心もない。何故なら今目の前にしているのは、死徒の中においても恐れられる二十七の怪物の一つなのだから。

 

それは戦争だった。絶えることなくケモノ達が混沌なら生まれ、駆けて行く。その数は優に五十を超える。量も質も先程とは比べ物にならない。咆哮と共に暴力が振るわんとするもその全てが破砕される。寸分の狂いもない芸術。神の裁きを下す代行者。その名に相応しい鉄槌によってケモノ達は己が獲物に辿り着くことさえ叶わない。

 

何よりも今の彼女の強さは鬼神じみていた。彼女を知る者から見ても、常軌を逸していると感じるほどに。その証拠にシエルは未だに一歩もその場から動いていない。一歩も動くことなく、五十を超える混沌のケモノを撃ち落としている。足元の地面は彼女の力に耐えきれないかのように抉れてしまっている。

 

そこには確かな意地があった。叶うのなら、己の力のみで目の前の怪物を滅することができないのか、と。だが――――

 

 

「――――っ!?」

 

 

初めて彼女の顔に焦りが浮かぶ。変わらず襲いかかってくる獣の群れ。それを討ち払うことはできる。そう、それが自分に襲いかかってくるのなら。

 

 

「はあっ!」

 

 

後方に跳躍しながら機関銃のように黒鍵を打ち続ける。その全てが的を射抜く。だが確実にシエルは追い詰められていく。何故なら混沌は初めから彼女を狙ってはいなかったのだから。自分を狙ってくる相手を迎撃するのと味方が狙われているのを迎撃すること。そのどちらが困難かなどもはや考えるまでもない。

 

シエルは己が全力を持って混沌を食い止めんとするも形勢は変わらない。自分を無視し、その後ろにいる彼に向かって襲いかかろうとしていく群れを全て排除することができなくなりつつある。同時に滅したはずの獣たちはすぐさま泥となり根本であるネロの元へと還っていく。完全な袋小路。終わることない繰り返し。

 

瞬間、シエルは思考を切り変えながら大きく跳躍し、その場から脱していく。初めから決められていたかのような手際の良さ。法衣をはためかせながらシエルは公園の中にある雑木林へと姿を消す。だがその眼にはあきらめはない。撤退という二文字を欠片も感じさせない決意を秘めながら彼女は自らを律する。我儘はここまで。ならば本来の役目を果たすために。

 

 

「――――いいだろう。その思い上がり、その身を持って知るが良い」

 

 

微塵の揺らぎも感じさせぬ獣の王は悠然とその場所へと足を踏み入れる。その全てを看破したかのような眼を見せながら戦場は人工の中にある自然へと切り替わった――――

 

 

 

月明かりすら届かない、深い闇の中にソレはいた。身を潜め、自然と一体化している人形。遠野志貴はその手にナイフを握ったまま、木の幹の上でその時を待ち続ける。その瞳は閉じられたまま。だが問題はない。移動するだけならば目を開ける必要はない。必要なのはモノを殺す時だけ。

 

 

「――――ふぅ」

 

 

一度大きく息を吐く。自分の体に酸素を送り込む。もういつ壊れてもおかしくない身体だが、まだ動いてくれるようだ。左腕が無いのは痛いが仕方がない。今持てる物だけで、決着をつける。

 

 

「…………来たか」

 

 

ぽつりと誰にともなく呟く。今まで一定だった炸裂音が変わった。同時に徐々にこちらに近づいてくる。間違いなくシエルさんがこちらにやってきている。予定よりは随分遅いがおおよその見当はつく。恐らく、自分だけで混沌を滅することができないか足掻いたのだろう。間違いなく、自分に戦わせないで済むようにと。やはり、何度繰り返してもあの人のお人好しは変わらない。それに何度救われたか分からない。にも関わらず、自分はかつて彼女に全てを明かすことなく蛇と戦ったことがある。それによって、彼女は命を落した。その間違いを二度と犯さないために、自分は彼女に対しては決して嘘をつかないと誓った。

 

 

「…………」

 

 

無駄なことを考えている自分に驚くしかない。この状況で、何を思い出しているのか。ただ今は混沌を殺すことだけを考えなければならないのに。これではまるで――――

 

 

一際大きな音が響き渡る。樹木が倒れるような衝撃。これまでとは明らかに異質なもの。自分に対するシエルさんの合図。同時に目を開きながら動き出す。ただ木々の間を縫うように駆ける。向かう先は音が起こった場所。ネロ・カオスがいる場所へ。

 

それはまるで巣を這う蜘蛛だった。足を使い、一部の無駄もなく最短の動きで夜の森を這って行く。七夜の一族が得意とする歩法であり戦法。混血、人間でないモノと戦うために編み出された技術の結晶。ただし、自分が扱っているのはその紛い物。知識から得た情報を以ってそれを再現しただけの内に何も宿らない物だが、それでも僅かな勝機となり得る。

 

 

シエルを囮とし、自分が隙を突き混沌を仕留める。

 

 

単純な、しかしこれ以上ない選択肢。奇しくも本物の遠野志貴とアルクェイド・ブリュンスタッドが取った戦法。

 

だが本来の効果は得らない。何故なら自分の存在を混沌に知られてしまっているのだから。その証拠に混沌はシエルさんではなく自分を狙っている。それでも今はシエルさんの力に頼るしかない。ネロには奇襲は通用しない。例えネロが認識していなくともネロの中の獣のいずれかが迎撃する。群体であるが故の強み。ならば、その迎撃を見越したうえで奴の死を貫くしかない。

 

時間にすれば十秒にも満たない間に戦場に辿り着く。青い浄眼によって全ての状況を把握する。

 

――――シエル。

 

跳躍しながら黒鍵によって混沌のケモノを迎撃している。後退しながらも未だに自分に一匹もケモノが襲いかかってきていないことからその全てを討ち払っているのだろう。

 

――――ネロ・カオス。

 

シエルの奮闘を見ながらも全く意にすることなくこちらへと向かってきている。自分がいることはとうに知られているのだろう。あれは六百六十六のケモノの混沌。ならば臭いでこちらの位置がばれても何ら不思議ではない。気配や魔力を隠せても、臭いを消すことなどできるわけがない。

 

だが構わない。それを超えて、逃れられない死を。身体に走る痛みも全て無視する。ただ人形を動かすように、それが自分のできる唯一の生き方。

 

――――瞬間、獣たちの動きが変わった。自分がすぐ近くに来たことを察知したのか。矛先を一斉に木の上にいる自分に向けんとする。しかし、それを弓足る代行者が許すはずがない。

 

 

「――――あぁっ!!」

 

 

渾身の力を込めた黒鍵が自分がいた木の幹ごと昇ろうとしてきた獣たちを粉砕する。それから逃れる術はない。同時に自分は弾けるようにネロの背後にある木へと飛び移る。完璧なタイミング。右手にナイフ。直死の魔眼は混沌の死を捉えている。

 

迷わずその背に向かって飛びかかる。逃れようのない勝機。反射的にネロの体から獣の一部が生まれ自分を葬らんとするがその全てをシエルが薙ぎ払う。こちらの能力が晒されているように、こちらの混沌の能力は看破している。

 

 

――――殺した。その確信は

 

 

「――――勘違いしてもらっては困るな。狩っているのは私達の方だ」

 

 

死を目の前にしながらも全く恐れをみせないネロ・カオスによって覆される。

 

突如、視界が暗転する。何が起こったのか分からない。エラーが起きた機械のように思考が定まらない。ただ必死にその場から飛びのいた。ようやく気づく。自分の身体の一部が抉られている。そう、まるで弾丸に貫かれたように――――

 

 

「――――遠野君、上です!」

「っ!!」

 

 

シエルさんの悲鳴にも似た声によって反射的に身体を逸らす。同時に頬が切り裂かれ鮮血が舞う。ようやく眼がその正体を捉える。それは鳥だった。カラスにも似た漆黒の容姿。だがその容姿は普通ではない。鷹にも似た大きさ、爪、嘴。ようやく理解した。先程自分はその『無数』の鳥たちによって吹き飛ばされたのだと。

 

その恐ろしさを一瞬で自分は理解する。そう、自分達は何も理解していなかった。ネロ・カオス。混沌が獣の群体であるという本当の意味を。

 

 

自分達は追い詰めていたのではなく、追い詰められていたのだと。

 

 

瞬間、無数の鳥が襲いかかってくる。自分はすぐさま体勢を整えながらも迎撃するが対処しきれない。肉食獣ならまだ対抗しようもあるだろう。だが相手は空を飛んでいる。体も小さい。その証拠にシエルさんも自分を援護しようとしているもその全てを撃ち落とすことができていない。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

身体を捻り、ナイフだけでなく足も使いながら纏わりついてくる鳥達を殺していく。だが追いつかない。いくら距離を置いても追い縋ってくる。身を潜めることもできない。それでも足場を変えなければ。しかし次の木の幹に飛び移った瞬間、凄まじい激痛が遠野志貴の体を襲う。

 

 

「―――っ!」

 

 

痛みを感じない、人形である自分は声を上げることはない。それでも、信号としてそれは感じ取れた。自らの足に大蛇が巻きつき、その牙に刺されていることを。死の線と点で夜でもはっきりと見える。この周囲、自分がいる空間に無数の蛇が張り巡らされている。恐らくは上空には先程の鳥たちが。もはや称賛を贈るしかない。

 

自分はこの場所が自分にとっての地の利だと考えていた。だが大きな間違いだった。そう、森という場所は混沌たちにとってこれ以上にない狩り場だったのだと。

 

迷うことなく自らの足にナイフを突き立てる。その光景にシエルさんが何かを叫んでいるが聞こえない。説明している時間すらない。ただ身体に廻るよりも早く毒を『殺した』

 

まるで知っているかのように身体が動く。当たり前だ。身体に巡る毒すらこの眼は殺すことができる。自分が識らないはずがない。何故なら――――

 

 

それでも、とてつもない負担が脳にかかる。本来見えない物を見ようとした代償。本物の遠野志貴が一時的に失明した程の負荷。眼が強くなっている分見えやすかったがそれでも昏倒しかねない頭痛が身体を襲う。

 

 

「――――掴まってください、遠野君!!」

 

 

身動きが取れずそのまま地面に落ちようとしていた自分に向かってシエルさんが手を伸ばしてくる。見ればその姿は自分に負けず劣らずのもの。法衣は所々破れ、血が痛々しく滲んでいる。きっと自分を助けようとしている間に獣たちにやられたのだろう。彼女一人ならこんな醜態は晒さないで済んだろうに。

 

 

「ここは一旦退きます……このままでは……!」

 

 

自分を肩に貸しながら跳躍し、森から脱出する。遮蔽物が無い公園の中。だが先程までの状況に比べれば幾分マシだろう。だが

 

 

「ほう……この状況で私から逃げられると思っているのか」

 

 

形勢は覆らない。森の中からネロ・カオスはゆっくりと姿を見せる。もはや逃げ場など無いのだと告げるかのように。それは正しい。そう、自分にはもう、『逃げる』という選択肢すら残されてはいなかった。

 

 

「……ありがとう、シエルさん。助かった」

「遠野君!? まだ動いてはダメです! その体ではもう――――」

 

 

何とか身体を立て直し、立ち上がる。傷も出血もあるがまだ身体は動く。問題は外よりも内。そう、混沌の言う通りだ。逃げたところで意味はない。もう自分には『次』がないのだから。一旦退いたところでもう、戦うことはできない。

 

 

もう一度戦うことができたとしても結果は変わらない。人形である自分は決まった性能しか出せない。機械が定められた機能しか発揮できないように、自分は決まった能力しか遠野志貴の力を引き出せない。先程がその限界。シエルさんの援護を受けたうえであの結末。なら何度繰り返してもそれは同じ。なら、もう――――

 

 

「…………シエルさん、後は任せた」

 

 

ただ思いついた言葉を口にした。深い意味はなかった。ただ、そう言いたかった。

 

 

 

 

――――それは自殺だった。

 

 

少なくとも、シエルにはそう見えた。自分が制止する間もなく、彼は一直線に混沌に向かって走り出した。手にナイフだけを持ちながら。必死に、それでも前へ。

 

だがそこに感情はなかった。生きようとする意志も、戦おうとする意志も。ただそれ以外に生き方を知らない、哀れな人形。壊れてしまうと分かっているのに、崖に向かって飛び降りるような光景。

 

 

「――――」

 

 

声を上げることもできなかった。できるのはただ残された黒鍵を振るい、彼に襲いかかって行く混沌のケモノを薙ぎ払うことだけ。それでも彼は止まらない。恐怖が無いのだろうか。ただ真っ直ぐに、子供のように走っている。その眼は混沌だけを捉えている。獣達には一瞥もくれることはない。自分が援護してくれると信頼しているのか。いや、違う。もし自分が援護をしなくても彼は進み続けるだろう。

 

手を切られても、足を削られても、身体を穿たれても、頭を砕かれても。

 

あるのはただ後悔だけ。こうならないために、自分は彼と契約した。蛇を殺すために。それとは違う、もう一つの願いを、あの少女との約束を守るために。なのにわたしは――――

 

 

 

 

――――眼がアツイ。

 

 

眼球が沸騰しているようだ。もし右手にナイフを持っていなければ眼を抉りだしたいと思うほどに目がアツイ。視界が歪み、ぼやけてくる。比例して頭痛が増していく。もう痛みなんて通り越している。それが何を意味しているかも分からない。

 

 

音も聞こえない。分かるのはまだ自分の形があることだけ。なら行かないと。でないと俺は生きていけない。俺がいる意味が、なくなってしまう。

 

 

このナイフで、あの死の点を突く。ただそれだけでいい。でも、それが届かない。

 

 

目の前には自分を殺さんとする混沌の姿がある。その容姿はそれまでとは全く異なる。人の形をしていない。ただ、自分を、己の死を殺すためだけのカタチ。

 

 

その動きはただ綺麗だった。ただ純粋に、相手を殺すための動き。人形の自分では決してできない、到達点。それに対応することができない。本物の遠野志貴にはできたことが、自分にはできない。分かり切ったことなのに、どうしてそれをあきらめることができなかったのか――――

 

 

 

――――瞬間、想い描く。

 

 

見たことはないけれど、識っている光景。

 

 

向日葵のような笑顔を浮かべながら両の手を広げている、琥珀の姿。

 

 

自分ではない、本物の遠野志貴ならば叶えることができた、彼女の日向の夢。

 

 

 

 

――――ああ、そうか。

 

 

ようやく、気づいた。どうやら自分はただ、その光景が見たかっただけらしい。笑い話だ。死にたいと思っていた自分が、こんなにも生きたいと思っていたなんて。

 

 

 

――――これじゃあ、どっちが人形の振りをしていたのか、分かったものじゃないな

 

 

 

自嘲しながら、満足したようにその眼を閉じ、それを待ち続ける。忘れはしない死の感覚。何もない恐怖。今までと違うのはそれが永遠に続くことだけ。なのにそれはいつまでたっても訪れなかった。

 

 

痛みも、暗闇も。あるのは温かさだけ。それが何なのか理解する前に思考が停止した。その眼には

 

 

 

 

 

自分を抱えたまま、いつものように自分を見下ろしている、どこかで見た吸血姫の姿が映っていた――――

 

 

 

 


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