やぁみんな、タシンおじさんだよ。
悪いが今、余裕が無くて・・・何故ならば。
「ふうぅぅぅ!!」
「イタ!!頑張れ」
「お前なら出来る!!頑張れ!!」
イタとナルの子供が産まれそうだからである。
◯
イタの治療を始めてから私や里の薬師は出来る限りの治療をしてきたが、イタの病状が回復する事はなかった。
そんな中でイタの妊娠から半年が経過した為、里の産婆の役目を継ぐものにイタの状況を確認してもらった所。
「このままじゃ、母体も中の赤ん坊ももたないよ。」
と言われてしまい、助かるには赤ん坊を堕ろすしか無いとも言われた。
だがイタはそんな産婆に自分の意思を伝える。
「私は・・・この子を産みます・・・必ず。」
その目は既に産む覚悟をした物になっていたのだ。
無論私はあらゆる言葉で彼女に考え直す様に伝えた・・・だが、どれ程伝えた所で彼女意思が変わる事はなかった。
私は何故かだんまりを決めているナルに説得を手伝う様、視線を彼に向ける・・・だが、私の視界に入ったのはイタと同じ覚悟を決めているナルの姿であった。
そんな中、産婆は私の役目は終わったと言わんばかりに身支度を終わらせ帰ってしまい、残されたのは既に硬い決意で結ばれた二人と未だに納得のいかない私だけとなったのであった。
◯
それからも何とかしようと努力はしたものの、イタの病状が改善する事がなく陣痛が始まってしまい、私は急いで産婆を呼び、その手伝いでラナーさんが来てくれた。
本来男である私とナルは退出するべきなのだが、イタの身体の状況とイタ本人の要望で苦しがっているイタのそばに付いて、励ましの言葉を叫んでいる所である。
「頑張りな!!もう少しだよ!!」
「アンタが強い子なのは昔から知ってるんだよ!!絶対に上手くいくさね!!」
産婆とラナーさんの励ましもあり、最後の力を振り絞らんとばかりにイタの両の手にさらに力が入る。
「・・・頑張れ・・・イタ。」
か細くと・・・しかしハッキリと聞こえたナルの言葉が皮切りだったろうか。
「!?頭が見えたよ!ラナー!!」
「はいよ!!」
そうしてこの残酷で過酷な世界に新たな命が誕生した。
「おぎゃぁ!!おぎゃぁ!!」
「おお、元気な男の子だねぇ。」
産婆は手早くへその緒を切りつつ、血と羊水で汚れた赤ん坊を綺麗にし、布に包むとイタの下に連れていく。
「抱いてやりな。」
一言そう告げ、新たな命をイタは迎える。
「ああ・・・温かい、なんて可愛いのかしら・・・」
無事には産まれた・・・だがイタの消耗具合はかなり不味い、今にも事切れそうな儚さを纏っている。
「そう言えば・・・名前は決めていたのか?」
私が以前から聞いてたが、産まれた時に話すとはぐらかされた問いをイタにする。
「・・・ええ、ナルと決めたのよ・・・そうよね、ナル?」
イタの言葉にナルは涙を流しながらも必死に頷く。
「私とナルを血を分け継いで産まれてきた子・・・この子の名前はナタ・・・ナタよ。」
イタはそう言うと「貴方も抱いて上げて」と赤ん坊・・・いや、ナタをナルに渡す・・・いやナルよ、そのままだとナタがお前の涙だらけになるからせめて涙を拭け・・・
そうして喜びながら涙を流す芸達者な事をやるナルはお前も抱いてやれと言わんばかりナタを渡してくる。
しょうがないな、と私はナタを受け取る・・・赤ん坊とはこんなに小さく・・・それでいて儚げな印象を抱いてしまう。
「ねぇ・・・ナル?」
私がナタを抱いている間に何かをナルに告げるイタが少し目に入ったがいきなりナタが泣き出しそうになった為、私は慌てて宥めようと意識をナタに集中させる。
私がナタをあやしている間に話が終わったのだろうイタが、今度は私に声を掛けてきた。
「タシン・・・」
「・・・なんだい?」
私の言葉にイタは優しく微笑むと
「貴方の夢・・・叶うと・・・いいわね。」
ズキッ
イタは今・・・何を言ったのだろうか?何故今その様な事を・・・
『あなたの夢・・・叶うといいわね!!』
「・・・うぐっ!?」
私はナタを落とさない様にしつつ、痛む頭を片手で押さえる。
「イタ・・・?・・・イタァァァ!!!!」
私が痛みに気を取られているとナルの叫びが室内を満たしていた。
その叫びにイタが既にそこにはいない事を悟る。
別れの言葉を直接言えなかった事は残念だがそれも仕方ない・・・
初めまして、ナタ。
そして、さようなら・・・イタよ。
◯
それからはナタはラナーさんに任せて、私とナル・・・その他に数人の里の人間と共にイタの墓を作る作業をした。
ナルは終始泣きながらも作業をするその姿に・・・誰も咎める者はいなかった。
その後に行われたイタの葬儀には里中の人間が集まり祈りを捧げ、最後に里の人間一人一人がイタの墓標の前で別れの言葉を告げていく。
やがて私の順番が回ってきて、私は彼女の墓標の前に立つ。
「・・・・・・・・・・」
だが、私はどの様に別れの言葉を、告げればいいか分からず、私は少し前にナルと彼女に渡したネックレスの片割れをその墓標にかける。
「・・・・失礼・・・」
私は小さな言葉を周囲に吐き捨てる様に告げ、その場を逃げるように立ち去る・・・里の人間やナルが何か言っていた気がしたが・・・私には届かなかった。
「・・・・・・」
私は一言も発する事なく、自宅へと戻ると鍵を閉め・・・その場で力が抜けて崩れ落ちる。
「・・・・クソ・・・」
一言発した私はそこからは何かが壊れたが如く、言葉を紡ぐ。
「クソォ!!!何が黒幕だ!!何がエアプだぁ!!ふざけるなぁ!!!」
私はそれまで溜まって鬱憤を晴らすが如く叫ぶ。
「親友一人を助けられない・・・そんな私に何が出来るのだ・・・」
もう、イタは帰ってこない・・・そんな事は理解している筈なのに、私は子供が癇癪を起こすように、その日は一晩中何かを言っていた気がする。
そうして叫び疲れた私は眠りに落ちる最中、無意識に言葉を紡ぐ。
「さらば・・・私の・・・いや、俺のもう一人の親友。」
私は決して・・・彼女の事を忘れる事は無いであろう・・・