嫌だ!俺は百合の間になんて挟まりたくない! 作:いろはす/1roh4su
「おりゃあッ!」
朧げな記憶によれば名を「ゼロガッシャー」というらしいこの武器は、思いのほか手に馴染んだ。
俺は今まで剣を扱ったことなんて一度もないハズだが、これもこの戦士の力なのだろうか。
「■■■■──ッ!」
怪物は触手を振り上げ、先についた刃で斬撃を防ぐ。
打ち合わせられた二つの刃は激しい音を立て、火花を散らした。
横合いから飛来したもう一本の触手を刀身を使って弾く。
馬力はほぼ互角だが、三本刃を生やしているだけあって手数はあちらが有利。このまま手数で攻められればどうなることか。
「うわっ危ねっ!? この野郎!」
間髪入れずに放たれた三枚目の刃を跳躍して回避する。あと一秒遅ければ今頃、足首から先と脛が泣き別れしていただろう。
再びゼロガッシャーを思い切り振るう。
しかし結果は先の一合の焼き増しだ。怪物が触手をもってして俺の攻撃を防ぎ、横合いから差し込まれるもう一本の触手を俺が弾く。ただそれだけ。
「くそっ、埒が明かないな! それなら──ッ!」
強化された身体能力をフル活用して俺は木の上へと跳び上がった。
すかさず放たれた触手が
枝を踏み台にして更に跳んだ俺がいるのは──怪物の直上だ。
「ハァッ!」
怪物目掛けて落下しながら体を捩った俺は、大上段に構えた大剣を伸びきった触手の根本へと叩き込んだ。
「■■■──ッ!?」
一刀両断。
触手は根本から切り落とされ、ぽとりと地に落ちる。
さしもの怪物も狼狽したのかたちまち耳障りな悲鳴を上げた。
「どうだバケモノ! すぐにもう一本も切り飛ばしてや──」
そう叫びながら本体のある方へと目をやるも、怪物の姿はそこにはなかった。
辺りを見渡すと、この場から離れようとする怪物の姿が目に飛び込んできた。
「ちょ、おま……お前ェ、逃げるなァ! 待ちやがれーッ!」
こうして、俺と怪物の生死を賭けた全力鬼ごっこが幕を開けたのだった。
──「リリィ」。
それは今から約50年ほど前に突如として世界中に出現した人類の敵、「ヒュージ」に対抗する存在の名だ。
通常兵器では太刀打ちできないヒュージにトドメを刺せる決戦兵器「Counter Huge ARMs」略して「
CHARMの動力源は「マギ」──端的に言えば魔法の力だ。そしてそれを十全に扱える者のほとんどが10代の女性である。
これが意味するのは、「年端もいかない少女達が人類の存亡を賭けてヒュージと戦い、少なくない数が命を散らしている」という現実。
だとしても、リリィは人類がヒュージに抗うための最後の希望なのだ。
「あなた、CHARMも使えないで一体何をなさるおつもりでしたの!?」
リリィである
逃亡したヒュージの捕獲任務に自ら志願したリリィが実は実戦経験皆無のド素人だった……なんて一体誰が想像するだろうか。
「ごめんなさい……。わたし……っ」
消え入りそうな声でそう言うと、
「いいえ、一柳さんをそこまでの初心者と見抜けなかった私の責任です」
「それは……。だからって……自重すべきでしょう、あなたは」
「……」
楓に叱責される梨璃を
もとより楓と梨璃の二人は、単独で出撃しようとした夢結に「足手まとい」として付けられたのだ。監督責任は
とは言え
「少しの間、周りの警戒をお願いします」
「え? は、はい」
「まだCHARMとの契約を済ませていないのでしょう。略式だけど、今してしまいます」
「はい……」
原則としてマギを扱うにはCHARMに付けられたマギクリスタルコアと専用の指輪を使った魔術契約が必要となる。
マギを扱えなければCHARMは動かせない以上、この魔術契約を行わずしてCHARMを扱うことはできないということだ。
夢結は梨璃の手を取りCHARMに触れさせる。
「痛むでしょう」
「いえ、大丈夫です……。夢結様、私の血が……」
「それでいいの」
先程のヒュージとの邂逅で傷ついた梨璃の腕から、たらりと赤い血液が垂れる。
血は梨璃の腕を伝ってその中指に嵌められた契約の指輪へと流れていく。
「略式ということになっているけど、これが本来の形なの。指輪を通じて、あなたのマギがCHARMに流れ込んでいるわ」
「マギが……」
マギを流された指輪とマギクリスタルコアが眩く光り始める。契約の儀式が始まったのだ。
「──ッ! 来ましたわ!」
しかし、相手がそれを待ってくれる道理などない。
先程のヒュージが彼女らを見つけ、奇襲をかけてきたのだ。
「■■■■──ッ!!」
楓は瞬時に得物であるユニークCHARM「ジョワユーズ」を構え、攻撃を防いだ。
そのあまりの重さに、受け止めた楓の足元の地面が抉れる。
追撃を狙って分裂した刃を何とか弾き、楓は高く跳躍。空中でジョワユーズをシューティングモードへと変形させ、銃弾をヒュージへと浴びせた。
着地の後隙を狙って絶え間なく迫る刃をいなしながら、楓はその姿に違和感を覚える。
(……触手が、
先程交戦した時にはあったはずの触手が一本欠けているのだ。
それがあったであろう場所に残っているのは、スッパリと根本から鋭利な刃物で断ち切られたような跡だけ。
こんな傷は自然にできるものではない。しかし、他のリリィから対象のヒュージと接敵し、取り逃がしたという旨の連絡は届いていない。では一体誰が?
その答えは想像よりもずっと早く、向こうからやってきた。
「──俺を放っておいて女の子にちょっかいかけてんじゃねーよッ!!」
ドロップキックである。
何処からともなく現れた緑と黒の人型のナニカが、ヒュージ目掛けてドロップキックをお見舞いしたのだ。
「な、何!?」
「よし……。皆、今のうちに逃げろ!」
ヒュージは派手に吹き飛ばされ、その下手人たる「ヒト」は、少女達を背にし庇うように立った。
「な、何を仰ってますの……? わたくし達はリリィですのよ! 逃げるのはむしろ貴方の方ではなくて?」
「へ? 『リリィ』?」
「少し待って。貴方、リリィではないようだけど……一体何者?」
困惑した様子のそのヒトに夢結は問うた。
戦場に突如現れた正体のわからない人間の言うことをどうして信用できるだろうか。
金のラインが走る緑の鎧に緑色の三本角の生えた仮面をつけた姿の「推定ヒト」。本当に人間なのかどうかすら疑わしい。ともすれば何らかの罠であったとしてもおかしくはないのだ。
「俺は、そうだな……『ゼロノス』。取り合えずは君達の味方だ。──さあ、あのバケモノがまた暴れださないうちに早く逃げたほうがいい」
目の前のヒトは少し考え込むような素振りを見せた後、そう答えた。
ゼロノス、味方。そんなことを言われた所で、夢結にはその言葉を信用する理由はない。
が、夢結は何故かその言葉が嘘ではないと感じた。
「……まあ今はそれでいいわ。それと、貴方がヒーローを気取るのは一向に構わないのだけれど、生憎と私達はリリィなの。ヒュージを前にしてのこのこと逃げ帰るわけにはいかないわ」
とりあえず夢結は己の直感を信じることにした。
もちろん、彼に聞かねばならないことは山ほどあるが、ここは戦場だ。そんなことを追及している場合ではない。もし罠だとしても即刻叩き切ればいいだけだ。
「あのさ、さっきも聞こうと思ったんだけど、その『リリィ』とか『ヒュージ』って一体──」
そうゼロノスが言いかけたその時だった。
「■■■■■──ッッ!!!」
「──っ、おりゃアッ!」
刃と刃がかち合う激しい金属音が響いた。
咄嗟にゼロガッシャーを組み上げたゼロノスがヒュージの攻撃を受け止めたのだ。
「そのまま受け止めていてくださいまし! やあああああっ!」
裂帛の気合と共に飛び出したのはCHARMを手にした楓だ。
ブレードモードのジョワユーズで横合いから激しく斬り付け、素早くシューティングモードへと切り替えて銃撃。
とても鮮やかな連撃だったが、ヒュージはその大半を一本の触手で防ぎきった。
それに飽き足らず、ヒュージは高く跳ぶと体から白い煙幕のようなものを放出し始める。
「うわっ何だァ!?」
「ガス!?」
「大丈夫、ただの目くらましよ」
白い煙はたちまち周囲に充満し、視界を遮られる。
しかし、吸い込んだとしても体に直接害は及ぼさないようだ。
「これじゃあわたくしのカッコいいところを、夢結様にお見せできないんですってばあ!」
「言ってる場合かッ!」
そう言い合いながらも、楓とゼロノスは二人で代わる代わる攻撃をいなし続けている。思いの外余裕はありそうだ。
とは言え、いつまでも眺めているわけにはいかない。夢結はCHARMを握り締めたままの梨璃からそっと手を放した。
「CHARMが起動するまで手を離さないで」
「は、はい。夢結様、いつまで……?」
「その時になればわかるわ──っ!?」
「■■■■──ッ!!!」
煙幕の奥から突如、二人を目掛けてヒュージが襲い掛かる。
咄嗟に自分のCHARMを起動しようとする夢結だったが、梨璃がその手は押さえつけた。
「待ってくださいッ!」
何を──と思ったのも束の間。
「夢結様!?」
ヒュージの後ろからジョワユーズを構えた楓が突っ込んでくるのを見て夢結はゾッとした。
梨璃が止めていなければ、今頃楓は真っ二つにされていただろう。他ならぬ夢結の手によって。
まさかヒュージが相打ちを狙ったというのだろうか。
「大丈夫か!?」
「はい、わたし達は大丈夫です!」
煙幕の向こうから緑色のシルエット──ゼロノスだ。
梨璃や楓の声から尋常ではない気配を察して来たのだろう。
安堵の息を漏らす梨璃だったが、その背後にヒュージが迫る。
「──一柳さんッ!」
「え、わわっ」
いち早くそれに気づいた夢結が梨璃を背後へと押しやる。
周囲に全員揃っていることを素早く確認した夢結は、満を持して己の得物──CHARM「ブリューナク」を解き放った。
激しく切り結び、時に射撃を織り交ぜて攻撃をいなす夢結。
しかし、ヒュージの突き上げるような攻撃によって宙へと追いやられ、幾本にも分裂した触手に包囲されてしまう。
「夢結様! ……っ!」
その時、梨璃の持つCHARM──「グングニル」が産声を上げた。
マギクリスタルコアに梨璃の固有ルーンが刻まれ、各部が展開──ブレイドモードへと変形する。契約の儀式が終了したのだ。
「一撃でしてよ。そのくらいできまして?」
「う……うん!」
それぞれのCHARMを構え、楓と梨璃はヒュージへ向かって走り出した。
「「やぁぁぁぁぁぁーっ!!」」
狙うは夢結を包囲する触手。それさえ破壊すれば、後は夢結が何とかしてくれるはず。
しかしヒュージは瞬時に切断された三本目の触手を再生させ、二人の進路上に刃を構え防御の態勢をとった。
いくら突進の勢いを乗せた一撃でも、このままでは防がれてしまう。万事休すかと思われたその時。
「させるか!」
──ゼロノスが放った
これでもう、二人を妨げるものは何もない。
二振りのCHARMはその勢いに任せ、ヒュージの触手の悉くを引きちぎる。
触手の包囲から脱した夢結は大地を力強く踏みしめ──跳躍。硬い外殻ごと、ヒュージを一刀のもとに切り伏せた。
しかしそれがいけなかった。切り裂かれたヒュージの体は勢いよく吹き飛び岩壁へと激突。その衝撃で崖が崩落を始めてしまったのだ。
「楓さんっ!」
「えっ……きゃぁっ!?」
梨璃は慌てて楓の元へと走り、壁に空いた穴へと突き飛ばす。
穴の中ならば、落石に巻き込まれることはない。そう考えたのだ。
「梨璃っ!」
しかしそれでは梨璃が落石に巻き込まれてしまう。
夢結は咄嗟に梨璃の体を抱き寄せ、庇うように覆い被さった。
「あ、やば……」
どさりと何かが崩れ落ちる音が聞こえた気がしたが、それに意識を割く余裕もなく。
今の夢結には