英雄の影に生きる一般兵ハロルド   作:パパリア田中

27 / 44
リナの実力

 

 戦場に、また朝が来る。

 

 陽が昇ると同時に、前線の兵士たちは剣を研ぎ、鎧を整え、最後の食事を取る。

 

 その中に、ハロルドの姿もあった。

 

「ハロルド、お前もだいぶ動けるようになったな」

 

 ロバートが肩を叩きながら言う。

 

「まあな……まだ完璧じゃないが、戦える」

 

「それで十分だ」

 

 ロバートは苦笑しながら、剣を腰に収める。

 

「さて……今日も地獄に飛び込むぞ」

 

 

「……ああ」

 

 ハロルドは、剣の柄を握りしめながら前を見据えた。

 

 そこには、殺し合いの場が待っている。

 

 

 

 数時間後。

 

 バジルス軍が動いた。

 

「敵軍、接近! 全軍、迎撃態勢を取れ!」

 

 号令とともに、帝国軍の陣地が慌ただしくなる。

 

 ハロルドたちの部隊も、持ち場へと急いだ。

 

「リナ、大丈夫か?」

 

 ハロルドは、隣を走るリナに声をかける。

 

「ええ」

 

 リナは、短剣を握りしめながら答えた。

 

 オーウェンは王都に戻り、リナは一人でここに残ることを選んだ。

 

(あいつは正しい選択をした……リナは……本当に、これでよかったのか?)

 

 ハロルドは、彼女の意思の強さを感じながらも、その胸中を測りかねていた。

 

「——来るぞ!」

 

 バジルス軍の先鋒が、殺気を放ちながら突撃してきた。

 

 金属がぶつかる音、血しぶき、悲鳴——戦場の狂気が幕を開けた。

 

 

 

 リナは、目の前に現れた敵兵を見据えた。

 

(……殺さなきゃ、死ぬ)

 

 冷たい思考が頭を支配する。

 

 敵兵が剣を振り下ろす——だが、その前にリナの短剣が閃いた。

 

 喉元を貫き、血が噴き出す。

 

「——ッ!」

 

 敵兵は短い悲鳴を上げて崩れ落ちる。

 

 その一部始終を、ハロルドは目撃していた。

 

(……リナ、お前……)

 

 その動きは、決して素人のものではなかった。

 

 無駄のない動作、的確な急所への一撃——

 

(まるで、慣れているかのような……)

 

 ハロルドの胸に、得体の知れない不安が広がった。

 

(リナ、お前……何を抱えてるんだ?)

 

 

 

「はぁっ!」

 

 ハロルドは剣を振るい、敵兵の動きを読みながら戦う。

 

(剣技Eの効果……まだ使える!)

 

 動きを予測し、敵の隙を突く——

 

「ぐっ……!」

 

 敵兵が斬り伏せられる。

 

 しかし、次々と新たな敵が押し寄せてくる。

 

「くそっ、数が多すぎる!」

 

 ハロルドは息を切らしながら、戦場を見渡す。

 

 そして——リナの姿を捉えた。

 

「リナ——!?」

 

 彼女の戦いぶりは、明らかに異常だった。

 

 血に濡れた短剣を手に、次々と敵を仕留めていく。

 

 その瞳には、何の感情もない。

 

(まるで……機械みたいだ)

 

 リナの過去に、ハロルドは一歩近づいた。

 

 

 

 戦場の混乱の中、リナは無表情のまま敵兵を屠っていた。

 

 短剣を握る手は微動だにせず、次の敵の喉を正確に狙う。

 

「グッ……!」

 

 短剣が肉を裂き、血が噴き出す。

 

 倒れゆく敵の体から刃を引き抜くと、リナはすぐさま次の標的へと目を向けた。

 

(……まだ、足りない)

 

 その瞳には、怒りも悲しみも映っていなかった。

 

(もっと……殺さなきゃ)

 

 ハロルドは、そんなリナの姿を目の当たりにして、言いようのない不安を覚えていた。

 

(リナ、お前……)

 

 彼女の戦い方は、あまりにも冷酷で、あまりにも慣れすぎていた。

 

 

 

「……リナ、下がれ!」

 

 ハロルドが叫ぶと同時に、巨大な戦斧が彼女へと振り下ろされた。

 

 しかし、リナは冷静だった。

 

(見える……)

 

 彼女は体を半歩後ろに引き、刃の軌道を見極める。

 

 斧の刃が地面を削るのを確認すると、即座に踏み込み、敵の膝を狙った。

 

 短剣が深々と刺さる。

 

「ぐあっ!」

 

 膝を砕かれた敵兵が、崩れ落ちる。

 

 その隙を逃さず、リナは喉を裂いた。

 

 血が噴き出す。

 

 周囲の兵士たちが、それを見て息を呑んだ。

 

(あの動き……ただの娘じゃない)

 

 帝国軍の兵士も、バジルス軍の兵士も、リナの戦い方に違和感を覚えた。

 

(まるで、殺しに慣れた暗殺者のようだ)

 

 しかし、リナ自身は何の感慨も抱かない。

 

(私は、生きるために戦う)

 

 それだけだった。

 

 

 

 戦いが一段落した頃、ハロルドはリナの元へ駆け寄った。

 

「リナ、お前……どこでそんな戦い方を……?」

 

 リナは答えなかった。

 

 血に濡れた短剣を静かに拭い、ハロルドを見つめる。

 

「……知らないわ」

 

「嘘をつくな」

 

 ハロルドはリナの目を見据える。

 

「お前は……普通の戦い方をしていない」

 

「…………」

 

「お前の戦い方は、まるで——」

 

「——どうでもいいでしょ」

 

 リナはハロルドの言葉を遮った。

 

「私は、生きるために戦う。それだけ」

 

「リナ……」

 

 彼女の目は冷たく、何も映していなかった。

 

 だが、その奥には——深い闇が広がっていた。

 

(お前は……一体……)

 

 ハロルドは、リナの過去に対する疑念を深めていく。

 

 

 

 戦闘が終わり、帝国軍は陣地を再整備していた。

 

 バジルス軍は一時撤退し、次の攻撃に備えている様子だった。

 

「今日は……ここまでか」

 

 ロバートが剣を肩に乗せながら言った。

 

「ハロルド、お前もよく戦ったな」

 

「……ああ」

 

 ハロルドは、リナの方をちらりと見た。

 

 彼女は、まだ血の匂いが残る短剣をじっと見つめていた。

 

(リナ……お前、本当に……)

 

 疑念は深まるばかりだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。