朝霧が戦場を覆い、冷たい空気が肌を刺す。
ハロルドは剣を手に立ち上がり、ゆっくりと伸びをした。
昨夜、リナと交わした言葉が頭の中で渦巻いている。
(リナの過去……それを深く知るべきなのか……?)
彼女が抱える闇、そして復讐心——。
ハロルドは自分に問いかけながらも、答えを出せずにいた。
「ハロルド、起きてるか?」
ロバートの声が響く。
「ああ」
「敵軍の動きがあった。上層部が作戦を決めたらしい」
「作戦?」
「そうだ、急いで支度しろ」
ロバートの表情は険しい。
「敵軍が本格的に前進を開始したらしい」
朝食をとりながら、ロバートが戦況を説明する。
「歩兵二千、騎兵五百ほど。正面突破を狙っているようだ」
「……それに対して、俺たちは?」
「帝国軍は千五百。しかも、前回の戦いで消耗している部隊が多い」
ハロルドは険しい表情になった。
「正面からぶつかれば押し切られるな……」
「だから、散兵を前に出し、敵騎兵を削る作戦らしい」
「……犠牲が増えるな」
「だが、そうしなければ守れない」
ロバートの言葉に、ハロルドは静かに頷いた。
「俺たちは……?」
「当然、前に出る役目だ」
「……やはりな」
ハロルドは深く息を吐いた。
こうして、彼らは戦場の最前線に立つことが決まった。
陣地の外れで、リナが短剣を手にしていた。
彼女の表情は静かだったが、どこか張り詰めた雰囲気がある。
「……リナ」
「ハロルド?」
「俺たちは前に出ることになった。お前はどうする?」
リナは一瞬黙り込んだ。
その瞳には、炎のような感情が揺れている。
「……私も行く」
「お前は後方支援でも——」
「いやよ」
リナはハロルドを真っ直ぐに見た。
「私は戦うためにここにいるの。戦わなければ、生きる意味がない」
その言葉に、ハロルドは何も言えなかった。
リナの中で何かが決定的に変わってしまっている。
(だが、それだけで生きていくのは危うい……)
ハロルドは考えながらも、ひとまず頷いた。
「わかった。だが、無茶はするなよ」
「……わかってる」
リナは短剣を握り直し、前を向いた。
こうして、ハロルドたちは戦場へと向かう。
戦場に出ると、すでに敵軍が迫ってきていた。
「前進するぞ!」
指揮官の声が響く。
ハロルドは剣を構え、前線へと駆けた。
その横では、リナが短剣を手に、静かに戦う準備をしていた。
(ここからが本番だ……!)
戦場には、すでに重たい空気が張り詰めていた。
バジルス王国の兵士たちが、槍を掲げながら整列し、前進を開始する。
「敵軍、接近!」
「第一陣、迎撃の準備!」
帝国軍の指揮官が怒号を飛ばす。
ハロルドは剣を握りしめ、敵の動きを見つめた。
(数では不利だが……やるしかない)
そして——
「——突撃!」
戦場が、動いた。
槍が突き出され、剣が閃き、兵士たちの叫びが響く。
ハロルドは前に出た敵兵の剣を受け流し、斬り返す。
「ぐあっ!」
敵兵が血を噴きながら倒れる。
(まだだ……!)
さらにもう一人——槍兵が突きを繰り出してくる。
ハロルドは身を低くし、槍の軌道を避けながら踏み込む。
「はっ!」
剣を振り上げ、敵の喉元を切り裂いた。
倒れる敵を横目に、ハロルドはすぐに次の動きを確認する。
戦場は混乱し、あちこちで悲鳴と怒号が飛び交っていた。
一方、リナもまた戦場にいた。
彼女は小柄な体を活かし、素早く動きながら敵の隙を突いていく。
「はっ……!」
短剣が敵兵の喉を貫く。
血が飛び散るが、リナの表情は変わらない。
(……こんなの、昔と変わらない)
スラムで殺しを強要されていた日々。
その経験が、今の彼女の戦いを支えている。
だが——
(違う……これは、生きるための戦い)
リナは敵兵を突き倒しながら、自分に言い聞かせるように前を向いた。
(私は……戦い続ける)
戦いは激しさを増し、戦場は次第に膠着状態に陥っていた。
「……敵が、崩れない……!」
ロバートが呻く。
バジルス軍は数で押し、帝国軍の防御を削り続けている。
(このままじゃ、押し切られる……!)
ハロルドは息を整え、前線を見つめた。
そして——
「増援を要請する!」
戦場は、次の局面へと移っていく——。