地下牢の冷たい空気の中、ハロルドはリナの体を支えながら立ち上がった。
「……立てるか?」
「……うん、大丈夫」
リナはかすれた声で答えたが、足元はおぼつかない。拷問の影響か、まともに力が入らないようだった。
ロバートが焦ったように囁く。
「長居は無用だ。さっさと出るぞ」
ハロルドはリナの腕を肩に回し、ゆっくりと歩かせる。カインが周囲を警戒しながら、先導した。
地下牢から階段を上がり、屋敷の廊下へと戻る。
しかし——
「待て」
ロバートが鋭く手を挙げた。
遠くから、金属のぶつかる音が聞こえた。
「……誰か来る」
ハロルドは息を呑む。
このままでは、出口までたどり着く前に鉢合わせする。
「どうする?」カインが小声で尋ねた。
ロバートは壁際の扉に目を向けた。
「隠れるぞ。ここに入れ」
扉を開き、三人はリナを支えながら中に滑り込んだ。
直後——
複数の足音が近づいてきた。
「牢の鍵が開いている……!」
「逃げたか!? 警戒を厳重にしろ!」
兵士たちの怒声が響く。
ハロルドたちは息を殺しながら、物陰に身を潜めた。
(……見つかったら終わりだ)
リナも必死に耐えているのが伝わる。
「二手に分かれて探せ!」
兵士たちの足音が遠ざかる。
しばらくして、カインが小声で囁いた。
「今がチャンスだ」
ハロルドは頷き、扉を静かに開いた。
「急ぐぞ」
屋敷の出口は目の前だった。
だが、そこには二人の衛兵が立っている。
「仕方ねぇな……」
ロバートが短剣を抜き、素早く動いた。
スッ——
一人の衛兵の背後に回り込み、喉元に短剣を押し当てる。
「……静かにしろ」
もう一人の衛兵が驚いて剣を抜こうとした瞬間——
カインが手際よく殴り倒した。
「よし、行け!」
ハロルドはリナを支えながら、屋敷の外へ飛び出した。
夜の冷気が肌を刺す。
中庭を走り抜け、壁際に用意していたロープへ向かう。
「リナ、登れるか?」
リナは一瞬迷ったが、頷いた。
「大丈夫、やってみる」
カインとロバートがリナを補助しながら、ロープを登らせる。
その時——
「待て! 侵入者だ!」
屋敷内から怒号が響いた。
衛兵たちが続々と現れる。
「くそ、気づかれたか……!」
ハロルドが剣を抜く。
「リナ、急げ!」
リナが壁の向こうに消えた瞬間、ハロルドは反撃に転じた。
剣を振るい、追いすがる兵士を斬り伏せる。
ロバートとカインも応戦しながら、次々と壁を登る。
最後にハロルドがロープを掴んだ——
「逃がすな!」
兵士が槍を突き出してくる。
ハロルドは身をひねりながら、ギリギリで避ける。
そして、一気に壁をよじ登った。
「……行くぞ!」
壁の向こうへ飛び降り、地面を転がる。
すぐに立ち上がり、リナの手を取った。
「無事か?」
リナは涙を滲ませながら、小さく頷いた。
「……ありがとう」
ハロルドは微笑む。
「礼はあとだ。まずは安全な場所へ行こう」
夜の闇に紛れ、四人は王都の裏路地へと消えていった——。