王都の軍本部に、ハロルドの名が正式に記録された。
「……お前が小隊長、だと?」
ロバートが呆れたような顔でハロルドを見つめた。
「冗談じゃない。本当に俺が?」
ハロルド自身も、報告を受けたときは耳を疑った。
しかし、軍本部から届いた任命書は本物だった。
リナの救出、そして貴族との戦闘での功績を評価され、ハロルドは正式に『小隊長』へと昇進したのだ。
「……まさか、こんなことになるとはな」
戦場ではただの兵士だった自分が、小隊を率いる立場になるとは夢にも思わなかった。
「おいおい、俺たちは昇進なんて無縁だと思ってたぞ」
ロバートが腕を組み、苦笑する。
周囲の兵士たちも驚いた表情を隠せない。
「お前が指揮をとるのか?」「隊長と呼ぶべきか?」「なんか変な感じだな」
戦友たちが口々に言う。
「お前ら、やめろ。俺は今まで通りだ」
ハロルドは苦笑しながらも、心の奥で重圧を感じていた。
(俺に指揮なんて務まるのか……?)
だが、やるしかない。
「ともかく、これからは俺たちの隊を率いてもらうぜ。頼むぞ、小隊長殿」
ロバートが軽く拳を突き出す。
「……ああ、やるだけやってみるさ」
ハロルドもそれに応じ、拳を合わせた。
こうして、彼は新たな立場に立つこととなった。
了解しました。それでは、次の話を書いていきます。少々お待ちください。
ハロルドの昇進が正式に決まり、小隊長としての任務が与えられた。彼の部隊は二十名ほどの寄せ集めの兵士たちで構成されていた。新兵、問題児、そして経験が浅い若者たち。見るからに統率の取れていない集団だった。
「隊長ってのは……お前か?」
部下の一人が不満げにハロルドを見上げる。彼は屈強な体格をした男で、腕にはいくつもの傷跡が刻まれていた。
「……そうだ」
ハロルドは淡々と答える。男は鼻を鳴らし、「チッ」と舌打ちをした。他の兵士たちも、ハロルドに対して懐疑的な目を向けている。
「俺たちは捨て駒ってわけか……」
「新任の小隊長って時点で、察しはつくな」
そんな声が囁かれるが、ハロルドは気にしなかった。戦場では誰が上官かなど関係ない。生き残るためには、命令に従い、冷静に行動することが何よりも重要だ。
「……これからお前たちの指揮をとることになった。文句があるなら、戦場で示せ」
それだけ言い残し、ハロルドは部隊の先頭に立つ。彼らに求めるのは忠誠ではない。ただ、生きるために動ける兵士であれば、それでよかった。
最初の任務は王都近郊の盗賊団の討伐だった。敵は戦場の兵士ではなく、寄せ集めの犯罪者たち。だが、ハロルドはすぐに気づいた。
「……これはただの盗賊じゃない」
報告されていた規模よりも、敵の人数は多く、装備も妙に統率が取れている。どう考えても、ただの山賊とは思えない。
「小隊長さんよ、どうする?」
ロバートが隣で呟く。彼もまた、今回の任務に同行していた。
「奇襲する」
ハロルドは短く答えた。無策で突っ込めば、こちらが不利になる。地形を利用し、可能な限り敵を分断することが必要だった。
「お前たちは二手に分かれろ。俺とロバートは前衛。残りは後方から弓で支援しろ」
「チッ……命令しやがって」
部下の一人が不満そうに言うが、ハロルドは冷静に睨みつけた。
「命令を聞けないなら、ここで死ぬぞ」
その言葉に、兵士たちはしぶしぶ従う。こうして、ハロルドの初陣が始まった。
夜陰に紛れて接近し、静かに敵を仕留めていく。ハロルドは剣を振るい、敵の首を刈った。血が飛び散り、死体が音を立てて倒れる。
「う、うわっ……!」
だが、新兵の一人が悲鳴を上げた。敵の死体を前にして、足をすくませてしまったのだ。
「おい、動け!」
ハロルドが叫ぶが、彼は震えながら動かない。その瞬間、敵が気づき、大声を上げた。
「敵襲だ!」
「くそっ……!」
奇襲は失敗に終わり、戦闘が始まった。
ハロルドは剣を振るい、敵を倒しながら部下たちを鼓舞する。しかし、初陣の新兵たちは動揺し、指示通りに動けない者も多かった。
「隊長、どうする!?」
ロバートが叫ぶ。ハロルドは冷静に周囲を見渡し、決断する。
「全員、後退しろ!」
無理に戦うより、一度体勢を立て直す方が得策だ。全滅するより、撤退して再度仕掛ける方が生存率は高い。
なんとか撤退は成功したものの、数名の兵士が負傷し、一人が命を落とした。
「くそっ……」
ハロルドは拳を握りしめる。たかが盗賊相手に、これほどの損害を出すとは。
「隊長……俺たち、どうすりゃいいんだ?」
兵士たちの目には、明らかな不安が浮かんでいた。
ハロルドは答えた。
「……もう一度仕掛ける。今度は確実に仕留める」
その目には、迷いはなかった。