夜の帳が下りる中、ハロルドの部隊は森の奥深くで息を潜めていた。
初戦の敗北が兵士たちの士気を大きく下げていた。負傷者は呻き、仲間を失った者たちは無言のまま顔を伏せている。
焚き火の灯りがちらちらと揺れる中、ロバートが口を開いた。
「このままじゃ、またやられるぞ」
彼の声は静かだったが、明確な危機感が滲んでいた。
ハロルドは周囲を見渡す。兵士たちの顔には疲労と恐怖が浮かんでいた。
「……俺たちに残された選択肢は二つだ」
そう言って、ハロルドは地面に短剣を突き立てる。
「一つは、このまま王都に戻り、任務失敗を報告する」
兵士たちの間に緊張が走る。
「だが、それは許されない」
ハロルドの言葉に、兵士たちはゴクリと唾を飲んだ。
「俺たちは軍に属する兵士だ。命令を果たせなければ、それはすなわち『無能』と見なされる」
「……敗北した上に、任務失敗で帰還すれば、最前線送りだろうな」
ロバートが肩をすくめる。
最前線送り――それは即ち死を意味する。
「じゃあ、もう一つの選択肢は?」
兵士の一人が震える声で尋ねる。
ハロルドはゆっくりと答えた。
「……敵を倒す。それしかない」
ハロルドは夜が更けるのを待ち、再び敵陣に向かう決断を下した。
今度の作戦はより慎重なものだった。
敵陣を監視し、出入りする人数、巡回の間隔、装備の状態――すべてを観察する。
「……敵は三十名ほど。昼間は半数が物資を集めに行き、夜は残った者が警備をしている」
ハロルドは森の中で低く囁いた。
「前回の失敗を踏まえて、まずは見張りを静かに仕留める。そして、敵の主力が眠る深夜に突入し、一気に殲滅する」
「……本当にうまくいくのか?」
誰かが不安そうに呟く。
「うまくいかせるしかない」
ハロルドの声には迷いがなかった。
「俺の合図で動け。それだけだ」
深夜。
闇の中を、ハロルドたちは音もなく進む。
先頭に立つハロルドは、木陰に潜む見張りを確認すると、素早く後ろから首を掻き切った。
「……っ」
短い悲鳴すら許さず、男は静かに崩れ落ちる。
「次だ」
兵士たちは緊張しながらも、ハロルドの動きをなぞるように慎重に敵を仕留めていく。
やがて、見張りは全滅した。
「今だ……!」
ハロルドは合図を送り、部隊は一斉に敵陣へと突入した。
テントの中で眠っていた盗賊たちは、襲撃に気づく間もなく斬り伏せられていく。
「ぐっ……う、うわああ!」
悲鳴を上げた者もいたが、それが響く前に兵士たちが息の根を止めた。
「隊長!あと少しです!」
ロバートが叫ぶ。
しかし――
「……何だ、これは」
ハロルドは奥のテントを覗き込み、息を飲んだ。
そこには、ただの盗賊とは思えない精巧な武具が揃えられていた。
そして、戦場で使われるような地図や指示書まで残されていた。
「……こいつら、ただの盗賊じゃない」
ハロルドは拳を握りしめた。
この戦いの背後に、何かがある。
彼の初陣は、単なる盗賊討伐で終わるはずのものではなかったのだ――。