訓練場に木剣が打ち合う乾いた音が響いた。
ハロルドは息を荒げながら、何度目かもわからない打撃を受け止める。
「……っ!」
バルドの攻撃は鋭く、そして重かった。ただの模擬戦とは思えないほど、手加減のない一撃だった。だが、それがかえってハロルドの闘志を燃やした。
(これが、騎士団仕込みの剣か……!)
何度も戦場を生き抜いてきた。自分なりに剣を学び、技術を磨いてきたつもりだった。だが、こうして真正面から剣の使い手と対峙すると、痛感させられる——圧倒的な差を。
バルドの動きには隙がない。斬撃も防御も、すべてが洗練されていた。
(戦場と訓練場……どちらも剣を振るう場所だが、質が違う)
戦場では、すべてが混沌としている。泥と血が混じり、悲鳴と怒号が飛び交う中で、剣を振るう。そこに求められるのは、瞬間的な判断と生存本能だ。
だが、目の前の男は違った。
——「強い剣」ではなく、「洗練された剣」。
戦場で生きるための剣ではなく、戦いのための剣。
ハロルドは、今まで戦場で生き残ってきた経験とは別の「壁」に直面していた。
繰り返される攻防
「まだ立てるか?」
バルドが木剣を肩に担ぎながら問いかける。
ハロルドは荒い息を吐きながら、ゆっくりと膝を伸ばした。
「……ああ」
「いいねえ。その根性は気に入った」
バルドは満足そうに笑うと、再び構えを取った。
ハロルドも木剣を握り直し、じっと相手を見つめる。
——今の自分にできることは何か。
戦場で培った勘。敵の動きを読む力。剣技スキル。
それらをすべて駆使しても、目の前の剣士には届かない。ならば、どうする?
ハロルドは深く息を吸った。
(戦場では、常に変則的な動きが求められる)
敵がどこから襲ってくるかわからない。仲間が倒れ、戦線が崩れることもある。そんな状況で、どう生き延びるかを考え続けてきた。
ならば——
「いくぞ」
ハロルドは突如として、剣を振りかぶる。
「……っ!?」
バルドが一瞬、驚いたように目を見開く。
——しかし、その動揺は一瞬だった。
ハロルドの斬撃を見切ると、バルドは軽々と受け流す。だが——
「!」
バルドの背後に回り込むように、ハロルドは即座に体勢を変えていた。
「……ほう?」
バルドは感心したように呟く。
ハロルドは、戦場で培った動き——生存のための変則的な剣技を活かして攻撃を仕掛けたのだ。
しかし——
「残念だったな」
バルドの木剣が、ハロルドの脇腹を強かに打ち据えた。
「ぐっ……!」
ハロルドはたまらず膝をつく。
「悪くねえ。だが、お前の動きはまだ読める」
バルドは微笑みながら、木剣を構え直した。
「その動きは戦場じゃ通用するかもしれねえが、俺みたいな『剣を知る者』には通じねえ。もっと工夫しろ」
ハロルドは歯を食いしばりながら、木剣を杖代わりにして立ち上がった。
「……まだ、やるぞ」
バルドはしばし沈黙した後、大きく笑った。
「気に入った! いいぜ、付き合ってやるよ!」
そして、二人の剣が再びぶつかり合った。
夕刻、ハロルドはボロボロになりながらも、訓練場を後にした。
「ハロルド」
背後から声がかかる。振り返ると、バルドが立っていた。
「お前、しばらくここに通え。俺が鍛えてやる」
ハロルドは目を見開いた。
「……いいのか?」
「ああ。お前みたいな奴は、見ていて面白いからな」
バルドは豪快に笑いながら、ハロルドの肩を叩いた。
「それに——お前みたいな『戦場の剣士』が、ちゃんとした剣技を覚えたら、どれだけ化けるか興味がある」
ハロルドはしばし沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「わかった……頼む」
こうして、ハロルドは剣の道を本格的に歩み始めた。