空から砲弾が降り注ぐ。
轟音とともに大地が裂け、泥と血と硝煙が渦巻く。この世の終わりを思わせる破壊の雨に、人間の命など紙よりも軽い。
戦場では砲を「女神」と呼ぶ者もいる。だが、いざ敵として相対すれば、それはただの冷酷な審判者だ。慈悲もなく、選別もなく、誰彼構わず粉砕する無機質な暴力。
俺のいるこの場所は、比較的安全だとわかっている。だが、その「安全」という概念も今や薄氷の上のものだ。何かひとつでも狂えば、即座にこの肉体ごと吹き飛ぶ。それを考える暇もなく、俺はただ砲弾の雨を耐えながら、息を潜める。
手元にあるのは、泥にまみれて使い物にならない小銃と、一本のスコップ。これが俺の生死を分ける道具。間もなく、砲撃の後を追うように敵が雪崩れ込んでくる。血に飢えた狼の群れのように、俺たちを仕留めるために。
生き残れるのか――また、この地獄を抜けられるのか。
過去の俺は、こんな戦場をどこか遠い世界の出来事のように見ていた。無知ゆえに戦争を軽んじ、己の選択を誇りすらしていた。
――愚かだった。
その代償を、今ここで払い続けている。
それは、特に変わらない日常の中で起きた、明らかな異常だった。
昼寝でもしていたかのような感覚で、気がつけば光に包まれていた。
目を開けると、そこには見知らぬ風景。そして、周囲には俺と同じように呆然としている日本人らしき奴ら。
訳がわからないまま、前を向けば──神と名乗るヤツがいた。
「異世界の魔物との戦争に勝つため、お前たちを一時的に召喚した」
「今のお前たちは弱すぎるので、訓練を施す」
「訓練を終えたら、身につけた力で魔物と戦ってもらう」
なんかすごいことをサラッと言われた。
いやいやいや、異世界召喚って普通、もっとワクワクするやつじゃないのか!? 王女様に迎えられて、いきなり勇者認定とかさぁ!
なのに、いきなり軍事訓練!?
周りの人たちは、ざわざわと戸惑いの声を上げている。
「ちょっと待て、どういうことだよ!?」「元の世界に帰れるのか!?」「訓練って、どんなのをやるんですか?」
質問攻めにされても、神は淡々とした態度を崩さない。
「帰還については、戦争が終結した際に考慮します。訓練内容については、各自が選択する訓練場によって異なります」
つまり、帰れる保証はないってことか? いや、まあどうせなら、しっかりやるしかねえか!
しかも、どうやら訓練の世界は難易度を選べるらしい。
……なるほど。
最も難易度の高い世界で訓練を積めば、俺は最強になれるのでは!?
俺は閃いた。チートな力を手に入れるなら、ぬるい環境では意味がない。ここは、最も厳しい世界を選ぶしかないだろう。
「さて、それではどのような世界に行きたいですか? ちなみに今は普通くらいの難易度を選ぶ人が多いですよ」
ふっ、これは俺TUEEEEができてしまうかもしれない。最高じゃん。
「神様、それでは私が考える最高難易度の世界。世界大戦の戦場、特に塹壕戦に送っていただきたいです!」
神の顔が「うわぁ……こいつマジか……」みたいな表情になった。え? なんでそんな反応?
「なんか色々言っても意味がなさそうなのですけど、一応確認しますね。あそこは本物の地獄がこの世に顕現したようなもの、いや、地獄すらも生ぬるいかもしれません。本当に、よろしいですね? 神といえど、あなたの精神までは守れませんよ?」
あれ、そんなにヤバいの!?
でもまあ、俺は強さに貪欲だからな! 普通の異世界じゃ物足りないんだよ!
周りを見れば、他の召喚者たちはおとなしく「普通」や「簡単」な難易度の世界を選んでいる。だが、俺は違う。ぬるま湯で過ごすつもりはない。
「お前、本当に後悔しませんね?」
あれ、そんなにヤバいの!?
でもまあ、俺は強さに貪欲だからな! 普通の異世界じゃ物足りないんだよこれがなぁ!まぁ、他の軟弱なやつらとは違うんだなぁこれがぁ?
「問題ありません! 最強になります!」
かくして、俺は地獄に飛び込んだ。