トリニティの12使徒 ifルート   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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非常大権

「ヒナ、ミサイルの発射元を抑えろ」

 

「了解、5分で終わらせるわ」

 

 可愛らしいジャンプモーションで垂直にカッ飛んでいくヒナ。

 それを尻目にマコトは万魔殿の専用回線(イントラネット)にアクセスする。現在、アリウスのECM(ジャミング)によって大半の無線通信は使い物にならない。

 だが、この回線はミレニアムの総領主を務める調月リオ謹製で、フル稼働したティーポットやメンバーが全員揃ったヴェリタスによるECMを想定している。アリウス程度のジャミングでは話にならない。

 

「私だ。会場がアリウスに襲撃され、イブキが負傷した。よって、我々ゲヘナ学園は全存在をかけて報復する」

 

 疑問の声は無い。普段の愉快(コミカル)な振る舞いで忘れがちだが、彼女たちの所属は「自由と混沌」を標榜し、暴力が蔓延るゲヘナ学園。

 

 ナメられたらボコる、が骨の髄まで染みついたエリート蛮族なのだ。

 

「チアキは連邦生徒会を、イロハは戦車部隊を動かしてカタコンベの出口を抑えろ。サツキは全ゲヘナ生に非常大権の発令を通達。情報部を動かして構わん」

 

「元宮、了解」「棗、了解」「京極、了解」

 

「以後、適切と判断した全ての行動を事後承認とする。火器の使用制限は解除、『遺産』の使用も解禁する。邪魔者は撃滅しろ」

 

 ヒナが12使徒に合流してから指示を出し終えるまで僅か2分足らず。マコト本人のダチョウパワーは0.3程度しかなく、平均的なゲヘナ生と大差ないが、お紅茶パワーはナギサやカヤを遥かに凌ぐ。

 その数値、脅威のお紅茶25杯分である。(ダチョウ調べ、ナギサ5人分に相当)

 

 指示を出し終えたマコトが上を見るとヒナと12使徒が連携してミサイルの発射元を狙撃している最中だった。なんか、ヘイローが7色に光り輝いていたし、極太のレーザーを放っていた気がするが、──見なかったことにする。

 

「すまんが、ウチの行政官を掘り出してくれ」

 

 マコトは頭から地面に突き刺さっている(犬神家している)アコを指差しながら、壁際で陣形を組み直しているトリニティの正義実現委員会に声をかける。

 

「マコト議長!ご無事で何よりです」

 

 副委員長の羽川ハスミが気づく。どうやら、ナギサとイブキを連れて後退した剣先ツルギに代わり、指揮をしているようだ。

 

「私が桐藤ナギサと握手したのは見ていただろう。ここから先、私が総指揮を取るが──構わんな?」

 

 無論、ハスミは条約の内容は全て把握している。マコトの主張に瑕疵は無い。ゲヘナ生であるマコトに指図されるのは気に食わないが、指揮命令系統が明確であるメリットは大きい。

 

「分かりました。指揮権を委譲します」

 

「話が分かるな、キキキッ!」

 

 大きく溜息をつくハスミの肩をわざとらしく叩くマコト。そこへ、12使徒と共にヒナが舞い降りてきた。サクラコをはじめとした一部メンバーを除くシスターフッドの面々も合流する。いつのまにか、瓦礫から這い出してきたレッドショルダーも並んでいた。

 

「戦力はこれで全てか?」

 

「はい。先生の護衛とスクワッドの説得、ナギサ様とイブキちゃんの護衛に割いた人員以外は揃っています」

 

 ハスミが答える。加えて、シスターフッドから「複製(ミメシス)」の情報が共有された。更に、ヒナからビームの余波で古聖堂周辺が更地になったことが伝えられる。それを聞いた12使徒以外のメンバーはドン引きした。どうしてこの短時間で会場周辺が更地になるんだ。おかしいだろ。

 

「さて、そろそろ到着するはずだが──」

 

 マコトが上を向くと穴の淵から空へ飛び出す一台の車が見えた。壁に着地し、そのまま壁面を走りながら穴を降りてくる。トリニティの生徒が銃口を向けるが、ヒナが手で制す。車はマコトの前で停車し、開いた運転席から小柄な生徒が降りてきた。

 

「ゲヘナ給食部部長、愛清フウカ。現着しました」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「非常大権の行使ィ!?正気ですか!?」

 

 七神リンの失言から間を置かず、調印式の会場が襲撃された。慌てて、元SRT隊長の七度ユキノを派遣しようしたら執務室の前にゲヘナ学園から元宮チアキが立っていた。この時点でカヤの胃は爆発する寸前だった。

 失言に対する追求だろうか。調印式の会場が襲撃された件についてかもしれない。もはや、何を言われてもおかしくない。カヤは冷や汗を流しながらチアキを執務室へ招き入れ、覚悟を決めて要件を尋ねる。

 

 返ってきた言葉は非常大権を行使した、という事後報告だった。カヤはキレた。

 

「室長、落ち着いてください。非常大権とは一体?」

 

 次長である崎森はカヤを落ち着かせながら尋ねる。カヤはテーブルに置かれた紅茶を一気飲みし、自分へ言い聞かせるように説明する。

 

「……非常大権とは、連邦生徒会から『大学園自治地区』と認定された中央3校、地方3校の生徒会長である『総領主』が在学中に一度だけ行使可能な権利のことです。内容は『本校に学籍を持つ生徒への絶対命令権』。もし、正当な理由無く背けば、退学処分が下されます」

 

 「要は強制招集ですね」

 

 カヤの説明をチアキがビジネス・スマイルを浮かべながら要約する。

 

 「……過去に前例は?」

 

 「……あの『雷帝』すら最後まで使用を躊躇った、と言えば伝わりますか?」

 

 カヤは体裁もクソもなく天を仰いでいる。この数時間で起きた全てのイレギュラーが吹っ飛ぶほどのイレギュラーだ。無理もない。チアキは変わらず笑みを浮かべているが、目が笑っていない。ガンギマリだ。当然だろう、本校生徒を総動員しなければならないほどの事態が起きているのだから。

 

「我々としても不本意なのですが、どうも連邦生徒会は書類仕事が忙しいようですので」

 

 ──お前らが役に立たないからこうなってるんだぞ。

 

「連邦生徒会長が不在でSRTが閉校している事実もありますし」

 

 ──戦力も決断力も無い、ただ存在するだけの組織。

 

「幸い、有志の生徒がクロノスを通じて戦力を集めているようなので解決は可能でしょう」

 

 ──他自治区の生徒も救援に動いているのに国防を担う防衛室は動かないつもりか?

 

「突然、私が訪れたせいで対応が遅れている側面もあるかと思います」

 

 ──勿論、私と紅茶を飲みながら話が出来る程度には対応済みなんだよな?

 

「私も戦闘力には自信がありませんが、可能なら参戦したいと思っています」

 

 ──お前も早く戦場に向かえ。

 

「そうですね。丁度、現場付近に元SRTの生徒たちがいるので彼女たちを護衛として付けることにします」

 

 ──SRTの部隊はとっくに向かわせてるし、私も今すぐ現地に向かうから初撃を防げなかったことは多めに見て欲しい。

 

「ええ、向かいましょうか」

 

 恨めしそうなカヤの視線をチアキはいつもの笑顔で躱した。

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