私文鬼滅爾後違端(おにたいじのそのごのはなし)~ 花舞流風 作:有城 沙生
祝言はやらない。
と、頑なに拒否していた禰豆子ちゃんと風柱だったけれど、いつの間にか──
──と、言っても出処は鴉と雀なんだけど──輝利哉さんの耳に入り、
当然、宇髄さんに届き、
奥方三人衆の熱い説得によって渋々風柱が首を縦に振ったのは、オレが1年後なんて呑気な事を宣った日から数えて七日後の事だった。
それでも、風柱の妥協点としては、固めの盃を交わした後、宴会をするって話で。
それでも、風柱の家で、禰豆子ちゃんとアオイちゃんで、おもてなし出来る程度で、って予定だったみたいだけど。
そこはそれ、宇髄さんが
あれよあれよと瞬く間に話が大きくなって、気づけば輝利哉さんのお宅で大宴会の様相になっていたのは、奥方三人衆が風柱を頷かせてから、実に二日目のことだった。
「俺が知ってるのは冨岡が来るってとこまでだ」
と、風柱がボヤいていたから、当の本人にも全容は見えていない。
一方の禰豆子ちゃんも
「アナタは俎板の上の鯉でいなさい」
と雛鶴さんに言われたとかで笑っていた。
「だって絶対悪いようにはならないもの。後は全力で楽しむだけだわ」
と、腹を括ったらしく観念して笑ってる。
ね……禰豆子ちゃん、大丈夫、君は強い人だ。
さて、宇髄さん一家が舵取りしてくれている一方、あれやこれやと嬉しそうに飛び回っているのは炭治郎だった。
お兄ちゃんは、妹の花嫁姿は嬉しくって堪らないらしい。
けど。
一年待てなくてごめんね、と言われた。
炭治郎はオレのことを、一応応援してくれていたからだと思う。
でもね。
でもね。不死川さんが祝言を嫌がった理由を聞いたんだ。
「あのね。角隠しが嫌なんだって。禰豆子に角は無いって」
それで、炭治郎は風柱を許したらしい。
────なんだよ、それ!
オレは、オレなら禰豆子ちゃんはどんな着物でも可愛いに決まってるから、金襴緞子だろうが、白無垢だろうが、洋装だってさせてあげたいと思っていたけど。
なんか悔しいな。
なんか敵わない。
…………
うきっー。
こうなったら盛り上げてやるさっ。
「伊之助! やるぞっ!」
伊之助も巻き込んでなっ!
──────
結局、祝言という名の、慰労やら慰霊やらを兼ねた宴会に、
「ならまだ桜も残っていることだし花見も兼ねよう」
と言い出したのはまさかの愈史郎さんだった。
「何人来るか定かでは無いし、来る者拒まずなら席が作れない。花見にしておけば心置きなく人の出入りができる」
「花見は昼間だし、愈史郎さんは参加しないの?」
「ん? 祝言ならば、三日三晩騒ぐのだろう? ならば夜桜も乙というものだ」
一日では終わらせない、ということですね、と青くなっていたら、
「三日三晩もやってたまるか!」
と、主賓が吼えたので、一昼夜で話が付いた時は流石に胸を撫で下ろしたよ。
さてここまでで、オレの自爆から二十日が経過した訳だが、三日後には宴会が決行されることとなった。
産屋敷家には、酒やら、食料やら、酒やらが運び込まれている。
伊之助が摘み食いついでに酒を吞んで、
酔っぱらった勢いそのままで、
緋毛氈を体に巻き付けて駆け回って、
なおちゃん、きよちゃん、すみちゃんの制止を振り切って、
あわや禰豆子ちゃんの花嫁衣装に
須磨さんに叫ばれ、
雛鶴さんに
まきをさんに蹴り飛ばされ、
外に飛ばされた所を、
宇髄さんにぶっ飛ばされて、
風柱にどつかれて、
とうとう盛大に
炭治郎に懇々と説教を食らい────
とうとう、アオイちゃんに口を利いて貰えなくなった。
伊之助が恐る恐る禰豆子ちゃんに謝りに行ったら、
「お酒はまだ早いですよ」
と窘められ、アオイちゃんとのことを仲裁して貰って、ヲイヲイ泣いていたのは、良い思い出になると思う。
余興の準備は恙無く行われている。
宇髄さんと、冨岡さんと、風柱と、炭治郎は剣舞を披露するらしくて稽古に余念がない。
というか、風柱、主賓なのに余興に参加するのですね。
「まぁ、俺らは所詮、出汁だからな。いいんじゃねぇか。物事には口実は必要だ」
と。
こんな怖い顔をした人でも、口実なんているんだなあ、なんて思っていたら、
「丁度いいや」
と連れ出された。
どんどんと人がいない所に連れていかれて、そういや最近ばたばたしてて忘れてたけど、オレこの人に結構失礼なことを言ったりしたりしてたよなぁ……
はっ! もしや人の見ていないところで、ぼこぼこのぐちゃぐちゃのがちがちにされるのか!
あれ? がちがち? 固まったわ、良かった良かった。
「……い、おいっ。いつまで青くなったり赤くなったりしてんだ。そろそろ話してもいいか? 大将」
そういやこの人、オレの事大将って呼ぶのな、なんでだろ?
実はオレに憧れてるのかな?
ん、わかるよ。
さすが禰豆子ちゃんのお眼鏡に掛っただけのある傑物だよ。
思う存分崇め奉るがいい!
ってこれじゃ伊之助じゃんか。
「……いいか?」
やん、睨まないで怖いから。
話が終わった後、正直オレは震えたけれど、不死川さんの観念に即すことにした。
「で、なんで大将なんです?」
と聞くと、不死川さんはいつの間にかオレの肩にいたチュン太郎を指さした。
「だってオメエ、雀の大将だろ?」
うきー!
──────
式当日は真っ青な空と、白い桜が視界を二分するような奇麗な日になった。
綿帽子姿の禰豆子ちゃんは本当に奇麗で。
紋付の不死川さんは……以下自粛。
──
「……キレイ、すてき、ねえ」
と、不思議な髪色の少女がキラキラとした目で呟く。
と、優しい不思議な瞳をした少年が、そっと少女の頭を撫でる。
──
派手なのと堅苦しいのは違う! と、今日の式次第で唯一祝言の儀らしい催しは輝利哉さんに任された。
いや、ここは年長者がやってあげなよ!
──
「まあ、うまくやれるのかしら」
と、白い髪の女性がそわそわと動揺する。
「大丈夫ですよ」
と、心地よい声が長閑やかに応える。
「がんばれー」
「まけんなー」
と、白い髪の
──
ご馳走はね、もう凄かったよ。
献立はアオイちゃんを筆頭に、蝶屋敷三人娘や鱗滝さんが腕を振るっていて。
伊之助が物凄い勢いで吸い込んで、アオイちゃんに殴られるまでの鮮やかな様子は、まるで余興の一つのようだった。
炭治郎の前には何故か他の人とは違う献立が並んでいて……並んで……個性的だった。
──
「アオイは腕を上げたようですね」
と、長い髪の女性が篤実に微笑む。
「カナヲはもう少し頑張らなきゃですね」
と、纒髪の女性が温厚に微笑む。
──
冨岡さんが中空を見つめていて薄く笑った気がしたので、
「何かいいものでも見つけたんですか?」
て聞いたら「蝶がいた」って。
まあ、春ですからね珍しくもないとは思うんですけど?
けど、満足そうな冨岡さんは、幸せな顔をして剣舞を舞った。
宇髄さんの剣舞……剣舞だよね、まあ刀だもの。
片腕に……何あれ! 手鉤が付いてる!
華麗な舞姿と奥方三人衆との呼吸も言わずもがなだ。
流石、祭りの神だ!
──
「ん。流石だ。美しい」
と、外套の青年が讃称する。
「だが、相変わらずのようだな」
と、表情を変えずに高笑いした。
──
次は炭治郎だ。
でも舞とかって踊れるのか?
まあ、踊りっていうか呼吸の型だしな、宇髄さんのは四人で舞えるように昇華されてたみたいだけど。
カナヲちゃんと寄り添うように舞っていて、いいな、と思った。
よし! オレも頑張るぞ!
──
長い髪の少年は、ただじぃーっと、その舞に見入っていた。
額に痣のある青年も、また同様に見入っていた。
──
トリは不死川さんだ。
一応主賓だからね。
まだよく知らない時に見たときは、ただただ怖くて痛いだけの剣捌きに感じたんだけど。
何だろう、人となりを垣間見たせいかな、優しくなった気がするよ。
──
盲いた目で滂沱の涙を流す青年は、
顔に大きな傷のある少年と共に、
誰よりも実弥の変動を感じ取っていた。
──
んで、これからなんだけど。
炭治郎たちの剣舞は、行く行くは奉納舞になるってことで。
まあ、今日はまだ略式化されてて、本番となれば、もっと準備があるらしいけど。
何度も繰り返してやるような事ではなくて。
で、まだ半日しかたっていない訳ですよ。
恐らく、残りは丸一日はあるわけですよ。
まあ、弾いたよ。
三味線に琴。
宇髄三人衆に合わせたり、伊之助と剣舞ごっこやったり。
蝶屋敷三人娘の爽やかな合唱でやっと休めたかと思ったら、興奮冷めやらぬ伊之助との即興乱舞。
でもね。
禰豆子ちゃんの笑顔は、何よりもオレの力になるんだ、とも感じたんだ。