アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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王国貴族 vs クズ男

◇ ───冒険者ギルド ギルド長室

 

 

 「するってぇと、なにかッ!? あのまま大人しくしておいて、黙ってぶっ殺されてろって言いてぇのか!? あぁッ!!?」

 

 「そ、そういうわけでは……」

 

 

 クズ男の狂也は、先ほどの決闘の件で話があると言われ、ギルド長室に呼び出されていた。

 あの決闘があまりにもやりすぎだったと抗議をされると、クズ男は正当防衛を主張した。

 

 実際には、たとえ黙って抵抗しなかったとしても殺されることはないほど実力差が開いていたのだが……。

 

 本来であればクズ男といえども、地位のある人物の部屋に通されれば、もう少し大人しいものだ。

 だが、この世界でプライドが肥大化していることに加え、目の前の人物のように軽く引っぱたくだけで、すぐ死んでしまうような存在に気を遣うことは難しくなっていた。

 

 例えるなら、ネズミは簡単に研究材料にできるが、大型犬に対しては多少の敬意を払うようなものだろうか。

 

 

 「わ、分かった……。今回は相手の方に落ち度があったという事で……」

 

 「けっ、初めから、そう言えや! ってか、こんなとこに、わざわざ呼び出してんじゃねぇよ!」

 

 

 このギルド長も元はそれなりの冒険者なのだが、腐ってもレベル100の戦士職の放つ『威圧』は凄まじいものだった。

 それを無自覚に放つものだから、たちが悪い。

 

 その『威圧』をもろに受けたギルド長は、もはや正常な判断ができなくなっていた。

 

 

               ■

 

 

 ギルド長との話し合いを無事に(?)終わらせてきたクズ男は、どこか適当な宿はないかと観光ついでにぶらぶらと探し歩いていた。

 

 

「ん?」

 

 

 ちょうど目の前を、街中にも関わらず高速で移動する馬車が横切った。

 だが、その先にいる女性が引かれそうになっていた。

 

 抜群の動体視力で、その女性がかなりの美少女だと分かった。

 

 

 「きゃあ!?」

 

 「危ねぇ!」

 

 

 クズ男は、言葉とは裏腹に余裕の動きで少女を助けた。

 そして、お姫様抱っこしている彼女の顔を見ながら優しく微笑んだ。

 

 

 「大丈夫か? 怪我はなかったかい?」

 

 「あ、ありがとうございます……」

 

 

 危ないところを助けられ、お姫様抱っこまでされている少女は自分を抱えている男の整った顔を見て頬を赤らめた。

 

 ユグドラシルというゲームにおいて人間種のアバターを作成する際、意識して不細工に作らない限りは美男美女となる仕様であった。

 

 そのため、特にアバターの外見にはこだわっていなかったにも関わらず、現在のクズ男は、この世界の基準でもかなりのレベルの美形であった。

 普段は、その軽薄な内面がにじみ出ているのが玉に瑕であるのだが……。

 

 恋する乙女の目をしている少女を見て、クズ男は決闘で(たかぶ)った体を癒すための()()が見つかったことに大層喜んでいた。

 

   ……。

 

 急停止した豪華な馬車から、太った中年の貴族とその配下である騎士が降りてきた。

 

 貴族の方は、いかにも趣味の悪そうな悪徳貴族然とした風貌の中年男だった。

 その肥え太った肉体は、見ようによっては貫禄がある………と言えなくもないのかもしれない。

 騎士の方も、騎士という割には鍛えられているように見えない。

 おそらく、下級貴族の次男三男あたりが箔付けのために騎士を名乗っているだけと思われた。

 

 

 「なにごとか!? 娘、無礼だぞ!!」

 

 

 弱そうな騎士は、轢かれそうになった少女をいたわるどころか、無礼打ちしようと剣を抜きだした。

 それを見て怯えた彼女は、クズ男の方へ体を引き寄せた。

 

 

「ひっ……、も、申し訳ありません!!」

 

「謝って済むわけなかろうが!!」

 

「まあ、待つが良いぞ」

 

 

 太った貴族が騎士を止め、下卑た笑みを浮かべて少女を観察した。

 無遠慮に観察された少女は、あまりの醜悪さに鳥肌が立っていた。

 

 

 「ほっほぉ。これは、なかなかの美貌よな。そこな娘、我が馬車に乗るがよいぞ。吾輩の館へと招待して進ぜよう」

 

 「そんな……。い、いや……」

 

 

 下卑た目で見てくるデブ貴族に、当然ながら少女は露骨に嫌そうにする。

 このデブ貴族はかなり女遊びが激しく、気に入った女性を様々な名目で連れ去ることで悪名高かったからだ。

 

 名指しされた少女は、縋るような目でクズ男の方を見た。

 

 クズ男にしても、こんなデブ貴族ごときに自分が犯そうと決めていた美少女を奪われたくはなかった。

 

 

 「ちょっと待てよ。このお嬢さんをどこに連れて行こうってんだ?」

 

 「下がれ下郎! このお方をどなたと心得る! 恐れ多くも、タルンダニク子爵様であらせられるぞ! 頭が高い! 控えおろう!!」

 

 

 弱そうな騎士からの称賛を込めた他者紹介に、デブ貴族は「フフン!」とドヤ顔をした。

 

 

 「はあ、弛んだ肉子爵だと?」

 

 「何やらニュアンス的におかしい気がしたが、まあ良い。吾輩は寛大であるぞよ。

 それと、吾輩の気に入った娘を、吾輩のた~め~に、助けてくれたことは大義であった。ほめて遣わす。もう下がってよいぞよ」

 

 

 まるで犬でも払うかのような仕草で手を振り、クズ男をあざ笑った。

 

 一方のクズ男は、この少女を諦めるべきか迷っていた。

 

 

 「なんだ、貴様? まさか、子爵様のご命令に逆らうというわけではあるまいな? 大人しく、その娘から手をはなせ! 下賤な冒険者ごときが!」

 

 

 貧弱騎士が高圧的な態度で命令する。

 その横で、デブ貴族がニヤニヤと眺めていた。自分より強いであろう冒険者が高貴な自分に対して何もできないのが、おかしくて堪らないようだった。

 

 

 「……いや、すまねぇ。貴族様と知らずに、とんだ無礼を働いちまってよ」

 

 「ぶひっひっひっ! そなたは、なかなか利口な男のようだのぉ。きっと長生きできるぞよ!」

 

 

 デブ貴族は、クズ男に見下した目を向けながら、その手から強引に少女を引き放すと、そのまま自らの手で馬車に乗せた。

 少女の方も王国の民であるが故に、貴族の命令には平民であろうクズ男が逆らえるはずもない事は十分に理解していた。せめて、自分を助けてくれた白馬の王子様を不幸にしたくないという思いから、彼女は大人しく馬車に乗せられて行った。

 

 結局クズ男は、今夜の獲物である美少女を目の前で連れ去られてしまった。

 

 

 「………」

 

 

 去っていく馬車を無言で眺めるクズ男。

 ここで暴れれば、さすがに冒険者をリストラされるのは理解していたため従順な態度をとっていた。

 

 

 (この狂也様の獲物を横取りしやがった……。許さねぇッ! 代わりにテメェからは、もっと大きいもんを頂戴してやる……ッ!)

 

 

 なんでもないかのように装っていたが、その心はどす黒い感情に満たされていた。

 

 

              ■

 

 

◇ ───タルンダニク子爵邸

 

 

 時刻は夜。

 

 布を顔に巻き付けた黒ずくめの男が、その館を眺めていた。

 

 

「あの豚野郎、絶対にぶっ殺す……ッ。 あっちからケンカを売ってきたんだ。俺様は悪くねェ……。まあ、とばっちりで大勢殺しちまうけど、神様もお許しになるさ」

 

 

 そう、クズ男の狂也である。あれから彼は、こっそりと馬車を追跡し、この館へとたどり着いていた。

 正体がばれないように顔を隠し、服装も変え、さらにデブ貴族を痛めつけるための道具もそろえていた。

 

 ちなみに竜王国で購入した『免罪符』は 一般市民が対象であって貴族や兵士は対象外である。クズ男も当然知っているが、自分が被害者だという認識でいるため天罰が下ることはないと都合よく確信していた。

 

  ……。

 

 クズ男は、怪しんでくださいと言わんばかりの恰好で、堂々と門に近付いていった。

 

 

「おい! 貴様、何者だ!? 名を名乗れ!」

 

 

 二人の門番が槍を突き付けた。

 

 それに構うことなく、クズ男は無言で突き付けられた槍を自分の方へ引き寄せた。

 

 

 「「うわッ……!?」」

 

 

 そのまま体の横を通過させて、左右の手で門番二人の頭を体から切り離した。

 

 

  ブシャァァアッ!

 

 

 門の入り口が血まみれになるが、何事もなかったかのように正々堂々と乗り込んでいく。

 

 

 「何者だ、貴様!? そこで止まれッ!!」

 「曲者か!?」

 

 

 騒ぎを聞きつけ、次々と出てきた兵士が口々に誰何の声をあげるが、まるで聞こえていないかのようにズンズン突き進んだ。

 

 

 「かかれぇッ!!」

 「「「うおおおおッ!!」」」

 

 

 兵士たちが槍を次々と突き付けていくが、傷を負う様子をみせない。

 

 それどころか、突き付けられて槍をつかんで兵士ごと振り回し、他の兵士を戦闘不能にさせていく。

 

 遠くにいる兵士には、奪った槍を投げて仕留めていった。

 

 ほとんど何の障害もなく館の扉の前に到着し、大きな扉を思い切り蹴り飛ばした。

 

 

  ドガッシャアアンッ!!

 

 

 扉の後ろには異変に駆け付けた兵士の大半がいたのだが、圧倒的な力で蹴り飛ばされた大きな扉を受け止めることは到底かなわず、彼らの肉体はあっさりと潰されてしまった。

 

 そんな死屍累々となっている館の中へ、簡単に侵入を果たした。

 

 

 「きゃあ!?」

 「だれかぁ!」

 

 

 怪しげな男の姿を見たメイドたちが逃げ惑う。

 

 

 (これが漫画だと、バカで偉そうな悪党ってのは上にいることが多いよな?)

 

 

 元の世界の創作物を参考に、クズ男は階段を登り最上階を目指していった。

 

 

 「と、止まれ! 止まれぇぇ!!」

 

 「………」

 

 

 兵士たちがブルブル手を震わせながら逃げ場のない廊下で槍を突き付けて、精いっぱいの威嚇を行った。

 

 それに対してクズ男は、先ほどのロビーで人の手では到底持つ事ができないほどの巨大な裸婦像を持ちながら、堂々と廊下を進んでいた。

 そんな重さを感じさせることなく前を進んでいく様は、兵士たちに得体の知れない恐怖を抱かせた。

 

 兵士たちが廊下にまとまっているのをみたクズ男は、巨大裸婦像を水平にして片手で持ち、思いっきり投げる動作を行った。

 

 

 「ま、待て! やめッ……!?」

 

 

  ドバシャアアアアッ!!

 

 

 廊下にいた兵士たちが、後続まで巻き添えにして一瞬でミンチになってしまった。

 

 

 「ひぃぃいぃぃ!!」

 

 

 兵士たちの後ろに隠れていた貧弱なボンボン騎士が慌てて主人の部屋に逃げ込もうとするが、投石により頭を撃ち抜かれた。

 

 

 数多の屍の上を歩き、ようやく本命である館の主の部屋へと辿り着いた。

 

 

 「ぶ、ぶひぃいいいッ!?」

 

 

 デブ貴族がベッドの下に潜り込んで隠れようとしていたようだが、残念ながら彼の体型では無理があったようで、大きな尻がはみ出ていた。

 

 

 「よお、お礼参りに来てやったぜぇ?」

 

 

 自身の顔をさらけ出したクズ男は、デブ貴族を引きずり出した。

 

 

 「き、貴様は、あの時の下賤な冒険者かあッ!?」

 

 「おお! お貴族様に覚えてもらえるたぁ光栄だぁ!」

 

 「ここを襲撃したのは金目当てか!? い、いくらほしい!? 好きなだけ出すから吾輩を解放しろおッ! そしたら見逃してやらんこともないぞよ!?」

 

 「金なんて、これからいくらでも物色してやるよ。それよか、アンタを痛めつけたくてたまらなっくってよぉッ!!」

 

 「む、むぐううう!?」

 

 

 布でデブ貴族の口を縛り、話せないようにした。

 そして、ベッドに放り投げ、持参した縄で両手足を拘束した。

 

 

「そんじゃあ、テメェの大事にしてる貴重品を物色してきてやるよ。また後で、ゆっくりと話そうな?」

 

「ふぐぅぅうぅぅうッ!!」

 

 

              ■

 

 「むぐっ?」

 

 「「「「「………」」」」」

 

 

  金目の物を物色しにクズ男が部屋から出ていき、しばらくして数名の女たちが入室してきた。

 彼女たちは、縄で無様に縛られているデブ貴族を無言で眺めていた。

 

  デブ貴族は、自分が無理やり連れ去り手籠めにして可愛がっている女たちだと気づいた。

 

  女たちは無表情に、デブ貴族の口元の布を取り外した。

 

 

 「ぷはッ! お前たち、よくぞ参った! さあ、早くこの縄もほどけ!! 急いでここを離れるぞ!! あの狼藉者に懸賞金をかけ、目にもの言わせてくれるわ!!」

 

 「「「「「………」」」」」

 

 

 女たちはデブ貴族の声が聞こえていないかのように無視し、クズ男が持ってきた道具袋から針やナイフを取り出していく。

 それらの凶器を手に取りながら、デブ貴族へと近づいた。

 

 

 「ま、待て! 何をする気だ!? 近寄るでない!!」

 

 「「「「「………」」」」」

 

 

 女たちは、もはや何もできないデブ貴族の命令に耳を貸す様子を見せなかった。

 

 その尋常ではない様子を見て、さすがに不味いと悟ったデブ貴族は必死で彼女たちの説得にかかった。

 

 

 「な なあ。今まで可愛がってやったではないか? いろいろ不幸な過去はあったが……」

 

 「……結婚式だったの」

 

 「……は?」

 

 「愛する彼との結婚式だったの。その日に貴方様に連れ去らわれた……」

 

 「私も……。無理やり犯されて……、お嫁に行けなくなっちゃった」

 

 「あげくのはてに、ここで働かされて……」

 

 「たしか、仕事を与えてやる吾輩に感謝するがよい、だったかしらね」

 

 「ま、まて! 吾輩も反省している! 心を入れ替えるから! 頼むから許し……、むぐッ!?」

 

 

 デブ貴族は再び口を布で縛られ、話すことができなくなった。

 

 

 「「「「「………」」」」」

 

 「んぐぅ!! むぐぅぅうぅぅうううッ!!!」

 

 

             ■

 

 

◇ ───とある酒場

 

 

「なあ、聞いたか?」

 

「ああ、タルンダニク子爵のことだろ?」

 

「屋敷に堂々と暴漢が押し入ってきて、金目の物を奪っていったんだってな」

 

「あの貴族、くそったれな野郎だったからな! ざまあみろだ!」

 

「それじゃあ、その貴族の末路は知ってるか?」

 

「いや、そこまでは知らねぇな。どうなったんだ?」

 

「全裸でベッドに括り付けられて、体中のいたるところに針が刺されていたらしい」

 

「ってことは、犯人の動機は怨恨ってことかよ? どれだけ恨まれてたんだか、あのデブ貴族は……」

 

「それだけじゃない……。ソイツの一物が根元から切り取られていたんだってよ」

 

「うへぇ……! そこまでされたのかよ!?」

 

「なんにせよ、人様から恨みは買っちゃいけねぇってことだな」

 

「違えねぇや……」

 

 

 

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