アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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偽りの聖女マリアンヌ

◇ ────城塞都市エ・ランテル 共同墓地

 

 

 王都での悪魔騒動事件から一か月後───、

 

 城塞都市エ・ランテルにある共同墓地の一角に、一つの小さな墓が新しく作られ、花束が供えられていた。

 

 今は亡きミスリル級冒険者チーム『クラルグラ』。

 イグヴァルジがリーダーを務め、エ・ランテルに長らく貢献してきた冒険者たちの墓である。

 

 邪神アインズの陰謀の一つを暴いた功績を称え、彼らの生前の悲願であったオリハルコン級への昇格が決定した。

 彼らの遺体は、邪神の手によって失われてしまったが、彼らのための無人墓地が作られていた。

 

 ──その墓には、彼らの名が刻まれたオリハルコンのプレートが埋葬されている。

 

 

 

            ■

 

 

 

◇ ────王都リ・エスティーゼ 王城ロ・レンテ

 

 

 「俺がバカだったぁああッ……!! う”ああああぁああああぁッ!!!」

 

 「ちょっとぉ、随分と謙虚になっちゃって、どうしちゃったの?」

 

 

 豪華な部屋のベッドで目を覚ましたクズ男・狂也は、あの陰鬱な蟲の巣穴から明るく快適な空間へと景色が移り変わったことに戸惑い、自分を見つめている美しい女の姿に気が付いた。

 

 

 「うああぁ……あ………? 奈緒美……? 奈緒美かッ!?」

 

 「おひさ! きょ・う・や! それと、今のアタシは、奈緒美じゃなくってマリアンヌだから、そう呼んでくんない?」

 

 「う………、うわああああッ!! 奈緒美ぃッ!! 奈緒美ぃいいいッ!!!」

 

 

 あの恐ろしい墳墓から救出されたクズ男は、奈緒美と呼ばれた女の腰にしがみつき、子供のように泣きじゃくった。

 

 

 

            ■

 

 

 クズ男は、奈緒美が使用人に運ばせた料理に、必死に食いついていた。

 

 ちなみに、今の彼は幻覚魔法によって、他の人間からは姿が見えないようにされている。

 

 

 「ハァッハァッ……、ゴクゴク…………、ぶはぁッ!」

 

 「なんか……、ヤバい目に合ってたっぽいね~。だいじょぶ?」

 

 「……ああ、助かったぜ、奈緒美ぃ。まさか、オメェもこっちに飛ばされてたなんてな」

 

 「うん、乙女ゲームやろうとしたら、間違って、とっくに飽きちゃったゲームにインしちゃってさぁ。で、気づいたら、こんな世界にいたってわけ」

 

 「成程な。まぁ、俺も似たような理由だがよ」

 

 

 プレイヤーである奈緒美は、この王国に来た後、バハルス帝国との戦争で傷ついた王国兵たちを《集団大治癒(マス・ヒール)》で回復させた事で、その美しいアバターの外見もあって聖女ともてはやされるようになった。

 

 現在は、この国の第一王子バルブロに取り入り、自分のための豪華な私室まで用意され、思いっきり贅沢を楽しんでいた。

 ちょっと機嫌を良くしてあげるだけで、簡単に何でも買ってくれるのだから、バルブロというチョロいゴリラ男には感謝していた。

 

 

 「ところでよ、どうやって俺様を助け出せたんだ? 何らかのスキルか?」

 

 「それはねぇ……、じゃじゃんッ! 《流れ星の指輪(シューティングスター)》! これを使ったの! 便利すぎじゃない?」

 

 

 奈緒美は、課金アイテムの流れ星の指輪(シューティングスター)を使って超位魔法《星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》を使ったようだ。

 

 

 「へぇ、それで俺様を転移してくれたってわけか」

 

 「ん~。転移ってよりは、肉体の再構築っぽかったけど……。ま、どうでもいいか」

 

 「それって確か、あまりにも願いが大きすぎるとレベルが下がっちまうんだろ? 大丈夫だったのかよ?」

 

 

 流れ星の指輪(シューティングスター)は、本来であればレベルが下がるはずの超位魔法を、その代償なしに使用できるというアイテムだ。

 だが、そんな指輪であっても、大きすぎる願いであれば経験値を要求される。願いの質と数が増えるほど、要求される経験値も上がり、レベルが下がるというわけだ。

 仮にも大規模なギルド拠点からの大脱出ともなると、相応に大きな願いに該当するのではないかとクズ男は思っていた。

 

 付き合いの長い彼女の性格を知っているクズ男は、何の代償もなしに自分を助けたわけではない事は理解していた。

 なのに、この世界では上がりにくいレベルを犠牲にする理由が分からなかった。

 

 

 「下がるよ? けど、アレって、ちょっとした裏技があってさ。アタシは100レベルのままだから問題ないよ」

 

 

 普通なら、レベルが下がる魔法を使用した際には、『強欲と無欲』のような経験値をストックするアイテムで、失った経験値を補わなければならない。

 

 だが、プレイヤーはレベルが100になった後でも、1レベル分の余剰経験値はストックできる。

 今回、彼女は、その1レベル分の力を込めたのだった。

 

 

 「それにぃ、アタシの場合、レベルが高いだけじゃ意味ないからねー。アタシに必要なのは信頼できる前衛だから! 今の狂也にとっても、アタシが必要なはずでしょ? 違う?」

 

 「へへっ、つまりは、一蓮托生ってわけだな」

 

 

 彼女は、レベルが100ではあるが、完全後衛型の神官である。

 本来の役割は前衛の支援や回復なので、気心知れてるクズ男を召喚したというわけであった。

 

 

  ………。

 

 

 「実はさぁ、狂也が連れ去らわれてから、結構な時間が経ってるんだよ?」

 

 「そうなのか? いや、そうだろうな……」

 

 

 クズ男が連れ去らわれてから、確かに長い時間が経っているし、彼の感覚的にも随分な時間が経っている。

 

 だが、実はこの場に召喚されたことで、拷問され続けた記憶の大部分を失っていた。    

 おそらく、クズ男の心を健全な状態に保つために、指輪が配慮した結果なのだろう。

 

 それでも、クズ男の感覚的には、過酷な拷問を長い間受け続けたことに変わりはなく、かなりの時間が経過している事も納得だと()()()していた。

 

 

  ………。

 

 

 「あ、それと、これから(わたくし)を呼ぶときは奈緒美ではなく、マリアンヌとお呼びくださいね、狂也様?」

 

 

 奈緒美は、急に口調をお姫様風に変えた。

 彼女の絶世の美貌のアバターも相まって、まるで本物のお姫様か聖女様のようであった。

 

 

 「いきなり口調が変わったな。だが、普段ならいいだろ?」

 

 「ダメですよ! それだと、ついつい口に出してしまうものなんです!」

 

 「それにしても、聖女マリアンヌか。そういや、お前って、平民から女王に成り上がるって話に凝ってたよな?」

 

 「女王ではなく、お妃様です! あと、成り上がりなどという野蛮な言い方はよしてくださいまし。これは、シンデレラストーリーというものですよ?」

 

 「どっちでも同じじゃねぇかよ……」

 

 

 

          ■

 

 

 

◇ ────ナザリック地下大墳墓 執務室

 

 

 「狂也が死んだだと……?」

 

 「はい、申し訳ございません、アインズ様」

 

 

 墳墓の主人であるアインズに問われたデミウルゴスは、さぞ申し訳なさげに主人に深く頭を下げていた。

 クズ男の実験を担当していた彼は、王都での失態に続き、またもや主人を不快にさせてしまったと思い、処罰を受ける罪人のような心地であった。

 

 

 「一体、何があった?」

 

 「それが、拷問を担当していたニューロニストの話によれば、少し目を離した隙に、あの男が何の前触れもなく突然死亡したそうなのです。……蘇生させようと試みましたが、復活を強く拒絶しているためか、よみがえる気配を見せません」

 

 「なんの前触れもなくだと? 死体に何か異常でもあったか? 体に自殺用のアイテムでも仕込んでいたというのか?」

 

 「いいえ、あの男の死体を解剖してみたのですが、そのようなアイテムは一切埋め込まれておりませんでした。事前に、何らかの魔法がかけられていた可能性もありますが……」

 

 「……ふむ、死んでしまった以上は仕方がない。それで、あの男から何か情報は得られたか?」

 

 「……それも、申し訳ありません。あの男のレベルを維持した状態で弱体化させることに専念していたため、大した情報は抜き取れておらず……」

 

 

 デミウルゴスは、非常に言いずらそうにアインズに報告した。

 レベル100のプレイヤーの性能を調べることで、同じプレイヤーであるアインズにとって役立つ情報を手に入れようとした事が仇となったようだ。

 

 愚かな判断ミスによって貴重な被検体を台無しにしてしまった自分自身に憤慨し、アインズに心から謝罪した。

 

 

 「よい、デミウルゴス。お前はよく働いてくれている。むしろ、様々な仕事をお前に押し付け、実験に専念させてやれなかった私の不徳とするところだ。この失態は、私にある。許せ」

 

 「そんな……ッ! アインズ様が謝罪されるような事などありません! どうか、頭をお上げください!」

 

 

 本音を言えば、アインズはクズ男をもっと苦しめたかった。

 なにせ、自分の親友の人生を台無しにし、さらに、大切な子供たちを殺したのだから。

 

 

 「そうか。では、この話はもう終わりだ。あの男の死体は有効に活用せよ。狩り殺した者の責任として、無駄にすることなく使うのが供養というものだからな」

 

 「あのような愚劣な人間に対しても、慈悲をお与えになられるとは! 承知いたしました!」

 

 

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