◇
彼女たちは粘り強く戦っていた。
まず、シノビの姉妹が戦闘不能となった。
彼女たちは本来、強敵一体に対する攪乱によって、仲間に有利な戦いをさせることを得意としていた。
このような開けた場においての守るための戦いには向かなかったのだ。
シノビの長所である忍術や機動力を使えなくするため、二人とも両手足を潰されていた。
だが、トドメを刺されることなく、その場に放置されていた。
「ごめん、みんな……」
「────、………」
ティナが謝罪し、ティアがなけなしの力を振り絞って隠し持っていた魔道具を取り出し、どこかへと連絡を取っていた。
次にガガーランが動けなくなった。
対アンデッドに有効な殴打武器を持ち、防御力のある鎧を身に着けているため、攻撃をくらいながらも敵を倒し続けていた。
だが、多勢に無勢。もはや力尽きて地面に伏せていた。
鎧は粉々に砕け、全身の骨が折れるまで何度も痛めつけられた。もちろん、死なない程度に……。
「すまねぇ………」
彼女は本来、仲間を守る役割の戦士だが、それを果たすことができなかったことを悔やみ、仲間に謝罪した。
最後に残ったのはチームのリーダーであり、神官戦士のラキュースただ一人のみ。
敵がアンデッドであるため、魔剣を攻撃ではなく盾として使用し、死者たちに浄化の魔法をかけて弱体化させることで、最も戦いに貢献していた。
彼女は純粋な戦士であるガガーランよりも脆いはずなのだが、それでも最後まで倒されなかったのは、死者たちが彼女にだけ不自然なまでに手加減をしていたからだった。
「ハァッハァッ……、くっ………」
彼女は息も絶え絶えだった。
一人になった頃合いを見計らって、死者の群れが彼女から距離を取り、代わりに
それに対処すべく浄化魔法を掛けようとするも、別方向から走って来た別の個体に盾で突き飛ばされてしまう。
「ぅあ……ッ!」
地面に転がった彼女を、
それでも彼女は諦めずに、魔剣を杖代わりにフラフラになりながらも立ち上がり、目の前の死の騎士に浄化魔法を唱えようとするも、またもや別個体の騎士に盾で攻撃される。
さらに、飛ばされた先にいた別の騎士が狙いを定めて盾で殴り飛ばした事で囲みの外へと弾き飛ばされた。
その二つの強烈な衝撃により、地面を何度もバウンドしながら、彼女は倒れ伏してしまう。
地面に転がったまま起き上がるどころか動く事すらできずに、荒い息を吐く事しかできなかった。
「……くッ……かはッ…………! ハァハァ…ハァ………!」
「「「………」」」
試しにと言わんばかりに、動けなくなった彼女の左足を騎士が足で踏みつけた。
グシャッ!!
「~~~~~ッ!? あ”ぁああああぁあああああッ!!!」
あまりの激痛に彼女は叫び声を上げた。
その騎士は踏みつけている足を回し始め、それが更なる激痛をもたらすこととなった。
どうやら知恵があるらしく、明らかに苦痛を与えるのを楽しんでいるようだった。
「……ふむ。魔剣に宿った
観戦していた大悪魔はそう言うと、彼女と魔剣を
■
◇ ────ナザリック ダミー拠点の一室
この部屋には、ラキュースだけが連れて来られていた。
両腕を
他の仲間たちは、別の部屋に連れていかれたようだ。
部屋の中央には、豪奢なローブに身を包んだ、
「ようこそ、我がナザリックへ。そして、久しぶりだな、ラキュース殿」
「…………ッ!?」
聞き覚えのある声だったが、目の前のアンデッドに出会った、いや、遭遇した経験など一度もなかった。
そもそも、このような存在に一度でも面識があれば、絶対に忘れる事はないはずだ。
「お前とは、王都で話をした事があったではないか。では、改めて名乗るとしよう。……我が名は、アインズ・ウール・ゴウンだよ」
「……ッ!? あなたが……ッ!」
「ほう、我が名を知っていたか? どこで聞いた?」
「………」
もはや脱出などかなわないと悟ったラキュースは、潔く自決するつもりであった。
尋問防止用の魔法を掛けられているため、相手がこちらの口を強引に割らせれば、死ぬ事ができるはずだった。
「恐れながら、アインズ様。この者たちには、尋問防止用の魔法が掛けられているようです。仲間の一人である忍者に支配の呪言を使ったところ、死亡してしまいました」
「……ッ」
だが、アインズの配下であろう大悪魔によって、唯一の自殺手段を防がれてしまった。
そして、仲間の死を悼み、殺した張本人である目の前の悪魔を憎悪の眼差しで睨みつけた。
「そうか、ならば仕方ない」
「ただ、その忍者は、外部へと連絡を取っていたようなのです。……この者が持っていた魔剣を警戒し、様子見に徹していたのが仇となったようです」
「まぁ、救援要請の類だったのだろうな。……無駄な努力を」
「そこで、アインズ様。彼女たちに自発的に
「ほほう、面白そうな実験だ。よし、やり方はデミウルゴス、お前に任そう」
「ありがとうございます!」
その寒気が走る実験内容を聞いたラキュースは、何とか彼らに取引を持ち掛けようと、一縷の望みをかけて口を開いた。
「あなたたちは……、なぜ、こんなことを……?」
「……ん? なぜ……? なぜだと!? お前たちは、私の大切にしている子供たちを殺したのだぞ!? 当然の報いではないか!」
「そ、そんな! あなたたちから襲ってきたのでしょう!? 私たちは冒険者として、必死に王国を守ろうと抵抗しただけで……ッ!」
「……ッ。下等な人間ごときが、アインズ様に対して口答えするなど不敬かと存じます! 『口を閉じたまえ』!」
「……ッ、……ッ!?」
大悪魔の呪いの言葉によって、ラキュースは口を開く事が出来なくなってしまう。
デミウルゴスは、話を聞く姿勢が整ったと言い、アインズに続きを促した。
「さて、どう言い訳されようとも、我々の怒りが収まるわけではない。……お前には、せめてもの賠償として実験に協力してもらうぞ?」
■
その後、ラキュースは再びゲートを通じて、実験室と呼ばれる部屋へと移動させられた。
何の目的で使うのか分からないような怪しげな器材が並べられていたが、そんな物は一番目立っている
そこにあったのはピンクの肉団子だった。
生々しく赤色が所々走り、その上に男性の頭が乗っていた。
顔は虚ろで、意識を感じさせなかったが、それでも生きているようだった。
「さて、最後に何か言う事はあるかね? ……ああ、彼女を話せるようにしてやれ」
「はっ。『口を開いてよい』」
「…………、な…に……? これ………?」
それを見て、まもなく自分にも訪れる運命なのだと分かってしまったが、感情が必死にそれを否定しようとしていた。
だが、それでも涙がこぼれるのは避けられなかった。
「『彼』の名は、ロバーデイクという。つい最近、この神聖なナザリックに土足で侵入してきたコソ泥の一人でな。……お前と同じ神官なので、存分に仲良くすると良い。まぁ、信仰する神は別だろうがな」
「……ぁ……あ…………」
ラキュースは、自分の中から、ポキリという音が鳴るのが聞こえた。
それは、自分の心がへし折れる音なのだろうなと、どこか他人事のように思った。
もはや反抗心など、再起不能なまでに砕かれてしまった。
動く体力を失い、両手を掴まれている彼女は、それでも頭をブンブン振り回し、幼子のように泣きじゃくった。
「ぃ、ぃや………、やだッ! やだぁあああッ!! 助けてッ!! 誰かぁああッ!!
だずけてぇええええッ!! イビルアイぃいいッ!! おどうざまぁああああああッ!!! ………んぐっ!?」
アインズは彼女を黙らせるために、その口を大きな手で抑え、【絶望のオーラ】を放った。
「泣いて被害者面か。やはり、とんでもない女だな……」
「ぁ……ぁ………」
全身を弛緩させた彼女は口が開きっぱなしとなり、涎がこぼれ続けていた。
失禁したためか、ズボンの股の部分がぐっしょりと濡れていた。
「では、任せたぞ」
「かしこまりました。……それにしても、これほどの上質な玩具を我らにお与え下さるとは! このデミウルゴス、感謝の念に耐えません!」
「ふっ、気にするな。お前たちが喜んでくれるのであれば、この女を与えた甲斐があったというものだ」
その言葉を聞いたデミウルゴスは、感激のあまり尻尾を犬のように揺らしていた。
それを見たアインズは、可愛い我が子が喜ぶ様子を、微笑ましい気持ちで眺める父親のような気分になっていた。
………。
アインズが転移で姿を消すと、彼女で『楽しむ』ために悪魔たちがワラワラと入室してきた。
なにせ、ラキュースという女性は、悪魔にとって最高級の人間だからだ。
美貌、高貴な家柄、才能、高潔な精神、敬虔な神官、そして純潔。
それらを完璧なまでに備えた彼女は、邪悪な悪魔にとって極上の
『ギィヒヒヒヒヒヒヒヒッ』
『クカカカカカッ』
『ケケケケケケケケケケッ』
『フシュー、フシュー……』
話を聞きつけた悪魔たちが、上級も下級も関係なく押し寄せた。
この割と広めの実験室でさえも窮屈になってしまうほどに。
デミウルゴスは配下である悪魔たちを観客にして、嬉々として彼女に対する『実験』を開始した。
■
◇ ────王都リ・エスティーゼ 王城ロ・レンテ
時刻は夜───、
この城にある第三王女の私室で、部屋の主であるラナーが憂いを帯びた表情で窓の外を眺めていた。
「姫様、今夜も『蒼の薔薇』の皆さんの身を案じておられるのですか?」
「……ええ、クライム。明日こそは、ラキュースたちが無事に帰ってきてくれるよう祈りを捧げていたのです」
「……姫様の心中お察しいたします。私も皆さんの事が心配でなりません」
「クライムも私と同じ気持ちでいてくれて嬉しいです。彼女たちの身に何か危険が及んでいるのではないかと、そう思っただけで胸が張り裂けそうで……ッ」
「姫様……」
ラナーは親友であるラキュースを思い涙を流した。
彼女に忠誠を誓っている護衛兵クライムは、そんな主人の事を何とか慰めようと寄り添っていた。
「……もう大丈夫よ。ありがとう、クライム。優しいのね……」
「い、いえ、そんな……。姫様のためであれば、このくらいは……」
彼女の心は一気に幸せで満たされていた。
親友を身を案じ、傷心している所を自分のクライムに慰められるという素敵なシチュエーション。
これを味わえただけでも、彼女たちを墳墓の支配者に
そのように、ラナーは考えていた。
(さようなら、お馬鹿なラキュース……。そして、ありがとう! 貴女は、とっても便利な駒だったわ!)