◇ ────王都リ・エスティーゼ 王城ロ・レンテ
かつての仲間である奈緒美によって運よく救出されたクズ男・狂也は、自分の敵について彼女に話していた。
「俺様を連れ去った奴らの首魁。アイツは、俺らの小学時代の同級生だった鈴木悟だった。覚えてるか?」
「えっとぉ……、誰だっけ? 分かんない。ほら、アタシって、モブ男なんかに興味ないし~」
「まぁ、あんなヤツ覚えてないのも無理はねぇから気にすんな。それじゃあ、中学ん時に俺様がいじめて退学させてやったヤツがいたのは覚えてるか?」
「あっ、それなら覚えてるよ! 懐かしいなぁ。大爆笑だったよ~」
当時を思い出した奈緒美が、ケタケタと笑い出した。
あの時、クズ男が仕返しされている場面を奈緒美は携帯で撮影し、それが裁判での証拠となり、クズ男の勝訴となったのだ。
「それでな。ソイツの親友で、俺らの小学ん時の同級生だった鈴木悟って野郎も、この世界に来てんだよ。……たちが悪ぃ事に、親友の仇だとか言いがかり付けて、俺様に襲い掛かって来やがった」
アインズ・ウール・ゴウンというギルドの事、
鈴木悟がギルド名を名乗っている事、
彼が王都で自作自演の悪魔騒動を引き起こした事、
地下に籠ってお人形遊びに興じている事、
それらを奈緒美に説明した。
「ちょっと待って! アインズ・ウール・ゴウン!? それって、ちょうど今、隣の帝国と同盟を組んで、この王国に宣戦布告してきたヤツの事じゃないの!」
「帝国と同盟だぁ? あの見るからに骸骨な化け物と同盟を結んだってのかよ!? その国の皇帝とかいう奴は頭いかれてんだろ! ……それに、宣戦布告だと? あのホネ野郎、いよいよ化けの皮がはがれてきやがったな」
「あっ、ちょっと待って。別の部屋で、やることがあるんだった。話の続きは、その部屋でね!」
■
◇ ────第一王子バルブロの寝室
「さて、これから、どうすっかだが……」
「その事ですが、私に良案がございますわ」
『ああ、我が愛しのマリアンヌよ……』
奈緒美、もとい、マリアンヌは先程とは違い、口調を聖女風に切り替えた。
「お隣のバハルス帝国に行くのです」
「なに、帝国だと? そのイカれた皇帝の所に身を寄せるってのか?」
『はぁ、はぁッ……、今宵も存分に可愛がってやるからな!』
「一応、本心はともかく皇帝と鈴木悟は同盟関係にあるのです。帝国には、表立って侵攻してはこないでしょう。……もちろん、いずれは帝国も支配されるでしょうけれど、それは他の国々を支配した後になるかと」
「だが、あの野郎が他国を支配して回るのを、指くわえて眺めてるってのも面白くねぇなぁ……」
『ふぅーッ、ふぅーッ。……どうだ、マリアンヌぅ?』
「ですので、邪魔をしてやればよいのです」
「アイツの軍団に攻撃を仕掛けるってのか?」
『ふんっ、ふんっ…、はぁっ、はぁぁあっ…………』
「いいえ、聞くところによると、鈴木悟は英雄を演じながら悪魔騒動を解決しようという自作自演を行ったのですよね? ……でも、それって違和感があると思うんです」
「違和感……?」
『くぅっ、いいぞ~、マリアンヌぅ! そうか、お前も気持ちいいのかっ!?』
強大な軍事力を誇っているのであれば、戦争を吹っ掛けて征服すれば簡単なことだ。
なのに、わざわざ自作自演を行うのは、他の強者を警戒しているからではないか。マリアンヌは、そう指摘した。
「鈴木悟が、自作自演で難事件を解決し、名声を高める。そして、その恩義を相手に押し付け、逆らえなくすることで徐々に世界を征服していく。……このように考えれば辻褄が合うんです」
「うっわ! さすがの俺様でもドン引きだわ。弱者がいきなり力を持つと、ろくなことしないっていう、いい見本だな。……ソイツだって元の世界じゃあ、勝ち組である俺らに隠れるように、コソコソと生きてたくせによぉ」
だからこそ、愚昧な民衆は圧倒的支配者によって徹底的に管理されなきゃいけないんだなぁと、クズ男は実体験もあってか改めて痛感していた。
「まったくです! ですから、その茶番劇を堂々と邪魔してやればよいのです!」
「堂々とかよ? 大丈夫なのか?」
『うぅ~~~……っ! 締まる……ッ!』
「奴は、あの時のように悪魔かなにかを使って名声を高めようとすることでしょう。……ですが、こちらが先にその悪魔を討伐してしまっても、奴らは表立って私たちを非難する事はできませんよね?」
『ぬぅおぉ~~~~っ! マリアンヌぅ~~~! 好きだぁ! 愛しているぞぉ~~~~っ!!』
その時、すぐ傍からバルブロの一際大きな喘ぎ声が聞こえてきた。
それに煩わしく思った二人は、顔をしかめながらも話し合いを続ける事にした。
「そうやって邪魔し続けて、奴らの世界征服をとことん遅らせてやればよいのです。そうして、しびれを切らして奴が直接動いてきたら、隙を見て強力な一撃をお見舞いしてやるのです!」
その華奢な手を軽く握り締めたマリアンヌは、クズ男の前に突き出した。
まるで可憐なお姫様が愛しい男性に対して、いたずらっぽくパンチしているかのような微笑ましい光景だった。
「奴を始末したら、すぐに帝国の皇帝も殺して、帝位を簒奪するというのはいかがでしょう? ……たとえ反乱軍が現れたとしても、その度に潰していけば、そのうち賛成派だけになりますわ」
『ぐふふふっ、二発目のおねだりか~?』
「オメェはいいのかよ? この国の王妃の座を狙ってるんじゃねぇのか?」
「狂也様が私を皇妃にしてくだされば、何も問題はございませんわ! ……それに、この国はもうダメです。犯罪組織を野放しにするような王様が治めている限り、滅亡は避けられません」
『ふんっ、ふんっ、ふんっ、ふん~~っ!』
巨大犯罪組織である八本指が好き放題に振舞っているというのに、この国の王であるランポッサ三世は打開策を一向に打てないでいた。
犯罪者にとっては、少しずつ利益を搾り取る事ができる王国は、まさに天国だった。
「成程な。それにしても奈緒美……、じゃなかった、マリアンヌ。オメェ、やっぱ頭いいな。高卒と言われても全然おかしくはねぇぜ?」
「ふふっ、それほどでもございませんわ、狂也様!」
『はぁっ、はぁっ……、ふんぬぅ~~~~~っ!』
「いやいや、マジに頑張って勉強してりゃ、高校にも入れたんじゃねぇのか?」
「イヤですわ。お勉強だなんて、コスパの悪い事するわけがございません。狂也様だって、そうでしょう?」
「へへっ、まぁ同意見だわな」
余計な雑音が響いていた中で、彼らの話し合いは終わった。
ちなみに、この部屋の主である第一王子バルブロは、
いや、よく見るとマリアンヌそっくりの身代わり人形のようだった。
彼の様子はどこかおかしかった。
というのも、マリアンヌによって、彼は高度な幻覚と魅了の魔法を掛けられていたからだ。
そのため、彼は身代わり人形を本物のマリアンヌだと思い込み、それに夢中になりながら貪っている。
「ったく。話し合いの際中、コイツうるさかったんだよな」
「まあ、このくらいで優遇してくれるなら安いものですよ」
げしっ
『おおぅッ……!?』
マリアンヌは自分そっくりの人形と裸になって抱き合っているバルブロを冷たい目で見下しながら、彼の体を軽く踏みつける。
その衝撃が彼に余分な快楽を与えたようだ。
「さて、念のため《
バルブロの疲労を回復させ、一晩ぐっすりと熟睡させていれば、翌朝になって愛しの聖女に会うために部屋に突撃して来るなんて事態は避けられるだろう。
「よし、明日になったら早速、出発するぞ。目的地はバハルス帝国だ!」
「はい! 今のうちに必要な物をかき集めておきますね!」
『はぁはぁ……。マリアンヌ…………、良かったかい?』