アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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イビルアイの慟哭

 ◇ ────王都 城下町

 

 

 時刻は早朝───

 

 

 まだ、太陽が出始めて間もない時間帯。

 人の姿はあまり見えなかった。逃避行には、もってこいの時間帯である。

 

 まだ薄暗さの残る王都の城下町を、クズ男とマリアンヌは歩いていた。

 身バレしないためにローブを深くかぶり、出口の門まで目指していた。

 

 マリアンヌは念のために、誰からも気にされなくなる幻覚系の結界も張っていた。

 

 

 「………」

 

 「どうしましたか、狂也様? その方角は出口ではありませんが?」

 

 

 クズ男は遠くにある冒険者ギルドを眺めていた。

 

 

 「ああ、俺様の獅子奮迅の大活躍が認められて、今はアダマンタイト級に昇格してるんだと思うとな……」

 

 「それはそうですが、そのアダマンタイトのプレートが出来上がるまで、結構な時間がかかるのでは? ……特に狂也様は行方不明中でしたし、ギルドからも死亡扱いになっているかと」

 

 「……だよなぁ。かなり惜しいが、我慢するしかねぇか……。クソッ、鈴木の野郎ッ!」

 

 

 どこに鈴木悟の手の者が潜んでいるかも分からない状況では、迂闊に冒険者ギルドに立ち寄り、正体がバレる行為をするわけにはいかなかった。

 ましてや、時間がかかるようなら尚更である。

 

 自分の出世を潰した鈴木悟に対して、クズ男は憎しみを更に増幅させたのであった。

 

 

  ………。

 

 

 「んんっ!? あれは……」

 

 

 クズ男の視線の先にいたのは、仮面を付けた背の低い少女だった。

 アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の魔法詠唱者(マジックキャスター)であるイビルアイである。

 幽鬼のように、フラフラと当てもなく彷徨(さまよ)い歩いていた。

 

 着用しているローブが着崩れている姿は普段よりみすぼらしく見え、まるでアンデッドモンスターのようであった。

 

 

 「狂也様? あの方が何か?」

 

 「ああ、ちぃっとばかし縁があってな」

 

 

 あの王都での戦いの際、彼女の仮面の一部が割れて、顔が少しだけ見えていたのを思い出していた。

 そこから見えた顔は少しだけだったが、美少女センサーが敏感すぎるクズ男は、イビルアイがかなりの美少女であることを見抜いていた。

 

 さらに都合が良いことに、その美少女は非常に意気消沈しているようだ。

 

 心が傷つき弱り果てている美少女を発見する能力。

 それは性根の卑しい男たちが、共通して持っている特殊技能なのかもしれない。

 

 

 「ぃようッ! 確か、イビルアイちゃんだったよな! ほら、俺様の事を覚えてるか?」

 

 

 「…………ぁ、……キョーヤ……殿……か……?」

 

 

 すかさず、マリアンヌが音を遮断する結界を張った。

 見事なチームプレーである。

 

 どこか放心しているイビルアイに、クズ男は優しく慰めるかのように声を掛けた。

 

 

 「なにやら落ち込んでるみたいじゃねぇの。どうしたんだい? この俺様が力になってやるぜ? ほら、とりあえず信用して話してみなって。それだけでも、だいぶ気が楽になると思うぜ?」

 

 

 「………」

 

 

 反応を見せないイビルアイの肩に手を回して、いやらしく撫で始める。

 放心状態の彼女は何の抵抗を示す事もできず、好き放題にされるがままとなっていた。

 

 

 「…………ぁ、………?」

 

 

 単なるクズのセクハラ行為だったが、それでも温かい人肌に触れたことで、今まで彼女が必死にせき止めていた様々な感情が、次々に溢れ出してしまった。

 

 

 「ぁ…、あ……ッ」

 

 

 仲間たちと協力して仕事をこなし、それが終わったら酒場で打ち上げ。お互いの事を褒め合ったり注意し合ったり、時にはふざけ合ったり。そんな輝かしくも温かな日々の記憶が次から次へと蘇ってきたのだ。

 

 ティアとティナの無表情ながらもお茶目な振る舞い、ガガーランの頼りがいのある精悍な顔、そしてラキュースの優しい笑顔。

 

 中途半端に人肌から温かみを感じてしまったせいで、そんな仲間たちとの温かな思い出までもが蘇ってしまった。

 

 やがて体に力が入らなくなり、耐えきれずに地面に膝をついてしまう。

 

 そして、そのまま人目をはばかることなく、彼女は慟哭(どうこく)した。

 

 

 

 「ぅ……、ぅあぁぁあ……ッ! うわぁああぁああああッッ!!!!」

 

 

 

 幸いにも結界に阻まれ、その声は外へ漏れ出ることはなかった。

 

 

 地面に伏して、仮面で覆われた顔を抑えながら慟哭している彼女を、マリアンヌは興味深そうに見つめていた。

 

 

 一方のクズ男は、罠にかかった極上の獲物を眺めるかのように口元をにやけさせていた。

 

 

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