アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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皇帝を安心させる偽聖女

◇ ────帝都アーウィンタール 皇城

 

 

 「──以上となりますわ」

 

 

 偽りの聖女マリアンヌは、皇城にある皇帝の執務室にて、ジルクニフと護衛騎士であるバジウッドとニンブル、そして若い秘書官に、邪神アインズについて知っている事を話していた。

 

 ジルクニフは難しい表情を浮かべており、護衛の騎士であるバジウッドとニンブルも呆気にとられた様子であり、若い秘書官は懸命に紙に書き込んでいた。

 マリアンヌの護衛をしているレイナースは、すでに聞かされていたのか、特に反応を示していなかったが。

 

 

 「そうか、アインズの正体は六大神や八欲王と同格のぷれいやーで、聖女殿も同じ存在だったとはな。……神と崇めた方が良いのだろうか?」

 

 

 ジルクニフが、いだずらっぽい笑みを浮かべながら、マリアンヌに問いかけた。

 それと同時に、同じ(ぷれいやー)という存在でも、彼女とアインズとで随分と違うものだと感心していた。

 

 二人は、まさに対極にある存在だと言えた。

 

 ある意味ではそうだろう。

 聖女っぽく振舞いながらも心の中は俗物なマリアンヌと、外見は邪悪だが部下を尊重し、その意見に耳を傾ける人格者であるアインズとの対比という意味でだが。

 

 

 「いいえ、これまで通り気楽に接してくださいまし。そもそもプレイヤーとは、普通の人間より強大な力を振るって神の真似事ができるだけですわ。……あの邪神も」

 

 「いや、それで人類を救った六大神の功績を思えば、神と崇めたくもなろうな。……それで、肝心のアインズの戦力は、どの程度と見なしているのだろうか? 推測で構わないので教えてほしい」

 

 「邪神本人や幹部たちの強さは、竜王や魔神と同等と思っていただければよろしいかと」

 

 「魔神というと、十三英雄と戦ったという、あの……!?」

 「やはり、伝説の領域かよ……!」

 

 

 帝国最強の四騎士と謳われるバジウッドとニンブルでさえも、アインズの戦力を詳しく説明されて気後れしていた。

 だが、まだその顔には少しだけ余裕の色があった。

 

 十三英雄の伝説では、その強大な魔神と言えど、最後には英雄たちによって無事に討伐されたのだ。

 邪神アインズだって、伝説の英雄と同等の強者が集まれば、決して倒せない敵ではないはずだと考えていた。

 

 

 だが、マリアンヌは、これでも邪神軍の戦力を、まだ控えめに説明していた。

 ここで、難度300の怪物が何人もいます、その手下も240越えがゴロゴロいます、数千体は用意できる雑兵でも100以上です、おまけにギルド拠点は難攻不落です、などという事実は口にしない。

 

 人間というのは、高すぎる目標に対しては、逆にやる気が失われてしまうものだ。

 

 特にジルクニフの場合、現段階でも髪の毛が危うくなるほどのストレスに苛まれているようである。

 ここで真実を言ってしまえば、胃痛で倒れてしまうか、あるいは全てを諦めて鈴木悟の前に平伏し、属国になると言い出しかねないという危惧があった。

 

 

 「ふむ、かの伝説の再来というわけか。それならば、各地の竜王たちが一斉に攻撃を仕掛ければ、余裕で倒せる敵ではないのか?」

 

 「……それが、そうもいきません。どうも、竜王の方々は、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)様を除けば、邪神討伐に乗り気ではないという話です。むしろ、邪神の事を侮っている節さえあるとの事なので、自分たちの身に危機が迫らない限り動かないのではないでしょうか?」

 

 「……であろうな。あの者たちであれば、たとえ人類が滅んだところで心を動かしはしないだろう」

 

 

 ジルクニフは、頭を手で抑え、天井を仰いだ。

 竜王たちにとっては対岸の火事なのだろうが、そんな悠長な事を言っている場合ではなかろうがと、心の中で彼らを罵倒していた。

 

 実に愚か者ばかりで辟易する。

 

 そうやって、竜王たちがのんびり腰を据えている隙に、アインズたちは力を蓄える事に専念してしまうだろう。

 そうして、さらに強大な力を身に付けた後で、彼らを一体ずつ殺していく事だろう。

 

 凡庸な村人であっても思い付くような簡単な事が、なぜ分からないのか。

 竜は人間よりも賢い生物だとされているが、こうなってくると本当に賢いのか疑問を抱いてしまうというものだ。

 

 

 「それに頼みの綱である白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)様でさえ、宝物庫を守るために自身は動けないそうですし……」

 

 「な、なんなのだ、それは!? それでは結局、邪神に勝てないではないか!」

 

 

 そんな馬鹿げた理由で世界が終わってたまるかと、ジルクニフは憤りを抑えきれなかった。

 

 そんな彼に、マリアンヌは安心させるように微笑みながら助言した。

 

 

 「ご安心ください、陛下。私以外のプレイヤーが秘密裏に行動していらっしゃいます。あの方がきっと邪神を倒してくださいますわ」

 

 「貴女以外にもぷれいやーが?」

 

 「ええ、かつて王国の王都にて起こった悪魔騒動。あの大事件を解決されたのが、何を隠そう、そのお方なんですよ」

 

 「……なるほど。つまり、竜王国の”暴虐の英雄”の正体は、ぷれいやーであったか」

 

 

 その言葉を聞いたジルクニフの顔に希望が湧いてきた。

 正義のぷれいやーが二人そろえば、あのアインズにも隙を見て致命傷を負わせられるかもしれない。

 

 

 「私も、この国で陛下のために働かせていただきますわ。結界を張る以外でも、お役に立てるかと」

 

 「ああ、今も貴女には助けられてるよ。おかげで、寝室でゆっくりと熟睡することができる」

 

 

 マリアンヌが現れるまで、寝室にも影の悪魔(シャドウ・デーモン)とやらが堂々と入り込んでいたのだろうから。

 

 

 「それに、明日からは、重い病で苦しんでいる者たちを救ってあげてほしい。………ああ、もちろん、報酬のほとんどは貴女のものだから安心してくれ」

 

 

 ここで、愚かな王国の第一王子とは違うのだと、懸命にアピールしていた。

 彼女の心証を悪くして別の国に行かれてしまっては、自分の安眠の場がどこにもなくなってしまう。

 悪魔が隣で自分の寝顔を覗き込んでいると分かっていて安眠できる人間など、もはや気狂いの類でしかない。

 彼女を失う事は、なんとしても避けたかった。

 

 特に、裏切り者のフールーダとは鉢合わせしないように、スケジュールなどを自ら調整してやらねばなるまい。

 あの魔法狂いであれば、アインズに寝返っている分際でマリアンヌに突撃し、教えを乞いかねない。

 フールーダの持つ異能(タレント)が何を基準にして、相手の魔法についての情報を読み取っているのか、元主君であるジルクニフでさえ、いまいち分からなかった。

 マリアンヌは信仰系の魔法詠唱者(マジックキャスター)だが、ぷれいやーともなれば魔力系も高い位階にある可能性があるため、念を入れる必要があった。

 

 

 「聖女殿。貴女が来てくれたおかげで、私の心は救われた。今後、出来る限り貴女には便宜を図るつもりだ」

 

 

 ジルクニフは、以前よりも晴れやかな様子で、改めてマリアンヌを歓迎していた。

 

 

 

             +

 

 

 (いやぁ、こうして安心しちゃってる所を見ると、なんか気の毒になっちゃうなぁ。アンタ、そのうち狂也の手で処分される運命なんだからね?)

 

 

 マリアンヌは、表面上は聖女らしい微笑みを浮かべながら、ジルクニフを憐れんでいた。

 

 とはいえ、彼の処分は鈴木悟を始末した後になるので、だいぶ先の話にはなるが……。

 

 

 (はぁ~、異世界だからと期待してたのに、王国の王子二人はゴリラと豚だし。皇帝はいい線いってるけどハゲそうだしな~。しかも、女のアタシより貧弱だし……)

 

 

 異世界だからと期待していたのに、王族を名乗る男どもは、みんな大したことがなくてがっかりしていた。

 それに、レベルの関係で仕方がないとはいえ、この世界の男どもは、女である自分より圧倒的に軟弱なのだ。

 たとえ外見が良かったとしても、そんな男なんかに恋愛感情など持てるわけがなかった。

 

 マリアンヌの夢は、王妃または皇妃になることだ。

 

 しかし、それでも、自分の隣にいる配偶者の条件は重要だ。

 その中でも、特にイケメンというのは必須条件だ。超絶美少女である自分の場合、その隣に並び立つ男がちんちくりんだと全く様にならないのだから。

 

 なので、軟弱なブ男の嫁になるのだけは勘弁だった。

 

 その点、クズ男の外見は、ゲームのアバターゆえに端正で好みのタイプだ。自分と並び立っていても遜色がない。

 おまけに、自分よりも膂力が強いのもポイントが高かった。

 この弱肉強食の世界では、弱い男と伴侶になる事は死ぬ事と同義だと理解できている彼女にとって、それは魅力的な長所だった。

 

 ならば、彼を帝国のトップに立たせて、自分がその正妃の座に収まってしまえば良い。

 

 そして、すぐに彼との間に皇太子を作る。

 

 その後は、適当に愛妾でも与えて大人しくさせておけば、自分が好きに国を動かせる。

 

 

 (まあ、その愛人の多くが、身の程知らずな野心に()りつかれちゃうんだろうけどね。アタシだって、その立場だったら同じ事するから分かるよ)

 

 

 だが、そんなのは定期的に魔法で調べ上げれば、すぐに判明できることだ。現地の女ごとき、自分であれば簡単に消すことができる。

 一人の女に執着しないクズ男であれば、すぐに次の女に夢中になって、その女の事は忘れるに決まっている。

 

 ちなみに、自分がクズ男から捨てられるなんて考えは毛頭ない。

 あの男は、愚かだが馬鹿ではない。

 竜王や未知のプレイヤーの存在を始めとして、鈴木悟以外の強者がこの世界にいる可能性だって当然考えているはずなので、自分の事を切り捨てるなんて出来るわけがない。

 

 

 ……あぁ、なんて素晴らしいプランなのだろう。

 

 

 (それに、この国って王国なんかよりも、すっごくオシャレで良い感じだし! 皇妃になったら、どんな事しよっかなぁ~。あぁ、今から、めっちゃ楽しみ~)

 

 

 

           +

 

 

 

◇ ────二か月後 城塞都市エ・ランテル

 

 

 あれから、二か月が経過し、いよいよ帝国との戦争が始まる。

 

 戦争の開催地は、例年通りカッツェ平野に決定した。

 その直前の補給地点である城塞都市エ・ランテルにて、国王ランポッサは、自身が信頼する戦士長ガゼフと、二人きりで話し合っていた。

 

 

 「戦士長よ。此度(こたび)のアインズ・ウール・ゴウンとの戦だが、わが軍の被害は、本当の所、如何ほどと見ている?」

 

 「……相手は、あのゴウン殿です。おそらくは全滅に近いでしょう」

 

 

 二人は、邪神アインズの名を出さずに話し合っていた。

 どこに邪神の耳があるか分からないからだ。

 

 数時間前の貴族たちとの会議の場で、ガゼフは面識のあるアインズ・ウール・ゴウンの戦力について貴族たちから詰問されたが、奴の正体を明かすわけにもいかず、兵八千に匹敵する魔法詠唱者(マジックキャスター)だと評するしかなかった。

 

 仮に、その正体が邪神だと説明しても、信じてもらえないのは目に見えていたが。

 

 それでも、魔法詠唱者(マジックキャスター)という職業を、単なる手品師だと軽んじている貴族たちにとっては、それすらも過大評価だと見なされた。

 結局、貴族派閥のリーダーであり、歴戦の将であるボウロロープ侯による、兵五千に匹敵するとの評価の方を採用されたのだった。

 

 

 ガゼフは、アインズの配下であろう大悪魔ヤルダバオトが出現した事件のことを思い出していた。

 あの時は、王国の危機を救ってくれたクズ男・狂也が、そのヤルダバオトの部下の魔将と激しい戦いを見せていた。

 その戦いは、まさに伝説と語り継がれても不思議ではないほどに凄まじいものだった。

 

 だが、あれほどの強さを見せた恐ろしき怪物であっても、邪神の側近ですらない。ただの陪臣の一体に過ぎなかったという驚愕の事実だった。

 

 

 さらに、白金の騎士アガネイアの話を信じるのであれば、自分では勝てないほどの強大な魔物を何体も従えているのだという。

 

 自分の力では、あの魔将より更に弱いメイド悪魔の一体を倒すだけであっても、辛勝だったのだ。

 それも、クズ男に気を取られた一瞬の隙を突き、『蒼の薔薇』とも共闘し、ようやく勝利を収めることができたのだ。

 

 

 今回の邪神アインズとバハルス帝国の連合軍、いや、実質的に邪神軍との戦いだ。

 

 十中八九、全滅に近い被害を受ける事だろう。

 

 

 しかし、たとえ勝てない戦であっても、無条件で膝を屈するわけにはいかなかった。

 そのような事をしては、たとえ被害がなかったとしても、王の権威が失われてしまいかねないし、それによって王派閥と貴族派閥との間で激しい衝突が起こり、内乱へと発展しかねない。

 

 

 「貴族派閥を多めに軍の前面に押し出すことには成功したが、王派閥の者たちにも犠牲を強いてしまった。彼らには、申し訳ないことをしたものだ……」

 

 「………」

 

 

 根拠のない自信に満ち溢れている貴族派閥を矢面に立たせることは容易かった。

 

 だが、いくら敵対している派閥とはいえ、彼らだけに犠牲を強いるのは優しい性格の王にとって忍びない行為だった。

 だから、せめてもの償いとして、王派閥に属する者たちにも、ある程度は矢面に立たせることにしたのだった。

 

 結果として、前面に出る派閥の割合としては、王派閥が4、貴族派閥が6。少しだけ貴族派閥の方が多いが、そこまでの差ではなかった。

 

 

  ………。

 

 

 「カルネ村への調査を申し出られた時は、本当に気が気でなかった……」

 

 

 長男である第一王子バルブロを死なせたくないボウロロープ侯は、彼にアインズが不当に占領しているカルネ村への調査を提案したが、手柄を欲していたバルブロは強く反対した。

 

 さらに、息子と同じくランポッサまでもが強く反対したのだ。邪神の支配する地への派遣など、死にに行かせるようなものだからだ。

 

 普段の温厚な王らしからぬ剣幕だったため、その提案は無事に却下された。

 だが、その代案として、バルブロが戦争に出陣することを許可せざるを得なかった。

 

 

 「バルブロを、私の側に控えさせるという条件を呑ませるのが限界だった……」

 

 

 せめてもの抵抗として、愛する我が子を危険な前線には出さず、自分の近くに侍らせることにしたのだった。

 

 

 「戦士長よ、もし、バルブロが功を焦って前に出すぎるような事があれば、たとえ力づくになってでも取り押さえてはくれぬか?」

 

 「……かしこまりました。我が王よ」

 

 「すまぬな。お前には、本当に苦労をかける」

 

 

 (今回の戦で、我がエ・ランテルは邪神の領土となってしまうのだろうな。だが、少しでもマシな王国を、我が子に残したい……)

 

 

 邪神軍という脅威を直接目にすることで、愛する愚息が危機意識を持ち、少しは真面目になってくれるのではないかと期待しているランポッサであった。

 

 

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