アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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戦場を観察するクズ一行

◇ ────カッツェ平野 王国軍本陣

 

 

 「父上! なぜ私に先陣を切らせて下さらないのですか!?」

 

 

 ここ、リ・エスティーゼ王国軍の本陣にて、国王のおわす天幕の中で第一王子バルブロが声を荒げていた。

 

 

 「バルブロよ。今回の敵であるアインズなる者は、底が知れぬ危険な相手なのだ。だから、大人しく待機せよと作戦会議の場で決まっていたであろう」

 

 「くっ 父上……。さては臆されましたか!?」

 

 「バルブロ王子。陛下のおっしゃる通りです。かの魔法詠唱者(マジックキャスター)は、本当に危険な相手です」

 

 「うるさい! 貴様は黙っていろ! 平民の分際で、口を挟むな!」

 

 「しかしだな、バルブロよ……」

 

 「だいたい、そのアインズなんたらとか言う輩も、しょせんは魔法詠唱者(マジックキャスター)であろうが! それを大げさに過大評価しすぎなのだ貴様は!」

 

 

 ランポッサの声を遮り、バルブロは肩を怒らせながら天幕から出て行った。

 

 彼は、ガゼフがアインズなる手品師に騙されただけだろうと思っていた。

 そして、そんな低俗な輩に騙されたガゼフの事も、所詮は卑しい平民かと評価を大きく下げていた。

 

 そんな彼の後ろ姿を見て、父親である国王は愛する息子の愚かさに、ため息を吐いていた。

 

 バルブロは本来であればカルネ村への調査に行く予定であったのだが、本人と、なにより父である国王ランポッサの反対もあって取りやめになったのだ。

 

 その代替案として戦場に出陣する許可を与えたのだが、息子の命を散らせたくない慈悲深き王であるランポッサは彼に後方待機を命じたのであった。

 

 

 「ふぅ、我が息子には困ったものだ。戦士長よ、どうか、バルブロを頼む」

 

 「はっ、お任せください。陛下」

 

 

 ランポッサが疲れた顔で、信頼する戦士長に命じた。

 ガゼフも忠義を捧げる王を悲しませたくないため、その命令を聞き入れ、バルブロの後を追った。

 

 

  ……。

 

 

 「くそっ なぜ、この私が(ほまれ)ある前線を任せてもらえず、地味な後方待機に甘んじねばならんのだ!? …………はっ? まさか、父上まで俺が手柄を立てるのを避けようとしているのか……」

 

 

 「王子、ご気分でも悪いのですか?」

 

 「……いや、気にするな、チエネイコ男爵。この戦争で、どう立ち回ろうかを考えていただけだ」

 

 「なんと素晴らしい! さすがは、次の王であらせられる方でいらっしゃる!」

 

 

 バルブロに取り入ろうとしているチエネイコ男爵が、ここぞとばかりに彼を褒め称える。

 その称賛を受けたバルブロは、いつもの”おべっか”かと軽く受け流していた。

 

 

 (ふん、次の王か……。いや、待てよ。この際、王命であろうとも無視してしまって構わんのではないか? 戦場で手柄さえ立てれば、たとえ命令違反を犯した将であっても許され、さらには褒美まで与えられたという前例など、いくらでもあるではないか!)

 

 

 確かに、それによって褒美を与えられ、出世を果たした将軍は数多く存在した。

 彼らに倣って大手柄を挙げさえすれば、自分が王になるのは、ほぼ確実だ。そのような夢物語を彼は閃いていた。

 

 そして、そのためには──、

 

 

 「エル=ニクスの首を獲る……! いいぞぉ、最高だ!」

 

 

 「お待ちください、王子!」

 

 

 悪い顔をしながら馬にまたがり、前へと進もうとしていた彼に冷や水を浴びせるかのように、戦士長ガゼフが静止してきた。

 

 

 「ええい! この俺を邪魔立てするか、戦士長! そこを退け!」

 

 「そうは参りません。私は陛下より、王子の身の安全を命じられておりますので」

 

 

 さすがにガゼフが本気で止めにかかって来たら、進むのは困難だと悟ったバルブロは渋々と馬から降りた。

 

 

 「ちっ そこまで言うのなら、ここに留まってやる。その代わり……」

 

 

 バルブロは、ガゼフが今身に着けている素晴らしい国宝の数々を見ながら、物欲しそうにしていた。

 彼の脳内では、自身が国宝の装備を身に着け、最高の剣を振り回しながら敵陣に攻め入る映像が浮かび上がっていた。

 

 そして、良いことを思い付いたと言わんばかりの表情でガゼフに命じた。

 

 

 「よし、その国宝の剣を俺に見せてみろ」

 

 「なっ!? なりません、王子! これは陛下から賜った大事な……!」

 

 「平民の分際で、ごちゃごちゃと口答えするな! 不敬罪でひっ捕らえてやろうか!」

 

 

 それにしても、いったい何がバルブロをここまで駆り立てているのか。

 それは、あの帝国に愛しの聖女マリアンヌがいるという情報が入ったからだ。

 

 愛する女を帝国によって攫われたと思い込んだ彼は、何が何でも皇帝の首を取り、必ずや奪い返すのだと鼻息荒く息巻いていた。

 

 ちなみに、彼女の方から帝国に行ったという考えは一切頭になかった。

 あんなに自分と愛し合っていた彼女が、自ら出ていくわけがない。きっと、卑劣な帝国の(いぬ)どもの手で誘拐されてしまったのだと信じてやまなかった。

 

 

 「しばらく、眺めるだけではないか! 戦が始まれば、ちゃんと返してやるわ! それとも貴様、この王子である俺の言葉が信じられんとぬかすか!」

 

 「まさに、王子のおっしゃる通り! 戦士長殿。よもや、王子に逆らうおつもりか?」

 

 

 バルブロに付き従っている貴族は、ガゼフの事をニヤニヤと嘲笑し、騎士たちは睨みつけていた。

 ここで拒否するようなら捕縛も辞さないと言った目で。

 

 ガゼフも、ここで事を荒立てては戦いに支障が出ると危惧し、ひとまず言うとおりにした。

 

 

 「いえ、そのような事は……」

 

 「ふんっ。まあ、貴様も丸腰では不安だからと駄々をこねているのであろう。戦士長ともあろう者が、なんと情けない! この臆病者め! ならば代わりに、我が剣をしばらく貸し与えてやるから光栄に思え!」

 

 

 そう言って強引に剣を奪い取り、代わりに自身が身に着けている剣をガゼフに押し付けた。

 

 

 「はっ……、申し訳ございません、王子」

 

 「ふんっ、まあ良い。どれどれ……」

 

 

 バカブロは国宝の剣を抜き放ち、その美しい刀身をうっとりと眺め始めていた。

 

 

 (フフフ。この剣さえあれば、帝国軍など恐るるに足らず! 必ずや、エル=ニクスの首を獲り、愛しのマリアンヌを救い出して見せようぞ!)

 

 

 

           +

 

 

 

◇ ────帝都アーウィンタール 歌う林檎亭

 

 

 そこの酒場の一角にクズ一行が集まり、これからカッツェ平野で行われる戦争を観戦しようとしていた。

 

 偽りの聖女マリアンヌが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を操作し、それを現地組のイビルアイとレイナースが食い入るように見ていた。

 

 

 「いよいよだな」

 「ええ……」

 

 

 王国軍はすでに帝国軍の陣地の前に集い、陣形を整えていた。

 

 イビルアイとレイナースは、緊張した面持ちだ。

 少しでもアインズの戦力を測ろうと、注意深く鏡を見つめていた。

 

 

 一方で、クズ男・狂也は腕を組みながら壁にもたれかかっており、あまり興味なさげな様子だ。

 どうせ、極大魔法なんか撃たないだろうと予想しているためだ。

 

 

 「帝国に動きがあります」

 

 

 帝国側の陣地の入り口が開き、そこから大量の死の騎士(デス・ナイト)が現れた。

 

 

 「死の騎士(デス・ナイト)……!」

 「あの時のモンスターが、あんなに……!」

 

 

 イビルアイは知識として、そのアンデッドの名を知っていた。

 レイナースも、アインズの拠点に訪れた際に数体の死の騎士(デス・ナイト)が使用人のように使役されていたのを目の当たりにしており、その強さを肌で感じていた。

 

 なので、そのアンデッドの恐ろしさは二人とも理解していた。

 

 

 しばらく、死の騎士(デス・ナイト)が旗を持ちながら整列しているのを眺めていたが、アレらが道を開けた場面で何も見えなくなってしまった。

 

 

 「ん? 帝国軍の陣地の入り口が見えなくなったのだが……?」

 

 「どうやら、対策されているようですね。」

 

 「ま、そうだろうな」

 

 

 監視対策を怠ってはいけないというのがゲーム時代では常識であったため、同じプレイヤーである二人が取り乱すことはなかった。

 

 

 「なので、王国軍の方に焦点を当てましょう。魔法が撃たれれば、被害度が分かるはずですので」

 

 

 マリアンヌが鏡を操作し、王国軍の方に焦点を当てたが、彼らは何かに恐れおののいているようだった。

 

 それにめげずに王国軍は突貫していく。

 しかし、黒い風が吹いたと思った次の瞬間、何万人もの王国軍の兵士たちが地面に倒れ込んでしまった。

 

 

 「「っな!?」」

 

 

 辺り一面に、倒れ込んで微動だにしない王国軍の兵士たちが写されていた。

 しかし、彼らを見たところ、外傷らしきものは見当たらない。それでも、死亡しているのは明らかだった。

 

 これが軽めの魔法だというのか? あるいは、予想に反して最大火力なのか?

 

 その確認のために現地組の二人はクズ男とマリアンヌの方を見たが、二人は真剣な表情で鏡を見つめており、答えを出すことはなかった。

 

 その時、兵士たちの死体の上空で黒い球が出現し、それが徐々に大きくなっているのを見た。

 それが緩やかに落下し、兵士の死体が黒い液体に飲み込まれていく。

 

 そして、黒い湖と化した場所から、黒く巨大な化け物が出現した。

 

 

 「「……ッ!?」」

 

 

 突如出現した五体の黒く巨大なヤギ(?)が、王国軍に向かって歩き始めたことで大勢の兵士たちが踏みつぶされ、蹂躙されることとなった。

 その無残な光景を映し出している鏡を、現地組の二人は、ただ茫然と眺めていた。

 

 

 「な、なんだ、あの黒い化け物どもは……?」

 「私たち、悪い夢でも見ているのでしょうか……?」

 

 

 イビルアイとレイナースが驚愕していた。

 あれが、神と呼ばれる存在の力だというのか。

 

 どこか縋るような気持ちでクズ男とマリアンヌの方も見たが、二人は平然としていた。

 あれを見て全く動じていない彼らを見て、やはり(ぷれいやー)なのだなと改めて認識した。

 

 

 「あれは、超位魔法だな……」

 「これは、予想外でしたね」

 

 「これは、なんなんだ!? ぷれいやーとは、全員があのような真似が出来るのか!? いや、そもそも、あれ程の魔法が”そこそこの魔法”とは言わないだろうな!?」

 

 

 こうして話している間にも、黒く悍ましい化け物どもは兵士たちを蹂躙している。

 

 無残に殺されている彼らを見て、イビルアイは胸を痛めていた。

 

 王国軍は主にエ・ランテルから徴兵された者たちと、各貴族の領地からの兵で構成されているが、中には”蒼の薔薇”と共に悪魔と戦ってくれた兵士たちも数多くいただろう。

 そんな彼らが為す術もなく、あっけなく死んでいく光景を見せられ、心が張り裂けそうになると同時にアインズに対する憎しみが募るばかりだった。

 

 

 「大丈夫だぜ、イビルアイ。あれは超位魔法と言って、最高位階の魔法だから安心しろ」

 「ええ、あれより上の魔法はありませんわ」

 

 

 その言葉を聞き、彼女は少しだけ気が楽になった。

 いや、今も兵士たちが蹂躙されている光景が続いるので気休めでしかなかったが。

 

 

 「しかし、なぜ邪神は必殺技を撃ってきた? なんの意図があって……?」

 「まさか、これも奴の長期的な策略の一つなのでしょうか?」

 

 

 他国が自主的に対アインズ・ウール・ゴウンの大連合を結成するために、戦争の開幕で極大魔法をアインズに使わせるというのが、皇帝ジルクニフの思惑であった。

 

 その思惑をアインズは察して、世界の敵にならないように上手く立ち回るのだろうとクズ一行は予想していた。

 

 だが、それに反して最大火力の魔法を撃ってきたので、何らかの策謀なのかと疑っているイビルアイとレイナースだったが──、

 

 

 「……アイツが何も考えていないだけじゃねぇのか?」

 

 「キョーヤ殿……。流石に、それはないのでは?」

 

 

 クズ男とマリアンヌからは、アインズの元々の立場や人物像などを教えられていた。

 彼らは邪神の事を大した人物ではないと言っていたが、実のところ現地組の二人は半信半疑だったのだ。

 

 

 「いいえ、レイナースさん。あの者は、元々は何の力も持たない弱者でした。それが運命のいたずらで強大な力を手にしたのです。これまでの鬱屈した人生の反動により、力を誇示したがる気持ちが強いのだと思います。……その感情によって、思考が浅はかになるほどに」

 

 「だからと言って……! まさか、そこまで馬鹿だなんて有り得るのか!?」

 

 

 イビルアイの言葉を聞いたクズ男は、壁にもたれかかったまま笑いを吹き出した。

 

 

 「ぶはは……ッ! 分かった! アイツは皇帝の意図も読めない無能! もしくは、自分がどう見られているかさえ気付かないウスノロだ!」

 

 

 クズ男は腹を抱えながら、元弱者にふさわしい鈴木悟のお粗末な行動を嘲笑していた。

 

 マリアンヌも愉快そうに、口を手で覆いながらクスクスと笑っていた。

 

 

 弱者の立場だった分際で思いがけずに手にした分不相応の力を、この世界の住人に対して振りかざす。

 その姿が、よほど滑稽に感じたようだ。

 

 いじめられっ子の子供が、好きなアニメで見た技の名をつぶやきながら蟻の巣に水を流し込み、溺れる蟻を見ながらニヤニヤと悦に浸っている。

 

 そんな哀れで痛ましい存在こそが現在の鈴木悟の姿なのだと、二人には思えてならなかった。

 

 

 「くはは……ッ! よしっ。アイツのあだ名は、”イキリ骨野郎”で決まりだな!」

 

 

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