アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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カッツェ平野の悲劇

◇ ────カッツェ平野 王国軍本陣の後方

 

 

 リ・エスティーゼ王国からの援軍要請に応えて、スレイン法国から神官団が派遣されていた。

 彼らは王国軍の本陣の、更に後方に待機しており、兵士たちの治療のための準備をしていた。

 

 本国から極秘任務で派遣された『一人師団』と『無限魔力』の二人は神官の服装に身を包み、周りの神官たちに上手く紛れ込みながら、戦場の様子を観察していた。

 

 そこへ魔導王が超位魔法を放ち、その後すぐに黒く悍ましい巨大な怪物が出現した。

 その怪物たちは王国軍の兵士たちをゴミのように蹂躙し続けており、それを見た神官たちは恐怖に陥り、救いを得ようと自らの信じる神に祈りを捧げていた。

 

 

 「は、はは……。ね、ねぇ、クアちゃん? 一応聞くけど、貴方の可愛いギガントバジリスクで、()()やっつけられる? とりあえず、試しに突っ込ませてみたら?」

 

 「そ、そんな無茶を言わないでください。私の可愛いギガントバジリスクを無駄死させる気ですか……?」

 

 

 漆黒聖典の二人は、邪神が召喚した黒い怪物の、遠くからでも伝わってくる圧倒的な存在感に気圧されていた。

 

 『一人師団』の男は、自身が召喚する魔物では、たとえ束になっても、あの怪物にかすり傷一つ負わせられないと一目で分かってしまった。

 

 二人は軽口をたたいているように見えるが、実のところ、この世の不条理に絶望していた。

 平然を装いながら普段のように軽口をたたき合うのは、目の前の現実と無力な自分から目を背けたいという願望の現れでもあった。

 

 

 「貴女の方はどうですか? あの魔法の正体はつかめましたか?」

 

 「いや、私が知るわけないじゃない。アレは、もはや神の御業だわ……。あれが邪神なの? あんな恐ろしい存在が世界の敵なわけ? わ、私たちは、あんなのと戦わないといけないの……?」

 

 

 『無限魔力』と呼ばれる彼女は、呆然としながら(つぶや)いた。

 だが、その体は小刻みに震えており、目には涙が溜まっていた。

 

 魔法に関する知識に自信を持っていた彼女でさえ、あの邪神の底を知る事はかなわなかった。

 法国で最強の()()()──自分にトラウマを与えた恐ろしい()()()よりも、さらに絶望的な存在としか思えなかった。

 

 

 「とにかく、邪神の力は見た。あれより上の魔法を持っているとは流石に思えん。本国への報告は、それで十分じゃないか?」

 

 

 もう一人の『天上天下』と呼ばれる暗殺者が、姿を隠した状態で二人に話しかけた。

 

 

 「……ええ、もう十分でしょう。我々は敵に捕捉されないように上手く立ち回りましょう」

 

 

 漆黒聖典の三人は神官団に紛れ込み、邪神に正体がバレないように息を潜める事に努めていた。

 

 

 

             +

 

 

 

 黒いヤギ(?)によって蹂躙される王国兵たち。

 徴兵された農民も、指揮官である貴族たちも、身分に関係なく怪物に踏みつぶされていった。

 

 

 そんな中、第一王子バルブロは幸運にも無事であった。

 彼としては先陣を切りたかったようだが、近くに戦士長ガゼフがいて隙が無かったため急遽作戦を変更して、一般兵を盾として突撃させた後に自分も突っ込もうと考えていた。

 それによって、あの超位魔法を受けずに済んだのだった。

 

 

 「バルブロ王子! 剣をお返しください! その後、王子は本陣へ撤退を!」

 

 「う、うぉぉぉぉ……、うぉぉぉぉ……」

 

 

 あの怪物が現れてからというもの、うぉぉぉぉと喚くばかりで一向に行動を起こそうとしないバルブロ。

 彼は馬にまたがった状態で目を見開き、口をあんぐりと開けながら王子にあるまじきアホ面を晒していた。

 

 

 (なぜだ? なぜ、こんな事になっている? 俺は、これから颯爽とエル=ニクスの首を獲り、我が愛するマリアンヌを救い出すはずなのだ……ッ!

 偽皇帝である憎らしい小僧の首という、誰にも文句のつけようがない大手柄を挙げ、次期国王の座を不動の物にできるはずではなかったのか……ッ!?)

 

 

 「王子ッ!」

 

 「……う、うおぁあああああッ!!!」

 

 

 ガゼフの呼びかけによって我に返ったのか、バルブロは馬を手繰り、脇目も振らず一目散に逃亡した。

 

 

 ──国宝の剣を持ったまま。

 

 

 「王子!? その剣をお返しください! 王子ィーーーッ!!」

 

 

 バルブロの腰巾着の貴族と、お付きの騎士たちも彼に続いて逃亡し始めた。

 彼らが邪魔で、バルブロを追いかける事は出来そうになかった。

 

 

 「くっ!?」

 

 

 ガゼフは、忠義を捧げるランポッサから王子の事を託されている身だ。

 今ここで王子を追いかけても、却って彼を逃げ遅れさせてしまう事になるので、もはや国宝の剣を装備しない状態で戦いに挑むしかなかった。

 

 

 「やむを得んか……!」

 

 

 ガゼフは正面を向き直り、本陣に迫ろうとする黒く悍ましい怪物の前に立ちはだかり、王子から与えられた、否、押し付けられた剣を構えた。

 

 その怪物に自身の武技である〈急所感知〉を使ったが、弱点は見当たらなかった。

 

 なので、諦めて他の武技で戦う事にした。

 

 

  「〈可能性知覚〉! 〈戦気梱封〉!」

 

 

 〈戦気梱封〉とは、武器に戦気を込めることで一時的に魔法武器と同等の効果を付与する武技である。

 しかし、一度に複数の武技を発動したため、肉体にかかる負担が大きい。

 あの国宝の剣であれば〈戦気梱封〉を使う必要などなかったのにと、王子に対する不満を心の中で吐露した。

 

 

 「来いよ! 化け物!!」

 

 

 どういうわけか自身を避けて別方向に行こうとする怪物だったが、その巨大な足に目掛けて横なぎに剣を振るい、その進撃を阻止しようとした。

 

 

 「てぇいりゃぁああああッ!!」

 

 

 予想以上に怪物の足は、重くて硬かった。

 だが、それでも動きを止めることに成功した。いや、怪物が自ら足を止めたようにも思えた。

 

 王子に押し付けられた剣は王族の持ち物なため、そこそこ良い品質ではあったが、やはり国宝の剣には遠く及ばず、怪物には傷一つ付けられないまま、あっさりとへし折れてしまった。

 

 そして、怪物が触手を一本振るってガゼフを簡単に弾き飛ばしてしまった。

 

 

 「ぐぉおおあッ!?」

 

 

 地面を転がりながら倒れ伏し、それでも、なんとか起き上がろうとした。

 

 だが、その瞬間ガゼフの背後から数体の忍者然とした者たちが何の前触れもなく出現し、彼らによってガゼフはあっさりと拘束されてしまった。

 

 

  「……ッ! ……ッ!?」

 

 

 忍者たちの力は驚くほど強靭で、戦士長であるガゼフが振りほどく事もできなかった。

 彼らはガゼフを拘束した状態で何の動きもせず、話す事さえしなかった。なんの反応も示さない彼らを訝しんでいたが、身動きが取れない以上ガゼフも抵抗を止め、彼らの反応を伺うしかなかった。

 

 

  ………。

 

 

 身動きできない彼の元へ、もう一体の黒い怪物が近づいて来た。

 その怪物の背には、圧倒的な存在感を放つ骸骨の魔導士が乗っている事にガゼフは気付いた。

 

 

 (アインズ・ウール・ゴウン……殿?)

 

 

 怪物の背に乗っていたのは邪神アインズ、対外的には魔導王を名乗っている人物だった。

 カルネ村で知り合った時と違って仮面を付けていないため、骸骨の素顔が顕になっていた。

 

 それを見て、ガゼフは納得した。あれこそが邪神という存在なのだと。

 

 

 魔導王が悠然と舞い降り、忍者たちに拘束されているガゼフに話しかけてきた。

 

 

 「久しいな。ガゼフ・ストロノーフ」

 

 

 魔導王アインズが、以前と比べて冷然とした態度でガゼフに挨拶した。

 

 こちらも挨拶を返そうにも、忍者たちによって口をふさがれているため話すことができない。

 それを見咎めた忍者たちから怒気が沸き起こり、さらに彼を締め付ける力が強まった。

 

 そんな彼らの態度を見て、ガゼフは理不尽に感じていた。

 

 

 (……ッ! そんなに力を込められても、この状態で挨拶なんかできるか! そもそも、お前たちが俺の口を封じているからだろうがッ! そんなに挨拶して欲しいのなら、まず俺の拘束を解け!)

 

 

 そうした抗議の意味も込めて忍者たちを睨んだが無駄だった。

 彼らの手からは、自分を離す気は一切ないという絶対的な気迫が込められていたからだ。

 

 

 「《転移門(ゲート)》」

 

 

 (……っな!?)

 

 

 魔導王が呪文を唱えると同時に黒い門が開き、その中へとガゼフは抵抗むなしく忍者たちによって連れられてしまった。

 

 

 「ガゼフ!?」

 「ストロノーフ様!?」

 

 

 ちょうど、ブレイン・アングラウスとクライムが急いで駆け付けるも、ガゼフを助けることはできなかった。

 

 ブレインは、魔導王を睨みつけながら刀を抜き構えた。友人を連れ去らわれた事で、彼の心は怒りに燃えていた。

 

 

 「おい、ガゼフをどうする気だ!?」

 

 「彼は、我々の捕虜となった。いつ返還するかは未定だがな」

 

 「ふざけるな!」

 

 

 隣にいるクライムも剣を抜き、ブレインと共に魔導王に対して構えた。

 

 

 「向かってくるならば、容赦なくお前たちを殺すぞ? そして、それは確実だ」

 

 「「……ッ」」

 

 

 両者の間で緊張が走った。

 

 

  ………。

 

 

 その一触即発の所へ、白金鎧の騎士アガネイアが、なんの前触れもなく姿を現した。

 

 

 「あ、アンタは……!」

 「ブレインさん、お知り合いですか?」

 

 「………」

 

 

 (なんだ、コイツ!? 明らかに、ただ者じゃない雰囲気だぞ! まさか、プレイヤーとは言わないだろうな? ええい、とにかく相手の情報を少しでも手に入れないと!)

 

 「……ほう? 失礼だが、君は誰なのかな? 私の名は、知っているとは思うが名乗らせてもらおう。アインズ・ウール・ゴウン魔導王だ。……さて、私にも君の名前を教えてはくれないか?」

 

 「……リク・アガネイア」

 

 「そうか、リクと言うのか。それで、私に何の用だ?」

 

 「……すまないが、私の事はアガネイアと呼んでくれ」

 

 「……? 失礼、馴れ馴れしかったな。では、アガネイア。要件を聞こうじゃないか」

 

 「キミは、この世界をどうする気だい?」

 

 「ん? 言っている意味が分からないな。私が王国軍を攻めている件について物申したいのか? これは我々の領地を不当に占拠している愚か者に対する正当な攻撃だと考えている」

 

 「それにしては、随分と過剰にやりすぎているじゃないか」

 

 

 アガネイアは魔導王の後ろに控えている黒く巨大な怪物を見上げながら、そう指摘した。

 

 

 「ああ、この魔法か。同盟国である帝国の皇帝から、私の最高の魔法を撃つように要望があってな。我々としても同盟相手の顔を立てる必要がある。だから撃った。……お分かりいただけたかな?」

 

 「分かるか! 分かってたまるか!! なあ、魔導王さんよ! アンタなら、もっと上手いやり方で最大の結果を出せたはずだ! 何もこんな大虐殺なんか、する必要なかった! 違うか!?」

 

 

 ふざけた答えに納得がいかないブレインが、魔導王に食って掛かった。

 

 

 「……ふむ、あったかもしれない。だが、これは戦争なのだ。最小限の労力で最大の結果を生もうとするのは、戦略として当たり前ではないか」

 

 「こんなのが当然だって言うのか!? ふざけるのも、いい加減にしろよ!!」

 

 「ふざけてなどいないとも。私ならともかく、帝国の兵士たちの方は容易く死んでしまいかねないんだ。変に手加減して彼らに多大な犠牲が出てしまっては、友人であるジルクニフに申し訳が立たないのでな。

 ……それともお前は、そちらにいるお友達が死ぬ事になったとしても敵国の兵士の命を惜しむのかい?」

 

 

 魔導王はブレインの隣にいるクライムに目を向けながら、生徒を教え諭すかのような優しい口調で自身の正当性を主張した。

 

 

 「くっ……」

 

 

 ブレインは反論の言葉を思い付く事ができず、拳を握り締めた。

 魔導王の言った通り、敵である帝国兵の命を惜しんで手加減をした結果、友人となったクライムを死なせる事など到底できそうになかったからだ。

 

 

 「もう、その話はいいだろう。お互いが何を言っても平行線になるだけだからね」

 

 

 アガネイアとしては王国がどうなろうと、あまり興味がないため、この話題を早々に切り上げた。

 

 

 「先程の話になるが、キミは、この世界を征服する気でいるんじゃないのかな?」

 

 「……そんな大それた事は考えていないさ。私はただ、私の愛する静寂のために、害を為す者たちを始末しているだけだからな」

 

 「嘘だ!! だったら、なんで悪魔の群れを使って王都を襲った!? その静寂とやらを自分から壊しておいて、いけしゃあしゃあと! 言ってる事とやってる事が全然違うじゃねぇかよ!!」

 

 

 (なっ!? なんで、それをコイツが知ってんの!? 一体、どこから情報が漏れたんだ!? 俺、何か間違ったりしたか!?)

 

 

 激高したブレインの言葉を聞き、かなり混乱していた魔導王だったが、幸いにも表情のない骸骨顔なため、その内心がバレる事はなかった。

 すぐに、アンデッド特有の鎮静化で冷静になり、彼は努めて毅然として対応した。

 

 

 「……コホンッ。言っている意味が分からないな。それを私がやったという証拠はあるのか?」

 

 「……ない。残念ながらな。だが、一部の人間は、もう知ってんだよ。お前の正体もなぁ! この(おぞ)ましい邪神がッ!!」

 

 

 ブレインが指をさしながら魔導王の正体を指摘した。

 

 その時──、

 

 

  ズドンッ!

 

 

 いつの間にかやって来た魔導王の部下の一人である闇妖精(ダークエルフ)のマーレが、目にも止まらぬ速さで杖をブレインに向けて魔法を放ち、彼の頭をあっけなく吹き飛ばしてしまった。

 

 アガネイアも、マーレの突然の不意打ちに反応できなかったようだ。

 

 そして、死んだ彼の体から色づいた何かが流れ出し、マーレの腕に装着されている籠手の中へと吸収されていった。

 

 

 「ブレインさん!?」

 

 

 慌ててクライムがブレインに駆け寄るが、もはや彼は首から上が存在しない、ただの物言わぬ死体となり果てていた。

 

 

 「ブレインさぁあああんッ!!!」

 

 

 クライムの慟哭が、赤褐色の平野に響き渡った。

 

 そんな彼を見ても実行犯であるマーレだけでなく、その主人である魔導王も特に気にした様子はなかった。

 

 

 「よせ。マーレ」

 

 

 軽い叱責を受けたマーレは粛々と頭を下げ、アインズの後ろへと下がった。

 

 

 「さて、部下が無体を働いてしまった詫びとして、彼を蘇生させたうえで王国に引き渡そう。ただ、そのためには一旦その遺体を持ち帰る必要がある。

 ……なので、アガネイアよ、そこをどいてくれるかね?」

 

 「いや、その必要はない。彼の遺体は、私が責任をもって王国に届けるさ」

 

 

 蘇生させた後で、彼の記憶を覗き見るつもりなのだろうと思い至ったアガネイアは死体の引き渡しを拒否した。

 

 そんな彼の態度を見て、マーレから怒気が沸き上がった。

 だが、こう言われては魔導王も引き下がるしかない。アガネイアが、ただの一介の兵士であれば、強引に死体を奪って持ち帰っていたところだが。

 

 魔導王はブレインの頭の中を覗けない事を、とても残念に思っていた。

 

 

 「……そうか。なら、無理にとは言わない」

 

 「彼が先ほど話した内容だが、キミが王都に悪魔を放ち、大勢の民を拉致したというのは、私や一部の者たちも知る所だ。やはり、私にはキミが世界の安寧を壊す存在に見えてならない」

 

 「私に、そんな気はないのだがな。いや、本当に………。まあいい。ところで、アガネイアよ。私の部下にならないか?」

 

 「断る」

 

 「聞いてくれ。私は強者を集めている。君の価値は、あんな王国よりはるかに勝る。君が我が配下になるのであれば、これ以上、黒い仔ヤギたちによる蹂躙をやめても構わない」

 

 

 そう言うと、魔導王は指を鳴らした。

 周りを見渡せば、あの黒い怪物たちが動きを止めていた。

 

 

 「…………」

 

 

 それを見ても、アガネイアは無反応だった。

 魔導王の目には、彼が王国にあまり興味がないように見えた。なので、これ以上の勧誘は無駄だと考え、諦める事にした。

 

 だが、彼と戦うつもりはない。

 魔導王としても彼の情報が分からない上に、準備も整っていない状態で戦うのは危険だと判断したためだ。

 

 そして、アガネイアも魔導王と戦うつもりはなかった。

 この場には側近のNPCと思われるマーレがいる以上、二人で連携されれば高確率で負けると判断したからだ。

 

 

 「……分かった。君に免じて今回は引き返そう。……王国の民に告げておけ。私に恭順するのであれば、慈悲を与えようと」

 

 

 そう言うと、魔導王とマーレは空中に浮かび上がり、怪物の背に乗った。

 

 

 「近日中に、エ・ランテルを速やかに引き渡すのであれば、この者たちが王都で暴れる事はない。王に、そう告げよ」

 

 

 そう言い残すと、魔導王はマーレを伴い、黒い怪物に乗りながら去っていった。

 

 

 あとに残されたクライムは、尊敬するガゼフとブレインの二人を失った事で立ち上がることができないほどに嘆き悲しんでいた。

 

 これが覚悟を決めた一騎打ちの末の戦死というのであれば、まだ受け入れる事ができた。

 だが、尊敬する二人の剣士のうち、一人は悍ましい化け物に連れ去られ、一人はゴミのように命を奪われたのだ。

 とても納得などできなかった。

 

 そして、彼の主観ではブレインの魂がマーレと呼ばれた少女の腕に吸収され、消滅してしまったように思えた。

 つまり、ブレインは、もう二度と生まれ変わる事ができないという事だ。それが、どれほど無慈悲で残酷な所業であるかは、宗教に詳しくない彼でも容易に理解できた。

 

 クライムは、ブレインの死体の前で悲しみと悔しさのあまり、いつまでも泣き止む事ができなかった。

 

 

 白金の騎士アガネイアは、魔導王たちを乗せて帝国の方へと向かっていく黒き怪物の背を眺めながら、クライムが泣き止むのを待ち続けていた。

 

 

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