アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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冒険者を引退するイビルアイ

◇ ────帝都アーウィンタール 冒険者ギルド

 

 

 私は、冒険者ギルドを訪れ、ギルド長から話があると言われ、呼び出されていた。

 

 どうやら、邪神アインズに関係する事のようだから、私はギルド長の部屋に結界を張った。マリアンヌほど強力ではないが、間者が潜んでいた場合は、すぐに感知できるだろう。

 

 

 「どういう事だ!?」

 

 「すまない、イビルアイ殿。我々では、どうする事もできんのだ……」

 

 

 ギルド長は、私のアダマンタイト級冒険者の資格を凍結すると言ってきた。それに納得できず、どういう事なのかと詳しい説明を求めていた。

 

 

 「『蒼の薔薇』が王国の第三王女を拉致し、魔導国に売り渡したそうだ」

 

 「なんだと!? 私の仲間たちが、そのような事をするわけがない!!」

 

 

 ずっと行方不明だった仲間の生存に喜びそうになったのも束の間、私は衝撃的な事実を教えられ、怒りに打ち震えた。

 

 

 「そもそも、以前にも話しただろう!? 私の仲間たちは、邪神アインズに捕らえられたのだと! つまり、そいつらは偽物か、本物だとしても洗脳されているに決まっている!!」

 

 「もちろん、私や一部の者も、そう思っている。だが、知っての通り、冒険者というのは信用が大事だ。彼女たちの潔白を証明できなければ、その主張も全くの無意味となる」

 

 「……ッ」

 

 

 私だって、頭では分かっていた。

 だが、そう言われて、はいそうですかと素直に納得できるわけがなかった。

 

 『蒼の薔薇』の仲間たちと活躍した日々は、宝石のように、かけがえのないものだから。

 

 

 「君が、彼女たちと別行動して、手引きを手伝ったという噂も出ているんだ。もちろん、我々は君の無実を信じているが、高位の冒険者ほど、醜聞(ゴシップ)は広められやすいものだ」

 

 

 それは、ある意味、有名税というやつだ。強い光になるほど、影も濃くなる。

 

 それだけ、私たちは活躍しすぎたという事だ。

 

 もっとも、後悔など微塵もないが。

 

 

 「……分かった。こうなっては、疑いが晴れるのは難しいだろう。私は、アダマンタイト級冒険者の地位を返上する」

 

 

 疑いを晴らしてみせる、と言いたいところだが、仲間たちはすでに殺されている可能性が高いのは理解しているし、仮に生存していたとしても、邪神は絶対に彼女たちを解放する事はないだろう。

 

 仲間たちの疑いを晴らすのは、もはや悪魔の証明だ。

 

 

 やってくれたな、邪神アインズ……ッ!

 

 

 流石に、わたしのアダマンタイト級冒険者の地位を失わせる狙いがあったとは思わない。ただ、仲間たちの地位を利用したに過ぎないのだろう。

 

 これで帝国はともかく、他の国では、かつての地位が利用できなくなった事は確かだ。

 

 今の自分は、何も知らない者から見れば、ただの仮面を身に着けた小柄な女でしかない。

 

 全く信用がないし、場合によっては、いちいち実力を証明し続けるという面倒な事をしなくてはならないだろう。

 

 いや、私の地位は、この際どうでもいい。

 

 だが、仲間の尊厳まで利用し、(けが)した邪神アインズ、貴様だけは絶対に許さんぞ!!

 

 

 

            +

 

 

 

 一方その頃、冒険者ギルドの一階の酒場では、暇を持て余した冒険者たちが駄弁っていた。

 

 

 「あ~、暇だぁ……」

 「全くだ。ここ最近、まともな仕事に有り付けやしねぇ……」

 「………」

 

 

 このテーブルを囲って飲んだくれている三人組のミスリル級冒険者たちも、それは同じだった。

 

 彼らは、ここ最近になって現れたクズル・クズクーズという請負人(ワーカー)に扮したクズ男・狂也によって、仕事を奪われていた。

 

 彼らが飯の種にしていた、カッツェ平野でのアンデッド討伐や、トブの大森林の魔物の間引きといった仕事を奪われているのだとか。

 

 

 「カッツェ平野でアンデッド退治でもするか?」

 

 「ダメだ。クズルの野郎が全部やってるよ。ってか、トブの大森林の魔物も、少なくなってるって話だ……」

 

 

 クズ男は請負人(ワーカー)であるゆえに、他の冒険者や請負人(ワーカー)の仕事を奪ってはならないというルールがない。

 

 

 「クソッ、あの野郎、調子に乗りやがって!」

 

 「だが、どうする? このまま仕事が激減してるんじゃ、よその国に行くしかないんじゃねぇか?」

 

 「余所ってどこだよ? 聖王国か、それとも竜王国か? 確かに、あの辺は亜人がわんさかいるらしいから、仕事には困らねぇだろうがな」

 

 「うっ……!」

 

 

 確かに、自分たちはミスリル級という、そこそこの強者を自負しているが、さすがに亜人の群れを相手に戦い続けろと言われても、命がいくつあっても足らない。

 そもそも、その国に命を懸けるほどの義理も愛国心もないのだから。

 

 ちなみに王国に行くという選択肢はない。

 少し前までは、帝国に隣接している城塞都市エ・ランテルに行くだけでよかったが、そこは現在では魔導国となっているからだ。

 王都まで辿り着くには、その魔導国を経由しなくてはならなくなった。

 

 アンデッドが支配する不気味な国なんかに行きたいと思う者は、荒事に慣れている冒険者であっても皆無だった。

 

 それに、最近の王国では、何やら不穏な空気が漂っているらしい。

 なんでも、人同士の戦争に関わってはならないという規則がある冒険者を、積極的を通り越して、脅迫めいたやり方で勧誘しているのだという噂だ。

 そんな国に、わざわざ他国から移住したがる冒険者など、ほぼいなかった。

 

 

 「じゃあ、クズルの野郎を闇討ちでもするか?」

 

 「無駄だ。アイツらが殺られたのを忘れたのか?」

 

 

 少し前に、彼らの知り合いである同格のミスリル級冒険者チームが、仕事中に偶然鉢合わせしたクズ男にケンカを売った事件があった。

 だが、結果はあっけなく全滅。クズ男は正当防衛を主張し、無罪放免となっていた。

 

 

 「……あの野郎、何者だよ。アイツらが全滅したんだ。冒険者で言うところのオリハルコン級か?」

 

 「いや、そんなもんじゃねぇだろ。その程度だったら、アイツらだって意地で腕の一本くらいは切り落とせたはずだからな。

 俺の見立てでは、奴はアダマンタイト級の実力はあるだろうよ」

 

 「……っ」

 

 「かと言って、クズルに不満を持っている他の請負人(ワーカー)の手も借りようにも、強い奴はもう残ってねぇしな……」

 

 

 たしかに、クズ男に不満を持ち、危険視している冒険者や請負人(ワーカー)は多い。

 だが、そもそも、帝国における腕の立つ請負人(ワーカー)は、アインズの支配する墳墓に侵入して行方不明となっている。

 強者はほぼ残っていないので、徒党を組んで彼を倒す事は出来ない。

 

 だから、いくら冒険者たちが彼に不満を持っていても何もできず、こうして酒場で悪口に興じる事しかできない。

 やれ、変な名前だとか。

 やれ、仕事が雑すぎるとか。

 やれ、腕っぷしが強いだけの三流だとか。

 同じような事を言い合うだけで、何も現状を変えられなかった。

 

 

 「……俺に良案がある」

 

 「……お、なんだ?」

 

 「この国で働こうと思っても仕事が見つからないが、それでもアダマンタイト級の奴ら、『銀糸鳥』や『漣八連』といった奴らには、ちゃんと仕事があるだろ?」

 

 「でも、俺らは、所詮ミスリル級でしかないからな……」

 

 「要は、やりようだ。箔を付けるんだよ」

 

 「箔を……?」

 

 「そうだ。さっき、仮面を着けたチビ女がいただろ?」

 

 「……ああ、確か、あの『蒼の薔薇』の一人だろ?」

 

 

 リーダーを務める男の話を聞いた他の二人は、先程ギルド長室に呼ばれたイビルアイの事を思い出していた。

 

 

 「最近、『蒼の薔薇』の奴らが悪事を働いた事は知ってるだろ? だから、あの女を使ってよ……」

 

 「……へへっ、なるほどな」

 

 「悪くねぇな……」

 

 

 

                 +

 

 

 

 視線を感じる……。

 

 周囲にたむろっている冒険者どもが、私の事を嘲笑しているらしいな。こいつらも、あの事件を知っているのか。

 

 いや、もう私は冒険者ではないんだ。今更、こいつらの評価など気にする必要はない。

 さっさと出よう。

 

 

 「おっと、ちょいと待てよ」

 

 「……なんだ、お前たちは? 私に何か用か?」

 

 

 出口に着く直前で、三人組の冒険者たちが立ちふさがって、通せんぼされた。

 こいつらの首元のプレートは………、ミスリルか。

 

 

 「聞いたぜぇ。王国の姫を誘拐したそうじゃねぇか」

 

 「それで、俺たち冒険者の評判が悪くなっちまったら、どうすんだよ?」

 

 「どう責任とってくれるんだぁ? まあ、とりあえず、ここにいる全員に慰謝料よこせや」

 

 

 『おおッ、そいつは妙案だな!』

 『おい、テメェらのせいで、俺たちの仕事が減ってんだから補償は大事だよなぁ!』

 『持ち合わせがなくっても構わないぜ! いい金貸しを紹介してやっからよぉ!』

 

 

 周りの奴らも、この三人の話に乗り気のようだ。

 

 

 ……はぁ、くだらない。

 そもそも、お前たちの仕事が減ったのは、あの事件のせいではないだろうが。

 

 

 どいつもこいつも、嫌な顔だ。

 正義を装っているが、ただ金が欲しいだけだ。

 

 

 「……私は、仲間たちの無実を信じている。そんな事をするヤツらじゃない」

 

 「はぁッ!? 何言ってんだぁ? お前の仲間が王国の姫を誘拐して、魔導国に運んだってのは誰もが見てんだよ!」

 

 「それは偽物だ。ギルド長も納得してくれている」

 

 「なにが偽物だ。うだうだ言い訳してないで、さっさと出すもん出せや、コラ!」

 

 「どうせ、テメェの仲間とやらも、大金や権力を魔導王から約束されたんだろうぜ。冒険者の評判を下げといて、自分たちだけ勝ち逃げとは、良いご身分だなぁ、おい!」

 

 

 そう言うと、三人組の一人が無遠慮に私の胸倉をつかんできた。

 

 大方、魔法詠唱者(マジックキャスター)であれば、魔法を唱える前に倒してしまえば良いだけだと思っているんだろう。

 

 おそらく、こいつらの目的は金だけじゃないのだろう。

 アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の一員だった者を倒せば、箔が付く事を狙っているといったところか。

 

 仲間を失い、容姿も貧弱。

 単独で行動する魔法詠唱者(マジックキャスター)など、近付けばどうにでもなると考えているんだろう。

 実に卑劣な奴らだ。

 

 そして、私の大事な仲間に対する、聞くに堪えない侮辱……。

 

 

 虫唾が走る!

 

 

 私は感情に任せて、胸倉をつかんでいる男の腕を強めに握った。

 

 

  グシャッ!

 

 

 「~~~~~っ!? ぐぁああああッ!?」

 

 

 ソイツの手は、押しつぶされて歪に変形していた。

 

 いや、貧弱すぎないか? そんなに強い力だったはずはないのだが……。

 

 

 ………ああ、そうか。自分は、強かったんだ。

 

 

 今更ながらに、私は自分が強いのだという事を思い出していた。

 

 

 なにせ、ヤルダバオト……、いや、キョーヤが言うには、デミウルゴスだったか。

 

 そして、その配下の上位悪魔である魔将たち。

 

 邪神アインズと謎の黒騎士アルベド、銀髪の吸血鬼シャルティア。

 

 それと、今の仲間であるキョーヤとマリアンヌ。

 

 そういった圧倒的な強者に囲まれているうちに、自分が強いのだという事を、すっかり忘れていた。

 

 

 「て、テメェッ!?」

 

 

 別の男が殴りかかってきたが、私は冷静に男の足に蹴りを放った。

 

 

  バキィッ!

 

 

 「う、うぁあああッ!? あ、足が……ッ!」

 

 

 その男の足は、私が軽く蹴っただけで、曲がってはいけない方向に折れ曲がっていた。

 

 

 ……それにしても、私はミスリル級冒険者というのに、奇妙な縁があるように思える。

 

 あのキョーヤだって、ミスリル級だった。まあ、彼の場合は素行不良ゆえに昇格できなかったようだが。

 

 そして、そのキョーヤに王都でケンカを売ってきた冒険者も、そして、つい最近この国で彼に返り討ちにされたという冒険者もミスリル級。

 

 ……そういえば、かつて、エ・ランテルを訪れた際、自分たち『蒼の薔薇』を妬まし気に睨んでいた男もミスリル級だった。

 あの時は、ガガーランが一瞥しただけで、その男は悔しそうに目を逸らしていたな。

 

 

 一つ上のオリハルコン級の連中は、割と品行方正だというのに、どうしてミスリル級というのは血の気が多くて無鉄砲なのか。

 

 まあ、だからこそミスリル級止まりなのだろうが……。

 

 

 「な、なんなんだよ……。お前は、魔法詠唱者(マジックキャスター)じゃなかったのかよ……!?」

 

 

 物思いにふけっていると、残ったリーダー格の男が何かを(さえず)っていた。

 

 周囲を見渡せば、私の()した事を見て、全員が黙り込んでいた。

 

 

 「……ああ、私は、れっきとした魔法詠唱者(マジックキャスター)さ。ただ、お前たちが貧弱なだけだ」

 

 「戦士より力が強い魔法詠唱者(マジックキャスター)なんて、そんなのありかよ……ッ! くそッ、ふざけんじゃねぇぞ!!」

 

 

 そう言うと、リーダーの男が剣を抜いて、私に襲い掛かって来た。

 

 やれやれ、今の私は冒険者を引退した、ただの一般人なんだがな……。

 

 

 その愚かな男が剣を振り下ろすより先に、素早い動きで懐に潜り込み──、

 

 

  ズンッ!

 

 

 ソイツの金的を蹴り上げてやった。

 

 

 「か……は…ぁ…………ッ」

 

 

 その男は無様に倒れ込み、白目を()き泡を吹いていた。

 

 その凄惨な光景を目の当たりにした周囲の冒険者たちは、皆一様に蒼褪め、自分の股を手で抑えて足を閉じていた。

 

 ……実に滑稽だ。

 

 

 「お前たちに言っておく。私の事は何とでも言え。だが、仲間を悪く言うのは許さんぞ?」

 

 

 最後にそう釘を刺して、私は冒険者ギルドを後にした。

 

 

 

               +

 

 

 

◇ ────皇城

 

 

 「……というわけで、陛下。ぜひ、イビルアイさんも仕えさせてほしいんです」

 

 

 後日、イビルアイは、最初に謁見した時とは逆にマリアンヌに紹介され、ジルクニフに正式に仕える事となった。

 

 

 「ああ、こちらこそ喜んで歓迎しよう。其方の仲間の事は、気の毒に思うが……」

 

 「いや、気にしないでくれ。仲間たちの事は、踏ん切りがついている。邪神アインズを倒すために全力を尽くす所存だ」

 

 

 ジルクニフは、表面上はイビルアイの仲間たちに起こった悲劇を(いた)んでいたが、内心では歓喜していた。

 

 なにせ、これで裏切り者のフールーダを閑職に追いやれる下地ができたのだ。

 

 あんな(やから)でも、いなくなれば周辺国家の蠢動(しゅんどう)を招く恐れがあったため、今まで排除したくても出来なかった。

 いつまでも、売国奴を近くに置くのはストレスでしかないというのに。

 

 そんな時に、イビルアイだ。

 彼女の、元アダマンタイト級冒険者の肩書は伊達ではない。

 

 研究においてはフールーダに及ぶまいが、こと魔法戦闘に限れば、あるいはフールーダと同等か、それ以上かもしれないのだから。

 

 彼女に付いた悪評は、帝国内であれば何とでもなる。

 彼女の仲間(あるいは偽物)が悪さをする前に、チームを離脱していた事にすれば良いだけだ。

 

 事実、もう二か月以上も単独で帝国に滞在しているのだ。皇帝である自分が、彼女の身の潔白を証明すれば、信じる者は多いはずだ。

 

 その件は、冒険者ギルドの長とも相談する必要がある。

 彼らは政治に関わるのを良しとしないが、世界を害する邪神に関連する内容なので、特例で認めてくれるだろう。

 

 

 「さて、改めてイビルアイよ。私の部下になるのだから、まずは相応の地位を用意せねばなるまい。

 それと、近いうちに其方の力が必要になる。期待しているぞ?」

 

 「………?」

 

 

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