アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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闘技場での密談

◇ ────帝都アーウィンタール 帝国闘技場

 

 

 皇帝たる私は、()()()()()試合を観戦するために、この闘技場を訪れていた。

 本当の目的は、スレイン法国の使者との密談を行うためだ。

 

 これが成功すれば、私の目指す対アインズ・ウール・ゴウン大連合の結成に一歩近づくだろう。

 

 現在は、皇帝専用の貴賓席にて、側近たちとの打ち合わせを行っているところだ。

 

 

 「では、この場の警護を頼んだぞ。聖女殿、イビルアイ」

 

 「お任せください。陛下と()()()方の身は、しっかりと守ってみせますわ」

 

 「私も、いざという時は〈集団転移〉で皆を逃がすから、安心して会談に臨んでくれ」

 

 

 聞けば、以前のイビルアイは、単独での転移しか使えなかったらしいが、聖女の助力のおかげで〈集団転移〉が使用可能となったらしい。

 それは、フールーダにしか扱えない高度な魔法だと思っていたが、イビルアイも使えるようになったとは、実に頼もしい限りだ。

 

 

 彼女たちならば、この場の警護を安心して任せられるだろう。

 

 

 本来であれば、我が国が誇るアダマンタイト級冒険者チームである『銀糸鳥』に任せる案件なのだが、彼女たちさえいれば十分すぎるくらいだ。

 

 

 聖女が結界を張り、アインズが送ってくる間者(スパイ)に対する防諜を行う。

 いざという時は、イビルアイが〈集団転移〉で皆を逃がす。

 

 そういう手筈だ。

 

 私の側には、信頼する側近にして護衛騎士である”雷光”バジウッドと”激風”ニンブルが控えている。

 いつもの秘書官は、今回は連れて来てない。

 

 そして、今や聖女専属の護衛であるレイナースは扉の前に控えている。

 彼女には、法国からの使者を()()()()役割を担ってもらっている。

 

 まさに完璧な布陣と言えよう。

 

 

 「さて、聖女殿」

 

 

 私は聖女に目配せすると、彼女は頷き、了承の意を示した。

 

 

 「レイナースさん、お願いします」

 

 「はっ」

 

 

 今のレイナースには、かつてのように直接命令するのではなく、その際は彼女の新たな主人である聖女を通すようにしている。

 別に彼女からそうするように頼まれたわけではないが、今の私は聖女に配慮しなければならない立場だからだ。

 

 

 聖女から指示を受けたレイナースが扉の前に立つと、腰から剣を引き抜き、その扉を思いっきり叩き壊した。

 

 凄まじい威力だ。さすがは”重爆”。呪いが完治したことで弱体化したという話だったが、それを微塵も感じさせない。

 彼女の得意武器の槍ではないにも関わらずだ。この数か月間の鍛錬で、元の実力を取り戻せたのかもしれないな。

 

 

 「「「…………」」」

 

 

 破壊された扉の先にいたのは、白いフードに身を包んだ怪しげな集団。

 中心にいる数人はフードを目深に被っただけだが、その護衛らしき者たちは完全に顔を隠していた。

 

 

 「ああ、うちの者が粗相をして申し訳ない。鍵を壊そうとしたら、扉まで壊れてしまったようだ。どうか、許して欲しい」

 

 

 うむ、予定通りに来てくれたな。あのような外見だが、別に怪しい者たちではない。スレイン法国の神官長とその護衛たちだからな。

 

 

 「さて、()()()()()とはいえ、こうして出会ったのも何かの縁だ。折角なので、我々の席で共に観戦してはどうだろうか?」

 

 「……そうですな。皇帝陛下からの折角のお誘いとあらば、是非ともご一緒させてください」

 

 

 そう宣言して、彼らは我々の貴賓席に入って来た。

 

 

  …………。

 

 

 さて、スレイン法国の神官長たちとの会談、もとい密談が始まった。

 ()()()()()()()()()()()のは、中々に幸先が良い。扉は完全に破壊されてしまったがな。

 

 

 いくら、聖女の結界による防諜が働いているとしても、このようなフードを被った怪しげな集団を城に招いては、あまりにも不自然で、なにより目立ちすぎる。

 だからこそ、この闘技場で()()()()()によって()()にも出会い、折角だからご一緒するという形をとる必要があったのだ。

 

 そのため、先程のような政治劇まで行う事になったわけだが、本当なら聖女の結界があるため必要ないのだ。

 だが、この結界の凄まじい性能まで彼らが知るはずもないから、こういった面倒な手続きも行わなくてはならなかったわけだが。

 

 

 早速、隣に座った男が特に挨拶する事もなく、小さな紙を渡してきた。筆談でのやり取りをご所望のようだ。

 結界の力によって会話が外に漏れ出る心配もないのだが、聖女の実力を知らない彼らに説明しても納得するとは思えなかったので、何も言う事なく紙とペンでのやり取りを行うとしよう。

 

 

 ……そう思った矢先の事だ。

 

 

 奴が、邪神アインズが、この闘技場に挑戦者として堂々と入場してきたのは……ッ!

 

 

 なぜだ!? なぜ、奴がいる!?

 まさか、こちらの動きを読んでいたというのか!!?

 

 

 不味い! 神官長たちが私を疑いの目で見ている!

 私がアインズと繋がり、彼らを売ったと思われているようだ……!

 

 しかも、あろうことか、奴は親し気に私に挨拶してきたではないかッ!!

 さらに、神官長らに目を向けて、紹介して欲しいとぬかしおった!

 なんと、悪辣な奴め!!

 

 これは、踏み絵だ。

 奴を取るか、法国を庇うのかを私に問うているのだ……。

 

 

 アインズが試合の場へと戻った後、なんとか、彼らの誤解を解こうとしたが、聞く耳を持ってもらえない……。

 私を不審な目で睨みながら、この場を去ろうとしていた。

 

 

 だが、その時、あの聖女が彼らを引き留めてくれた。

 ……いや、引き留めたというよりは、室内に閉じ込めたと言うべきだな。

 

 

 「な、なんの真似だ、これはッ!?」

 

 「その結界を解いて、我々を外へ出すのだッ!!」

 

 「申し訳ありません。この結界は、一度張ったら自分でも解除できないのです」

 

 

 ……殊勝な態度で謝罪しているが、絶対に嘘だろう。

 

 彼女であれば、いつでも結界を解除できるはずだ。

 

 

 「せめて、闘技場の戦いをご覧になられてはいかがでしょう? このまま、お帰りになられても、得られるものは何もないと存じますが?」

 

 「くっ……! 何をほざくか! 我々を愚弄しおって……ッ!」

 

 

 一触即発の空気だったが、彼女による巧みな説得によって、神官長らを留まらせる事ができた。

 

 彼女の機転の良さに感謝せねばな。

 

 

 ………。

 

 

 それにしても、邪神アインズ。

 奴の知略は私以上だというのか……!?

 

 だが、同郷らしい聖女が言うには、奴の知能はそこまで高くないとの事だ。

 

 神々(ぷれいやー)の世界には、『ちゅうがく』なる学び舎があるという。

 

 そこへ入るには、かなりの金を要するらしいが、経済的に恵まれなかったアインズは入れなかったそうだ。

 

 だが、たとえ貧しくとも、優秀な頭脳があれば入れる制度であるらしい。

 特待生のようなものだろうか。

 化け物並みの知能の持ち主でなくとも、()()()()()であれば問題なく入れるのだとか。

 

 そこへ入れなかった時点で、奴は天才どころか凡人でしかないと証明されているらしい。

 

 

 ……とすると、今回は奴の側近の智者の働きか、でなくば、よほどの幸運に恵まれたのか。

 

 

 いや、それより気になる事がある。

 

 

 先程のアインズは、イビルアイをじっと見つめていた。

 彼女の事が心の底から気に入らないという雰囲気が、私にも伝わって来た。

 

 何か奴を怒らせるような事を、彼女がしたのだろうか?

 話によれば、むしろ彼女の方がアインズに一方的に陥れられたはずだが……。

 

 

 事情はどうであれ、アインズに恨まれるような出来事があるのなら、私に正式に仕官する前に説明しておけと文句を言いたい!

 こちらまで、奴から恨みの矛先を向けられるではないかッ!

 

 

 イビルアイもまた、アインズへの怒りに燃えているようだがな。

 今にも襲い掛かるのではないか不安だったが、なんとか(こら)えてくれた。

 

 この場で戦いになったら、巻き添えを食らってしまうからな。

 

 イビルアイが先に攻撃を仕掛けたら、こちらの正当防衛を主張する事もできん。

 それどころか、奴は嬉々として宣戦布告の理由にするだろうな。

 

 

 ……もしかすると、アインズはイビルアイの引き渡しを要求してくるかもしれん。

 

 その時は、どう応じるべきか、今からでも考えておかねば……。

 

 

 一つ目は、素直にイビルアイを引き渡す。

 

 これだと、確実に聖女が敵になる。

 同じ聖女でも、あの聖王国の聖女とは違い、こちらの聖女は躊躇なく私を殺すだろう。

 なにせ、偽りの聖女だからな!

 

 

 二つ目は、アインズに彼女たちの抹殺の手引きをして、属国になる事を誓う。

 

 ……いや、やはり駄目だな。

 

 そうなると、城に間者(スパイ)が入り込み放題、監視され放題の毎日を送るはめになってしまう。

 心労により、私の髪の毛が危うい……。

 

 

 三つ目は、引き渡しに応じず、アインズと敵対する。

 

 こうなると、私に出来る事など、そう多くはあるまい。

 もはや聖女と、もう一人の暗躍中であるらしい(ぷれいやー)が、どう動くかにかかってくる。

 いっそのこと、皇帝の座を(ぷれいやー)に譲った方が良いのだろうか……?

 

 

 ……いずれにせよ、強大な拠点を持つアインズとは、戦力という意味では圧倒的に分が悪い。

 

 知略で補おうにも、向こうにも有能な智者がいるとなれば難しかろう。

 

 

 ……そう考えを巡らせているうちに、対戦相手である武王が入場したようだ。

 

 

 彼我(ひが)の戦力差を(くつがえ)すために、最後に頼りとなるのは、やはり人の心だろう。

 

 私は、これから無謀な戦いに挑む武王、いや、勇敢なる()()()を応援しよう。

 

 あの邪悪な神に、一矢報いてくれる事を祈って……!

 

 

 

 「武王……! かんばれぇえええええええッッ!!!」

 

 

 

 私は、人目を気にする事なく、大声で武王に声援を送った。

 

 聖女や側近、そして神官長らが呆気にとられた様子で私を見ているのを、ひしひしと背中から感じるが、構うものか。

 

 世界の危機を回避できるならば、応援でも何でもしてやるさ。

 

 

 

 

              +

 

 

 

 闘技場は、魔導王アインズ・ウール・ゴウンが登場した事で大いに盛り上がっていた。

 その名を知らぬ者は、この場にはいない。

 

 この帝国の同盟者にして、堅牢な城塞都市エ・ランテルを堕とし、魔導国を建国した強大なアンデッドの王だ。

 頼もしいというより、畏怖の感情の方が、はるかに強かった。

 

 そのアインズは、闘技場の中央に立ち、泰然たる態度で、自身に挑戦する戦士を出迎えようとしていた。

 この闘技場において魔法の使用禁止というルールがあり、魔法詠唱者(マジックキャスター)であるアインズにとって不利になるはずだが、それを感じさせない。

 どうやら、彼は近接戦にも自信があるようだ。

 

 

 アインズの紹介をした実況者は、戸惑う観客たちが落ち着く頃合いを見計らって、実況の続きを再開した。

 

 

 

 『続きまして、対戦相手の入場です!!』

 

 

 

 そこへ、一人の戦士が悠々と登場した。

 

 その者は、頭に兜を装着し、全身を覆うローブを羽織っていた。

 

 

 

 『長きに渡り、この闘技場に君臨してきた戦妖巨人(ウォー・トロール)ゴ・ギンを(くだ)し、新たに武王の座を勝ち取った人類の偉大なる英雄……ッ!!』

 

 

 

 先代の武王に比べて小柄だが、強大な力を秘めていると誰もが知っている。

 

 片手で戦斧を持ち、堂々と歩む姿は、まさに闘技場の王者たる風格……!

 

 

 その名は────、

 

 

 

 『クズル・クズクーズゥウウウウウウウッッッ!!!!』

 

 

 

 その英雄の名を聞いた観客たちは熱狂の声を上げた。

 

 無理もない。

 これまで、先代の武王ゴ・ギンが強すぎて、対する挑戦者が現れなかったのだ。

 

 圧倒的な身体能力を持ちながら武器まで使いこなす亜人の強者を、人間という脆弱な種族が打倒したのだ。

 注目されるのは必然だろう。

 

 

  ………。

 

 

 元々クズルは、本業である請負人(ワーカー)稼業の傍ら、金を稼ぐために闘技場に参加していた。

 圧倒的な強さで次々と勝利を収め、遂には帝国最強の闘士であった先代の武王ゴ・ギンを倒した。

 

 戦斧を振り回し、ゴ・ギンの首を頭ごと切り飛ばしたのだ。

 いかに再生能力が高い妖巨人(トロール)種であろうと、首まで生やす事は出来ない。

 

 そして、武王クズルが爆誕した。

 

 

 歴代武王の中で最強の実力者であったゴ・ギンを、肉体的な能力で劣るはずの人間が打ち勝ったのだ。

 

 自分たちと同じ種族である人間が武王となった事実に、観客たちは熱狂した。

 人間の持つ大いなる可能性を、彼は見事に証明してくれたからだ。

 

 武王クズルは、闘技場の王であると同時に、彼らにとってのヒーローなのだ。

 

 

  ………。

 

 

 クズルが、闘技場の中央にいるアインズと対峙した。

 それを見計らって、アインズが声を掛けてきた。

 

 

 「お前が武王か。私は、アインズ・ウール・ゴウン魔導王だ」

 

 

 アインズは、鷹揚とクズルに挨拶をした。

 まるで、自分の方が上位者であるかのような態度にも見えた。

 

 それに対し、クズルは会釈しただけで、言葉を交わす事はなかった。

 

 どうやら、寡黙で武人気質な戦士なのだろうというのが、アインズの抱いた感想だった。

 

 

 「ふっ、戦いに言葉は不要という事か……。気に入ったぞ、武王! 私が勝ったら、私のものになれ!」

 

 

 アインズが握手をするために手を差し出すが、クズルは応じず、ただ頭を軽く下げ続けるだけだった。

 

 

 「……そうか。馴れ合いは無用だったか。よかろう」

 

 

 握手を拒否されたが特に気にした様子を見せず、アインズは距離を取って武器を構えた。

 

 改めてクズルの姿を見たアインズは、奇妙な違和感を覚えていた。

 

 まず、戦斧を持っている腕を除いて、全身をローブで覆い隠していた。

 おそらく、戦いが始まると同時に脱ぎ捨てるのだろう。一種の観客向けのパフォーマンスというものだ。

 

 

 ただ、その腕には籠手が装着されていなかったのだ。

 兜をかぶっている事から、おそらくは全身鎧の姿なのだろうと思われる。

 本来、そのように鎧を着ている戦士であれば、大抵の場合は籠手も装着しているものだ。

 

 全身鎧なのに籠手を着けていない。

 それがアンバランスに思えて不自然さが際立ったが、戦いになれば分かる事だろうと、特に気にしない事にした。

 

 

 そうしている間に、いよいよ試合開始の合図の鐘が鳴り響く。

 

 

 

 『武王! やってしまえぇええええッッ!!!』

 

 

 

 合図の鐘と同時に、ジルクニフが大声でクズルへの声援を送った。

 

 彼の通りの良い美声は、この大観衆のなかでも、よく響く。

 

 

 それが気になったのか、アインズは観客席に座るジルクニフの方に一瞬だけ目を向けた。

 自身の同盟者が、対戦相手の方を応援する事が気になったのかもしれない。

 

 

 その隙に、クズルが目にも止まらぬ速さで、アインズに突っ込んできた。

 戦斧を持って()()()()()方の手を、(こぶし)の形にして。

 

 ()()()()のガントレットが装着された拳による強烈な一撃が、アインズに迫った。

 

 

 

 「うるぁああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 

 

 皇帝直々の声援が功を奏したのか、武王クズルの拳が、アインズの顔面に炸裂(さくれつ)した!

 

 まともに攻撃を食らったアインズは無様に殴り飛ばされ、あっけなく闘技場の壁に叩きつけられてしまった!

 

 

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