アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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武王 vs 魔導王

◇ ────帝国闘技場 選手(ひかえ)

 

 

 俺様は、狂也。

 いずれ、この大陸を、いや、世界を支配する大英雄様だ。

 

 今は、クズル・クズクーズというイカした偽名で、請負人(ワーカー)に身をやつしているけどな。

 

 おこがましくも武王を名乗っていた妖巨人(トロール)をぶっ殺した事で、新たな武王の座を勝ち取った。

 というより、ふさわしい人間の手元に渡っただけってのが正しい表現だな!

 

 

 今の俺様は、闘技場に出場する選手を管理する興行主の一人、オスクという男と契約中だ。

 

 以前、コイツが所有していたデカブツを倒した事で、俺様をスカウトしてきたんだ。

 死んじまったソイツの代わりなんだろうよ。

 

 まあ、金払いが良いんで雇われてやっているがな。

 

 

 俺様としても、金が手に入るのはありがたい。

 なにせ、あれだけ請負人(ワーカー)の仕事を熱心にしている割には、大して金が貯まらねぇんだ。

 

 これも、この国の娼館代が高いのが悪い!

 

 竜王国の5~6倍もの値段って、ぼったくりだろうが!

 おまけに、この近辺のモンスターは竜王国のケモノに比べて弱っちいらしく、討伐料が大して高くねぇんだ。

 

 ……もっとも、あの国では女王のドラウちゃんだけでなく、スレイン法国からも支援金が出されていたらしいが。

 

 たしか、あの国のお気に入りだった娼館の楼主が言ってた気がする。

 どういう理由で、法国が俺様のために金を出していたかまでは不明だがな。

 

 いや、人類の唯一の救世主が俺様だけだと見抜いたんだろうな。

 なかなか、見る目があるじゃねぇか。

 

 とはいえ、この帝国では、そうもいかねぇ。

 これまで目立たないように行動せざるを得なかったんで、村娘の一人も犯す事さえ出来やしねぇ……。

 だから、仕方なく馬鹿高い娼館を利用しなきゃならねぇから、一向に金が貯まらないわけよ。

 

 

 まあ、こうして我慢してきた甲斐あって、あの鈴木のクソ野郎を始末する機会に恵まれたんだ。

 これまでのような鬱屈とした隠れ家生活とも、おさらばよ。

 

 

 そして、奴をぶっ殺した後は、この国の皇帝も始末して、俺様が次の皇帝だぁ!

 

 竜王国で今も寂しく俺様の帰りを待っているドラウちゃんを、誰にはばかる事なく嫁として迎えに行ける。

 そうすると、あの国も自動的に併合されるわけだから、一気に大帝国が出来上がっちまうぜ!

 

 

 大帝国の皇帝となった未来の自分への想像が(はかど)る……。

 

 皇帝の務めとして、領土拡大のために亜人の集落を殲滅し、(たぎ)った体を静めるために自分専用に改造した豪華な寝室に入る。

 

 王冠を被った俺様を迎えるのは、煽情的な寝巻き(ネグリジェ)を着てベッドに横たわる四人の美しい妻たち。

 

 

 『おかえり、狂也様♡』

 

 おおっ、マリアンヌ! お前も皇妃の務め、ご苦労であったな!

 

 

 『キョーヤ殿、いや、陛下。その……、(わらわ)の格好、変じゃなかろうか……?』

 

 ドラウちゃんっ! そんな事ねぇぜ! 幼いながらも、俺様のために背伸びしてくれてる健気さが最高だぁ!

 

 

 『キョーヤ、私は子を産む事はできないが、一生懸命がんばるから……』

 

 ふっ、イビルアイ。そう気に病むな。俺様は、そんなに狭量じゃねぇからよ。

 安心して身をまかせてくれっ!

 

 

 『キョーヤ殿。これからは、陛下とお呼びします。不束者ですが、よろしくお願いいたします』

 

 うむ、レイナース。お前の忠義、しかと受け取った!

 これからは妻としても家来としても、じっくりと可愛がってやるぜぇ!

 

  ………。

 

 そんな素晴らしい場面(シーン)が、次々と脳内を埋め尽くしていくもんだから、どうしても顔がにやけちまうな!

 俺様の野心は今、熱く燃えているぜっ!

 

 

 「……なあ、武王よ。相手は、あの魔導王陛下だが、随分と余裕の表情を浮かべているじゃないか。なにか勝算があるのだな?」

 

 

 バラ色の妄想、じゃなかった空想に励んでいると、雇用主のオスクが話しかけてきた。

 まったく、いいところで邪魔しやがって、無粋な野郎だ。

 

 

 「はっ、魔法も使えない鈴木……、魔導王なんか雑魚もいいとこじゃねぇか。俺様の勝ち確に決まってんだろ?」

 

 

 話によると、あの鈴木の野郎がオスクの元にやってきて俺様と戦わせてほしいと頼み込んできたらしいな。

 得意の魔法をルールで禁止されてるってのに、なに考えてんだか……。

 

 

  『魔導王陛下の入場です!』

 

 

 闘技場から、実況の声が聞こえる。

 ……どうやら、本当の話らしいな。

 大方、近接戦でもボクちん最強です~、ってのを周囲に知らしめたいっていう幼稚な自己顕示欲だろうぜ。

 アホか! 調子に乗りすぎだろ!

 さすがは、イキリ骨野郎だな!

 

 

 「なあ、オスク。全身を隠せるローブとかねぇか?」

 

 「……? すぐ用意できるが、何に使うんだ?」

 

 「なぁに、大した事じゃねぇよ。試合開始と同時にローブを脱ぎ捨てるっていう、観客向けのパフォーマンスをするだけだ」

 

 

 もちろん、違う。

 

 本当の目的は、装備した武器と鎧を隠すためだ。

 これは、この世界じゃ作れない代物だからな。

 

 この装備を死蔵しておいてくれたマリアンヌには感謝しねぇとな。

 もっとも、本人も存在を忘れていたみてぇだけどよ。

 

 ただ、聖遺物級(レリック)だから攻撃力に難があるんだよなぁ……。

 

 こういう武器は、ゲームん中だと伝説級(レジェンド)装備を手に入れるための()()として使うような中級者向けだ。

 

 それに、この武器は俺様も使った事はあるが、残念ながら流行遅れだ。

 

 装備品ってのは、それ一つとっても複数の能力がある。

 【物理攻撃上昇】+【魔法防御上昇】+【火属性耐性】、といった具合にな。

 

 同じ等級でも、ゲームの時代が進むにつれて装備品の性能バランスが、より実践的に最適化されるんだ。

 だから、総合力では同じでも、新作と時代遅れの武器とでは性能差が激しい。

 

 おまけに、俺様の能力に適しているわけでもない。

 

 それは仕方ねぇか……。

 マリアンヌ本人も忘れ去っていたような装備だ。

 大方、ガチャ余りか、信者(ファン)からの貢ぎ物か何かだろうよ。

 

 

 この時代遅れな武器で、どこまで奴にダメージを与えられるかだな……。

 

 

 さらに、とある理由で俺様はモンク系のプレイヤーの中では、純粋な攻撃力が低めだからな。

 

 まあ、それ以外のメリットが大きいから、そういうビルドにした事に後悔はないが、今回のような闘技場での一対一(サシ)での決闘となると少しばかり不利だな。

 

 だいぶ前に白金鎧の変な奴にも、それで手こずっちまったしよ。

 

 それでも、相手は魔法の使えない魔法詠唱者(マジックキャスター)っていうクソ雑魚だから余裕で勝てるんだけどな!

 

 

 「よしっ、それじゃ、行ってくるかぁ! オスク、俺様の勝利を楽しみにしとけ!」

 

 「ああ、頑張れよ、武王……」

 

 

 言われるまでもねぇ!

 この戦いで、確実に奴を仕留めてやるッ!

 

 あのイキリ骨野郎さえいなけりゃ、気兼ねなく世界征服に乗り出せるんだからよぉッ!

 

 

 

            +

 

 

 

◇ ────闘技場

 

 

 実況が俺様の名を高らかに叫び、それに応えて威風堂々と入場した。

 

 闘技場を埋め尽くす大観衆が、新たな武王である俺様を歓喜の声を上げて迎える。

 

 これだよ!

 これこそが、本来俺様に向けられるべき称賛の嵐なんだ!

 

 目を見開いて、よ~く見とけよ、愚民ども!

 お前らの未来の主君の活躍っぷりをよぉ!

 

 

 目の前には、あの鈴木悟のクソ野郎が、まるで上位者のように振舞ってやがる。

 

 そして、あろうことか、負けたら手下になれとか、ほざいてきやがった!

 冗談じゃねぇ!

 

 誰が、テメェなんかの手先になるかよ!

 

 一瞬、奴の味方になったふりをして不意を打つ事を考えちまったが、やっぱり無しだ。

 負けたふりなんて我慢ならんし、何より、この場でアイツをぶっ殺さなきゃ気が収まらん!

 

 

 俺様が憤怒に燃えている間に、試合開始の合図の鐘が鳴り響いた。

 

 

 『武王! やってしまえぇええええッッ!!!』

 

 

 皇帝の声援が気になったのか、奴は俺様から目を逸らしやがった。

 とことん油断してんだな。

 

 だが、それが命取りだぜ!

 

 俺様は、あのイキリ骨野郎に一瞬で近づき、ユグドラシル産のガントレットを付けた(こぶし)でぶん殴ってやった!

 

 

 

              +

 

 

 

 「うるぁああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 

 武王クズルの強烈な一撃が、魔導王アインズを襲った。

 

 闘技場の壁にあっけなく叩きつけられたアインズは、しばらくの間、呆然としていた。

 

 まるで、自分の身に何が起きたか分からないという感じだ。

 どうやら、相当に油断しきっていたと見える。

 

 

 クズルは着こんでいた全身ローブを脱ぎ捨て、さらに戦斧まで投げ捨てた。

 そして、その腕に新たなガントレットを装着した。

 

 

 アインズが起き上がる前に接近し、彼の足を持ちながら闘技場の中央へと走り出した。

 

 

 「うぉおおらぁあああッ!!!」

 

 

 そして、アインズを思いっきり地面へと叩きつけた。

 その衝撃により、闘技場全体が揺れ動いたが、そのスリルが観客たちを大いに喜ばせた。

 

 

 「な、なんだと……っ!!?」

 

 

 クズルは狼狽した声を上げるアインズを無視し、彼の右腕を持ちながら右肩を足で抑えつけ、思いっきり引っ張った。

 

 

 「ふんがぁぁあああああッッ!!!」

 

 

  ガポンッ!

 

 

 思いっきり引っ張られたことで、アインズの右腕があっさりと肩から外れてしまった。

 クズルは、その骨の腕を闘技場の隅に投げ捨てると、隻腕となったアインズに向き直った。

 

 

 『行けッ! そこだぁッ! やれッ! やってしまえぇッ! 武王ーーッ!!』

 

 「くっ、クソッ!」

 

 

 アインズは腰にあるスティレットを抜き出し、クズルに突き付けた。

 

 この武器には、自分に寝返らせた帝国の老魔術師フールーダによる魔法が込められている。

 現地の人間と戦うために、それに合わせた威力となるようにした結果だった。

 

 

 「はっ、そんなもん効くかよ!」

 

 

 だが、クズルがダメージを負う事はなかった。

 余裕の動きでスティレットを弾き飛ばすと、アインズの顔面を連続で殴りつけた。

 

 

  ガッ! ゴッ! ドガァッ!

 

 

 アインズは困惑していた。

 自分だって、近接戦の訓練は怠っていないはずなのにと。

 

 

 (なぜだ!? 俺は、あの王国戦士長だったガゼフと近接戦で戦い、勝った事さえあるんだぞ!? なぜ、こんなぽっと出の奴に好き放題に嬲られてるんだ!?)

 

 「ぐぁ……ッ!? くっ、やめろ!」

 

 

 アインズは、一方的に殴られて焦ったのか、クズルに手を向けて〈時間停止(タイム・ストップ)〉の魔法を唱えた。

 

 だが、魔導王と名乗るアインズの魔法でも、彼には通用しなかった。

 

 

 「テメェッ! なに、魔法なんて使ってんだ、ゴラァッ!!」

 

 

  バキィッ!!

 

 

 時を止められる事もなく、彼は問題なく行動できる程の強者だったらしい。

 それに、現在のアインズの装備は試合に合わせた貧相なものであるため、上手く効果を発揮できなかったのかもしれない。

 

 堂々とルールを破ったアインズに抗議する意味を込めて、先程よりも強めに殴りつけた。

 

 

 「ぐぁ……っ!?」

 

 『おおおッ! 武王ッ! トドメ刺せ! トドメを刺すんだぁあああッ!!

 ぶおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』

 

 

 クズルは皇帝からの大声援を聞き流しながら立ち上がって兜を脱ぎ捨て、その素顔をさらけ出した。

 

 決め顔で観客に(こぶし)を掲げ、ここぞとばかりに自分の存在をアピールし始めた。

 

 

 『おおっ、武王のご尊顔だぞ!』

 『武王、かっこいい~!』

 『見て、美男子だわ! 素敵ッ!』

 『キャーッ! クズル様ーーッ!!』

 

 

 今まで兜で素顔を隠していた武王の顔が(あらわ)になり、観客が騒ぎ始めた。

 

 予想以上に美男子だったため、特に女性客からの人気が急上昇していた。

 

 

 「な、んだと……。なぜ、お前がここに……? いや、それより、なぜ生きている!? 答えろ、狂也ぁッ!!」

 

 「おいおい、勝手に死んだ事にしてんじゃねーよ。テメェこそ、こんな闘技場にノコノコと姿を現しやがって。ばっっっかじゃねぇの!」

 

 『やれーッ! そこだぁッ! 武王! ぶおおおおおッ!!』

 

 

 彼とアインズは、どうやら知り合いだったらしい。

 それに、なにやら確執があるようだ。

 

 クズルは、尻もちをついたままのアインズの胸倉をつかみ、勢いよく地面へと叩きつけた。

 

 

 「っぐぅ……ッ!」

 

 

 そのまま馬乗りになってマウントを取ると、勝ち誇った顔で彼にささやいた。

 

 

 「なぁ、覚えてるか? 前にも……、といってもゲーム時代なんだが、こうしてテメェを()いつくばらせてやった事があったよなぁ?

 俺様も、つい最近になって思い出したんだがよ」

 

 「な、何のことだ……?」

 

 「まあ、思い出さなくとも構わねぇよ? けど、あれは爆笑もんだったなぁ。テメェらが頑張って手に入れたアイテム、なかなか良かったぜぇ? ごち、そう、さん!」

 

 「アイテム、だと……?」

 

 

 なおも困惑するアインズの耳に向けて、クズルはある言葉をささやいた。

 

 

 「……この、『異形種が。キモいんだよ』」

 

 「……っ! ま、まさか、あの時の……っ? お前らだったのか……ッ!?」

 

 『武王ッ! トドメだッ! どうか、トドメを刺してくれぇえええッ!!

 ぶおおおおおおおおおッッ!!!』

 

 

 アインズはゲーム時代に謎の集団から不意打ちで襲われ、仲間たちと協力して手に入れた貴重なアイテムを奪われた事があった。

 クズルの一言によって、その時の苦い記憶が鮮明に蘇ってきたようだ。

 

 

 「覚えていてくれたかッ! ぶひゃひゃッ! 俺様、とっても嬉しいぜッ!

 テメェも、そう思うだろぉ!? さぁぁぁぁぁとるくぅぅぅぅんッッ!!」

 

 

 アインズは、当時を思い出していた。

 貴重なアイテムを手に入れ、大切な仲間たちと喜びを分かち合った記憶を。

 

 そして、その直後に目の前で全て奪われた苦々しい記憶を。

 仲間たちとの友情の結晶を、横から奪い去った犯人グループに対する憎しみを。

 

 犯人たちは全身鎧で姿を隠していたため、目の前にいる男が犯人だと今まで気づけなかった。

 それに、あの時は気が動転していて、犯人たちの名前もろくに記憶できなかったのだ。

 とはいえ、課金アイテムを使えば改名できるので、覚えていたとしても役に立っていたかは怪しいが。

 

 

 「お、お前が……ッ! お前がぁああああッ!!」

 

 

 激高したアインズの手から、火炎魔法が放たれようとしていた。

 

 

 「うぉッ! あぶねッ!!」

 

 

 クズルは素早い反射神経で、直撃を見事に(かわ)した。

 

 だが、その魔法は二階の観客席を粉々に破壊する事となった。

 

 

  ズドォォオオオンッッ!!

 

 

 『うわぁあああッ!?』

 『いやぁあああッ!!』

 

 

 そして、二階が崩れ落ちたため一階にも瓦礫が落下し、大勢の観客たちが生き埋めになってしまった。

 

 

 『きゃああああッ!!?』

 『お母さぁああんッ!!』

 『こ、子供が下敷きに! 誰か助けてぇッッ!!』

 

 

 もはや闘技場は観客たちの悲鳴で溢れ返る、阿鼻叫喚の地獄と化してしまった。

 

 

  ………。

 

 

 「テメェッ!」

 

 

 クズルは激怒した。

 この神聖なる闘技場で、無粋な魔法を使ったアインズに。

 

 再び彼の胸倉をつかみ背中を地面に叩きつけ、拳を振り上げた。

 

 

 「だから、ルール破んなって言ってんだろうがぁッ!!」

 

 

  バキィッッ!!

 

 

 彼は闘技場の(ぬし)として、魔法を使うという所業を許せなかったようだ。

 

 二度もルールを破ったアインズを罰するべく、武王クズルは怒りの鉄拳をお見舞いした!

 

 

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