アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

38 / 57
進撃のクズ男

◇ ────帝国闘技場 貴賓(きひん)

 

 

 アタシは、真なる聖女マリアンヌ。

 今は、皇帝とスレイン法国の使者の護衛のために、闘技場まで訪れてるの。

 

 そんで、威厳を持って試合に参加してきた鈴木悟の奴が、一方的に殴られている様を面白おかしく見ていたんだけど、ソイツ、いきなり魔法を観客に向けて放ってきてさぁ。

 さすがのアタシでも引くわぁ。

 

 狂也のヤツが何か言ったみたいだけど、まさか、ここまでなりふり構わず魔法をぶっ放してくるなんて。

 

 ……まあ、これはこれで良い結果かな。

 

 どうもさぁ、なんだかんだで鈴木の奴と折り合いを付けながら、共存できるんじゃないかって考えているような、頭お花畑の連中もいるみたいだったからね。

 これで、そういった連中の目も覚めるでしょ♪

 

 あと、なんでか武王をやってる狂也が、ルール破るなとか言いながら鈴木を殴りまくってるけど……。

 もうさぁ、そういう次元じゃなくない?

 

 

 皇帝のジルクニフくんは、必死になって死傷者の救助を命じてる。

 うんうん、良い王様だねっ。

 

 けど、最近は落ち着いてきた抜け毛が、また再発しそう!

 ぷーくすくす!

 

 

 「がんばれ、キョーヤ……っ!」

 

 

 隣を見ると、イビルアイが狂也に向けて祈りを捧げてる。あの仮面の下は、絶対に恋する乙女の顔だわ。

 アンタ、男の趣味わるくない?

 

 え? アタシ?

 まあ、将来アイツが皇帝の座に就いたら、その(きさき)になって皇太子を産む予定ではあるんだけど。

 でも、それは単に他に良い男がいないから、消去法で選んだだけだし!

 

 

  ………。

 

 

 スレイン法国の使者たちは、険しい顔をしながら相談し合ってる♪

 

 いいねぇ。こちらの都合の良い形になってきた!

 

 まあ、これで全世界が鈴木悟に敵対するわけじゃないでしょうけど、アタシの望む形には一歩近づいたかなぁ?

 

 

 「さて、そろそろ(わたくし)も参戦する事になるかもしれませんね。

 イビルアイさん、レイナースさん、その時は後の事をお任せしますね?」

 

 「マリアンヌ様も戦われるのですか? もう、キョーヤ殿の勝利は揺るがないと思いますが……」

 

 「レイナースさん、まだ油断は禁物ですよ? 相手はあの邪神ですから、どんな卑劣な手段をとるか分かりません。

 突然、奴の配下が大勢現れても不思議ではありませんからね」

 

 「……たしかに」

 

 

 レイナースには、あらかじめ、鈴木との対決を避けるように命じてある。

 神々の戦いに人間の身で介入できるわけがないと説得したら、渋々ながら納得してくれた。本人は、アタシの戦力になれない事を悔しそうにしてたけど。

 

 彼女には最初から戦力として期待してないんだから、そんなに気にしなくって良いのにね。

 実際、従者としてなら十分に役立ってくれているし。

 

 

 ───主に嫌われ役として。

 

 

 一応アタシは、慈悲深い清廉な聖女様で通っているから、あまり人の目がある場所で無体な真似はできないんだ。

 だからか、アタシの美しさにひかれて寄ってくる羽虫どもや、こちらの慈悲深さを利用して怪我や病気を無料(タダ)で治療してもらおうと画策する不届き者が多いのよ。

 

 それこそが、聖女ロール……、じゃなくて聖女としての振る舞いの最大の弱点ね!

 

 そんな奴らでも、人目がある場所で拒絶し続けていたら悪い噂が立ってしまい、アタシの名声に傷がつきかねない。

 

 けど、レイナースが積極的に有象無象の虫どもを追っ払ってくれるおかげで、アタシは慈愛の聖女としての面目を保っていられる。

 

 

 ただ、重病の子供を抱きかかえてアタシの前に(ひざまず)いてきた母親がいたけれど、アレは例外的に気持ちの良い存在ね。

 

 

 アタシが本当に厄介に思ってるのは、自分の家までアタシを引っ張って行って家族を治療させようとする(やから)だ。

 いちいち、そんなものを治しても名声はこれっぽちも高まらないっつーの!

 一番始末が悪いわね! 身の程を弁えろっての!

 

 

 そんなはた迷惑な連中と違い、あの親子だけは褒めてあげても良いわ!

 

 その子供を、アタシは快く治療してあげたよ。

 なにせ、その母親は人目の多い場所で、健気にアタシに懇願してきたんだからさ。

 

 大勢の人間の前で、(きら)びやかな演出効果(エフェクト)を出しながら治療してあげたら、その周辺一帯がアタシを褒め称える声で(あふ)れ返った。

 

 これよ!

 これこそが、アタシの望んだシチュエーションなの!

 

 治療代? もちろん、無料(タダ)で治してやったわ。

 むしろ、こっちが金を払っても良いくらい!

 

 なにせ、アタシの聖女伝説を(いろど)る見事な働きっぷりだったもの!

 

 

 それでも、レイナースは治療代を取るべきだって言ってくれたけど、そんな彼女の言動もアタシにとってプラスに働いたわ。

 堅物な従者を、主人である聖女が慈愛のこもった微笑で、やんわりと(たしな)める。

 それによって、さらに名声が高まるという好循環よ。

 

 

 はっきり言って、レイナースは従者として気が利きすぎてる。

 こんなにも、アタシに都合が良いように行動してくれるのだから。

 

 もう、優秀という言葉では言い表せないわね……。

 アタシの心の内を、実は分かっているんじゃないかって、怖く感じる時があるもの。

 

 まあ、アタシたちの波長が、かなり()み合っていたっていう事なんでしょうけどね。

 

 おまけに、元貴族令嬢だから貴族社会に詳しいし、騎士としての活動の経験から帝都の地理にも明るい。

 

 本当に、良い拾い物だったわ!

 

 ふふっ、この調子で名声を高めていけば、伝説の大聖女として名が残るのは確実ね。

 

 あの鈴木悟を始末したら、次は聖王国にも赴いて、アタシの力を存分に見せつけてもいいかもね。

 天使が崇拝されている国みたいだから、高位天使を召喚して見せれば、アタシを信仰する宗教が作られるのは必然。

 

 この帝国を乗っ取るついでに、聖王国だって簡単に併合できるようになるから、一気に大帝国が出来ちゃうわね!

 

 

 

            +

 

 

 

◇ 

 一方、その頃の闘技場では───、

 

 

 

 「だから、ルール破んなって言ってんだろうがぁッ!!」

 

 

  バキィッッ!!

 

 

 「こんな所にまで、のうのうと現れやがってよぉ!!」

 

 

  ズガァッ!!

 

 

 「身の丈に合わない力を手に入れて、調子に乗ったんだろッ!?」

 

 

  ドゴォッ!!

 

 

 「だから、テメェは……ッ!」

 

 

  ゴシャッ!

 

 

 「イキリ骨野郎なんだよぉおおおッッ!!!」

 

 

  バギィィッッ!!

 

 

 

 アインズは、武王クズルの猛攻に、何の抵抗もできずに一方的に殴られていた。

 

 

 「……っく、クソがッ!」

 

 

 彼は、またもや得意の魔法を放ち、抵抗しようとするも──、

 

 

 「魔法つかってんじゃねーよ! ってか、これで3度目だぞ、テメェッ!?」

 

 

  ドガァッッ!!

 

 

 この至近距離で魔法を放とうとしても、クズルに容易に察知され、殴られて発動できないでいた。

 

 

 「この骨野郎がッ! 死ね! 死んで腐ってしまえぇええッッ!!」

 

 

  バギッ! ドガァッ! ズガァァアッッ!!

 

 

 「……ぅあッ! ぐはッ…ぁ……ッ!」

 

 「ふーッ! ふーーッ! ………へへ、悟くんよぉ? 今まで散々苦しめられてきたが、テメェの時代はもう終わりだな」

 

 

 クズルは、(こぶし)を振り上げた。

 まさに、トドメを刺さんとする構えだ。

 

 

 「本当は、もっと苦しめたかったんだが、まあ仕方ねぇか。弱者だった分際で、せっかく成り上がったのに残念だったなぁ。っつーわけで、死ねや、イキリ骨野郎」

 

 

 アインズのがらんどうの頭の中は、今までの輝かしい思い出が走馬灯のように蘇っていた。

 仲間たちとの楽しかった思い出、彼らの(のこ)した子供らの頑張り。

 

 クズルの振り上げた拳を見つめながら、その幸せな記憶が次々と頭をよぎっていた。

 

 

 (あぁ…、ぁぁ……、俺は、こんなクズの手に掛かって死ぬのか? まだ、俺は何も成し遂げていない。仲間たちとも再会できていないんだ……。

 なぜだ? なぜ、俺がこんな目に合わないといけないんだ? 一体、俺が何をしたっていうんだよ……ッ!)

 

 

 世の不条理に打ちのめされているアインズに対し、クズルが容赦なく拳を振り下ろさんとした、まさにその時──、

 

 

 クズルの首を目掛けて鋭い(やいば)が襲った。

 

 

 「……ッ!? ッチ、なんだぁッ!?」

 

 

 クズルは、とっさに腕で防御し、突然の不意打ちを防いだ。

 

 

 見ると、そこにいたのは、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)

 今まで不可視化して、アインズの身辺警護をしていたと思われるモンスターだ。

 

 

 『よくも、アインズ様にお怪我を!』

 『性懲りもなく至高の御方に歯向かう愚物め!』

 『その罪、死をもって(あがな)え!』

 

 

 そのような声が聞こえ、いくつもの刃がクズルに襲い掛かると同時に、十数体の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が姿を現していた。

 

 

 「鈴木ぃッ! 魔法を使うだけじゃなく、手下まで乱入させやがってッ! どんだけルール破れば気が済むんだ、テメェッ!?

 おい、聞いてんのか、鈴木ぃいいいいッッ!!」

 

 

 クズルは、次々と襲い掛かる八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を迎撃する。

 彼らは、姿を隠しての暗殺を得意とするが、レベル自体は低い。現地の人間にとっては脅威だが、高位のプレイヤーには通用しない。

 

 

 「ええいッ! 邪魔だぁあああああッッ!!」

 

 

 クズルの拳によって殴られ、あるいは刃を(つか)まれて投げられ、(むし)たちが次々と観客席の方へ飛ばされていく。

 

 

 『きゃぁぁあああッッ!!?』

 『逃げろッ! 巻き込まれるぞ!!』

 

 

 それらが強烈な飛来物となって観客たちに命中し、さらに多くの死傷者を生み出す結果となってしまった。

 

 

 「お、お前たち……ッ!」

 

 

 アインズは、命を()して自分の身を守ろうとする配下たちの姿に感極まっていた。

 

 そして、そんな彼らをゴミのように虐殺していくクズルを憎悪の眼差しで睨みつけ、再び魔法を唱え始めた。

 

 

 

             +

 

 

 

◇ ────貴賓(きひん)

 

 

 「うわっ!?」

 「なんなのだ、この魔物はっ!?」

 

 

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の一体が、皇帝がいる貴賓席にも飛ばされてしまったようだ。

 幸いにも、マリアンヌの張った結界に阻まれて、内側にいる賓客は無事だった。

 

 ちなみに、その個体は、強固な結界に当たった衝撃で絶命していた。

 

 

 「さて、そろそろ頃合いでしょうね。それでは陛下、そして皆さん、行ってまいります」

 

 

 マリアンヌは、上品にカーテシーをして、ジルクニフや法国の使者に別れの挨拶をした。

 

 

 「マリアンヌ、私の分まで頼んだぞ」

 「マリアンヌ様、どうか、ご武運を……」

 「聖女殿、いろいろと聞きたい事はあるが、今は頼んだ。必ずや、あの邪悪な神を討ち滅ぼしてくれ」

 

 

 「待て、戦うというのか? 其方のような、か弱き女性が……?」

 

 

 法国の使者たちが、心配そうにマリアンヌに声を掛けた。

 常人では介入できない程の危険極まりない戦場に、可憐な女性が行った所で何ができるのかと考えているのだろう。

 

 だが、彼らは知らない。

 か弱いと見なしているマリアンヌが、実は、あの邪悪な化け物の外見であるアインズを、さらに上回る怪力の持ち主である事を。

 

 そして、自分たちが崇める神の一柱である事を。

 

 

 「使者殿、実は彼女の正体こそ、貴方方の崇める(ぷれいやー)なのだ」

 

 「な、なんと……ッ!? それは、(まこと)なのか!?」

 

 「はい、今まで隠してきましたが、実は(わたくし)と邪神アインズは、同じプレイヤーなのです」

 

 「あ、貴女は……、貴女様は本当に神であらせられるのか……ッ!?」

 

 

 彼らの目に希望が宿り始めていた。

 

 プレイヤーが出現する百年の揺り返しに確認できたのは、まさかの邪神。

 神が微笑む事などないと絶望していた所に、実はマリアンヌという神が降臨したと教えられたのだから。

 

 だが、まだ彼らは半信半疑だった。

 実際に力を見ない事には判断のしようがない。彼らは、慎重に物事を見極めんとしていた。

 

 

 「そして、今もアインズと戦っている武王クズル……。本名は狂也と言いますが、彼もまた今まで暗躍していたプレイヤーなのです」

 

 

 これには、ジルクニフも驚いていた。

 彼女の話に出ていた、もう一人の神が武王の正体だった事に。

 

 法国の使者たちも、武王クズル、いや、クズ男・狂也を食い入るように見始めた。

 そうだ、彼は、あの竜王国の”暴虐の英雄”ではないかと、今更ながらに気が付いていた。

 

 元々、彼の事をプレイヤーか、あるいは神人であると推測していたが、まさかのプレイヤーであり、今も邪神と戦ってくれている勇姿に崇拝の念が湧き上がってくる。

 

 邪悪を滅する善神であるならば、そのチンピラ然とした雰囲気も、勇壮の戦神のように思えてくるから不思議なものだ。

 

 

 「皆さん、この結界は、(わたくし)が不在でも壊れないようになっておりますので、ご安心くださいませ。

 そして、不測の事態が起きた際には、こちらのイビルアイさんが〈集団転移〉で安全な場所までお送りする手筈となっております。

 それでは、イビルアイさん。後の事はお願いしますね?」

 

 「ああ、任された」

 

 

 イビルアイに後を頼むと、マリアンヌは俊敏な動きで闘技場に向かって飛び立った。

 

 ジルクニフの言葉を信じた一部の者は、彼女の背に向けて祈りを捧げていた。

 

 

 (ふふふ、皆がアタシに注目してる。ここに来て、ようやく実力を見せつけるチャンスが訪れたってわけね!)

 

 

 マリアンヌは、聖王国を治めているという女王もまた、聖女と(うた)われている事に不満を抱いていた。

 その面識のない女性の事を偽物だと一方的に決めつけており、自分の力を披露する機会を、ずっと待ち侘びていたのだ。

 

 その偽聖女なんかより、美貌も能力も、そして若さ(肉体(アバター)の外見年齢)も……、聖女として必要な資質が何もかも上回っているはずだと。

 唯一、あちらが勝っているのは身分だけだと見なしていた。

 

 だが、今回の邪神討伐で成果を上げれば、そんなものは十分すぎるほどに(くつがえ)せる。

 マリアンヌは、そう考えていた。

 

 

 闘技場では、アインズが複数体の死の騎士(デス・ナイト)青褪めた乗り手(ペイルライダー)などを召喚していた。

 大方、クズ男の進撃を(さえぎ)る盾にするつもりなのだろう。

 

 もはや、ルール破りなど気にもしていないようだ。

 

 まずは、その厄介なアンデッドに対処すべく、マリアンヌは伝説(レジェンド)級の聖印を掲げ、神聖なる魔法を唱え始めた。

 

 

(存分に見せてあげるわ! この真なる聖女、マリアンヌ様の実力をねッ!)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。