アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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闘技場に舞い降りた偽聖女

◇ ────帝国闘技場

 

 

 「《聖なる慈雨(ホーリー・レイン)》」

 

 

 天気が晴れなのにも関わらず、闘技場に雨が降り注いだ。

 偽りの聖女マリアンヌが詠唱した魔法によって降り注ぐ、陽光のように光り輝く雨だ。

 多くの死傷者がいる地獄から一変して、神秘的な光景だった。

 

 この魔法の回復力は微少だが、元々体力の少ない観客たちにとっては十分な応急処置になったようだ。

 

 

 人々が空に目を向けると、神聖なる雰囲気を携えた美しき少女がゆっくりと舞い降りてきた。

 その少女はこの世の者とは思えないほどに美しく、さらに体中から神聖なる光を発していた。

 

 彼女を一目見た者は、女神の降臨だと認識した事だろう。

 

 もちろん、そんな事はない。ただ、自分をより魅力的に魅せるための魔法的な演出効果(エフェクト)を出しているだけだ。

 

 

 『聖女様だ……』

 『おぉ……、聖女様が降臨なされた!』

 

 

 観客の中に、休暇で観戦に訪れた騎士たちが、まず最初に声を上げた。

 かつて、戦場で瀕死の所をマリアンヌに救われ、彼女を崇拝するようになった騎士たちである。

 

 

 『聖女様!』

 『あぁ…、なんと美しい……!』

 

 

 観客たちは、信心深い者から祈りを捧げた。

 

 

 「なんだ、あれは……ッ?」

 

 

 アインズも驚愕した様子で彼女に目を向けた。

 

 

 「ムホホッ」

 

 

 そして、クズ男・狂也は、自分の真上から降りてくるマリアンヌのスカートの中を熱心にガン見していた。

 

 

 「狂也様、ご無事でしたか?」

 

 「おおっ、マリアンヌ! よく来てくれた! さっさと、あのイキリ骨野郎をぶっ殺してやろうぜ!」

 

 

 クズ男と親し気に話している聖女の姿を見たアインズはというと、混乱真っ最中だった。

 

 

 「なん…、なんだ……? 一体、お前は何なのだッ!?」

 

 「改めまして、ご挨拶申し上げますわ、魔導王陛下。(わたくし)は、聖女マリアンヌ。またの名を奈緒美と申します。以後、お見知りおきを」

 

 

 マリアンヌは慇懃(いんぎん)に挨拶をした。

 

 日本語での名前を聞いたアインズは、聖女マリアンヌもまたプレイヤーだったと、ようやく気づいた。

 

 

 「ってわけで、仕切り直しだぁ!」

 

 

 アインズが呆けている間に、クズ男が駆け出した。

 敵の配下が救助に駆け付けるまでに、決着を付けようという腹積もりなのだろう。

 

 我に返ったアインズは、クズ男の進撃を阻止すべく、急いでアンデッドたちを差し向けた。

 その手には、いつの間にか伝説(レジェンド)級の(スタッフ)を装備していた。この僅かな時間で取り出したのだろう。

 だが、全身装備まで整える時間的余裕はなかったようだ。

 

 

 主人を守るために、死の騎士(デス・ナイト)が、クズ男の前に立つ。

 

 本来、死の騎士(デス・ナイト)は、相手からの攻撃を必ず一度は耐えるという能力があり、弱くとも盾として有用のアンデッドだ。

 

 だが、そんな優秀なアンデッドが、クズ男の一撃であっけなく倒されてしまった。

 

 この雨の影響だ。

 アンデッドにもダメージを与えられる《聖なる慈雨(ホーリー・レイン)》だが、本来なら無視しても構わない程に微少なものだ。

 だが、一発耐えてHPが1になった死の騎士(デス・ナイト)であれば、簡単にトドメを刺される事になる。

 

 そのため、この場における死の騎士(デス・ナイト)は、実質たった一発で倒されてしまう雑魚と化していた。

 

 

 代わりの時間稼ぎの役目を果たすべく、青褪めた乗り手(ペイルライダー)がクズ男を攻撃するも、彼は立ち向かうのではなく後ろに下がった。

 

 そこへ───、

 

 

 「魔法二重化(ツインマジック)……! 《善なる槍(ホーリー・ランス)》!」

 

 

 マリアンヌが放った神聖なる魔法によって、青褪めた乗り手(ペイルライダー)は、あっけなく撃ち滅ぼされた。

 

 

 「クソッ! 第十位階不死者召喚(サモン・アンデッド・10th)! ……《破滅の王(ドゥームロード)》!」

 

 

 新たに召喚されたのは、()び付いたような王冠を身に着けた大柄な体躯の近接系アンデッドで、対戦士用の盾役として運用すればレベル以上の力を発揮する。

 

 勢い余って放たれたクズ男の(こぶし)が、アインズの代わりに破滅の王(ドゥームロード)に直撃した。

 

 

 「《負の爆裂(ネガティブバースト)》!」

 

 

 その隙にアインズが負の魔法を唱え、試合でダメージを食らっていた自分と、周囲のアンデッドたちを少しでも回復させていく。

 それにより、クズ男によって千切られていた右腕も生やす事に成功した。

 

 

 「魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)……! 《善なる極撃(ホーリー・スマイト)》!」

 

 「オラオラオラぁああッ!!」

 

 『ぐ、グォオオオオッ!?』

 

 

 マリアンヌが放った清浄な青白い光が柱のように降り立ち、破滅の王(ドゥームロード)を包み込む。

 そこへ、クズ男が追加で攻撃を加え、敢え無く撃ち滅ぼされた。

 

 

 「《心臓掌握(グラスプ・ハート)》!」

 

 

 破滅の王(ドゥームロード)が稼いだ僅かな時間で、アインズは即死魔法をクズ男に放った。

 

 だが、相手が死の支配者(オーバーロード)である事は分かっているので、彼は事前に即死耐性を持つアイテムを装備しており死ぬ事はなかった。

 

 その代わり、追加効果による朦朧(もうろう)状態には陥ってしまった。

 

 

 「……ッ! チィッ!!」

 

 「狂也様、しっかり!」

 

 

 だが、即座にマリアンヌが彼の状態異常を回復したので問題はない。

 

 足止めにもならないと悟らされた彼は、急いで次の対処を迫られていた。

 

 

 「クソッ!? クソぉおおおおおッッ!!!」

 

 

 アインズは、必死になって次の盾役を召喚した。

 

 彼の本分は、魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 本来であれば、頼れる前衛が敵からの攻撃を受け持っている間に作戦を練り、味方を補助しつつ大魔法を唱える準備をするのが役目だ。

 

 今はたった一人で戦場に放り出され、事態を打破するための考える時間すら与えられない。

 

 それでも、相手が1人なら豊富な経験から何とかなった。

 だが、この場にいるのは前衛と後衛の二人。しかも、それぞれが自分と相性が悪い相手だ。

 

 素早く動く前衛の戦士に翻弄され、後衛の神官からも妨害される。考える時間も、対処する隙も見いだせなかった。

 

 ただ、ひたすら敵を近づけさせないために、盾となるアンデッドを召喚し続ける事しかできない。

 

 

 「第十位階不死者召喚(サモン・アンデッド・10th)! ……《破滅の王(ドゥームロード)》!

  上位アンデッド創造! ……《青褪めた乗り手(ペイルライダー)》!!

  中位アンデッド創造!! ……《死の騎士(デス・ナイト)》!!!」

 

 

 アインズは、何とか時間稼ぎに専念するために、次々とアンデッドを召喚した。

 

 内訳は、破滅の王(ドゥームロード)1体、青褪めた乗り手(ペイルライダー)4体、死の騎士(デス・ナイト)12体だ。

 

 ただ、《聖なる慈雨(ホーリー・レイン)》の影響で死の騎士(デス・ナイト)は一撃で倒される雑魚と化してしまったのだが、それでもコスパの良い他の盾役候補をとっさに思いつく事ができなかったので、やむを得ず召喚を続けていた。

 

 問題なのは、これで先ほど倒された分を合わせると、すでに一日に召喚できるアンデッドの数を上回ってしまっている事だ。

 彼は時間稼ぎに専念するために、自身のレベルを犠牲にしてまで新たなアンデッドを召喚し続けていた。

 

 

 「うふふっ、召喚対決ですか? では、私もお付き合い致しましょう」

 

 

 マリアンヌは、アインズのアンデッド軍団に対処すべく聖印を光らせ、天使の軍団を召喚し始めた。

 その方が、より絶望を与えられるだろうという遊び心だった。

 

 クズ男も、彼女が何か良い事を思い付いたのを察したため手出しをせず、ニヤニヤしながら静観していた。

 

 

 「熾天使召喚! ……《金星天の熾天使(セラフ・サードスフィア)》!

  中位天使創造! ……《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》!

  下位天使創造! ……《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》!」

 

 「なっ、なんだと……ッ!?」

 

 

 彼女は、アインズが召喚したアンデッドと同格・同数になるように召喚した。

 

 召還された天使たちは、自分と格の近いアンデッドにそれぞれ突撃していく。

 

 下位組の方は両者とも防御型であるために決定打がなく、拮抗し合っている。

 中位組の方は、アンデッド側が若干レベルが上回っているが、天使側も相性では勝っているため膠着(こうちゃく)状態だ。

 

 だが、天使軍団が足止めしている間に、クズ男が死の騎士(デス・ナイト)を殴りつけ、マリアンヌが青褪めた乗り手(ペイルライダー)に《善なる極撃(ホーリー・スマイト)》を放つ事で、確実に一体ずつ仕留めていく。

 

 アンデッド軍団はすごい勢いで数を減らしていった。

 

 それによって、手の空いた監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)が味方の天使の防御を上げるスキルを放つ。

 さらに、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)も、周囲のアンデッドを弱体化させる清浄なオーラを常に放っている。

 

 アンデッド軍団が数を減らすにつれて、主天使(ドミニオン)権天使(プリンシパリティ)の特殊能力が共鳴し合い、味方の天使軍団が手の付けられない存在になっていく。

 

 そして、中位・下位組の支援を受けた金星天の熾天使(セラフ・サードスフィア)の方も、破滅の王(ドゥームロード)を圧倒していた。

 まもなく決着が付くだろう。

 

 

(うーん。こんな結果になるとは予想外だったわ。これなら、熾天使(セラフ)じゃなくって、1ランク下の智天使(ケルヴィム)の方を召喚しておけば、MPの節約になったかもね……)

 

 

 マリアンヌは、ゲーム時代には常に頼れる前衛が何人もいたため、中位・下位の天使を大量に召喚するという経験に乏しかった。

 

 それに、闘技場から自分を賛美する声が響き渡り、無意識のうちに調子に乗っていたらしい。

 これでは、鈴木悟の事を嘲笑(わら)えないなと、少しだけ羞恥に駆られていた。

 

 

  ………

 

  ………

 

 

 「おおっ、なんという神々しい天使なのだ……!」

 「あの4体の主天使(ドミニオン)こそが最高位天使のはずではなかったのか!?」

 「やはり、彼女は(ぷれいやー)であらせられるのかっ!」

 

 

 貴賓席では、見た事もない高位の天使が現れ、スレイン法国の使者たちが涙を流しながら祈りを捧げていた。

 今まで最高位と信じられてきた主天使(ドミニオン)より、さらに上の位階の天使が召喚された事で、クズ男とマリアンヌの事を素直に神と信じる事ができたのだった。

 

 

 『武王! 武王! 武王! ……』

 『聖女様! 聖女様! 聖女様! ……』

 

 

 戦っている人類勢力の二人に、観客から惜しみない声援が送られる。

 人類の敵として、遂に本性を現した魔導王を打倒してくれと、帝国の安寧を取り戻してくれと全員が心を一つにしていた。

 

 

 『『『『武王! 聖女! 武王! 聖女! 武王! 聖女! ………』』』』

 

 

  ………

 

  ………

 

 

 「……なあ、鈴木ぃ。この観客どもの声を聞いて、どう思うよ? これが偽らざる人々の本心ってヤツだ。今までは恐怖心で何も言えなかっただけなんだよ。みんな心ん中では、テメェの事を人類の敵としか見てなかったのさ。

 ……なぁ、今どんな気分だ? 人類の敵に成り下がっちまって、どんな気分なんだよぉ? んん~?」

 

 「………ッ!」

 

 「狂也様、援護します。……《聖者の炎(セイント・フレイム)》」

 

 

 クズ男が話している間にも、マリアンヌは支援(バフ)魔法を彼にかけていた。

 これは死者の炎(アンデッド・フレイム)の対となる効果を持つ魔法で、神聖なる炎で包まれた彼は、攻撃に正の追加ダメージが乗せられるようになり、アンデッドに対する攻撃力が増強された。

 金色(こんじき)の炎を身に(まと)った今の彼は、まるで聖闘士のように見える事だろう。

 

 魔法をかけ終えた彼女も、クズ男の言葉に同調してアインズを煽り立てた。

 

 

 「クスクスッ。 狂也様ったら、そんな本当の事を指摘したら可哀そうですよ? こんな結果になったのも、元の世界で弱者だった反動から、大はしゃぎしてしまったのが原因なのでしょう。

 それは、凡人の(さが)として仕方のない事です。そう、凡人のねっ!」

 

 「ぐぅッ………、上位アンデッド創造! ……《青褪めた乗り手(ペイルライダー)》!!」

 

 

 二人の話に動揺しながらも、その隙に盾役のアンデッドを追加で4体召喚した。それによって、彼のレベルが更に下がってしまう。

 

 

 「はっ、無駄無駄ぁッ!!」

 

 

 クズ男が一体を殴りつけ、マリアンヌがもう一体に《善なる極撃(ホーリー・スマイト)》を放ち、消滅させた。

 そして、先程の戦いに打ち勝った熾天使(セラフ)主天使(ドミニオン)も、残りの二体を抑えるべく突撃した。

 

 盾役を失ったアインズに、クズ男が迫る!

 

 

 「くっ……! 《骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)》!!」

 

 

 無数の骸骨を埋め込んで作られた壁で、再び彼の進撃を阻止しようとした。

 

 だが、彼はその壁を無理に壊そうとはせずに素早く横に避け、その合間を縫うようにマリアンヌの放った光の槍が走る。

 

 

 「魔法三重位階上昇化(トリプレットブーステッドマジック)……! 《善なる槍(ホーリー・ランス)》!」

 

 

 一歩間違えば、クズ男に攻撃が当たってしまうところだが、以心伝心ともいうべき連携力で、そのような事態にはならなかった。

 

 間髪入れえずに加えられた攻撃によって、その骸骨の壁はあっけなく壊れてしまった。レベルダウンした今のアインズが作成した壁は、予想以上に脆かったようだ。

 

 

 「な……ッ!? クソッ、《上位転(グレーター・テレポー)》……」

 

 「遅せぇッ!!」

 

 

 上位転移の魔法で逃げようとしたアインズだったが、クズ男が間を置かずに異様に素早い動きで彼の持つ杖を掴み、転移を阻止する。

 

 そんな主人の危機に、生き残ったアンデッドたちが急いで駆け付けようとしたが、その無防備になった背後を天使軍団によって強襲されて全滅してしまった。

 

 

 クズ男は、アインズの杖を(つか)んだまま、拳を振り上げた。

 今度こそ息の根を止めに掛かるようだ。

 

 

 「これで……! 終わりだぁあああああッッ!!!」

 

 「ぅぁあ……ッ!?」

 

 

 アインズは、自分の顔面に迫るクズ男の拳に何の対処法も思い浮かばず、ただ呆然と眺める事しかできなかった。

 

 

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