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クズ男・狂也の元いた世界は、格差が激しかった。
貧しい家庭に生まれた人間は、小学校を卒業する事さえ難しい世界だった。
そんな世界で、裕福な家に生まれるという幸運に恵まれた。
だが、中学校に入学はしたが、勉強などしないクズ男の学力では中学校入学どころか小学校卒業も危うかった。
なので、小学校の卒業も中学校への入学も裏口を使って解決した。
「これこそが貧民とは違う、勝ち組流の学歴の作り方だよなァ」
努力など、この男にとって何の意味もない愚行だった。
卒業した後は、働く事もなく遊び惚けていた。
ゲームに没頭したり、女を抱いたり。
家が裕福なこともあるが、とある事情により臨時収入も手に入ったからだ。
将来への不安は一切なかった。
いずれ父親から事業を受け継げばいい。
おまけに、あの世界は格差が激しすぎるため、金が金を生むシステムさえ作れば信じられないほどの大金が入り、働かずとも生きていけるのだ。
「万が一、事業が傾いたら、社長や幹部の地位を与えてやっている社畜どもに全責任を負わせればいいだけだって、親父も言ってたからなぁ」
そうして僅かな財産を捨て石にし、ほとぼりが冷めたらシステムで増やした金を使って傾いた元の事業を買い取るか、新たな事業を起こせばいいだけ。
「資本主義さまさまだぜ! ぶひゃはははっ!」
真面目に必死で働く社畜たちを眺めながら、クズ男は嘲笑した。
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◇
クズ男には、小学校からの同級生がいた。
彼はたいして裕福でない家庭の出なのに、優秀な成績で中学校に入学してきた。
彼は研究員になりたいようだった。
だが、貧しい家の出のくせに必死で努力し、現在の地位を上げようとする姿が気に入らなかった。
「下民風情が、生意気だなぁ……」
だから、あらゆる手を使って彼の勉強の妨害をしようと決めた。
あくまで、勉強の妨害が目的なので暴力は振るわない。
手下と一緒に、悪口を言いまくるのは序の口。
教科書を破り捨てたり、椅子の上に画びょうを巻いた。
軽くぶつかることを何回も繰り返してやったり、丸めた紙を当てるゲームをしてやった。
「俺様の元同級生で、アイツの親友でもあった『鈴木悟』ってヤツも、中学には上がれないような貧乏人の息子だったしな」
彼の小学校からの親友がいれば
彼は、それに対して抵抗らしいことをしなかったが、ある日、自分が何かを言って本気で怒らせたらしい。
何を言ったのか、覚えてもいないが。
普段、からかってやっても一切反抗してこなかった彼が、突然逆上して襲い掛かってきた。
幸いなことに近くにいた男子たちに羽交い絞めにされ、女子たちからは携帯電話の撮影機能で撮影されていた。
その動画が証拠となり、自分はイジメ加害者から一転、暴行現場の
彼は必死になって普段されていたイジメを訴えたが、イジメの事実を隠したい学校側から否定された。
「思えば、アイツも莫迦なことをしたもんだ……」
結局、彼の親はクズ男に多額の慰謝料を支払うよう命じられ、彼は一定期間の停学を言い渡された。
しかし、貯めてきた学費の大部分を慰謝料に当てたために学費を払うことができなくなり、そのまま退学していった。
「地位を上げるために環境に抗うとか、不毛な夢見るから痛い目に合うんだ」
クズ男は、誰よりも人生経験が少ない分際で持論を語った。
「大昔の野生に生きてたっていう畜生どもの世界ならともかく、人間社会っつーのは弱者の下克上を認めちゃいねぇんだ。『出ようとする杭は打たれる』ってね。
まあ、俺様みたく『出過ぎて叩けない杭』にでも生まれない限り、従順に思考停止して生きていくべきなんだよ……」
だからこそ、哀れな彼は誰からも庇われなかった。
もし、彼が『勝ち組』に生まれていれば、男子たちから羽交い絞めにされることはなく、女子たちから証拠の動画を撮影され提出されることもなく、学校から事実を隠蔽されることもなかった。
もちろん、裁判所だって味方してくれたはずだ。
(いや、そもそもイジメられることもなかったか?)と、クズ男は考察した。
「アイツは、お勉強はできたみてぇだが、実際はガリ勉で成績を補ってきただけのバカだったってわけだ……」
まぁ、そんな彼のおかげで臨時収入を手に入れられて悠々自適な生活をより長く楽しめるわけだから、その点だけは感謝してもいいかと、クズ男は黄昏ながら思った。