アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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許しを請う魔導王【※残酷描写】

◇ ────帝国闘技場

 

 

 

 クズ男・狂也の(こぶし)がアインズの顔面に迫る!

 

 しかし、その当たる直前に、アインズがとっさに声を張り上げた。

 

 

 

 「まてっ! 待てぇええっ! 話が……ッ!」

 

 「あ”ぁ?」

 

 

 

 クズ男が怪訝な顔をして拳を止め、アインズは(スタッフ)を掴んでいた手を自分から離し、地面に()いつくばって土下座をかました。

 

 

 

 「待って! 待ってください!! 話を聞いてくださぁあああああいッッ!!!」

 

 「…………」

 

 『『『『…………』』』』

 

 

 

 それはそれは、お手本のように美しい土下座だった。さすがは、元日本人というべきか。

 

 彼は、元の世界における社畜時代に、職場のトラブルで何度か土下座をした経験がある。その経験が、この絶体絶命のピンチの中で活かす事が出来たようだ。

 

 

 

 「も、もう、戦う気はない! だから頼む! どうか話を聞いてくれぇッ!!」

 

 「はぁぁぁ!? おいおい、今さら何を話すってんだ?」

 

 「負けを認める! どうか見逃してほしい! その代わり、お前の望む物を与えようじゃないか!」

 

 

 

 だが、そんなアインズの見事な土下座も、必死の懇願も、観客たちの心を動かす事はできなかったようだ。

 

 

 

 『おいっ! 今さら何いってやがる! こんな惨劇を作り出しておいて!』

 『そうよ! 何が魔導王よ! ただの虐殺者じゃない!』

 『人が死んだんだぞ……ッ! いっぱい人が死んだんだぞッ!!』

 『父さんを返せ! 父さんを返せ、化け物ぉおおおッ!!』

 『死ね! 死んで償え!』

 

 

 

 彼らは、この闘技場での惨劇を作り出したアインズを心の底から憎み、散らばっている瓦礫の破片を拾い、それをアインズにぶつけ始めた。

 

 

 

 「………ッ!」

 

 

 

 瓦礫が次々とアインズに当たるが、彼は神妙な態度で、それを甘んじて受けていた。

 

 

 

 「ひひひ、さぁぁぁぁとるくぅぅぅぅん。それは、虫が良すぎるってもんじゃねぇの~? というか、仮にも一国の王様が他国で土下座って、情けないにも程があるだろぉ? なあ、テメェには恥ってもんがねーのか? んん?」

 

 「……私には、成し遂げねばならない事がある。そのためには、こんな場所で死ぬわけにはいかないのだ。だから、どうか頼む……ッ」

 

 

 

 アインズはそう言うと、さらに深く頭を下げ、地面に額を付けた。

 

 

 

 「ったく……、何か一気に力が抜けちまったぜ。呆れて物も言えねぇな。

 っつーかよ、テメェなんかに魔導王なんていう御大層な称号はふさわしくないんじゃねぇか?

 ……そうだ! 丁度いいから、ここで改名したらどうだ?」

 

 「か、改名……?」

 

 「『鈴木土下座ぇ門』! 大観衆の中で恥ずかしげもなく土下座する鈴木悟くんにピッタリの二つ名だろぉ!? ぶひゃひゃひゃッ!」

 

 

 

 クズ男は嘲笑しながらアインズの頭を踏みつけ、ぐりぐりと地面に押し付けた。

 

 

 

 「素晴らしいネーミングセンスですわ、狂也様! まさに、今の魔導王陛下を体現しているご尊名かと存じます!」

 

 

 

 この珍妙な名前に面白がったマリアンヌも話に乗っかった。

 

 土下座する彼を見て、観客も呆れている様子だった。

 

 ──あれだけの事をしでかしておいて、みっともない命乞い。これが魔導王か!

 

 誰もが、そう思っていた。

 

 

 

 「わ、分かった。言うとおりにしよう……。いや、させてくれ……」

 

 「ほーん。で、テメェの名は何だ? 何て言うんだっけなぁ? ほら、遠慮せずに言ってみな?」

 

 「くっ……、鈴木……どげ……ぇ………」

 

 「あ~~!? 聞こえんなぁ~~~!!」

 

 

 

 クズ男がにやついた顔で耳を澄ます仕草をした。その横で、マリアンヌもクスクスと笑っている。

 

 

 

 「わ、私はぁッ、鈴木ぃ……ッ! 土下座ぇ門でぇすッッ!!」

 

 「ぶひゃひゃひゃひゃッ! 信じらんねぇ! コイツ、マジで言いやがったぜぇ!!」

 

 

 

 クズ男が大声で笑いだし、マリアンヌは口に手を当て、顔を背けながら笑いを堪えていた。

 

 

 

 「情けねぇ。なっさけねぇな~~! けど、その態度はとっても好ましいぜぇ?

 今までも、こんな殊勝な態度なら良かったのになぁ、さぁぁぁぁとるくぅぅぅぅん!!」

 

 

 

 ここまで言われているのに、ひたすら土下座の姿勢を崩そうとしないアインズ。

 それを見た観客たちは、呆れている者、嘲笑している者、侮蔑の視線を向ける者と、様々だった。

 

 

 

 「ま、面白いもんは見れたな。それじゃ、もう思い残す事はねぇだろうから、安心して成仏しちまいな。テメェの事は土下座ぇ門という名で、永遠に歴史書に刻んでおいてやるからな!」

 

 

 

 クズ男が足を上げ、彼の頭を踏み砕く体勢に入った。

 

 

 

 「ッ………!」

 

 

 

 それを見たアインズは動揺し、後ずさって距離を取ろうとしたが、それを見逃すクズ男ではない。

 

 

 

 「あばよ、土下座ぇ門!」

 

 「アインズ様ぁッ!!」

 

 

 

 だが、今度こそトドメを刺そうという所で、突然転移門(ゲート)が開いき、そこから赤い鎧を着こんだ銀髪の美少女(?)が、物凄い形相で飛び出してきた!

 

 激しい怒りで顔が歪んでいたため、せっかくの美少女が台無しだった。

 

 その正体は、シャルティア・ブラッドフォールン。アインズの忠実な(しもべ)の一人である。

 

 

 

 「おおっ、シャルティアか! 待っていたぞ!」

 

 

 

 そう、これこそがアインズの作戦だったのだ。

 

 元より、彼は二人を倒そうなどとは考えていなかったのだ。

 というより、マリアンヌが現れた時点で、排除ではなく時間稼ぎに徹していた。

 

 現在、身に着けている装備は貧相で、情報もろくに持っていない上に、自分とは相性の悪い二人組。

 だから、イズデスなどの奥の手も使用しなかったのだ。

 

 所持しているであろう蘇生アイテムやマリアンヌの回復魔法によって即死攻撃に対処され、隙を晒した自分に襲い掛かるだろうと予見したからだ。

 

 とはいえ、思った以上に時間を稼げなかったため、とっさの判断で土下座を決め込んでいなければ、救援が間に合わずにそのまま死亡していただろう。

 

 一国の王でありながら、確実な勝利を収めるために土下座する事もいとわない。そんな謙虚な性格だからこそ、窮地を脱する事ができたのだ。

 

 さらに言うと、クズ男だけでなくマリアンヌも、どうやら嗜虐性の強い性格のようだと見抜いていた。自分から無様を晒せば絶対に油断し、罵倒しながら嬲ろうとするだろうと予想していた。

 

 だからこそ、救援が間に合ったのだ。

 こればかりは、敵対者の気質を計算に入れたアインズの作戦勝ちと言わざるを得なかった。

 

 

 

 「死ぃぃぃぃぃねぇえええええええッッ!!!」

 

 「ぬぉおおおッ!?」

 

 

 

 シャルティアは出現すると同時に、一気にクズ男に突撃し、スポイトランスで彼を攻撃した。

 クズ男はとっさに腕でガードして防いだが、強烈な衝撃で観客席まで弾き飛ばされてしまった。

 

 

 

 「狂也様!?」

 

 

 

 何の前触れもない攻撃に、マリアンヌは悲鳴を上げた。

 その間にも、シャルティアはクズ男を追いかけ、観客席へと乗り出した。赤い瞳に強烈な殺気を込めながら、彼を仕留めるべくスポイトランスを乱雑に振り回した。

 

 

 

 『きゃぁあああッ!!』

 『うぎゃぁああああッ!!』

 『ひぃいいいいッ!!』

 

 

 

 突然の脅威に驚き、逃げ回るクズ男をシャルティアは追いかけ、縦横無尽に武器を振るう。

 

 その過程で大勢の観客が巻き込まれて殺されていった。

 

 

  ………。

 

 

 次に、ゲートから全身鎧の黒騎士の姿をしたアルベドが戦斧を振りかざして、マリアンヌに迫って来た。

 

 

 

 「っこの、()れ者がッ!!」

 

 「ひっ、《(プロテク)……っ」

 

 

 

 マリアンヌは急いで《聖壁(プロテクション)》を唱え結界を張ろうとするが、物理的な距離が近すぎる。

 ナザリックでも最強格の戦士であるアルベドの脅威的なスピードについていけず、とても間に合いそうになかった。

 

 

 死を感じた、まさにその時──、

 

 

 マリアンヌの側に控えていた金星天の熾天使(セラフ・サードスフィア)と4体の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)たちが、一斉に《善なる極撃(ホーリー・スマイト)》を放った。

 

 これで倒されるアルベドではないが、危機を感じたのか後退した事で足止めはできた。

 

 

 

 『マリアンヌ様、ここは我らにお任せを』

 

 

 

 天使軍団がマリアンヌの前に立ちはだかり、熾天使(セラフ)が代表して発言した。

 

 

 

 「セラフ!? えっ、しゃべった!?」

 

 『我々が奴を食い止めますゆえ、御身(おんみ)はご避難を』

 

 

 

 熾天使が率先して前に躍り出し、その援護のために主天使たちが《善なる極撃(ホーリー・スマイト)》を放とうと構えた。

 監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)も周囲に散開し、味方の防御を上昇させる事に徹していた。

 

 

 

 「そ、そう? では貴方たち、後はお願いしますね!」

 

 

 

 そう言うと、マリアンヌは天使たちに足止めを任せ、クズ男の元へと走って行った。

 

 

 

 『悪魔よ! これより先へは行かせぬぞ! 我ら天使軍団が相手だ!』

 

 「召喚モンスター風情が生意気な……! そこをどけぇえええッ!!」

 

 

 

 怒れるアルベドは、挑発に乗る形で彼ら天使軍団を蹴散らしにかかった。

 

 

 

              +

 

 

 シャルティアに苦戦中のクズ男の元に、マリアンヌが走る。彼を連れて撤退するために。

 

 

 

 「させないよッ!!」

 

 

 

 だが、また新手が現れた。闇妖精(ダークエルフ)のアウラが騎獣を乗りこなしながら、彼女の行く手を阻もうとしてきたのだ。

 

 

 

 「くっ……、《聖なる光線(ホーリーレイ)》!」

 

 

 

 マリアンヌが振り向きざまに聖なる光を放った。

 狙いは、アウラ……、ではない。体力を大きく減らし、弱りきっているアインズだ。

 

 

 

 「ちぃッ!? アインズ様!」

 

 

 

 今の体力が削られたアインズが食らったら、無事では済まないだろう。

 アウラは、マリアンヌを追うのを諦め、敬愛してやまない主人であるアインズの防御に回った。

 

 

 

             +

 

 

 「下等生物がぁッ! よくも(わらわ)の愛しの君に無礼を!! 死ね! 死ねぇええッ!!」

 

 「この、クソカスリック人形がッ! いい加減、うっとうしいんだよぉ!!」

 

 

 

 シャルティアは相も変わらずスポイトランスを縦横無尽に振り回し、それをクズ男が避け続け、観客たちは巻き込まれて大勢が死亡した。

 

 ここで立ち向かおうにも装備に差がありすぎる以上、勝ち目は薄い。なので、彼は必死で逃げ回るしかなかった。

 

 

 

 「狂也様、撤退を! 《聖壁(プロテクション)》!!」

 

 

 

 クズ男の元まで近づいたマリアンヌが結界で守り、撤退の指示を出す。〈転移の指輪〉で逃げるためだ。

 

 怒りで我を失ったシャルティアが、一心不乱に結界に攻撃を加えている。長くはもたないだろう。

 

 

 

 「ああっ、戦略的撤退だ!」

 

 「待て! 逃げるな! 狂也ぁああああッッ!!」

 

 

 

 遠くから見物していたアインズは、今にも転移で逃げようとしているクズ男を呼び止めた。

 何かを言わずにはおけないのだろう。

 彼の周囲には、蟲王コキュートスと闇妖精(ダークエルフ)のマーレが控え、守りを固めている。

 

 そして、主人の声を聞き、我に返ったシャルティアも攻撃の手を止めていた。

 

 

 

 「はっ、こんな状況になったら撤退するのが当然だろうがッ! テメェこそ、みっともなく土下座かましてた事を、もう忘れたのかよ!? 手下が来た途端に強気になりやがってッ!!」

 

 「忘れるなよ、狂也! 元の世界で俺の友人を傷つけた罪! そして、この世界で犯してきた罪! その全ての報いを受ける時が必ず来る! 必ずだ!!」

 

 

 

 アインズは、かつてクズ男を捕らえた時から彼の事を調べ上げ、その過程で彼がこの世界でどれだけの悪行に手を染めてきたのかも知ることとなったのだ。

 それらの報告を聞き、やはりあのクズは裁かれるべき悪党なのだと改めて認識していた。

 

 

 

 「うるっせぇ! この世界の罪なら、とっくに許されてんだよ! どんだけ『免罪符』を買ってきたと思ってやがる!」

 

 「狂也様、お早く!」

 

 

 

 捨て台詞を吐いているクズ男を(たしな)め、マリアンヌが〈転移の指輪〉を発動させて消え去っていった。

 

 ちなみに、貴賓席にいたジルクニフたちもイビルアイに連れられ、とっくに転移で脱出していた。

 転移を阻害する魔法をアインズの部下が使う可能性が高いという情報を、マリアンヌから事前に聞かされていたため、早めに転移していたようだ。

 

 

 

               +

 

 

 

 「アインズ様、おいたわしや……」

 

 

 最後に現れたデミウルゴスがアインズの側にはせ参じ、主人の身を案じた。

 

 

 「デミウルゴス……、すまんな。こんな事態になったのも、全て私が至らなかったせいだ」

 

 「そのような事はッ!」

 

 「よいのだ。今回の事は、私の失態だ。まさか、あの狂也が生きていたとはな」

 

 「……アインズ様。御身はひとますナザリックにお戻りを。後の事は我々にお任せください。

 現在、悪魔たちには、誰一人として逃がさないよう闘技場の包囲を命じております。これで、ある程度は口封じが出来るかと。

 逃げた皇帝に関しましては、今は仕方がありません。後日、策を練りますので」

 

 

 

 デミウルゴスは、クズ男への激しい怒りを抑え込み、跪きながら傷ついた主人の事を気遣った。

 

 これから、主人の醜態を知る観客たちへの口封じの作業に移るようだ。

 

 

 

 「そうか、手間をかける。では、戻ると……」

 

 「魔導王! 覚悟ぉおおおッッ!!!」

 

 

 

 アインズが話し終える前に、マリアンヌ信者の騎士が予備の剣を抜き、決死の覚悟で突貫してきた。

 

 

 

 「───『その剣で自分の喉を切り裂きたまえ』!」

 

 「ぐっ……、ぅぉぉあ……ッ!?」

 

 

 

 デミウルゴスは、偉大なる主人の話を遮った愚劣な生物に対する制裁を行った。

 《支配の呪言》によって強制的に自害を命じられ、その勇敢な騎士は何もできずに闘技場に屍を晒す事になった。

 

 

 

 「……では、後を頼んだぞ」

 

 「はっ」

 

 

 『きゃぁああああッッ!! 許してッ! 許してぇえええッッ!!』

 『やめろッ! やめてくれぇええええッッ!!』

 『助けて……、誰か助けて………っ』

 『いや、いやぁぁあ!! パパぁ! ママぁッ!!』

 

 

 

 悪魔たちに虐殺されていく観客たちの悲鳴をBGMに、アインズは開いている転移門(ゲート)の方へと歩いて行った。

 

 

 

 (あぁ~! まさか、お忍びで来た闘技場で、こんな事になるなんて……。ただでさえ、デミウルゴスたちは忙しい身なのに、上司が面倒ごとを増やしてどうするよ。これじゃあ、支配者失格じゃないか……。

 はぁ、観客への口封じは何とかなるとして、あとはジルクニフがどう抗議してくるかだよなぁ。

 ……ま、まあ、今考えても仕方ない! 明日の自分が何とかするさ!)

 

 

 

 一人、憂鬱な気分になりながら、アインズは転移門(ゲート)の中へと入り、帰還していった。

 

 

 

               +

 

 

 

 「さて、悪魔たちよ。生き残った者がいれば、ナザリックへと運びなさい」

 

 

 

 デミウルゴスの命令を受けた低位から中級の悪魔たちが、生き残った観客たちを捕らえていく。

 

 

 

 「ねえ、いいの? デミウルゴス」

 

 「なにがだい、アウラ?」

 

 「ゲヘナの時にアインズ様、言ってたんでしょ? 自分に歯向かっていない人間は楽に殺せって」

 

 「ふむ、では本当に歯向かってないか、()に聞いてみようじゃないか」

 

 

 

 デミウルゴスが目を向けた先にいたのは、一体の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)

 十数体いたうちの一体である彼は、クズ男の攻撃をくらって瀕死の状態だったが、先程のマリアンヌの《聖なる慈雨(ホーリー・レイン)》を浴びた事で、ちゃっかりと生き延びていたらしい。

 

 死の騎士(デス・ナイト)を倒す際には有効だった技だが、敵も味方も関係なく無差別に回復してしまうという欠点があった。

 

 

 『お答えします。観客どもは、あの愚物どもを熱心に応援し、アインズ様に対しては聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせておりました。しかも、石を投げつけるという鬼畜の所業まで……っ』

 

 「……だそうだよ、アウラ」

 

 「……へぇ、それは確かに許せない大罪だよね」

 

 

 

 考えを改めたアウラは一気に真顔になり、観客席を睨みつけた。

 

 

 

 「みんなー! やっちゃって!」

 

 

 

 悪魔たちによる虐殺の宴に、アウラ配下の魔獣たちも参戦し、観客たちは次々と虐殺されていった。

 

 かろうじて生き残った者たちはナザリックへと運ばれ、敬愛するアインズを侮辱した大罪人として拷問されたのち、皮剥ぎ、異種交配実験などの過酷な労役に就く事となった。

 

 

 

                +

 

 

 

 一方、アルベドの行く手を阻むために奮闘していた天使軍団も、シャルティアが加わった事で次々と倒されていった。

 

 

 

 「まったく、手間を掛けさせてくれんしたねぇ」

 

 

 

 召喚主を逃がすという役割を見事に果たした彼らだったが、大将である金星天の熾天使(セラフ・サードスフィア)は力尽きて倒れ伏しており、シャルティアに踏みにじられていた。

 

 

 

 「そこそこ健闘した事は褒めてあげるけれど、所詮は召喚モンスター。(わらわ)たちに勝てるわけがないのに無駄なあがきを。けれど、もう終わりね。これでトドメでありんす」

 

 

 

 シャルティアは彼の息の根を止めるべく、スポイトランスを振りかぶった。

 

 

 

 『………ふ……ふふっ、愚かな』

 

 

 

 瀕死のはずの熾天使から笑い声が上がり、怪訝に思ったシャルティアは攻撃を止めた。

 

 

 

 「何がおかしいのでありんすか? これから滅ぼされる分際で」

 

 『……我らを倒した程度で勝ったつもりでいるとは滑稽な事だな。邪悪な吸血鬼め』

 

 「はぁ? 現に今、自分が無様に倒れているのが分かりんせんか?」

 

 『人間社会に浸透しつつ、陳腐な自作自演によって偽りの信用を手に入れ、やがては世界を征服する。それこそが、貴様らの掲げていた()()()計画だったのだろう?』

 

 

 

 召喚主であるマリアンヌの記憶を与えられている彼は、アインズたちの計略を見事に言い当てた。

 

 彼が『当初の』という部分を強調した事に、シャルティアは引っ掛かりを覚えていた。

 

 

 

 「……何が言いたい?」

 

 『せっかくの壮大な計画がご破算になってしまうとは残念だったな。これも、すべては貴様らが仰ぐ愚かな飼い主が招いた結果よ』

 

 「………あ”?」

 

 

 

 敬愛する主人に対する侮辱。それは、彼女にとって聞き捨てならない台詞(せりふ)だった。

 

 

 

 『よもや、自分たちが世界から受け入れられると、本気で思っていたのか? 我が身を振り返るという言葉さえ持たぬとみえる。

 所詮、貴様らなど腐臭をまき散らすだけの汚物に過ぎぬ。そんな存在を誰が受け入れ、誰が認めるものか。

 挙句の果てに、この世界で栄華を極めようとは片腹痛い。そんな夢物語を語るからこそ、貴様らは愚かで滑稽だというのだ。

 誰からも称賛されず、顧みられず、惜しまれもしない。ただ緩やかに滅びの道を辿る事。それが、貴様らの如き邪悪な存在に待ち受ける運命なのだ』

 

 「…………」

 

 『そもそも、貴様らは人間を玩具や資源とみなし、どのように扱おうとも当然と言う思想を持っているようだが、知らぬのか? 貴様らの飼い主も、元は人間だという事を』

 

 「なっ!? 適当な事をぬかすな! 今すぐ、その減らず口を閉じろ!!」

 

 

 

 熾天使(セラフ)の顔に武器を突き付け、その血迷った発言を撤回させようとした。

 これ以上アインズを貶める事を言うようであれば、すぐにでもトドメを刺すという意志表示をしながら。

 

 

 

 『随分と興奮しているようだが、ここで我を滅ぼしても事実は変わらぬぞ? 嘘だと思うのなら、敬愛する飼い主にでも直接聞いてみるがよい。

 まあ、あの愚物は、貴様ら化け物どもの親玉を気取っているらしい故、嘘八百を述べるやもしれぬがな。

 だが、たとえ事実を隠蔽したとしても、他のプレイヤーがいれば明らかとなる。なにせ、彼らも現在の種族が何であれ、『リアル』という故郷では人間であったのだからな。当然、貴様らの飼い主も同じことよ』

 

 「…………ッ」

 

 『なんだ? 急に静かになったな。そんなに衝撃的な内容だったか?

 ふふっ、まあ無理もない。貴様らが敬愛してやまない飼い主が、今まで嬉々として(もてあそ)んできた人間たちと、まさか同じ種族だったなど到底信じられんだろうし、信じたくもなかろう。

 だが、これは純然たる事実なのだ。どう足掻(あが)こうと覆す事など出来はせぬ。

 貴様らは結局のところ、侮蔑の対象とみなしているはずの人間を絶対的な主人と仰ぎ(たてまつ)っておきながら、その主人の同族である人間たちを虐殺し、(えつ)に浸っているというわけだ。

 その在り方は(いびつ)にして醜悪であり、なんとも矛盾の………』

 

 

 

  ゴシャッ

 

 

 

 他の天使たちを掃討し終えたアルベドが近寄り、不遜な言動を繰り返す熾天使の頭部に戦斧を叩きつけ、トドメを刺した。

 

 彼は、他の天使たちと同様に光の粒となって消滅していった。

 

 




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