対邪神軍同盟
◇ ────帝都アーウィンタール 皇城
あれから、アインズの助太刀に来た援軍からなんとか逃げ帰り、皇城に戻った一同は謁見の間に集っていた。
初対面であるクズ男・狂也との挨拶を軽く済ませた後、スレイン法国の使者たちがクズ男とマリアンヌの両名に平伏していた。
「我ら一同、貴方様方を神と認め、信仰を捧げます!」
「「「捧げます!」」」
彼らの中から、レイモンと名乗る神官長の男性が代表して発言し、他の者も続いた。
クズ男とマリアンヌは、まんざらでもない顔で彼らの信仰を受け入れていた。
よく見ると口元がニヤけている。
「どうか、我がスレイン法国にお越しくださいませんでしょうか? 誠心誠意、お二方をおもてなしさせていただきます」
「ま、待っていただきたい! この状況で彼女たちに抜けられれば、我が国がかなり困る事になるのだが!?」
皇帝であるジルクニフが慌てて彼らの提案を止めた。
あのような悪夢の出来事があったのだ。さぞかし、邪神軍との関係が悪化してしまったはずだ。
そんな状況でこの二人に抜けられては、もはや破滅は目前だろう。
さながら、無抵抗な国家という名の獲物をどう料理しようかを考えるだろうことは容易に想像できた。
「皇帝陛下、これは人類の存続のためなのです。お二方を一国のみにかかずらわせてはなりません」
「いや、しかしだな!」
「それに、キョーヤ様にはお伝えせねばなりません。つい最近、我が国では貴方様の第一子が、お生まれなってございます。一目だけでもご覧になられてはいかがでしょうか?」
「「「え!?」」」
これには、クズ一行の女性メンバーたちもビックリである。
彼女たちは驚いた顔で、一斉にクズ男へと振り向いた。
「なに!? 俺様はまだ結婚なんてしてねぇぞ!?」
「左様でしたか。しかしながら、竜王国にて貴方様と関係を持っていた女性との間に御子がいらっしゃいますよ。
彼女たちに関しては、我が国で手厚く保護しております。どうか、ご安心ください」
「竜王国の……? もしや……」
クズ男は、かの国の娼館で大勢の娼婦たちを抱いた事を思い出していた。
「そうか、あの時の……。ってか、アイツら避妊とかしてなかったのかよ!?」
彼が知らないのも無理はない。
彼女たちは、元々クズ男の子を産む事を希望していた。
この男の事をプレイヤーまたは神人であると推測していた法国は、彼のお気に入りである娼婦たちと契約していた。
上手く彼の子を身籠ったら、法国にて安全な生活を保障するという内容だ。
その娼館では、法国から派遣された治療士が勤務しており、契約を受け入れた彼女らは、その者が処方する排卵促進剤を積極的に摂取していた。
「ちょ、待てよ? 第一子ってことは……」
「はい、ご明察の通り。貴方様との子を身ごもった女性は、なんと41人でございます!」
レイモンは、ホクホク顔で言った。
神人候補が増える事が、よほど嬉しいのだろう。
「41……だと? お、俺の子が、そんなに……。そういえば、引退する女たちが妙に多かったような……」
クズ男は尊大な一人称を使うのも忘れて、自分の生まれる予定の子供の数に驚愕していた。
仲間である三人の女たちは、呆れた目で彼を見ていた。
「知っての通り、竜王国ではビーストマンの群れが押し寄せ、さらに
「神官長様、誠に心苦しいのですが、まだ私たちはこの国で為すべき事がございます」
しかし、マリアンヌが彼らの希望を拒否した。
「為すべき事……でございますか?」
「はい、邪神軍がその強欲な食指を帝国に向けている以上、人々を守るためにも留まらねばなりません」
マリアンヌの言葉を聞き、ジルクニフは大いに安堵していた。
そして、使者たちも、さすがは慈愛に満ちた聖女と評判の神だと崇拝の念を強めていた。
だが、彼女の主張する、帝国の民の安寧などという理由などでは断じてない。何か良からぬことを企んでいるのは確かだろう。
「その代わりと言っては何ですが、貴方方にこれを授けましょう」
彼女はそう言うと、どこからともなく
「この中には、私たちの世界で使われていた回復薬や装備品、便利なマジックアイテムなどが入っております。これを人類救済にお役立てくださいませ」
マリアンヌはあらかじめ不要な物を分けていた。
下位の回復薬やゴブリン将軍の角笛など、自分たちには使い道がない、かと言って店に売り払えば自分たちの正体がバレかねない、そんな扱いづらい道具を背負い袋に入れていた。
下位の回復薬については、今のところ必要とするのはレイナースだけ。それでも、必要最低限の数があれば良いのだ。
それらは彼女たちには不要でも、現地民である使者たちにとっては破格の品々だろう。
「おお……! なんと、それほどの貴重なものを授けて下さるとはッ! 神のご慈悲に深く感謝を!」
「「「感謝を!」」」
人類を想う彼女の慈悲深さに使者たちは感激していた。
やはり、あの邪悪な神であるアインズなどではなく、彼らこそが真なるプレイヤーだったのだと再認識していた。
「ところで、キョーヤ殿に聖女殿。あの時、邪神アインズを逃すような真似をしてよかったのか?」
ジルクニフは、闘技場での出来事で、気になっていた事を質問した。
使者たちが神に敬語を使わないジルクニフに顔をしかめたが、彼は気にすることなく、二人に説明を求めた。
あれは、自分の見間違いでなければ、この二人が邪神を相手に遊んでいるように見えたからだ。
「はい、あの場で、邪神を逃すのは訳があったのです。アレを仮に殺した場合、配下たちが魔神と化して帝国内で暴走していたはずですから」
「それに、奴は殺されても、死体を拠点内に運ばれたら、しぶとく復活しちまうからなぁ。そこが、普通のアンデッドとは違う所だ。
今回はお前らに、奴の脅威を知らしめる事を重視してたってわけだ」
「……なるほど、そういう理由があったのだな。てっきり
「うぐっ! そ、そんなわけねぇだろ? 何言ってんだか……!」
使者たちは神の意向という事で信じたが、一方のジルクニフは相変わらず疑わしげな様子だった。
「ところで、キョーヤ様は闘技場で邪神の事を『スズキ=ドゲザエモン』と称しておりましたが、それは邪神の別名なのでしょうか?」
レイモンは、闘技場でクズ男が言い放った『鈴木土下座ぇ門』という珍妙な名称についての詳細を尋ねた。
「別名というか蔑称だな。俺様の世界じゃあ、ああいった無様な土下座をかます恥知らずを『土下座ぇ門』って呼ぶんだぜ。
それと、アイツの本名である『鈴木悟』をくっ付けたってわけだ。なかなかのセンスだろ?」
「なるほど、邪神アインズの真名は『スズキ=サトル』というのですね」
世界を破壊する邪神とみなしているアインズの本名を、同じプレイヤーから伝えられたレイモンは、この悪しき名を心に刻み込んだ。
「………コホンッ! ところで、皆さんは帰りの手段はありますか?」
マリアンヌが話を戻そうと発言した。
これ以上、土下座ネタで盛り上がってしまうと、いずれクズ男が口を滑らせ、自分たちが遊びすぎたせいでアインズを仕留め損ねてしまったという事実がバレかねない。
「我々は馬車で参りました。帰りも同じ手段を取るつもりです」
「しかし、あの卑劣な邪神の事です。もしかしたら皆様の正体を察知して待ち伏せしているかもしれません」
「むう……、たしかに……」
彼らは、闘技場で起きた惨劇を目に焼き付けていた。
邪神の配下が侵入してきた瞬間にイビルアイの転移によって逃げる事ができたが、どうやら全ての観客が虐殺されてしまった可能性が高いらしい。部下からの報告を受けたジルクニフから、そのように伝えられた。
もちろん、正確な事は未だに不明だが、ルール破りを平然と行い観客を虐殺するアインズの卑劣な所業を見た後だと信憑性が高かった。
おそらくは邪神の醜態を知られないように口封じで消されてしまったのだろう。そのような卑劣で冷酷な所業を行う化け物どもであれば、マリアンヌの言った行為を平然と行うだろうと全員が思っていた。
「ですので、これをお譲りいたしましょう」
マリアンヌは、自身の指に装着している〈転移の指輪〉を外し、レイモンに手渡した。
「こ、これは……っ! これほどの貴重な品を、よろしいのでしょうか!?」
「ええ、幸いにも、イビルアイさんが《集団転移》の魔法を覚えてくれましたから」
個数に限りがあるので本当は痛い出費だったが、彼らには自分の活躍っぷりと鈴木悟の矮小さを他の者にも広く伝えてもらう必要がある。
ここが、使い時だと判断していた。
それに、いつか法国に立ち寄った際にでも返却してもらえば良いかとも考えていた。
「さて、法国の方々。これより、我が国が何故、魔導国などと手を組んだかを説明させてくれ」
ジルクニフは、闘技場で彼らから向けられた疑いと敵意の視線を気にしていた。
さすがに今では、自分たちを敵だとは認識してはいないだろうが、それでも名誉は回復させておきたかった。
「はい、それは我々も気になる所でした。貴国には、あの高名な主席魔術師フールーダ・パラダイン殿がおられるので、洗脳など受けるはずがないのにと疑問を抱いておりました」
「そう思われるのも当然だ。だが、これには深い
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◇
その後、スレイン法国の使者には、フールーダが邪神軍に寝返っており、うかつに動けなかったという事情を説明した。
そして、彼らとの間に秘密裏に、対邪神軍同盟を締結した。
彼らがマリアンヌから渡された〈転移の指輪〉で帰還した後、クズ一行の四人も休養を取るべく自分たちの部屋へと帰って行った。
この場に残ったジルクニフは、護衛の騎士であるバジウッドとニンブルに対し、クズ男の戦力について尋ねた。
「さて、お前たちに問おう。あの武王クズル……、いや、キョーヤだったな。アレと戦えと言われたらどうする?」
「いやいや、陛下。そりゃあ無茶ってもんだ。たとえ、かのガゼフ・ストロノーフと全盛期の四騎士が共闘したとしても、あの男は傷一つ負わねぇでしょうよ」
バジウッドは、闘技場での凄まじい戦いを目にして、自分たちとの戦力差を感じていた。彼も優れた戦士なので、ある程度は相手の実力が分かる。
それ故、実感してしまったのだ。神と呼ばれる存在との圧倒的な力の差を。
「そうですね。バジウッド殿の言うメンバーであれば、あの場に何体も召喚されていたアンデッドの騎士、たしか
さらに恐ろしいことに、それ程の存在にも関わらず、あの場にいた中では最下級にすぎないようでした。まさか、
ニンブルも続けて発言し、邪神アインズがいかに強大な存在なのかを伝えた。
この帝国において、二人は最強の騎士と褒め称えられるほどの強者である。
だが、そんな自分たちでさえ、アインズが雑に召喚していたモンスターの一体にさえ勝てないと実感し、不甲斐なく思っていた。
「それは、恐ろしいな。くれぐれも彼らの機嫌だけは損ねないようにせねばな。特に、あのキョーヤという男は何をしでかすか分からん気配がする。女でも与えて大人しくさせておくか。
………いや、そうだな。私も法国に倣い、
彼らが、竜王国で妊娠した女性たちをわざわざ引き取り、手厚く保護していると話していたのを、ジルクニフは思い出していた。
それだけ、神の血というのを重要視しているという事だ。
かつて、神の子が強大な力を振るっていたという歴史的資料でもあるのだろう。単に宗教的な理由という可能性も捨てきれないが、だとしても法国に対する切り札になり得るはずだ。
「はははっ、実に良い考えだ! 上手くいけば、我が国の将来的な戦力が大幅に上がるかもしれんぞ!」
ジルクニフは妙案を思い付いたと言わんばかりに笑い出し、側に控えていた若い秘書官に命じた。
「至急、いや大至急、夜伽用の身目麗しい女を手配して、あの男にあてがえ! なんなら、亡き父上の愛人だった女を引っ張ってきても構わん! 排卵促進剤の投与も忘れずにな!」
「は、はいっ、ただちに取り掛かります!」
主君の命に従い、その秘書官は急いで出て行った。
ジルクニフは、使える者(物)は何だって使う(利用する)英明なる皇帝だ。
そんな彼が治めるバハルス帝国では、女の色香を武器とする美女を数多く保有していた。
仕込まれた話術や芸事を用いてハニートラップを仕掛け、他国の使者を篭絡する女工作員。
そして、伝説の暗殺者集団イジャニーヤが抱える特殊部隊『クノイチ』を参考にし、独自の訓練を施した女スパイと女
彼女らをクズ男にあてがい、
それに、どのみちハニトラ工作員では、化け物で構成された邪神軍に対しては全く役に立たない。
女スパイや女
ならば、せめて
(幸いにも、あの二人が何を望んでいるかは分かっている。特に男の方は分かりやすすぎる。私は彼らの欲望を満たしてやるだけで良い。そういう意味では、扱いやすい二人組で助かったな)
クズ男には美女を与え、マリアンヌには聖女としての名声を高める機会を与える。
実に簡単な仕事だ。
(あとは、