アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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イビルアイの歓心を得たいクズ男

◇ ────皇城 マリアンヌの私室

 

 

 ここは、偽りの聖女マリアンヌのために用意された私室。

 高価で美しい調度品が飾られているが、そこに成金趣味などは一切感じさせない上品な部屋に仕立てられている。

 清廉潔白な聖女様が住まう部屋にふさわしいと、ここを見た者は誰もが感嘆の息を漏らす事だろう。

 

 謁見の間での会議の終了後、その部屋にクズ一行の四人組が集まっていた。

 

 

 

 「これから、私たちだけの秘密会議をするという事だな?」

 

 「我々にしか話せない情報があるのでしょうか?」

 

 

 

 イビルアイとレイナースが緊張した面持ちでクズ男とマリアンヌに尋ねた。

 邪神に関わる機密情報があるのだろうと、二人は気を引き締めていた。

 

 

 

 「いんや、そんなんじゃねぇさ。イビルアイ、お前に渡したいものがあんだよ」

 

 「私にか?」

 

 「ほれ、土産だ! 受け取れ!」

 

 

 

 クズ男は、一本の伝説級(レジェンド)(スタッフ)をイビルアイに渡した。

 

 

 

 「こ、これは!?」

 

 「なんと、見事な……!」

 

 

 

 イビルアイとレイナースがその杖の格を見抜き、驚きの声を上げた。これほどのものは、どの国の国宝であっても及ばないと分かる見事な一品だった。

 

 それと同時に、この杖に見覚えがある事にも気付いた。

 

 それは、あの闘技場にて、クズ男がアインズから奪った戦利品だった。

 今まで見た事がないほどに高品質だと分かるが、アインズの持ち物だと判明すると、どこか禍々しさも感じてしまう。

 

 

 

 「へへっ、気に入ってくれたか? お前のために鈴木……、あの骨野郎から奪い取ってやったんだぜ!」

 

 「やはり、あの時の……! すごい! これは、すごいぞ……! 何と呼ばれている杖なのか分かるか!?」

 

 

 

 イビルアイは、無邪気に杖を高く掲げながら尋ねた。何も知らない者が見れば、まるで大好きな兄から玩具をもらった幼い妹のように見えた事だろう。

 

 それほどに、彼女は興奮が収まらない様子である。

 

 

 

 「そうだなぁ、邪神から奪った杖なんだから、『邪神杖(じゃしんじょう)』っていうのはどうだ?」

 

 「邪神杖か……」

 

 

 

 イビルアイは、手にした邪神杖をキラキラした目で眺めていた。仮面で顔が隠れていても、その喜びようは存分に伝わってくる。

 

 

 

 「あの、イビルアイさん? 魔法で詳しく調べれば名前が分かるはずですが」

 

 「いや、これはキョーヤたちが邪神アインズに初勝利した記念品でもある。だからこそ、邪神杖という銘がふさわしいと思う。キョーヤ、本当に私が頂いても良いのか?」

 

 

 

 彼女は、邪神杖を胸に抱きながら言った。まるで、幼女が大切な宝物を抱きかかえるかのようだ。

 

 

 

 「ああっ、もちろんだぜ! それだけ、お前の事を大切に思ってるって事だからな! これが俺様の、お前に対する気持ちだ、イビルアイ!」

 

 「……そうか。邪神が使っていた杖というのが少し引っかかりはするが、それは贅沢な悩みというものだな。感謝するぞ、キョーヤ!」

 

 「へっへへ、照れるぜ……」

 

 

 

 イビルアイへの好感度が一気に高まるのを感じ取ったクズ男は、だらしない笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 「とはいえ、普段は仕舞っておいた方がよろしいでしょうね。すでにバレているかとは思いますが、誰が持っているかが明らかになれば躍起になって取り戻そうとしてくるでしょうから」

 

 「そうだな……」

 

 

 

 イビルアイは冷静になって敵の戦力を分析し始めた。

 たしかに、邪神軍は首魁や幹部以外にも強力な魔物を多数従えている。以前この城に潜んでいた影の悪魔(シャドウ・デーモン)にさえ、複数体で奇襲を受ければ彼女では助かる保証がない。

 ましてや、杖を奪うくらいなら簡単にやってのけるだろう。せっかく仲間が奪い取った貴重な戦利品を、むざむざと奪還されるわけにはいかない。彼女は邪神杖を手にして喜ぶと同時に、警戒心も強く持たねばならなくなった。

 

 

 

 「そうだわ、イビルアイさん。貴女もレイナースさんと一緒に私の訓練を受けてみませんか?」

 

 「訓練?」

 

 「ええ、召喚した天使と戦い経験を積むという方法なんです」

 

 「イビルアイ殿、是非とも訓練を受けた方がよろしいかと。呪いが消えたことで弱体化した私であっても、以前より力が増しているくらいですから。たしか、『けいけんち』というものを得る訓練だそうですわ」

 

 「『けいけんち』……。その言葉は聞いた事がある。たしか、神々(ぷれいやー)の世界の知識だったな?」

 

 「そうですわ、イビルアイさん。召喚した天使を倒した際に、経験値というものが体内に流れ込んできて強化されるという訓練方法なんです」

 

 

 

 この数か月、マリアンヌは時折レイナースに訓練を施していた。

 

 ただ、野生の魔物ではなく、召喚モンスターを倒すやり方で強くなれるかは未知数だった。

 

 それに聞くところによると、この世界の住人は才能さえあれば、魔物を全く倒さず訓練だけ行ったとしても、かなりの強さを得られるらしい。

 

 レイナースが強くなったのも、召喚モンスターを倒すことで経験値という名の生命エネルギーを得られたためか、それとも純粋に強敵と戦った事による言葉通りの”経験”によるものなのか、はっきりとした答えが分からず、まだまだ実験中だ。

 

 一応、下級天使を倒した後に力が増した感覚がしたらしいが、それが経験値によるものだとしたら、今後も新たな現地民の仲間を加えた際に効率の良い訓練をさせる事が可能となるはずだ。

 

 

 

 「懐かしいな。私も今は亡き仲間から、その訓練に付き合ってもらった事があった。あれから随分と長い年月が経ってしまったが……」

 

 

 

 かつて彼女は、一人のプレイヤーの助力を得ながらレベリングをしてもらった記憶を思い起こしていた。

 それがあったからこそ、彼女は蟲の魔神との戦いで大いに貢献する事ができたのだ。

 

 

 

 「私が今さら力を身に付けられるかは分からんが、何もしないよりはマシだ。ぜひ参加させてくれ。少しでも邪神討伐の戦力になりたいからな」

 

 「イビルアイだったら、すぐに強くなれるはずだぜ。たしか、お前って攻撃に負のエネルギーが乗るんだったよな?

 それは天使に対して有効だから、効率よく経験値稼ぎができるんじゃねーか? おまけに、その杖もあることだしな」

 

 

 

 クズ男は、イビルアイの持つ邪神杖を見ながら言った。

 確かにイビルアイは、その異能(タレント)ゆえに、自身の魔法攻撃に負のエネルギーを乗せる事ができる。

 

 もちろん、欠点もある。

 以前、王都での悪魔襲来の際には、その正体がアンデッドであったアルファと名乗る黒髪メイドに対して、負の攻撃では大してダメージを与える事が出来なかったのだから。

 

 しかし、マリアンヌが召喚する天使を相手取った訓練に対しては、かなり有用なスキルとなるだろう。

 

 

 

 「それに、仮に倒せなくても、全力で戦う事で強くなれると思いますわ。これから頑張ってくださいね、イビルアイさん。私もできる限りサポートしますわ」

 

 「ああ、幸いにも私の体は疲労には強い。存分にしごいてくれ」

 

 「ええ、では早速、明日から始めましょうか」

 

 

 

              +

 

 

 

 その後、イビルアイとレイナースを帰らせ、クズ男とマリアンヌは二人きりで話し合いを続けていた。

 

 

 

 「さて、マリアンヌ。アイツらの前では言えなかったことだが……」

 

 「なんでしょうか、狂也様?」

 

 「鈴木の奴と戦った時、伝説級(レジェンド)の装備しかしてなかったのは何故だ? お前って確か、神器級(ゴッズ)も持っていたよな?

 ……まあ、お前の事だ。なにか理由があったんだろ?」

 

 「そんな大した理由では……。ただの出し惜しみです」

 

 「ん? 出し惜しみ?」

 

 「はい、鈴木悟が1人だけなら、あれでも問題はありませんでしたし、援軍が来れば、どのみち神器級(ゴッズ)を装備していても全滅させる事はできなかったでしょう。

 それどころか、こちらの情報を下手に与えてしまいかねませんからね」

 

 「なるほどな。ま、お前がいろいろ考えてんのは分かってたけどな。っつーか、昔からお前の事は勘でなんとなく分かるんだからよ」

 

 「私も狂也様のしたい事なら、なんとなく気付けますわ。長い付き合いですものね」

 

 

 

 性質は同じでも性格や性別が異なる二人ではあるが、その付き合いは長い。

 彼らは、お互いの考えている事が感覚的に分かるため、特に何も言わなくても伝わる事も多かった。普通の人間であれば誤解を招いて仲違いするような状況下に陥ったとしても、この二人の場合は、いちいち責任逃れの大層な言い訳などをする必要がない。

 だから、この気安い関係が長続きしているのだ。

 

 お互いにクズな性格のくせに、今まで一度も喧嘩した事がない、する必要がないほどに心が通じ合っていた。

 

 

 

 「ところでよぉ、マリアンヌ……、いや、奈緒美ぃ? いい加減、その変な口調やめたらどうだ? ここには、俺様しかいねぇぞ?」

 

 「うん…………………………」

 

 

 

 マリアンヌ改め、奈緒美は、静かにつぶやいた後、息を深く吸ってため息を吐いた。

 

 

 

 「………あ”~~~~~~っ! めっっっちゃ疲れたぁ~~~~~~! まだ使い慣れてないせいか肩が凝って仕方ないわ~~~!」

 

 

 

 マリアンヌは脱力してベッドに横たわり、足をパタパタさせた。それに伴いスカートがはだけ、だらしない格好となってしまっている。

 

 

 

 「お疲れさん! けど、俺らだけの時は素で構わねぇぞ?」

 

 「そうもいかないって~。一応、あの話し方の方が偉大な聖女様っぽく見えるからね。切り替えも面倒だし、もうこの先一生アレで行くっていうのが、アタシのポリシーだって知ってんでしょ?」

 

 

 

 二人は笑いあった。まるで、仲の良い恋人同士がじゃれ合っているかのような

和やかな光景だった。

 

 

 

 「………」ゴクリッ

 

 

 

 マリアンヌのスカートがめくれて、むき出しになった艶めかしい太ももに見とれたクズ男は彼女に近付き、そっと撫で始めた。

 

 

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 「…………」ハァハァ

 

 「………ねぇ、それ癖なの? 鬱陶しくて仕方ないんだけど?」

 

 「いいじゃねぇかよぉ。ゲームのアバターとはいえ、こんなにも超絶美少女になってしまいやがって。こんなん触らねぇ方が失礼ってもんだろうがよ」

 

 「……はぁ、これくらいだったら、狂也が皇帝の座に就いて、アタシを正妃にしてくれたら存分に触らせてあげるから、今はダ~メ!

 その辺にいる適当な娼婦でも抱いててね!」

 

 「ちぇっ、今はお預けかぁ。連れねぇなぁ……」

 

 「一応、今のアタシは清らかなる聖女様だから、しっかりと純潔は保っとかないとね!」

 

 「いやいや、そんなもん見ただけじゃ分かんねぇだろうに……」

 

 「ダ~メッ! こういうのは、形から入るのが大事なんだから!」

 

 

 

 マリアンヌは、理想の聖女像というものに、かなりのこだわりがあるようだった。そのため、外見や振る舞いだけ取り繕うのではなく、中身まで近づけていこうという高いプロ意識があった。

 

 

 

 「ったく、聖女プレイにこだわりすぎだろ。ああ、聖女と言えば、最初の頃と比べて随分と様になってきてんじゃね? なんか訓練でも積んでんのか?」

 

 「今はレイナースから宮廷作法を教わってるよ。あの子、元貴族令嬢だからね。

 王国にいた頃は、第三王女の振る舞いの見様見真似だったけどさ」

 

 「おおっ、あのお姫ちゃんかぁ! 元気してっかなぁ! ……って、鈴木のクソったれに拉致されたんだったな……。まあ、あの娘の純潔に関しては安心だろうけどよ」

 

 

 

 この時ばかりは、鈴木悟が骸骨の化け物であることに、彼は感謝していた。

 人間のままの姿だったら、あの卑劣な小物男のことだ。無抵抗の可憐な姫が手元にいたら、無理やり手籠めにしていたに違いないと考えていた。

 

 

 

 「ふーん、やっぱり、あの女の事を気に掛けるんだ。鈴木との決着を終えたら(めかけ)にでもするつもり?」

 

 「まぁな! お前みたくパチモンじゃない、モノホンのお姫様だぜ!? あんな、漫画にしか存在しないような女がいたなんて、この世界も捨てたもんじゃねぇよなぁ!」

 

 

 

 クズ男は王都動乱の際に見た、黄金の姫と名高いラナー王女の事を思い出していた。

 上品でおしとやかで真摯に民を想い、邪悪な悪魔に立ち向かおうとする気高い心を持った少女の姿に、さすがは異世界だ、女の格が違うと感心していたものだ。

 

 

 

 「はぁぁぁ、馬っっ鹿だねぇ。狂也ってば女に夢を見すぎ」

 

 

 

 だが、マリアンヌは、やれやれと頭を振りながら、浮かれているクズ男の妄想をバッサリと斬り捨て現実へと引き戻した。

 

 

 

 「あんな見るからに理想的なお姫様なんて、現実にいるわけないじゃんか。絶対にそういう風に演じてるだけだって」

 

 

 

 自分自身が聖女を演じているだけあって、同類の女を見抜く目に長けているらしい。

 

 

 

 「は? そんなわけ……ッ! いや、マジなのか?」

 

 

 

 クズ男は、マリアンヌのいう事はおおむね正しいと評価していた。それでも信じられない、いや、どうか嘘であってほしいと彼女に縋った。

 だが、それでも彼女はラナー王女の純真無垢な姿を否定した。

 

 

 

 「狂也って確か、《傀儡(くぐつ)掌》を使えたよね? あの女を愛妾にしたら、それ使って本性を聞き出してみれば? それでも幻滅しないんだったら褒めてあげる!」

 

 「………へ、へっ、そんなの俺様は信じねぇぞ! 仮にそうだとしても、お前よりはマシに決まってらぁ!」

 

 「あらやだ、失礼しちゃう!」

 

 

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