アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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差別に悩まされるアインズ

◇ ────ナザリック地下大墳墓 執務室

 

 

 

 この無駄に広い執務室の最奥の席に座るのは、この大墳墓の統治者であり『骸骨の見た目を持つ最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)』の二つ名を持つアインズ。

 

 そして、彼の側に(はべ)るのは『慈悲深き純白の悪魔』の二つ名を持つ守護者統括アルベド。

 

 どのあたりが慈悲深いのか今のところ明らかとされていないが、とにかく彼女は慈悲深い悪魔であるらしい。

 

 そんな彼女が此度、アインズに対してクズ男・狂也についての報告を行っていた。

 

 

 

 「アインズ様、あの愚劣極まるプレイヤーである狂也に関して、ご報告したい事がございます」

 

 「聞こう」

 

 「実は竜王国にて、女王ら首脳部が、あの男の生存を匂わせる言動をしていた事がございました」

 

 「……何?」

 

 

 

 竜王国に関しては、世界各国の中でも危険度や重要度が最も低かったため、とりあえずの調査として恐怖公の眷属を派遣するのみだった。

 しかし、彼らでは、この世界の文字を読む事ができず、あの男から送られてきた手紙の内容を読む事が出来なかったのだ。

 そのため、より詳しい情報を得ようと新たな(しもべ)を派遣する予定となっていた。

 

 その矢先、スレイン法国から邪神軍による間諜に気を付けるよう注意を促された女王らは、それ以降クズ男についての話題を口に出さなくなり、あの時の手紙も焼却してしまったのだった。

 

 

 

 「……ふむ、それこそが、あの男からの手紙だったのかもしれんな。奴は最初、竜王国で活動していたらしいからな。女王とも親しい仲なのだろう」

 

 「申し訳ございません! よく調べを進めておけば、あのような事態には!」

 

 「よい、アルベド。お前の全てを許そう」

 

 

 

 アインズは、悲痛な表情で謝罪するアルベドを鷹揚な態度で許した。まさに慈悲深く偉大なる支配者の器を持っていると言えた。

 

 

 

 「それよりも、狂也が生きていた件だが、なぜだ? 奴は死んだはずではなかったのか?」

 

 

 

 あの時、デミウルゴスからの報告を聞く限りでは、拷問の際中に突然、何の前触れもなく死亡したらしい。アインズ自身も直接その死体を見て死亡を確認している。

 その後、死体は部下が有効に活用し、僅かなサンプルを残して処分してしまっていた。

 

 

 

 「外部からの手が加わったとは思えん。ワールドアイテム〈諸王の玉座〉の力で、そのような手段から守られているはずだからな。とすると、我々が知らない裏技や抜け道などが存在する可能性も考慮せねばなるまい」

 

 

 

 偶然そのような結果になったのならば、まだ良い。

 問題なのは、あの者らが、そのような裏技などを知っていて、それを実行する手段を持っているのかどうかだ。

 

 あるいは、この世界に来た事でアイテム類の性質に変化が生じた可能性もアインズは考えていたが、まだ確定的ではないためアルベドに話すのは控えていた。

 

 

 

 「それとも、奴は死んだ後、別の場所で何度でも蘇るとでも言うのか……?」

 

 

 

 もし、あの男がそのようなチートとも言える特殊能力を持っているとなれば、今後の行動にも慎重にならざるを得なくなる。

 

 他にも、あの時のクズ男が、この世界で最初に再開した頃の幼い精神のままだったというのも気になった。普通、壮絶な拷問を受けた人間と言うのは、良くも悪くも人生観が変わるものだ。それが彼の場合、まるで、その時の記憶を丸ごと失ってしまったかのように思えた。

 蘇る際の代償なのか、それとも不安定な精神を治すために記憶をあえて消したのかのいずれかだろうと、アインズは考えている。

 

 

 

 「アルベド、たしかに奴はプレアデスを殺すという大罪を犯した。だが、私が奴を始末しなければならない理由はそれだけではないのだ。

 良い機会なので、お前には話しておこう。私と奴の因縁をな」

 

 

 

 アインズは話した。元の世界で友人を害された事、仲間たちと協力して手に入れた貴重なアイテムを奪われたことを。

 

 

 

 「それだけじゃない。奴らの気質にも問題がある」

 

 

 

 アインズはクズ男だけでなく、その旧知の仲らしき聖女の人物像も推理していた。

 もし、考えている通りの人物であれば、彼女もまた、クズ男と同類の元富裕層のはずだ。

 

 

 

 「奴らの思考は読めている。我々を始末した後は悠々と世界征服に乗り出すのは想像に容易い。

 問題は、あの者たちの統治方法だ。おそらく、筆舌しがたいほどの超格差社会となるだろう」

 

 

 

 彼らのような、元の世界で富裕層だった者たちというのは積極的に格差社会を形成し、庶民から搾取するのを当然だと考えている悪辣な連中だ。かつての鈴木悟や大半のギルドメンバーたちも散々苦しめられてきたものだ。

 

 そんな者たちだからこそ、この世界でも似たような社会体制を築き上げるはずだ。

 

 いや、この世界には人間以外にも多種多様な種族がいる事を考えると、それら他種族を搾取する対象として選ぶに違いない。

 そして、彼らの支配を受け入れた人間たちも、それを嬉々として受け入れるはずだと推測していた。

 闘技場で観客たちから罵倒され、石まで投げつけられた事を考えると容易にその結論にたどり着いてしまうのだ。

 

 

 

 (あの時は、確かにルールを破って魔法を使いはしたけどさ。それは、あの悪党を野放しにしておく方が危険だったから、そうせざるを得なかっただけなんだ。なのに観客は俺の事情も考慮せずに、一方的に悪者扱いしてきたからなぁ……。

 それだけ、この世界ではアンデッドへの差別意識が根強いって事なんだろうけど、まさか石まで投げつけてくるなんて予想外だったよ。いくら差別してるからって、それが他国の王に対する態度なのか……?

 帝国では、一体どんな教育を民に行っているというんだ? まったく………)

 

 

 

 アインズは、あの闘技場での試合で自分への応援が一切なく、さらには自身の信念に基づいた行動にさえブーイングしてきた愚かな観客たちの姿を思い出していた。

 この世界の人間が、いかに閉鎖的な価値観に染まっているかを実感したのだ。その意識改善に骨を折る事になるのだろうと予感し、辟易としながらも話を続けた。

 

 

 

 「おそらく、いや、十中八九、格差社会の負の側面を他種族に押し付けるだろう。奴らに従う他の人間たちも、その体制を積極的に受け入れるのが目に見えている。彼らの他種族への差別意識は根強いからな。

 そうすると、その世界では人間種が中心の社会となり、亜人種は良くて奴隷、異形種に至っては見世物あるいは家畜へと堕とされる……。

 そのような光景がありありと目に浮かんでくるのだ」

 

 

 

 これを聞いたアルベドは怒りに震えた。つまり、自分たちのような存在を(ないがし)ろにするという事だからだ。

 

 

 

 「下劣にも程がありますね。これがアインズ様であれば、そのような野蛮な思考回路を持つ人間たちでさえ大切に扱い、全ての種族が平等である理想郷を実現なさるというのに……!

 そんなアインズ様の慈悲深く崇高な御志とは大違いです!」

 

 「そう言ってもらえると嬉しいよ。だからこそ、奴らの蛮行を我々が阻止せねばならないのだ。全ての種族が平等に、平和に暮らせる世界を実現するためにもな」

 

 

 (そうだ。もう、あんな元の世界のような醜い格差社会を、この美しい世界に持ち込んじゃダメなんだ。だからこそ、この世界に生きる者たちに不幸をもたらす、あの二人組の存在を許すわけにはいかない。それに………)

 

 

 「それにな、アルベド。以前、デミウルゴスたちにも言ったが、恩には恩を、仇には仇を返すべきだと私は思っている。あの男の悪行を罰し、その罪を償わせる事こそが、奴から被害を受けた者たちへの最大限の供養となるだろう」

 

 「まあっ、魔導国に所属していない被害者たちの魂さえも救済されるだなんて! アインズ様の慈悲深さに彼らもきっと感動の涙を流す事でしょう!」

 

 「ふっ、世辞はよせ。それに本来であれば、彼らも将来的に魔導国の民となったはずの者たちだ。そんな彼らの魂を救済するのは為政者として当然のことだ」

 

 

 

 被害者を想うアインズの顔は、表情のない骸骨顔のはずなのに優しさに満ち溢れていた。

 

 そんな彼の慈悲深さに、アルベドの恋心は、今まさに天元突破していた。

 

 それと同時に、懸念すべき事もあった。

 

 

 

 (矮小なる人間どもにも情けを掛けようとなさるなんて。確かにアインズ様は慈悲深いお方だけれど、それだけじゃないとしたら?

 もしも、あの天使が話した内容が真実だとしたら………)

 

 

 

 アルベドは、あの闘技場でトドメを刺した熾天使(セラフィム)が最期に言ったことが気になっていた。アインズの正体が人間なのだという、不敬極まる言葉を。

 

 自分はともかく、それを間近で聞いたシャルティアの方は、何か思う所があるのか、表面上は取り繕っているが、心なしか以前よりも元気がない様子だ。

 

 アルベドもまた、彼女ほどではないにせよ、あの天使の言葉に対して、小骨が喉に引っかかったような嫌な感覚に陥っていた。

 

 

 

 (……なにを馬鹿な事を。仮にそうだとしても、私は変わらずアインズ様をお慕い申し上げるだけだわ。いつか、私に振り向いてくださるまで。いいえ、振り向いてくれた後でも……。

 あんな天使の死に際の言葉なんて、気にする必要は一切ないわ!)

 

 

 

 どう言い訳しようとも、彼女は天使の最期の言葉が気になって仕方がなかった。アインズに直接尋ねてみたい気持ちで一杯だったが、そんな不敬な考えを必死になって切り捨てようとしていた。

 

 

 

 「アルベド?」

 

 「……はっ!? も、申し訳ございません、アインズ様! 少し考え事をしておりました!」

 

 「いや、気にするな。お前には、大量の仕事を任せていると分かってはいるが、やはり、どうしても頼ってしまうな。許せ」

 

 「とんでもございません! アインズ様のお優しいお言葉こそが、私にとって何よりの褒美なのですから!」

 

 「そうか……。さて、話の続きをしよう。まず、この世界の人間との会話を通じて気付いた事がある。どうやら、彼らには悪魔とアンデッドの区別が付いていないようなのだ」

 

 

(たしか、ニン……プル………? とかいう若い男の騎士から、悪魔なのかって聞かれた事があったっけなぁ……。

 いや、今の俺の外見はアンデッドだと一目で分かるだろうに。目がおかしいんじゃないのか、アイツは?)

 

 

 

 かつて、王国との戦争時に、黒い仔ヤギたちを召喚して王国兵を蹂躙している際中のことだった。

 

 

 ───まだ殺し足りないと!? 貴方は悪魔か!

 

 

 その時、帝国四騎士の一人であるニンブルから、そのような信じがたい事を言われたのだ。

 

 どうやら、この世界の人間は、他種族への強い差別意識を持っているだけでなく、悪魔とアンデッドの種族的な違いすらも、よく分かっていないのだと思い知らされていた。

 仮にも帝国内で屈指のエリート階級である四騎士であるはずなのに、そんな基本的な知識さえ持ち合わせていないという事実に、アインズは内心かなり呆れていた。

 

 

 

 「なんという低劣な認識力なのでしょう。やはり、所詮は下等な生き物だという事ですね。存在自体が可哀そうになってきました」

 

 「私も同感だ。そこで、我が魔導国の子供たちには、その二つの種族の違いを懇切丁寧に教える事にしよう。

 ナザリックの者たちは悪魔やアンデッドが多いからな。その区別が分からないようだと、将来、とても苦労するだろう」

 

 「幼いうちから、見識を養うための教育を施すという事ですね?」

 

 「うむ。それだけでなく、まだ価値観が凝り固まっていない幼少期から異種族と触れ合う事で、差別主義的な大人に成長しないようにするという狙いもある。要は情操教育の一環だな。

 教師役だが、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)頭冠の悪魔(サークレット)が向いていそうだ。彼らを特別講師として幼年学校に派遣するとしよう」

 

 「はい、そのように。ただ、 頭冠の悪魔(サークレット)は素の状態だと単なる首無しの悪魔ですので、別の悪魔がよろしいのではないかと愚考いたしますが……?」

 

 「ああ、その問題もあったな。それについてだが、良い案がある。

 つい先日、我が魔導国に反目していた抵抗勢力(レジスタンス)を一斉摘発したわけだが、奴らの首でも付けておけば良いんじゃないか? 死刑囚の再利用にもなるからな」

 

 「……なるほど、そういう事ですか。さすがはアインズ様! 幼いうちから、物事の道理(アインズ様に楯突く事の愚かさ)を徹底的に叩き込むわけですね! 素晴らしいお考えだと思います!」

 

 

 

 アルベドは、まるで恋する少女のように目を輝かせ、羽をパタパタと動かしながら、アインズの考えに同調した。

 

 

 

 (………んん? なんで、今の会話の流れで、そんな反応が出るんだ? ただ、命令を淡々と受理すれば良いだけなのに……。

 いや、頭の良いアルベドの事だ。きっと、俺の方に何らかのミスがあったんだろう。威厳を保つためにも、ここは適当に話を合わせておかないと……!)

 

 

 「そ、その通り!(種族間トラブルで苦労しないように)徹底的に子供たちを指導してやるのだ!」

 

 「はい! 今すぐにでも、そのように手配いたします! 楽しくなってきましたね、アインズ様!」

 

 

 

 良いアイデアだと喜んでいた彼らだったが、その抵抗勢力(レジスタンス)と顔見知りの子供も多かったため、その悪魔に付けられた”首”を見た子供たちが一斉に泣きわめく事態に陥ってしまった。

 

 大勢の子供たちが学校に通う事に拒否反応を示すようになるのだが、そうなる未来をアインズは予想する事ができなかった。

 

 

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