アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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邪教団を調査するクズ一行 & ティラ

◇ ────帝都 地下牢

 

 

 「ひゅ~、すっげぇ! 上玉ばかりじゃねぇかよ!」

 「なぁなぁ、おねぇちゃんたちよぉ、一回だけでいいから抱かしてくれや! こちとら、女に飢えてんだ!」

 「ハァハァハァ……ッ! 女、女、女……!」

 

 

 この地下牢では、帝国内でも特に重罪を犯した凶悪犯どもが収監されていた。

 

 そんな男たちが、そばを歩いていくクズ一行の女性メンバーたちに対して、一斉に劣情の眼差しを向けていた。

 檻を激しく揺らし、涎まで垂らしながら、彼女たちに必死になって手を伸ばそうとしている。よほど、女性に飢えているようだ。

 その様は、まるで血肉に群がろうとするゾンビにも見える。

 

 

 「おい、うるせぇぞ! このクズどもがッ!」

 「あらあら、実に哀れな方々ですねぇ。来世では真人間となって救われますように……」

 「下衆どもが……」

 「………」

 

 

 そんな者どもを、クズ一行とティラが無視しながら、あるいは睨みつけながら進んでいた。

 彼らとしても、このような輩に構っているほど暇ではないのだから。

 

 

 「げっへへへ……!」

 

 

 その時、マリアンヌの服の裾が、一人の囚人の手に引っ張られてしまった。

 

 

 「きゃっ!?」

 

 「ひひひっ、神官のねぇちゃん! 俺の寂しい心を体で癒して………ッ、ぐぉああああッッ!!?」

 

 

 驚いたマリアンヌが、思わず囚人の手を払いのけようと手を振り払った。

 可愛らしい声とは裏腹な強烈な一撃によって、その男の腕は有り得ない方向に折れ曲がってしまった。

 

 

 「あ、あらやだ……! (わたくし)ったら、つい……」

 

 

 聖女らしからぬ怪力を思わず見せてしまったマリアンヌは、激しい痛みでのたうちまわっている下賤な男を無視して、慌てて取り繕うとした。

 

 だが、この光景を見て恐れおののいた他の囚人は、自分の腕もあのようになりかねないと悟り、一斉に手を引っ込める事にしたようだ。

 これによって、道がだいぶ通りやすくなったので、結果的には最適な行動となったわけだが。

 

 

 (あ、あんなに細腕なのに、あの怪力! 皇帝からは、彼女も(ぷれいやー)だとは聞いていたけど、これ程とは……)

 

 

 ティラはマリアンヌの力の一端を知り、改めて警戒心を強めていた。神などと言う眉唾な存在に対して、心のどこかで疑っていたようだと反省していた。

 戦士ですらない神官にも関わらず、あの力だ。つまり、もう一人の神であり、戦士とされているクズ男は、さらに強い力の持ち主だと推察した。

 果たして、そんな存在に敵意を向けられた時、自分やイジャニーヤは立ち向かえるのだろうか。いや、生き残る事さえ怪しいと考えていた。

 どんな強大な存在だろうと、敵対した場合も考慮して、ありとあらゆる想定を行うのは暗殺者としての癖のようなものだ。

 

 

 ティラが色々と考えている間にも、クズ一行は足を進めていた。

 

 やがて、奥にある牢まで辿り着いた。そこは、特に厳重な作りをしていると一目で分かる牢屋だった。

 

 

 「この者は、少し前に暗躍していた邪教団の一員です。そこらの下っ端よりも上の地位にあるようなので、暗殺されることを警戒して、この特別な独房に隔離しております」

 

 

 この場を管理する牢番が、そのように説明した。暗殺と言ったが、それは牢にいる囚人が行うのではない。

 秘密漏洩を阻止するべく派遣された暗殺者に囚人が殺されてしまい、折角の情報源が失われてしまう事を危惧しているからこそ、こうして隔離されているのだ。

 

 その牢の中には、ひとりの男が上品にベッドに腰かけていた。

 

 

 「……やれやれ、また来られたのですか。私を尋問しても無駄ですよ? なぜなら、私は何も知らないのですから」

 

 

 牢にいた男は不敵な笑みを浮かべて牢番を挑発した。

 犯罪者にしては気品がある。貴族ではないとのことだが、明らかに良いところの出であり、高度な教育を受けてきたと分かる。

 

 

 「下手に魔法を使って白状させようとすると、即座に死ぬ魔法が掛けられているのです。これまで、どれだけの数の下手人に死んで逃げられたことか……」

 

 

 このように、そこそこ上の地位にあると思われる輩の場合、尋問や魔法への対策もしっかりと施されているため、迂闊に自白を強要するわけにもいかず、拷問官もお手上げ状態だった。

 

 

 「あのですねぇ、私は本当に何も知らないのですよ。そもそも、その邪教団とやらとも無関係です。いい加減、早く私をこんな危険な場所から解放してもらえませんか? 罪のない市民をいつまでも拘束しているとなれば、後々問題となりますよ?」

 

 

 男は毅然とした態度で釈放を要求した。その堂々たる対応を見れば、まるで本当に無実の罪で捕らえられた悲劇の紳士に見えるかもしれない。

 彼がここまで冷静なのも、自分に細工が施されている限り、重要情報を漏らす事など不可能だと分かり切っているためだ。

 現に、今まで捕まった者たちも、最後まで情報を吐くことはなかった。

 それに、この男の言う通り、彼はとある貴族家に仕えている人間だ。下っ端への指示役の疑いで捕縛したが、いまだに証拠がなく罪が明らかとされてはいなかった。

 なのに、いつまでも拘束するとなると皇帝の威信に傷が付いてしまう。無理に情報を吐かせようとして殺してしまっても貴族が付け入る隙を与えてしまう。

 

 そのような事情を分かっているからこそ、この男は太々しい態度を崩さないのだが、そんな彼に構うことなくクズ男は近づき、男に向けて無造作に手を向けた。

 

 

 「な、なにをなさるのです!? 暴力でも振るうつもりですか!? 私には自身の潔白を主張する権利が……ッ」

 

 「あー、もう、うるさい。ちと黙れ」

 

 

  抗議する男の声を無視して、彼の頭に手のひらを置くと、軽く”(けい)”を放ち、脳に衝撃を与えて男を気絶させた。

 

 

 「ほれ、《傀儡掌》っと」

 

 

 気絶した男にクズ男がスキルを放つ。相手の意識がない方が成功しやすいからだ。

 やがて、その男はぼんやりとした表情を浮かべながら目を開いた。

 

 

 「よしっ、成功だ。さぁて、テメェらの上役とやらの正体と、それからアジトの場所を教えな」

 

 「…………はい、我々邪教団の幹部は、この国の貴族で……」

 

 

 その男が素直に白状し始め、牢番だけでなく、イビルアイ、レイナース、ティラの三名も驚いていた。

 

 

 「こ、こんなに簡単に……ッ。これほどの技が、あの時にも使えていれば……ッ!」

 

 「すごい! あれほど手こずった捕虜の尋問が、こんなにもあっさりと!」

 

 「まさか、あんな男がこれほどの技を使えるとは……」

 

 

 イビルアイの声には、興奮と同時に若干の悔しさも含まれていた。かつて八本指を襲撃した際、その技さえあれば簡単に取り纏め役まで辿り着き、八品指の壊滅のために動けたのにと。

 

 レイナースにしたってそうだ。ずっと以前にに彼がいてくれれば、長年に渡って帝国に巣食ってきた邪教徒への対処も容易かっただろう。その分、奴らに傷つけられる民も、かなり抑えられていたはずだ。

 

 そして、ティラが一番驚いていた。クズ男は見るからに武力一辺倒の人間なのに、まさかこういった調査で一番役に立ちそうなのだから。

 戦闘力だけでなく調査能力に役立つ能力まで持っているとなれば、情報収集に長けていると自負するイジャニーヤの存在価値が一気に急落しそうな危機感を抱いてしまうほどだ。

 

 

 「そんじゃあ、この調子で次行くぜ!」

 

 

 そんな女性陣の驚きを称賛と捉えたクズ男は、隣の独房に入れられている男にも近づいていった。

 

 

 「ま、まて、やめろ!」

 

 

 一連の様子を伺っていた男は、隣人があっさりと白状してしまったのを見て、クズ男から少しでも距離を取ろうと慌てて後ずさるという無駄なあがきを見せていた。

 もし、自分も自白してしまえば、彼の主人である貴族によって、自分の家族が苛烈な制裁を加えられてしまうからだ。

 平気な顔で犯罪行為を行う邪教徒であっても、家族の命は大事なようだ。

 

 

 「へっ、や~なこった。ほれ、《傀儡掌》っと!」

 

 

 だが、残念ながら、クズ男は彼の懸命な懇願など気にするような優しい性格ではない。

 その男に近付くとあっさりと気絶させ、先程と同じようにスキルを放った。

 

 

 「………。ふーむ、成程ねぇ……」

 

 「どうでしたか、狂也様?」

 

 「ああ、どうも、この帝都の共同墓地の地下に奴らのアジトがあるみてぇだな。所属している貴族共が何人もいるらしいぜ。ったく、この国の衛兵どもも情けねぇったら、ありゃしねぇ!」

 

 

 どうやら、奴らは帝都の共同墓地の地下に根を張っているようである。

 火の光も通さぬ地の底で身を潜めながら、日夜、邪神への信仰を捧げるべく闇の儀式を執り行っているのだとか。

 

 そして、そこに所属する貴族の人数は予想以上に多いと分かった。

 富も権力も手にした人間が最後に追い求める夢は、やはり永遠の命と若さだというのは、クズ男たちの元の世界と変わらないようだ。

 

 邪神降臨のための怪しげな儀式の質を上げるために、時には幼い子供を生贄として儀式に利用するのだとか。

 その事実を聞いたマリアンヌ以外の女性陣は、その強い正義感から義憤に駆られていた。そんな醜悪な組織など、この世にあってはならない存在だと再認識したのだ。

 

 

 「よしっ! ちょっくら、その共同墓地とやらに行って、頭のイカれた貴族共の面でも拝むとするかねぇ! 行くぞ、お前ら!」

 

 「はいっ、邪神アインズに関わる重大な機密が得られるかもしれませんね!」

 

 

 二人の会話を聞いているメンバーも、大きく頷いた。

 たとえ、この世界を破滅に導く邪神と認識しているアインズとは無関係かもしれなくても、そんな邪悪な存在を崇拝する組織など百害あって一利なし。一刻も早く壊滅させなくてはと彼女たちは強く心に誓っていた。

 

 

 

              +

 

 

 

◇ ────共同墓地

 

 

 

 「ここが帝都の共同墓地になりますわ」

 

 

 一時的にティラを加えたクズ一行の五人が、レイナースの案内の元、共同墓地に到着した。

 

 

 辺り一面に墓が立ち並んでおり、陰鬱な雰囲気を醸し出していた。ほんの僅かばかりの瘴気が加わっただけで、アンデッドが出現してもおかしくはなさそうだった。

 

 その奥の方に、ひと際大きく立派な建物があり、彼らはそこを調べるために足を進めていた。

 

 

 「……ふふっ」

 

 「ん? どした、イビルアイ?」

 

 「いや、大したことじゃない。ティラといると、アイツらとの冒険を思い出して、つい懐かしい気分になってな」

 

 「……以前にも、妹たちと似たような仕事をしたことがあるの、イビルアイ?」

 

 「まあな。生き別れになった日より少し前には、王国に巣食う八本指の拠点に赴き、そこで栽培されていた麻薬畑を逐一燃やして回ったりしてな。今となっては、もう随分と昔の事のように思える」

 

 「そう……。その話、帰ったらゆっくり聞かせてほしい。妹たちの活躍、とても興味がある」

 

 「ああっ、もちろんだ。帰ったら、すぐにでも聞かせてやるからな!」

 

 

 そうして雑談もそこそこに、しばらく歩いていると、目的の建物へと辿り着いた。

 彼らが予想していた通り、そこは霊廟のようである。

 

 

 「囚人共が言うには、この台座に付いている仕掛けが鍵らしいな」

 

 

 そう言うと、クズ男は一切()()()()()()台座に付いている仕掛けを解除した。

 

 すると、台座が大きく動き始め、やがて地下に通じていると思われる階段が姿を現した。

 その階段は暗闇で覆われ、下の方がどうなっているかまでは分からない。まるで、危険なダンジョンへと誘う入り口のようでもある。

 

 

 「よしっ、そんじゃあ、行くとするか! お前ら、俺様に付いて来い!」

 

 「あ、キョーヤ、もう少し注意してから……ッ」

 

 「なに、大丈夫だって!」

 

 

 階段が出現するや否や、罠の危険を確認する事もなく降りていくクズ男をイビルアイが諫めようとするが、彼は気にすることなく無防備に進んでいく。

 

 そんな彼の姿を見て、そういえば、この男は(ぷれいやー)だったなと思い出していた。

 つい、かつての冒険者時代の癖で慎重になりすぎてしまったようだ。

 

 

 「臭いますわね……」

 

 

 階段を降りきったところで、レイナースが鼻を抑えながら言った。

 この空間には、なにやら妙なにおいが漂っており、他の女性陣も顔をしかめていた。

 

 

 「……ッ! これは危険!」

 

 「ティラ? 危険というと、まさか毒なのか!?」

 

 「……いや、別に吸ったからと言っても、死ぬわけではない。ただ、これは人の性欲を強く刺激する作用がある。別の意味で、すごく危険」

 

 

 そう言うと、ティラはクズ男の方を向きながら後ずさった。

 

 

 「……みんな、この男から離れて行動した方がいい。いつ性獣と化すか分からない」

 

 「おいおいっ、なに言ってんだ!? こんな匂い如きで、どうにかなる俺様じゃねぇぞ!? 少しは信用しろって!」

 

 

 クズ男が抗議するが、ティラは聞く耳を持たない。今まで独自に調べた情報から、この男が信用できない人間であることは結論済みだからだ。

 

 

 「安心してください、ティラさん。状態異常の耐性を高めるアイテムを狂也様に渡しておきますからね。はい、狂也様」

 

 

 マリアンヌはどこかからアイテムを取り出し、クズ男に差し出した。

 

 

 「ふむ、これならば、ティラも安心できるんじゃないか?」

 

 「それなら、まあ、なんとか……」

 

 「やれやれ、そんなに俺様の状態異常耐性が信じられねぇか? なんにせよ、ティラちゃんが心配性だって事が、これで証明されたな。そんなんじゃ、これから先の戦いで身が持たねぇぞ?」

 

 「………ッ」

 

 

 元はと言えば、信用を得るための行動を取ろうともしないクズ男の方にこそ問題があるだろうがと、ティラは心外に思った。

 自分の懸念を単なる心配性だと片付けられて憤慨しそうになったが、この男に指摘したところで無駄なので胸の内に収めることにした。

 

 

 「……ふん、それにしても淫靡の香か。いかにも邪教徒どもが好みそうな代物だな。実に不快な臭いだ。虫唾が走る!」

 

 

 イビルアイは、この暗く広い空間に漂う怪しげな香の臭いに嫌悪感を示し、忌々し気につぶやいた。

 アインズ本人だけでなく、邪神を崇めているカルト団体というだけでも、彼女にとっては憎しみの対象なのだ。当然、そんな輩が焚いている香の臭いなど好きになれるはずもなかった。

 

 

 「ここで、三手に分かれよう。貴方たちは二手に分かれて探索。私は一人で別の道を行く」

 

 

 目の前の複数に分かれた道を見て、ティラが提案した。

 どうやら、侵入者対策として、いくつもの道が掘られているようだった。

 

 しかも、どういう仕組みによるものか、全ての道から香の臭いが漂ってきているため、その臭いを辿っていく事も出来そうになかった。

 

 

 「では、私とレイナースさんはあちらの道を行きますね」

 

 「そんじゃあ、俺様とイビルアイはあっちだな」

 

 「………前言撤回。やはり私もイビルアイと一緒に行く」

 

 

 ティラは、クズ男の方をジト目で睨みながら発言した。

 彼とイビルアイが二人きりになって仕事をするのを阻止するためだ。主にイビルアイの身の安全のためにも。

 

 そんな、あからさまな言動に関係なく、ティラの思いはイビルアイにも伝わっていた。

 

 

 (ふふっ、そんなに心配してくれなくてもいいのにな。そういう所は、アイツらによく似ているな、ティラは……)

 

 

 イビルアイは、自分を過保護なまでに案じてくれるティラに、かつての仲間たちの面影を思い出していた。

 

 

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