アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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魔導国宰相アルベドとの会談

◇ ────帝都アーウィンタール 皇城 謁見の間

 

 

 「よくぞ参られた。魔導国宰相アルベド殿」

 

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国との約束の会談の日となり、かの国から来訪した使者たちを、ジルクニフは玉座の間にて出迎える。

 相手側は、アルベドを大使として、闇妖精(ダークエルフ)のマーレが副使として同行していた。

 

 ジルクニフの周囲に侍るのは、マリアンヌとイビルアイ、レイナース、そしてローブを深めに被った魔導士。

 

 ティラは姿を隠しながら、部屋の陰に身を潜めている。

 

 いつもの護衛である四騎士の二人は、入り口のドアに控えている。

 彼らも現地基準では強者だが、さすがにアインズの配下を抑えきれるわけもないからだ。

 

 ちなみに、クズ男はジルクニフが座っている玉座の後ろに隠れている。彼はあくまでも一介の請負人(ワーカー)という立場をとっているため、会談には参加しないスタンスだ。

 だが、相手が荒っぽい手段に出れば、すぐにでも姿を現すつもりだ。

 

 

 「エル=ニクス陛下、この度は会談の場を設けていただき、誠に感謝いたします」

 

 「なに、気にしないでくれ。同盟国からの会談の申し出だ。断る理由など、どこにもないとも」

 

 

 会談はまずは軽くお互いに雑談から入った。

 ジルクニフは、一応は同盟国である魔導国側の顔を立てながら、当たり障りのない会話で様子見をしている。

 そんな彼に対し、アルベドも表向きは快く会話に応じる。

 

 

 「……さて、アルベド殿。そろそろ本題に入ろうじゃないか。此度、我が国に来訪した目的を聞かせてくれるか?」

 

 「そうですね、では本題に入らせていただきます。まずは、先日の闘技場での一件についての詳しい事情を説明したいと思います」

 

 「うむ、あの件は私としても大変遺憾に思っている。なぜ、あのような事をしたのか、納得のいく説明を願いたい」

 

 「はい。実は、あの武王クズル・クズクーズですが、その正体は竜王国の”暴虐の英雄”狂也であり、我が国において数々の重罪を犯したとして、指名手配されている者です」

 

 「……ほう、重罪人とはな? して、その罪とは?」

 

 「我が国の要人を、幾人も殺害した罪です」

 

 「……なるほど。だが、その者を捕らえるだけのために我が国で見境なしに魔法を放ち、挙句の果てに観客まで巻き添えにする必要が、果たしてあったのか? そもそも、魔法を使用しないのが、闘技場で最初に定められたルールだったはずだ」

 

 「あの状況ではやむを得ませんでした。なにせ、相手は正体を隠して試合に出場した大罪人。むしろ、そのような者を試合に出した責任が、そちらにはあるはずです」

 

 「我々の責任だと……? なぜ、そうなる?」

 

 「エル=ニクス陛下が、あの者の正体を知っていたにも関わらず、わざと見逃した可能性も否定できないからです。あわよくば、その者に魔導王陛下を殺させ、亡き者とするために」

 

 「違う! とんでもない誤解だ!」

 

 

 アルベドの言い分は、もはや言いがかりに等しかった。

 そのような罪を認めることなど、到底できるわけがない。

 

 

 「そもそも、我々はゴウン殿が試合に出場する事すら把握していなかったのだぞ!?」

 

 「ですが、貴国の闘技場の興行主であるオスク殿からは許可を得ました。それなのに、陛下に話が行っていないとする方が不自然では?」

 

 「許可を得たと言うが、私はゴウン殿が帝都に訪れたことすら知らなかったのだぞ!? 無断で我が国に立ち入ったのは、そちらの落ち度のはずだ!」

 

 「それは、あんまりなおっしゃりようかと。あなた方に歓迎の式典などの気遣いをさせまいとする魔導王陛下のお心遣いだったのですよ?」

 

 「いや、しかしだな……!」

 

 「ですが、それは確かに我々の落ち度だったと認めましょう。ですので、私どもも試合に参加する事を貴国が知らなかった件について、これ以上の追及はよしておきましょう」

 

 

 交換条件として、お互いの落ち度の追及を止めるように、彼女は提案した。

 さも、自分たちに落ち度など一切ないと言わんばかりの態度だ。

 

 

 「とはいえ、かの大罪人が貴国内にいるのは分かっております。どうか、我が国に引き渡していただきたいのです」

 

 「そうは言うが、アルベド殿。あの者は我が国に仕えているわけではなく、一介の請負人(ワーカー)でしかないのだ。連れてくるのにも、それなりの時間が掛かる」

 

 

 自分に仕えている部下ではなく、あくまでも国に縛られない立場である請負人(ワーカー)だという事を彼は強調した。

 こうすることで、帝国には何の責任もない事を主張したのである。

 

 

 「時間が掛かる、ですか? おかしいですね。陛下はあの者を城に住まわせ、幾人もの女性たちに世話をさせていると聞き及んでおりますが?」

 

 「………ッ!」

 

 

 ジルクニフは一瞬だけ驚いたが、すぐに冷静さを取り戻す。よくよく考えれば、自分たちの状況が知られる要因には心当たりがありすぎた。

 

 

 (大方、裏切り者のフールーダから情報が漏れたのだろうな。特段、隠すような事でもなかったが、それでも不愉快極まる! いずれ始末する予定ではあったが、より凄惨なやり方で処分を下してやる!)

 

 

 「アルベド殿のおっしゃる通り、この城に招いていたのは事実だ。だが、つい先日、かの者はここから出て行ってしまってな。どこに行ったか告げられてもいないのだ」

 

 「であれば、逮捕状を出していただけますか?」

 

 「いや、帝国内で罪を犯したわけでもない者に対して逮捕状を出すなど、さすがに無理があるぞ?」

 

 「何をおっしゃいますか? 貴国と我が魔導国は友好的な同盟を結んでいる仲ではありませんか。ここは、お互いに協力し合う義務があるはずです。違いますか?」

 

 「……分かった。逮捕状は出そう。捕まるまでの間、その者が仕事できぬよう手配もしておく。ただ、我が国の兵士で捕縛できるか分からないが、そこは受け入れていただきたい」

 

 

 その話に持っていかれた場合の対応は、事前に打ち合わせ済みだ。帝国としては、あくまで逮捕状を出し、仕事を制限するだけ。

 

 仕事を失った請負人(ワーカー)が国内で暇を持て余そうが、他国へと出奔しようが、帝国側には何の責任もないという訳だ。

 それに、仕事を制限すると言っても、要は正式な金銭のやり取りができないと言うだけだ。

 個人的な好意で無料(ただ)で仕事をしてもらい、その礼の()()()として金を渡すだけなら、何も問題はない。

 

 

 (一介の請負人(ワーカー)さえ逮捕できない弱小国なのだと相手から認識されるような振る舞いなど、通常であれば愚策もいいところだが、どのみち奴らは我々を見下しているだろうしな。せいぜい、侮らせておけばよい)

 

 

 もちろん、魔導国が帝国の弱みを他国へ流すことも予想されるが、それも問題はない。

 

 たとえば、スレイン法国とは秘密裏に対邪神軍同盟を結んでいる間柄であるため、彼らが魔導国からの噂に惑わされる事はない。そもそも、その逮捕できない相手にしても、かの国が崇める(ぷれいやー)なのだから。

 

 昨年まで戦争していたリ・エスティーゼ王国に知られるのは不味いが、かの国と帝国との間には魔導国が位置している。皮肉にも、彼らの存在が王国軍に対する防波堤となっている。

 

 ローブル聖王国も安全だ。なんでも、つい最近になって強大な力を持った亜人の王が現れ、その力で多くの部族をまとめ上げているらしい。そのため、かの国では厳重な警戒態勢が取られているという話が、商人たちの口から伝わってきている。

 とてもじゃないが、帝国に意識を割く余裕などないだろう。援軍の要請ならあるかもしれないが。

 

 なので、たとえ弱小国家と侮られようが、ダメージは皆無だ。あえて、自国の戦力が弱いと開き直る事で、相手の要求をのらりくらりと躱す作戦だ。

 

 

 「……なるほど、そう来ましたか」

 

 

 アルベドも、そんなジルクニフの考えは悟っていた。

 こうなると、クズ男の逮捕は実質不可能だ。

 それに、いくら捕縛したいからと言って、仮にも同盟国の中で一介の請負人(ワーカー)を捕まえるために兵士を派遣して暴れさせるわけにはいかないだろう。

 まだ相手が属国となっていない以上は、そのような内政干渉を行う真似はできない。

 

 

 「であれば、そちらの聖女マリアンヌ殿の身柄はいかがでしょうか?」

 

 「……なに?」

 

 「彼女が、あの大罪人の仲間であるという事は判明しております。詳しい事情を聴きたいので、一度我が国に引き渡してもらえませんか?」

 

 「そんな事、できるはずがなかろう!」

 

 「ご安心を。あくまで、事情聴取のためです。それが済み次第、速やかに釈放いたしますので」

 

 

 いくら何でも、そのような、ふざけた要求を呑むわけにはいかない。

 それに、返還するとは言うが、偽物を送り返されても困る。

 

 彼女の無茶な要求に対し、話題に上がった当のマリアンヌも呆れたように首を振っている。

 

 

 「ふざけるなよ……」

 

 

 その時、黙って話を聞いていたイビルアイが怒りを滲ませながら彼らの会話を中断させた。

 

 

 「何か悪事だ。貴様らこそ、自らの悪行を棚に上げて言いたい放題だな」

 

 「私たちの悪事? 一体何を言っているのかしら?」

 

 「白を切る気か? リ・エスティーゼ王国での悪魔騒動、第三王女の誘拐、それらはどう説明するんだ?」

 

 「悪魔騒動ですって? それは大悪魔ヤルダバオトの仕業であって、私たちとは何も関係が……」

 

 「ふざけるな! 全ては、貴様らの自作自演だろうが! そして、ラキュースたち……ッ、蒼の薔薇を殺したのも貴様らだろう!」

 

 「おかしな事を聞くのね。蒼の薔薇なら、ちゃんと生存しているじゃない。   最近だって、我が魔導国に王国の姫君をご招待して下さったものね♪」

 

 「……ッ! どうせ、あいつらを洗脳したか、偽物でも使ったのだろうがッ!」

 

 「嘘なんかじゃないわ。貴女のお仲間たちはとりあえず全員無事よ。今のところはだけれど……」

 

 「どういう意味だ!? 本当に私の仲間たちは無事なんだろうな!?」

 

 

 その意味深な発言にイビルアイが大きく動揺するが、そんな彼女を気にする事なく、アルベドは隣で静かに控えているマーレに指示を出す。

 

 

 「では、証拠をお見せするわね。マーレ、お願いできる?」

 

 「は、はい……」

 

 

 声を掛けられたマーレがおどおどした態度で頷き、指を頭に当て、どこかへ《伝言(メッセージ)》を出している。

 

 それほど間を置かずに、彼女たちの側から黒いゲートが開く。

 

 帝国側が手荒な手段に出た場合に備えて、本拠地にいるシャルティアがいつでも動けるよう待機しているからだ。

 

 やがて、そのゲートの中から一人の人物が姿を現した。

 

 

 「ラキュース!?」

 

 

 ずっと消息が分からなかった蒼の薔薇のリーダーであり、イビルアイの仲間であるラキュースであった。

 

 

 「久しぶりね、イビルアイ。今まで、ずっと会えなくてごめんなさい。でも、貴女も元気そうで本当に良かったわ」

 

 

 彼女は以前とまるで変わらぬ様子で、親友に向けて優しく微笑んでいた。

 

 

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