アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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囚われし者たちの救出【※閲覧注意】

◇ ────帝都アーウィンタール 皇城

 

 

 魔導国使節団との会談が終わった後も、彼らは玉座の間で雑談という名の話し合いを続けていた。

 

 

 「そういえば、あの偽物のラキュースは、イビルアイに対して、仲間との思い出なら何でも聞くように言っていたが、まさか全ての情報を抜き取ったというのだろうか? イビルアイ個人との思い出まで抽出するというのは、さすがに考えにくくはないか?」

 

 「いいえ、そうとも限りません、陛下。どうやら、二重の影(ドッペルゲンガー)という魔物は、変身した相手の記憶まで、ある程度はコピーできる能力を持っているようです。私も詳しくはありませんが」

 

 「まァ、あれはそういう生態だからなァ」

 

 「やはり、元となった人間は始末されている可能性が高いだろうな……」

 

 

 イビルアイが諦めたように言った。元々、ある程度の踏ん切りは着いていたが、こうして話題に出されると、やはり辛いものがある。

 

 

 「……待ってほしい。まだ生きている、というか、生きかされているという事はない?」

 

 「どういうことだ、ティラ?」

 

 「邪神が蒼の薔薇を捕らえたのは、奴の配下を殺した恨みからだと聞く。だったら簡単には殺さず、しばらくは嬲るために生かしておくのでは?」

 

 

 ティラは今まで考えていた事をこの機会に話した。生きているとしたら嬉しいが、今もなお拷問を受けているのならば、早く楽になってほしいと切に願ってもいた。

 

 

  「……ッ! すると、今もまだ、奴らの手で過酷な責め苦を受けているというのか!?」

 

 「あくまでも可能性の話。でも、もしかしたら死んでいるかも……」

 

 「いや、ティラちゃんの考えは当たってるかもしれねーぜ。あの骨野郎は、超級に陰湿な奴だからな。自分の大事な人形が壊された事をネチネチと根に持っていてもおかしくはねぇ」

 

 

 クズ男の推察に、イビルアイも一理あると思ったが、すぐに我に返る。

 

 

 「……だとしても、キョーヤほどの強者でもない限り、自力での脱出は無理だろう。それにしても、キョーヤはよく奴らの拠点から抜け出せたな?」

 

 「いや、俺様は抜け出してないぜ。あン時はマリアンヌに救出されたんだよ」

 

 「なに!? そうだったのか!?」

 

 「ええ、私が、とある貴重なアイテムを使って狂也様を救出したのですが……」

 

 「そんな凄いアイテムがあるのか! それは、いつでも使える物なのか!?」

 

 「いいえ、残念ですが、この世界では手に入らない超貴重な品なので、そう簡単には……」

 

 「ああ、俺様を救出した分を引いて、あと二回だったか?」

 

 

 その時に使用したアイテムは、彼の言う通り、あと二回だけ使用可能だ。

 だが、それとは別に予備の指輪も持ってはいるが、それは皆には秘密にしている。

 もっとも、クズ男はマリアンヌが金に任せて課金していたと知っているため、指輪を複数個所持していると気付いてはいるのだろうが、彼女の意志は感覚的に伝わっているはずなので、何も言わずとも黙ってくれているのだろう。

 

 

 「……ふむ、であれば聖女殿、提案なのだが、そのうちの一回分で彼女の仲間たちを救い出してはどうだ? もしかすると、邪神軍に関する重要な情報が得られるかもしれんぞ?」

 

 「……ッ! それもそうだ! 頼む、マリアンヌ! もちろん、貴重なアイテムだということは重々承知している! しかし、それでも私は仲間たちを放ってはおけない! どうか、頼む!」

 

 「私からも、お願いする。姉妹たちの無事は諦めていたけれど、やはり私もあの子たちを助け出してあげたい。それに、邪神アインズは突然力を手に入れて調子に乗っているのだと、あなた達は言っていた。それなら、あの子たちに自分の力を自慢げに語っているかもしれない」

 

 

 イビルアイとティラがマリアンヌに深く頭を下げて懇願した。

 これを見て、彼女は困った顔をした。その情報が指輪による願いに釣り合うだけの価値を持つのか分からないからだ。

 それに、アインズが思ったより慎重であれば、彼女たちに情報を漏らすような愚は犯さないとも考えられる。

 

 

 「まァ、救い出す価値はあるんじゃねェか? 奴らの事情を知っておいても損はねェ。出し惜しみしたまま、奴らに負けるのも面白くねェしな」

 

 

 クズ男が彼女たちに賛同する意見を口にした。

 もっとも、彼の場合は太陽の如き活発な美貌を持つラキュースが目当てなのだと、マリアンヌは即座に見抜いていたが。

 

 

 「それと、できる事なら第三王女のラナーと、その護衛のクライムも頼みたい。あの二人は邪神に誘拐されて、今も囚われているはずだ」

 

 「他にもいるぞ。たしか、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは、あのカッツェ平野での戦争で邪神の手で連れ去らわれたと報告が上がっている。かの者も存命である可能性がある」

 

 

 イビルアイとジルクニフが、救うべき人間の候補を上げていく。

 

 イビルアイは、多少の親交のあるラナーとクライムを心配しての事だ。

 ラキュースがラナーの事を親友として気に掛けており、ガガーランもクライムに何かと世話を焼いていた。

 イビルアイとしても彼らに好感を持っており、可能ならばアインズの手から救いたいと願っていた。

 

 ジルクニフにしても、可能であればガゼフの事も助けたい、というより手に入れたいと思っていた。

 もちろん、善意からではない。

 まず、四騎士を圧倒する程の実力を誇る彼の世話をしてやり、恩義という鎖で縛る。さらに、今まで必死で守って来た王国が、人類全体で見れば、どれほど害悪な存在なのかを懇切丁寧に教えてやり、罪悪感を植え付ける。

 そうして、新たな四騎士に勧誘しようと画策していた。

 

 

 「……分かりました。私もイビルアイさんのお仲間の事は気がかりでしたので。ただ、この指輪は本当に貴重なアイテムなので、今回限りとさせていただきたいのです」

 

 「……分かった。これからの戦いで、その指輪の力は必要になるだろうからな。そこまで我儘は言うまい」

 

 「それと、叶える願いが大きいほど莫大なエネルギーを使うので、成功率はかなり下がってしまうんです。ですので、大変心苦しいのですが、救出するのはイビルアイさんのお仲間だけという事でよろしいでしょうか?」

 

 「……そういった制約もあるのか。分かった。何もかもを求めて、全て失敗するよりはマシだと考えよう」

 

 「私も、ガゼフの事は諦めるとしよう。惜しい男だが、仕方あるまい」

 

 

 イビルアイは、今回は仕方がないと判断し、自分を納得させた。

 ガゼフはともかく、ラナーやクライムの方は、邪神から恨みを買ってはいないはずなので、責め苦を受けている可能性は低い。

 

 ジルクニフも、あっさりと引き下がった。

 ガゼフが惜しい人物なのは確かだが、異能(タレント)持ちに比べれば重要度は下がる。

 

 

 「では、最後に確認ですが、救い出すのはイビルアイさんのお仲間である四人の女性ですね?」

 

 「……そうだ。アイツらの事は知っているのか?」

 

 「ええ、私が王国に身を寄せていた頃、あなた方が王城に来訪した際に見かけた事がございますから」

 

 「そうだったのか。では頼んだ、マリアンヌ。どうか、アイツらを救い出してやってくれ」

 

 「はい、お任せください」

 (本当は、うろ覚えだけどね!)

 

 

 実を言うと、彼女は一瞬だけしか蒼の薔薇のメンバーの姿を見ておらず、ほとんど覚えてはいなかった。

 王城に割と訪れる事の多かったラキュースの事は、遠くから何度か見た記憶があるため覚えているが、それ以外はうろ覚えもいいところだ。

 それでも、彼女にとっては失敗しても問題はない。最低でも、ラキュース一人さえ救出できれば、情報源としては事足りる。

 

 

 (すまない。お前たちの事も大切だが、今は仲間の命を優先したい! いつか、きっと助け出してやるから、それまで待っていてくれ!)

 

 

 そんなマリアンヌの内心を知らないイビルアイの脳裏には、ラナーとクライム、そして、ガゼフの姿がよぎり、心の中で彼らに懺悔していた。

 

 

 「ちっ、あのお姫ちゃんの事は据え置きかァ……」

 

 「お気持ちは分かりますが、今回は諦めてください。邪神は彼女に対して恨みは持っていなかったはずですから、きっと無事でいてくれますよ」

 

 「違ぇねェか。ま、あの骨野郎じゃァ、女一人の貞操を奪うのも物理的に無理だろうしな。いつか俺様が奴をぶっ殺して救い出してやればいいだけの話だ」

 

 

 せっかく分不相応な力を手に入れた上に、元の世界ではお目に掛かれない程の美少女を連れ去ったとしても、骸骨の怪物に成り果てた身では手を出したくても出せないのは想像に難くない。

 そんなアインズの事を、クズ男は無様な童貞野郎だと嘲笑していた。

 

 

 「では、超位魔法の発動を行いますので、皆さん、部屋の端に寄ってくださいませ」

 

 

 彼女の指示に従って皆が端に移動し、部屋の中央のスペースが広く確保されたのを見計らい、彼女は流れ星の指輪(シューティングスター)を指に嵌める。

 

 その手を高く持ち上げると、幾何学模様の魔法陣が彼女の周囲に展開された。

 

 そして、力ある言葉を放つ。

 

 

 「では行きます! 指輪よ、I wish(我願う)! 邪神に囚われし蒼の薔薇を救い出したまえ!」

 

 

 まばゆい光が部屋全体に広がる。

 一同がその眩しさに目をつぶった。

 

 やがて光が収まり、そこにいたのは───、

 

 

 「……あら、ここは?」

 

 「ラナー様! ご無事ですか!?」

 

 

 床に座り込んでいるのは、誘拐されたはずの第三王女ラナー。

 そして、彼女の側にいるのは護衛兵クライム。

 

 理由は不明だが、指輪に願った内容とは違い、彼らも救出の対象となったようだ。

 

 突然、見知らぬ場所に転移したラナーは疑問符を浮かべながら周囲を見渡し、そんな彼女を守るためにクライムが腰の剣に手を掛けた。

 

 

 「あ……あ………」

 

 

 だが、親交のあったラナーとクライムの事など目に入らない程、イビルアイは他の事に目を奪われていた。

 

 

 「なんなのだ、これは……?」

 

 「陛下、下がってくれ! こりゃ、ただ事じゃねぇ!」

 

 

 ジルクニフが呆然とし、バジウッドとニンブルが庇うように前に出る。

 

 

 「ひぃいいいッ!?」

 

 

 これまで、血生臭い殺し合いとは無縁の環境にいたボブは、目の前に広がる惨劇を前に腰を抜かしている。

 

 

 「おいおい、マジかよ。有り得ねェだろ……」

 「まさか、これほどとは……」

 

 

 平気で人を殺せる人間であるはずのクズ男とマリアンヌでさえ、この異常な光景に何も言えなくなっている。

 

 

 「……ッ!」

 「ひどい……」

 

 

 ティラとレイナースも顔を強張らせながら、あまりの惨状に絶句している。

 

 

 

 床には、二つの肉塊が転がっていた。

 それらは、よく見ると人間であり、腹が大きく膨れた醜い老婆だった。

 

 両手足は、肘や膝から切り落とされている。

 腹の膨れ具合から察するに、彼女たちは妊娠しているようだった。

 

 いや、よくよく考えれば、老婆が妊娠するわけがない。

 どうやら、本来は若い女性なのだろうが、過酷な拷問によって急激に老化が進んでいるようだ。

 

 いや、それだけではない。

 

 恨み、悲しみ、怨嗟、絶望……、ありとあらゆる負の感情がその顔に深く刻み込まれており、それにより更に老化して見えるのだろう。

 

 その肉塊の正体は、蒼の薔薇のティナとガガーランだった。

 

 

 

 また、一人の男性が倒れており、彼は虚ろに目を開いていた。

 その男は、本来は黒髪だったのだろうが、今では白髪が目立ち、髭も伸び切っていた。

 

 手足には得体の知れない無数の蟲が住み着き、皮膚の中で(うごめ)いている。

 腹の皮膚は大きく割かれ、内部には大量のゴキブリがぎっしりと詰まっており、内臓が咀嚼されている。

 

 それらの蟲に体中を蝕まれている男は、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフという。

 

 

 

 だが、そんな三人の様子でさえ、もう一つの目立っている物体に比べれば可愛いものだろう。

 

 部屋の中央には、一本の太い杭が床にまっすぐ(そび)え立っていた。

 

 それは、一言でいえば、カエルの串刺しだった。

 

 そのカエルは肌色をしており、太い血管のようなものが脈打っている。

 

 異様に大きく白濁した眼球には何らかの寄生虫が潜んでいるらしく、それにより本来よりも巨大に腫れあがっているため、まるで死んだカエルの目のようだ。

 

 さらに、皮膚の下にはミミズのような蠕虫が動き回り、体内の肉を食い荒らしている。

 そのせいで、脈打った太い血管のように見えてしまう。

 

 鼻は削がれ、乳房は丸ごと切り落とされており、内部の肉が露出していた。

 

 そして、どういう理屈なのか、その太い杭は玉座の間の床から生えている。

 その先端がカエルの膣から突き刺され、体内を貫通し、喉を通り抜け、口から突き出ていた。

 

 その杭の太さゆえに、腹部や首が圧迫されているため、外からは大きく膨らんでいるように見える。

 その様が、この生物を不気味なカエルのようだと思わせていた。

 

 こんな姿になっても、なお意識があるらしく、今も苦痛に苛まれているのか、ピクピクと全身を痙攣させている。

 

 そのカエルの名は、蒼の薔薇のリーダー、ラキュースと言った。

 

 

 「うあぁあああああッッ!!!」

 

 

 仲間たちの変わり果てた姿を目の当たりにしたイビルアイが錯乱し、悲鳴を上げながら彼女たちの元へと駆け出した。

 

 

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