アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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救出後のひと時

「うぁあああッ!! 《水晶短剣(クリスタルダガー)》!!」

 

 

 慌てて駆け出したイビルアイが魔法を杭の根元に放つ。

 

 だが、杭はびくともせず、むしろ衝撃によりラキュースの口や股から大量の血が噴き出て、却って彼女をを苦しめる結果となってしまった。

 

 

 「ぐぅごぉおおおッ!? ゴガッ……フゴッ……ゴァアッ!」

 

 

 串刺しになっている彼女が手足を激しくばたつかせ、人間とは思えない奇声を上げ始めた。

 相当な激痛を感じているようだが、それも当然だろう。

 本来であれば、とっくに死んでいるような状態だ。まだ生きている方が不思議なくらいなのだ。

 

 

 「ああッ、ラキュース! そんな……!」

 

 「……ちっ、仕方ねェ」

 

 

 そこへクズ男が近づき、イビルアイが攻撃した根本を蹴りつける。

 

 

 「オラよォッ!!」

 

 

 彼の強烈な蹴りによって、ようやく杭はへし折れ、ラキュースが床に落ちる前にイビルアイが彼女を抱きとめる。

 

 

 「ラキュース!? おい、ラキュース!」

 

 「イビルアイ殿、まずは彼女を杭から引き抜きましょう!」

 

 

 レイナースと二人がかりで引き抜こうとするも、なぜか杭は一向に引き抜けず、彼女の股から大量の血が流れてしまう。

 そして、苦しみのあまりラキュースがのたうち回った。

 

 

 「なぜだ!? なぜ抜けない!」

 

 「どうやら、杭に()()が付いているようですわね。引き抜くのは諦めましょう」

 

 「そんな、じゃあ一体どうすれば……ッ!」

 

 

 口から引き抜こうにも、杭は根元に掛けて太くなる形をしているため不可能だ。

 

 

 「イビルアイさん、どうか落ち着いて。私が回復魔法を掛けても、中の杭を出さない限り意味がありません。ここはいったん手術を行い、彼女の体を切り開いて無理やり杭を取り出すか、いっそのこと死亡させて、後で復活させるかしかないと思いますわ!」

 

 

 マリアンヌが近づきイビルアイに言う。

 彼女たちも、それしか手立てがないのだと理解した。

 

 その一王で、彼女らの横では、ガゼフの体内からうじゃうじゃと這い出てきたゴキブリの群れが、玉座の間に散開してきた。

 そのおぞましい光景に、ボブは大慌てで壁際まで後ずさった。

 

 

 「お前たち、あの蟲どもを殺せ! それまで、ドアは決して開けるな!」

 

 「「はっ!」」

 

 

 ジルクニフの命を受けた四騎士の二人がゴキブリを追いかけるが、一体一体が小さい上にすばしっこいので、殺すのにも一苦労だ。

 

 

 「この気持ち悪ぃクソ蟲どもが! ちょこまかと逃げ回ってんじゃねぇッ!」

 

 

 クズ男も参戦し、ゴキブリを踏み潰している。

 

 彼らが騒いでいる横で、ティラが老婆と化したティナの側にしゃがみ込み、妹の頭を抱えて顔を伏せていた。

 今の彼女がどんな表情をしているかは分からない。

 

 

 「も、もしかして、ガガーランさん!? それにストロノーフ様まで!? そんな……! どうして、皆さまがこのような目に……ッ!?」

 

 

 かつて世話になっていたガガーランとガゼフ、そしてティナの姿を見たクライムが叫んだ。

 突然見知らぬ場所に転移した上に、この凄惨な状況に遭遇し、いまだに理解が追い付いていないようだった。

 

 

 「すぅぅぅ………。ラキュース!? もしかして、ラキュースなの!? ああッ、どうして! どうして、こんなひどい姿に!」

 

 「ラナー様、お待ちを!」

 

 

 ラナーも親友であるラキュースの悲惨な状態に驚き、深く息を吸った後で驚愕の声を上げながら彼女の側へと駆け寄った。

 

 そんな主人を守るという務めを果たすべく、クライムも慌てて追随した。

 

 

 

             +

 

 

 

◇ ────数時間後

 

 

 ここは、ラキュースたちに宛がわれた部屋。

 ここには複数のベッドが置かれており、そこには、ラキュース、ティナ、ガガーランの三名が眠っている。

 男性であるガゼフも別の部屋で寝かされている。

 

 あれから、玉座の間に散らばったゴキブリや彼らの中に巣食っていた蟲たちはイビルアイの魔法によって駆除された。

 その後、彼女たちは治療室に運ばれ、緊急招集された医者や神官らによって手術が行われた。

 体を切り開き、ポーションを大量に消費しながら無事に杭から切り離された。

 そして最後にマリアンヌが回復魔法をかけ、今では肉体的な外傷はない。

 

 だが、過度な拷問によって老婆のようになってしまった外見だけは変える事が出来なかった。

 ベッドに寝かされた彼女たちをイビルアイとティラは、何も言葉を発することなく、ただじっと被害者たちを見つめていた。

 そんな彼女たちにラナーは付き添い、ラキュースたちの看病をしている。

 クライムも、そんなラナーの傷ついた心を少しでも慰めようと近くに寄り添っていた。

 

 そんな暗い雰囲気の漂う室内にクズ男が入って来た。

 

 

 「入るぜー」

 

 「貴方は……」

 

 「よっ、久しぶりだナ、お姫ちゃん♪」

 

 「こちらこそ、お久しぶりです。たしか、竜王国の英雄様でしたわね。王都での悪魔騒動事件では、お世話になりました。それと、私とクライムだけでなく、我が国の戦士長と蒼の薔薇の皆さんを魔導王の手から救い出して頂き、本当にありがとうございました」

 

 

 ラナーは恭しく頭を下げ、感謝の意を伝えた。

 もっとも、救ったのは彼ではなくマリアンヌなのだが、彼はお構いなしに感謝を受け取った。

 

 

 「なァに、気にすんなって。邪神から姫を救い出すのは男の勲章ってやつだ。それより、イビルアイの仲間を看病してくれてたんだろ? ありがとな」

 

 「はい、ラキュースは私の大事な親友でもありますから。彼女だけでなく、皆さんはとても私に良くしてくださいました。それなのに……、どうして、どうしてラキュースたちがこんな酷い事に……ッ!」

 

 「お姫ちゃん……」

 「姫様……」

 

 

 ラナーは親友のあまりな仕打ちに大変心を痛めているらしく、手で顔を覆いながら涙を流していた。

 さすがのクズ男も掛けるべき言葉を思い付かず、頭を掻いている。

 悲痛な涙を流している主人をクライムは心配するが、どう慰めてよいか分からず、おろおろと途方に暮れている。

 

 クズ男は彼女の事を慰めてやりたかったが、クライムが邪魔なので今は諦めてイビルアイの隣に座った。

 

 

 「ふぅ………」

 

 「………」

 

 「……その女、ラキュースって言うんだったな。よく覚えてるぜ。王都の作戦会議で初めて出会ったんだっけなァ」

 

 「………」

 

 「活発な感じの惚れ惚れするほどの美女だったんでな。かなり印象に残っていたんだぜ」

 

 

 クズ男は目の前で眠っているラキュースについて話を切り出し、イビルアイも彼女に目を向けた。

 そんな仲間の姿を見ていると、こんな目に合わせたアインズの事が頭から離れず、自然と彼への罵倒を口に出していた。

 

 

 「………なぁ、キョーヤ。邪神アインズって何なんだ? どうして、こんな事ができる!?」

 

 「イビルアイ……」

 

 「何なんだよ、あの化け物は……!? なんでッ! なんで、こんな事ができるんだよぉッッ!!」

 

 

 イビルアイは八つ当たり気味に叫び、アインズの所業を非難する。

 そんな彼女の肩を抱き締め、真剣な表情で彼は答える。

 

 

 「………なぁ、イビルアイ、俺様はお前の気持ちは分からねぇ。仲間を失った事がねェからな。だがよ、これだけは覚えておけ。鈴木のクソ野郎を許せねぇのは、俺様だって同じだ」

 

 「………ッ」

 

 「約束してやる! あの腐れ外道は、俺様が絶対にぶっ殺す! こいつ等の仇は俺様がちゃんと取ってやる! だから大船に乗ったつもりで安心していろ!」

 

 「ぅぅぅ……、キョーヤッ! キョーヤァァァ……ッ!!」

 

 

 イビルアイは、クズ男の胸に頭を寄せて幼子のように泣きじゃくった。

 彼は眠っているラキュースたちの姿を目に焼き付けるように見つめながら、イビルアイの頭を撫で続けていた。

 

 

 

              +

 

 

 

◇ ────マリアンヌの私室

 

 

 マリアンヌは、自分の部屋で先程の惨劇を思い返していた。

 

 

 「まったく、なんなのよ、あの鈴木って奴。本当に私の元同級生なわけ? もはや人間のやる事じゃないでしょ……」

 

 

 自分だって蒼の薔薇と同様に、アインズにとって憎しみの対象なのだ。

 いや、彼ら以上に恨みを買っている可能性は大いにある。

 であれば、あのように、いや、さらにひどい目に合わされる危険があると彼女は考えた。

 

 

 「あんな目に合うのだけは、まっぴらごめんだわ。能天気な狂也と憎しみに燃えているイビルアイは何も考えてないんでしょうけど、アタシは保険を用意しとかないとね」

 

 

 そうつぶやくと、彼女は流れ星の指輪(シューティングスター)を装着した。

 

 

 「指輪よ! I wish(我願う)! 狂也とイビルアイ、レイナースとティラ、あとは………、クレマンティーヌでいいか。もしアタシが鈴木の軍勢に捕まったら、すぐに指名した奴らと一緒に他の大陸に転移させなさい!」

 

 

 部屋が光で満たされ、その願い事は無事に叶えられたようだ。

 三つ目の願いを消費したことで、その指輪は崩壊しながら床へと落ちた。

 

 

 「よしっ。これで、安心して奴らと戦える。もし敗北したとしても、別の大陸で再起を図れるわね!」

 

 

 自分以外の女たちを連れていく理由は、彼女たちにクズ男の子を産んでもらうためだ。

 スレイン法国では神の子を大事にしていると聞く。

 プレイヤーの血を分けた子は、やはり強い戦士に育つ可能性を秘めているのだろう。

 

 少なくとも、母体となった女性より弱いという事はないはずだ。

 彼女たちには、手駒を増やすための産む機械になってもらう。

 

 一組織の長であるティラは、何の説明もされず連れて来られた場合、納得はしないだろうが、それでも別大陸に転移したのなら嫌でも行動を共にする必要がある。

 その状況を利用して、少しずつこちらの思想に染めていけば良いだろう。

 

 

「イビルアイは吸血鬼だから除外するとして、他の子たちには最低でも5人……いや、7人くらいは狂也の子を産んでもらわなきゃね。奴らに対抗する戦力を整えるにしても、まずは転移先の大陸を支配しとかないと……」

 

 

 そう呟くと、マリアンヌは安心したようにベッドで眠りについた。

 

 

 

            +

 

 

 

◇ ────ナザリック地下大墳墓

 

 

 

 アインズは、執務室で机に腰かけながら、忠臣であるデミウルゴスからの報告に耳を傾けていた。

 

 

 「それで、ガゼフや蒼の薔薇の連中だけでなく、ラナーとクライムまでもが忽然と姿を消したというわけか……」

 

 「申し訳ございません、アインズ様。現在、全力で捜索をさせておりますが、いまだに正確な報告は届いておらず……」

 

 「外部からの侵入者がいた可能性は?」

 

 「それは有り得ません。そんな事態になったら我々が気付きますし、魔導国内にも多くの死の騎士(デス・ナイト)が警備し、また監視の目も付いております。それに、ここナザリックには無数のトラップが仕掛けられております。外部からの犯行は考えにくいかと」

 

 「確かにな。だが、この状況と似たような現象が前にも起きたことがあるな」

 

 

 彼らは、クズ男の一件を思い出していた。

 外部からの侵入も転移も阻害されているはずの空間であるにも関わらず、何の前触れもなく死亡した男の事を。

 どうして、そのような事態に陥ったのか、その原因も理屈も分かっていないのだ。

 

 

 「気になるとすれば、聖女などと名乗るマリアンヌという女だな。アレが何かをした可能性は大いにある」

 

 「その女が何かしらの特殊な技を持っている可能性があると?」

 

 「……もしかすると、願いの指輪を使ったかもしれん」

 

 「あの指輪ですか。たしか、大変貴重なアイテムであると記憶しておりますが……」

 

 「そうだ。それ故に、どこまでの願いが叶えられるのか気軽に検証できないという問題も抱えている。だが、奴らであれば、複数の指輪を所持している可能性は大いにある」

 

 

 元富裕層である彼らが金に任せてガチャを回し、超貴重であるはずの指輪をいくつか持っていてもおかしくはないとアインズは考えていた。

 それを聞いたデミウルゴスは、俄かには信じられなかった。至高なる支配者であるアインズを差し置いて、プレイヤーとはいえ下等な種族でしかない人間の女が、複数個の超貴重なアイテムを持ち合わせているかもしれないなどと。

 だが、他ならぬアインズ自身の口から語られれば納得せざるを得ない。

 

 

 「とにかく、連れ去らわれた者どもに重要な情報は漏らしてはいないのだろう?」

 

 「もちろんでございます。このナザリックに関する事は極力知られないよう細心の注意を払いました。というより、もはや聞き出すのも不可能な状態にしてありますので」

 

 「そうか。それなら何も心配する事はないな。見事な手際だ、デミウルゴス」

 

 

 一応、アインズの名誉のために言うが、彼はデミウルゴスが行っていた拷問の内容を一切知らない。なにせ、ラキュースたちの処遇を彼に丸投げしていただけなのだから。

 そのため、彼女たちが今、どういう状態にあるのかは分かっていないのだ。

 

 

 「だが、たとえ証拠がなくとも、いずれ奴らには必ずや相応の報いを与えねばならん。このアインズ・ウール・ゴウンの名誉にかけてな」

 

 

 これまで自分たちは、あのクズ連中に出し抜かれて好き放題されすぎた。

 その事は、アインズも深く反省していた。

 

 冒険者モモンの正体は見破られ、その結果、魔導国を統治するために黄金の姫というカードを無駄に切るはめになった。

 だが、その黄金の姫も不当に拉致された。

 とりあえずは二重の影(ドッペルゲンガー)に代役を務めさせればよいが、彼女の知恵を借りられなくなるのは非常に痛い。

 市民の相手をさせるのは代役でも務まるが、彼らの意見を聞き入れ、どのように反映させるかについてはアルベドやデミウルゴスといった智者を無駄に働かせなくてはならなくなった。

 だが、冒険者モモンの代役を務めさせる予定だったパンドラの手が空いている事は、不幸中の幸いと言うべきか。

 

 他にも、あの闘技場の戦いでは、予備とはいえ強力な伝説級(レジェンド)の杖を奪われ、さらに大観衆の中で醜態を晒し、評判を大きく落とす事となった。

 それが尾を引いたせいか、アルベドからの報告によれば、帝国が同盟の破棄を願い出てきたという。

 

 

 (ジルクニフとは、いつか親友になれるはずだったんだ。それを、あのクズどものせいで、少しずつ築いてきた友好関係も台無しにされた。この世界でも、俺は貴重な友人を一人失ってしまったんだ……!)

 

 

 おまけに、大悪魔ヤルダバオトの正体も知られてしまった以上、聖王国への謀略にも別の手段を用いざるを得なくなった。

 

 ナザリックが本来手に入れていたはずの影響力が、敵の手によって少しずつ奪われていくという嫌な感覚を、アインズたちは感じ取っていた。

 

 それだけでなく、強力な装備品である杖に加えて、王女や捕虜たちの身柄も不当に奪われたのだ。クズ連中の盗人根性には反吐が出る思いだった。

 

 

 「これ以上、奴らの好きにさせるわけにはいかん。見ていろよ、狂也……ッ! いつか貴様らから全てを奪い返し、その上で絶望を味合わせてくれるぞ!」

 

 




 次回 新章。

 前回の感想欄での意見を読んで、話の結末を大幅に変更することにしました。
 敗北寄りの相打ちで終わる予定でしたが、予想以上に読者の方々のヘイトを溜めてしまったためです。
 私としましては、ナザリックが原作の裏側で行っていそうなことを淡々と描写したつもりだったのですが……。


 ※主人公ざまぁタグを取り消しました。

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