◇ ───竜王宮 玉座の間
「よ、よくぞ参られた。キョーヤ殿……」
竜王国女王ドラウディロン・オーリウクルスが、クズ男を歓迎する。
「よおっ! ドラウちゃんっ! 俺様がいなくて、寂しくなかったかっ!?」
なれなれしい態度である。
とても一国の王に対するものではない。
(へへ、幼女ながら、相変わらず可愛いぜぇ……。3年で食べ頃かと思ってたが、2年でもいいかもなァ……。高貴な女の初物ってのは金だけじゃ手に入らねぇもんなァ)
女王に″ねっちょり”とした、ぶしつけな視線を送った。
「……ッ!」
その下衆な視線による嫌悪と恐怖にフタをしながら、女王は責任ある立場として毅然と対応する。
「……ビーストマンとの戦いで、かなりの戦果をあげたようだな。私からも労わせてほしい」
「がははっ! あんな雑魚なケモノなんざ、この狂也様にとっちゃ物の数じゃねぇぜっ!」
所詮ゲームで手に入れただけの力なのに、クズ男は恥ずかしげもなく自慢した。
「それよりもドラウちゃん。突然だが、俺様はリ・エスティーゼ王国に行かなきゃならねぇんだ……」
「え、どうしてなのだ?」
「ああ、北西の方角から邪悪で強烈な気配がしてな。世界の危機かもしれねぇから、ちょっとばかし様子を見に行こうと思ったのよ」
「……そうか。武運を祈っておるぞ」
もちろん、そんな高尚な理由なんかじゃない。
あの国に行きたい本当の理由は、名物である『違法娼館』を堪能してみたいという下劣な思惑からだった。
いずれ自分の妻にする予定の女王に、今のうちに少しでも好感度を稼いでおこうという浅ましい考えから格好つけただけだった。
「邪悪な波動が伝わってくるぜ……」
北西の方角を睨みながらつぶやく。
完全に自分に酔っていた。
とはいえ、この男の世迷言も結果論ではあるが間違ってはいなかった。
とある大手の極悪ギルドが、かの王国の近郊に転移してきているのだ。
もっとも、邪悪な気配とやらを感じ取る能力など、当然この男には備わっていないのだが。
……。
一通り話し終えたクズ男は、玉座に座る女王の元へと唐突に歩き出した。
「……ッ!」
クズ男に近付かれる女王は、心の中で警戒態勢をとった。
「じゃあ、ドラウちゃん……。俺様がいなくて心細いだろうけど、すぐに戻ってくるから信じて待っててほしいんだ……」
「……」
玉座に座る女王の前にしゃがみこむと、慰めるように彼女の目を見つめた。
そして、あろうことか幼き女王のむき出しになっている太ももに、そっと手を添えた。
「~~~~ッ!」(ゾワァ……!)
「また寂しくさせちまってゴメンなぁ……。すぅぐ戻ってきて、ケモノどもを狩り殺してやっから安心するんだぞぉ?」(サワサワ……)
その気になれば、この国を壊し尽くせる強さを持つクズ男から劣情のこもった目で見つめられ、さらにセクハラまでされるのは、どんな女性であれ恐怖でしかない。
今は亡きアダマンタイト級冒険者パーティ『クリスタル・ティア』のリーダーで、″ロリコン”のセラブレイトですら、ぶしつけな視線を向けることはあっても、最低限の礼節はわきまえていた。
女王は目に涙を浮かべ、羞恥と嫌悪で顔を紅潮させるが、王としての精神力で必死に耐えていた。
(げへへ。この幼女、俺様に惚れてるぜ。こんなに顔を赤らめちゃってよ。もうエロ可愛いすぎだろ!)
「おいおい、そんなに泣くなっ。この国、いや、ドラウちゃんの事を、いつまでも思ってるからよォ」
自分に都合の良すぎる脳みそは、女王の涙を別の意味に解釈したようだ。
■
◇ ───竜王宮 執務室
「くぅぅぅうッ!」
ゴシゴシッ! ゴシゴシッ!
クズ男との謁見後、女王ドラウディロンは、あの男に触れられた太ももをゴシゴシと一生懸命に拭き続けた。
布の摩擦で皮膚が赤くなっても、なお拭き続けるのを止めない。
「止めてくれても良かったじゃろ!?」
「そんな! 私を殺したいんですか!? 仕事が進まなくなりますよ!?」
あの場には女王の側近である宰相もいたが、彼は終始無言に徹していた。
クズ男に下手なことを言えば、感情任せに殺されかねないからだ。
「ところで陛下。先ほど、彼が言っていた世界の危機というのは本当なのでしょうか?」
「ふん、あんなの、あやつの嘘に決まっておろう」
女王ドラウディロンは、見た目通りの年齢ではない。
国民受けが良いという事で、幼女の形態をとっているのである。
そして、相手の嘘を見破る能力も持つため、あの男の妄言を見事に看破してみせた。
「あの王国に行きたい理由とやらも、しょうもないものじゃろうて。」
ドラウディロンでなくても、あの男の今までの行動から、邪な目的なのだという事は容易に想像ができた。
「ところで、理由はどうあれ、あの男が不在の間の国防は大丈夫なんじゃろうな?」
「数か月間は問題ないかと。『クリスタル・ティア』の蘇生の準備も整っておりますので」
今は亡きアダマンタイト級冒険者パーティ『クリスタル・ティア』のメンバーの遺体は、魔法処理された上で大事に保管されていた。
いざという時のために、彼らの蘇生の準備はしっかり整えられていた。
なので、クズ男が不在でも、数か月程度なら防衛戦線の維持は十分に可能であると分析していた。
「それより陛下、あの御仁がリ・エスティーゼ王国で良からぬ事をしでかさないかを心配した方がよろしいかと」
「う~む。あやつのことだ。絶対にとんでもないことをやらかすじゃろ……」
クズ男が、あの王国で何かをやらかした場合、王国側は引き渡しを要求するだろう。
その場合、かの王国の面目を尊重してクズ男を大人しく引き渡すか、竜王国の国防のために仲違いするか、その二つの道のどちらかを選択せねばならない。
「さすがの王国と言えども、ビーストマン侵攻の防波堤となっている我が国を攻撃することはないと思うが……。いや、あの国であれば、そのような愚行をしでかしかねんか」
「メンツを大事にしすぎて、危機感の全くない国ですからねぇ」
リ・エスティーゼ王国では貴族が大きな力を持ち、常日頃から権力争いが繰り広げられている。
本来ならば、その肥沃な大地から生まれるはずの豊富な人材や食料を他の国々に積極的に送ることを期待されていた。だが、外敵のいない安心感により堕落し、貴族たちは汚職と権力争いに夢中だ。
さらに、その有効活用するべき肥沃な大地も麻薬の生産に使われてしまっており、人類の足を大きく引っ張っていた。
自分たちの身が安泰で権力闘争をしていられるのも、他国が亜人や魔物の侵攻を必死で押さえているからだという事実に気づいていないし、知ろうともしなかった。
「それでも今はまだ、あやつを切り捨てられないのじゃろ?」
「貢献度が大きすぎるので、仕方ありませんね……」
そう、本人には全くその気がなく、あくまで結果論にすぎないとはいえ、その行いの副次的な効果により竜王国は大きく経済を回復させていた。
まず、あの男が国一番の娼館を貸し切ることで、他の娼館にもおこぼれがあった。
元・常連客が、二番目以降の娼館に流れることで金が巡り、それらを娼館の改善や娼婦への手当てに当てることで全体の質が上がっていった。
この国の交通の便は悪いが、その上等な娼館の噂を聞きつけた他国の裕福な商人や旅人が訪れ、遠方にしかない商品や資源、技術や知識をもたらしてくれていた。
「むむぅ……」
「ボロボロだった経済も、だいぶ立て直せましたから……」
また、クズ男が活躍する以前は戦力不足を補うため、戦いに適性のない下級の冒険者であっても無理やり戦闘に駆り出されていた。
だが、今の彼らは戦闘に参加しなくても良くなり、代わりに街の整備やビーストマンの死体の解体など各々の得意分野に専念することができていた。
「彼の貢献度を思えば、セクハラの一つや二つ、構わないではありませんか?」
「やかましいわっ!」